職場でのモラルハラスメントとは?事例、企業としての対策、法的措置など
モラルハラスメントとは、相手に対して嫌がらせを行い、精神的な負荷をかけてしまう行為を指します。家族や恋人、友人間で起きがちな問題ですが、近年は企業内でもモラルハラスメントが起きています。
人事、総務などのバックオフィス担当者としては、モラルハラスメント防止に努める必要があります。しかし「どう対策すべきか分からない」という方もいるでしょう。
この記事では、モラルハラスメントについて定義、事例、リスク、対策するメリット、対策方法などを網羅的に解説します。参考にしたうえで、自社のモラルハラスメント対策に生かしてみてください。
目次
モラルハラスメント(モラハラ)とは
モラルハラスメント(モラハラ)は、精神的な嫌がらせや陰湿な行為を指します。個人の尊厳を傷つけ、精神的な負担を与える行為です。
特に、直接的な暴力ではなく、言葉や態度、行動を通じて相手に心理的圧力をかけることが特徴です。企業で起きた場合、業務への集中力や職場環境全体に悪影響を及ぼします。
厚生労働省の定義
厚生労働省はモラルハラスメントについて、以下の定義をしています。
言葉や態度、身振りや文書などによって、働く人間の人格や尊厳を傷つけたり、肉体的、精神的に傷を負わせて、その人間が職場を辞めざるを得ない状況に追い込んだり、職場の雰囲気を悪くさせることをいいます。 |
出典)厚生労働省「こころの耳 モラルハラスメント」
厚生労働省では諸外国のモラルハラスメントに対する取り組みなどの資料を一般公開している状況です。パワーハラスメントとともに、モラルハラスメント防止に関する調査・対策を進めています。
出典)厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせに関する諸外国の取組」
パワハラとの違い
モラルハラスメントは、よくパワーハラスメント(パワハラ)と混同されますが、両者にはいくつかの違いがあります。
パワーハラスメントは、上司から部下への職務上の権限を利用した暴力的行為、行き過ぎた指導を指すことが多いです。対して、モラルハラスメントは職務の上下関係に関係なく、同僚間や部下から上司に向けて行われる場合もあります。
さらに、モラルハラスメントは精神的な嫌がらせに焦点を当てているのが特徴です。身体的な暴力ではないため、外部の人間が気付きにくいという課題があります。
職場におけるモラルハラスメントとは
職場におけるモラルハラスメント(モラハラ)は、従業員同士で発生する精神的な嫌がらせや心理的な圧力を伴う行為を指します。
これまでモラルハラスメントは主に家族や恋人、友だちの間で起きがちな問題でした。しかし職場でも増えている状況です。
モラルハラスメントを放置することで、組織全体の生産性や従業員の士気に悪影響を与える可能性があります。モラルハラスメントが長期間続くと、被害者は退職を考えるようになり、企業にとっても大きな損失です。
従業員のメンタルヘルスを守ることはもちろん、企業の成長を考えるうえでモラルハラスメントは早期発見、解決すべき問題だといえます。
ハラスメントに垣根はない
独立行政法人国立女性教育会館 情報課が制作した「DV・モラハラなくそう、やめよう、逃げよう」では、「殴る・蹴ると言った肉体的な暴力ではなく、発言や行動、態度などで相手を精神的に追い込む嫌がらせのこと」と定義されています。
出典)国立女性教育会館リポジトリ「本、あり〼。vol.14:「DV・モラハラ なくそう、やめよう、逃げよう」
そのため、パワーハラスメントと感じられるものの一部は、モラルハラスメントにも該当すると考えるべきですし、その逆も然りです。
たとえば、厚生労働省の「あかるい職場応援団」のホームページではパワーハラスメントの事例を多く取り上げていますが、モラルハラスメントに該当しうる裁判例をいくつも確認できます。
出典)厚生労働省「あかるい職場応援団 裁判例を見てみよう」
ハラスメントに垣根はありません。どれも複雑に絡み合っています。
そのため、企業はモラルハラスメント防止に対して、より一層の注意が必要です。
モラルハラスメントが起こった際のリスク
こうしたモラルハラスメントが起こった際に生じるリスクについて解説します。
被害者への心理的・身体的影響
モラルハラスメントは被害者に対し深刻な心理的ストレスをもたらすものです。無視や侮辱などの精神的な攻撃を受け続けると、被害者は自尊心を失い自己否定に陥ってしまいます。
これにより、不安感や抑うつ症状、頭痛、胃痛、不眠などの身体的影響が発生することがあることを理解しておきましょう。最終的には仕事に対する意欲を失い、休職や退職を余儀なくされるケースも見られます。
職場環境の悪化と離職率の増加
モラルハラスメントが蔓延すると、被害者だけでなく他の従業員にも悪影響を与えます。ハラスメントを目撃した他の従業員は、職場における安心感を失ってしまうでしょう。その結果、緊張感のある職場環境となることは大きなリスクです。
モラルハラスメントの蔓延によって、「相談しにくい」「声をかけにくい」といった状況が生まれ、生産性が低下します。さらにハラスメントが放置されることで離職率が増加し、企業の成長にも支障をきたす可能性もあるでしょう。
モラルハラスメントの蔓延には、十分な配慮と対策が必要です。
企業の評判低下や法的リスク
モラルハラスメントを防止できない企業は、「労働者に厳しい企業」という悪評が広まるリスクがあります。
特にSNSやレビューサイトなどで悪い評判が広まると、企業の信用が失墜する可能性もあるでしょう。採用活動やパートナー・アライアンスにも影響を及ぼすかもしれません。
また、ハラスメントによる訴訟が起きると、企業は法的リスクにさらされます。訴訟費用や賠償金、ブランドイメージ低下などのおそれもあります。企業は、こうしたリスクを避けるためにも、適切なハラスメント防止策を講じなければならないのです。
モラルハラスメントに関連する法律
モラルハラスメント自体は、法律で明文化されていません。しかし「労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」「労働基準法および労働契約法」「労働安全衛生法」などの法律とは一部かかわりがあります。
なかでも、モラルハラスメントはパワーハラスメントとのかかわりが深い問題です。2020年6月に施行された「労働施策総合推進法」(通称:パワハラ防止法)は、職場におけるパワーハラスメントを防止するための義務を企業に課しています。
モラルハラスメントはパワーハラスメントに該当するケースも多く、この法律の適用を受けることがあります。
出典)厚生労働省「労働施策総合推進法の改正(パワハラ防止対策義務化)について」p.9~27
モラルハラスメント対策をするメリット
職場でのモラルハラスメント対策を講じることは、単に問題を未然に防ぐだけでなく、企業全体にとって多くのメリットをもたらします。以下で、具体的な利点を紹介しましょう。
職場環境の健全化
モラルハラスメントを防止・解消することで、従業員間の信頼関係を維持することが可能です。
ハラスメントが起きないことで、従業員は安心して働けます。また同僚への相談がしやすい状況を維持できることがメリットです。
従業員の生産性向上と定着率向上
モラルハラスメント対策により、従業員は職場におけるストレスを軽減できます。これによりモチベーションが高まり、生産性向上を期待できる点が利点です。
従業員が安心して働けることで、離職率が低下します。優秀な人材を確保し、長期的に組織に貢献してもらえる環境を作り出すために、モラルハラスメント対策は必要です。
法的リスクの低減と企業イメージの向上
モラルハラスメントの防止策を適切に実施することで、企業は訴訟リスクを低減できます。無駄な訴訟費用を避けることができ、経済的な安定を保つことが可能です。
さらに、ハラスメント対策を講じている企業は、外部から見ても倫理的で従業員想いの企業として認識され、ブランドイメージや社会的評価が向上します。
これにより、取引先や新たな人材からの信頼も得やすくなるのもメリットのひとつです。
企業としてのモラルハラスメント対策
ここでは、企業が取り組むべき具体的なモラルハラスメント対策を紹介します。
社内教育とハラスメント研修の実施
企業は、従業員の意識を高めるために定期的に「社内教育」や「ハラスメント研修」を実施することが重要です。
これにより、従業員はモラルハラスメントが何かを正しく理解し、どのような行為が許容されないのかを明確に把握できます。直接的なコミュニケーションがなければ、ルールが形骸化しかねません。
研修には具体的な事例や対応策を含めましょう。実践的な学びを提供し、職場全体の理解を深めることができます。
相談窓口の設置と相談体制の整備
企業として、従業員が安心して相談できる環境を整えることも重要です。社内、または外部機関を利用して、モラルハラスメントに関する相談窓口を設置しましょう。
被害を受けた従業員が、迅速かつ適切にサポートを受けられる体制を構築する必要があります。匿名での相談を受け付ける仕組みを導入することで、被害者が声を上げやすくなります。早期対応のために必要な対策です。
継続的なモニタリングとフォローアップ
モラルハラスメント防止は、一度対策を講じるだけでは不十分です。企業は、従業員に対する定期的なアンケートや面談を通じて職場環境を継続的にモニタリングしましょう。
また、モラルハラスメントが発生してしまった際には、フォローアップを怠らないようにしてください。再発防止策を考えることも必要です。
これらの対策は組み合わせて実施しましょう。職場のモラルハラスメントを未然に防ぎ、従業員が安心して働ける環境をつくれます。
こうした取り組みは、結果として従業員の士気や企業全体のパフォーマンス向上にもつながります。
モラルハラスメントを受けた場合の対処法
モラルハラスメントを受けた場合、適切な対処法を理解しておくことが必要です。以下で、有効な対処法を紹介します。
社内外での相談とサポートを求める
ハラスメントを受けた従業員が、安心して頼れる環境を整えることが重要です。社内の相談窓口や人事部門のサポートを強化し、被害者が信頼できる相談先を確保するようにしましょう。
ただし、社内対応だと「評価に響くのでは?」「情報が洩れるのでは?」と不安になる方もいます。このような場合は、外部のハラスメント支援団体と連携してサポートするようにしてください。
事実の記録と証拠の確保
従業員がハラスメントを訴えた際は、事実を正確に記録することが有効です。担当者は、従業員に対して日時、場所、内容、関与した人物などの詳細なメモをする必要があります。
またメールやメッセージのスクリーンショットなどの電子的な証拠の確保も促進し、適切な証拠が揃うよう支援しましょう。これらを確保することが、被害者を守ることにつながります。
外部の法的支援や専門機関の活用
担当者は、必要に応じて外部の法的支援を紹介することが求められます。
労働基準監督署や弁護士、地域の労働相談窓口などの専門機関に従業員をつなげ、法的なアドバイスを受けられるように手配しましょう。これにより、従業員は法的な観点から自分の権利を守り、問題解決に向けた行動を安心して取れます。
まとめ
モラルハラスメントは重大な問題です。被害者の精神的・身体的な負担、職場環境の悪化、離職率の上昇、そして企業の評判低下や法的リスクなどのリスクがあります。
企業は、従業員に対して明確に「やってはいけないこと」を伝えるようにしましょう。
具体的なルールを定めることで、従業員を守れます。従業員の精神的健康を守り、組織全体の生産性を向上させるための対策が必要です。
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