慶弔休暇とは?対象・日数・給料の扱い・制度設計まで中小企業向けにわかりやすく解説

慶弔休暇は、従業員の結婚や出産、家族の不幸など、人生における重要な出来事に際して取得できる特別休暇です。

特に中小企業では、人事制度の整備状況や社内ルールの明確さがばらつきやすく、誰が何日取得できるのか、給与は支払うべきかなどで判断に迷うケースも少なくありません。

本記事では、慶弔休暇の基本から、慶事・弔事ごとの対象範囲、給料の扱い、雇用形態による違い、制度設計のポイントまで、実務で必要となる項目を体系的に解説します。

慶弔休暇をはじめ、人事制度は人材定着のうえでも必要不可欠なものです。以下の資料では「人が辞めにくい仕組みの作り方」などを紹介していますので、ぜひダウンロードしてご覧ください。

【チェックリスト付き】労務・定着・エンゲージメントの 3本柱でつくる 人が辞めない組織

慶弔休暇とは?まずは制度の基本を確認

慶弔休暇とは、従業員の結婚や出産、家族の不幸などに際して与えられる特別休暇のことです。法律で義務付けられている休暇ではありませんが、従業員の生活を支え、安心して働ける環境を整えるために、就業規則で定めている企業が多くあります。

具体的な対象範囲や日数、給与の扱いは企業ごとに異なるため、制度化の際には自社の実情に合わせたルール設定が重要です。

法定休暇との違いとは

慶弔休暇は、年次有給休暇などの法定休暇とは異なり、法律で付与が義務付けられていない任意の休暇です。付与日数や対象となる出来事、給与の扱いはすべて企業ごとに決める必要があり、制度が存在しない企業の場合は、有給休暇の取得で対応するケースもあります。

従業員の心理的負担を軽減し、働きやすさを高めるためには、法定休暇とは別に制度として明確化しておくことが重要です。

項目慶弔休暇法定休暇(年休・産休など)
法的義務義務ではない(任意)労働基準法で義務付け
日数・対象企業が自由に設定法律で基準が明確
給与の扱い有給・無給を選択可能基本的に有給または法定の取扱い
運用の自由度高い(就業規則で調整可能)法令に基づく運用が必要

企業独自の裁量で内容を決められるため、制度が曖昧なまま運用されるとトラブルにつながる恐れがあります。就業規則で取得条件や対象範囲を明記し、従業員に分かりやすく周知しておくことが大切です。

慶事・弔事それぞれの対象となる主な出来事

慶弔休暇の対象となる出来事は、一般的に「慶事」と「弔事」に大きく分けられます。どの出来事を休暇の対象とするかは企業判断のため、あらかじめ一覧化して制度として明文化しておきましょう。

分類主な対象となる出来事の例
慶事本人の結婚、子どもの結婚、配偶者の出産など
弔事配偶者・父母・子どもの死亡、祖父母・兄弟姉妹の死亡など

対象範囲は企業ごとに差があり、親等によって日数を変える運用も一般的です。近年は家族の形が多様化しており、事実婚や同性パートナーをどう扱うかも検討すべき点となっています。

慶弔休暇は有給?無給?給料の支払いルール

慶弔休暇は法律で付与が義務付けられている休暇ではありません。そのため、給料を支払うかどうかは企業側が自由に定めることができます。

中小企業では「無給」としているケースもありますが、従業員の生活に配慮して「有給扱い」で運用する企業も増えています。給与の扱いをどうするかは、就業規則の定め方によって大きく変わるため、制度設計段階で慎重に検討することが重要です。

就業規則で「有給扱い」にできるかどうか

慶弔休暇は、企業の裁量で有給・無給を決めることができます。法律上の制約はなく、以下のような考え方で選択されることが一般的です。

項目有給扱いにするメリット無給扱いにするメリット
従業員への影響収入が減らず安心して取得できる就業規則や給与計算がシンプル
企業側のメリット福利厚生の充実につながる人件費の増加を抑えられる
採用・定着への影響働きやすい企業イメージにつながる影響は限定的

文章として補足すると、有給扱いとすることで従業員の心理的負担が軽減され、休暇取得をためらいにくくなることが利点です。一方、無給扱いとする場合は制度設計が簡単でコスト管理がしやすい特徴があります。

どちらを採用するにしても、就業規則に明確に記載し、従業員へ周知しておくことがトラブル防止のために重要です。

参考記事:就業規則とは?記載内容や中小企業が注意すべき点をわかりやすく解説

慶弔休暇を取った際に有給休暇を減らす必要はあるか?

慶弔休暇は法定休暇ではないため、有給休暇(年次有給休暇)とどのように併用するかも企業が自由に定めることができます。

「慶弔休暇を取得したから有給休暇を減らす」といった対応をする必要はありません。両者は別制度として扱うのが一般的です。

有給休暇と併用されるケースとしては、慶弔休暇の日数では対応しきれない場合に不足分を年休で補うといった運用があります。特に遠方での葬儀への参列や準備期間が必要な場合などに、従業員が柔軟に休暇を取得できるようにするための運用です。

企業側としては、慶弔休暇と年休を相互に「振り替える」「減らす」必要はありません。混乱を避けるためにも、取得順序や申請方法についてルール化しておくと運用がスムーズです。

慶弔休暇は誰が取得できる?パート・契約社員も対象になる?

慶弔休暇をどの範囲の従業員を対象とするかは企業が自由に決めることができます。

中小企業では制度が曖昧なまま運用されていることもあるため、適用範囲を就業規則で明確にしておくことが重要です。

雇用形態による違いはあるのか

慶弔休暇の対象範囲は企業ごとに異なりますが、近年はパートや契約社員にも付与するケースが増えています。理由として、雇用形態にかかわらず従業員の生活を支援することが、働きやすさや定着率の向上につながると考えられているためです。

一方で、勤務日数や所定労働時間の違いに応じて日数を調整するなど、企業が独自に条件を設定することもできます。重要なのは、雇用形態による不合理な差が生じないよう、ルールを明文化し公正に扱うことです。

参考記事:労働条件とは?労働条件明示の義務と記載すべき内容を解説

「入社間もない社員」は対象外にできるか

入社後すぐに慶弔休暇を付与しない運用も可能ですが、その場合は就業規則に明記する必要があります。例えば「入社後3か月未満は対象外」などが主なルールです。

ただし、結婚や葬儀などは予測できない出来事であるため、対象外期間を長く設定しすぎると従業員の不満につながる可能性があります。中小企業では、極端な制限を設けず、一定の勤続期間(例:1か月〜3か月)を目安に運用するケースが多いです。

【中小企業こそ知っておきたい】同性パートナー・事実婚の場合の配慮

家族の形の多様化に伴い、同性パートナーや事実婚の配偶者を慶弔休暇の対象に含める企業も増えています。法的な婚姻関係がない場合でも、同居実態や生活実態があるパートナーを「配偶者と同等」として扱うかどうかは企業次第です。

中小企業にとっては制度化が負担に感じられることもありますが、次のような理由から検討する価値があります。

  • 従業員が安心して働ける環境をつくれる
  • 採用・定着率の向上につながる
  • ダイバーシティの推進として企業価値が高まる

また、判断基準が曖昧なまま個別対応を続けると、公平性の面でトラブルにつながることがリスクです。「届出書の提出」「一定の同居期間」など、客観的な基準を設けたうえで対象範囲を定めることが、安定した運用につながります。

【チェックリスト付き】労務・定着・エンゲージメントの 3本柱でつくる 人が辞めない組織

慶弔休暇の日数は何日?関係性ごとの相場と注意点

慶弔休暇の日数は、法律で決まっているわけではなく、企業が任意で設定するものです。そのため企業によって差がありますが、多くの企業が参考にしている「一般的な相場」が存在します。

制度設計では、この相場を踏まえつつ、自社の働き方や雇用形態の実態に合わせた日数設定を行うことが重要です。また、関係性や役割(喪主など)によって必要日数が変わるため、柔軟な設計が求められます。

結婚・出産などの「慶事」の日数例

慶事の場合は、従業員本人のイベントを中心に休暇を付与するのが一般的です。結婚や配偶者の出産は重要なライフイベントであり、必要な手続きや準備期間を考慮した日数設定がよく見られます。

出来事日数の相場
本人の結婚3〜5日
子どもの結婚1〜2日
配偶者の出産1〜2日(出産立ち会い・支援のため)

慶事は事前に予定が分かることが多いため、申請方法や日数の使い方を明確にしておくと運用がスムーズです。また、勤務体系に応じて休日との兼ね合いが出やすいため、所定労働日ベースで日数を設定する企業もあります。

配偶者・両親・祖父母などの「弔事」の日数例

弔事の場合は、関係性の深さや葬儀の規模に応じて日数に差をつけるのが一般的です。特に配偶者・父母・子どものような近親者については、手続きや対応が多いため比較的長めの休暇を設定する傾向があります。

続柄日数の相場
配偶者5日前後
父母・子3〜5日
祖父母・兄弟姉妹1〜3日
配偶者の父母1〜3日

関係性の基準は企業ごとに異なるため「どこまでを対象とするか」「親等に応じた日数設定をどうするか」など、就業規則で明文化しておくことが重要です。

喪主の場合・遠方の場合の日数は?

葬儀の準備や手続きを担う喪主は、通常の弔事よりも広い役割を担うため、追加日数を認める企業があります。また、遠方での葬儀に参列する場合は移動に時間を要するため、慶弔休暇に加えて年次有給休暇で調整できるようにしておく企業も多いです。

ケース追加の扱い例
喪主を務める場合通常日数に加えて1〜2日を追加
遠方での葬儀に参列必要に応じて年休で補填可能とする

実務上は、喪主かどうか、移動の必要性など事情を確認し、個別対応を認めるかどうかをルール化しておきましょう。これにより従業員にとっても企業側にとっても運用しやすい形となります。

取得申請の流れと必要書類の扱い

慶弔休暇は突発的な出来事も多いため、申請の流れや必要書類の扱いを明確にしておくことが重要です。制度そのものは企業の任意ですが、運用が曖昧だとトラブルにつながりやすいため、申請方法・証明書類の取り扱い方・申請時期などを就業規則や社内ルールで整理しておく必要があります。

申請書類や診断書・会葬礼状など証明の取り扱い

慶弔休暇は、慶事・弔事の事実確認が必要になる場面がありますが、あくまでプライバシーへの配慮が大前提です。一般的には、以下のような書類を「提出を求めることができる」と定める企業が多く、必須とするかどうかは企業判断となります。

種類用途・取り扱い例
結婚証明書・婚姻届受理証明など本人の結婚に伴う慶事の確認として任意提出を求める場合
母子手帳の出産欄、出生届のコピーなど配偶者の出産を確認するための書類として任意提出を求める場合
会葬礼状・訃報通知・火葬場の案内など弔事に伴う事実確認として比較的提出されやすい書類
診断書(流産など)慶弔休暇の対象とする企業の場合に、事実確認として必要に応じて求めることがある

ただし、これらの書類はあくまで「求めることができる」レベルに留め、個人情報に配慮した運用が必要です。特に弔事については、家族関係や状況を詳細に提出させることは従業員への負担が大きいため、最低限の確認にとどめる企業が増えています。

参考記事:労災が起きたらどう対応すべき?中小企業が知っておくべき補償内容と申請手順

申請はいつ・どのように行うのが適切か

慶事については事前に予定が分かるため、早めの申請を原則とし、就業規則で「〇日前までに申請」といった基準を設けるケースが多いです。一方、弔事は突発的なケースがほとんどのため、事後申請を認める企業が一般的といえます。

申請方法は書面・電子申請・労務管理システムなど、企業の環境に合わせて設定可能です。以下の点を明確にしておくと運用がスムーズになります。

  • 誰に申請するのか(上長/人事担当など)
  • 口頭連絡で取得開始し、その後書面または電子申請で正式提出するのか
  • 緊急時の連絡方法(電話・メール・チャットなど)

特に中小企業では、急な欠勤による業務影響も大きいため、連絡体制をルール化しておきましょう。

申請理由はどこまで伝えるべきか?

慶弔休暇の申請では、必要以上に個人の事情を開示させないことが重要です。制度上は「対象となる出来事があった」ことを確認できれば十分であり、詳細な状況説明を求める必要はありません。

一般的な運用としては、次のような整理が適切です。

  • 「配偶者の出産」「親族の葬儀」など、対象事由の種類だけ伝えればよい
  • 家族関係の詳細や病名など、過度な個人情報の提供は求めない
  • 事情が複雑な場合は、上長や人事担当が配慮のうえで必要最小限の情報に留める

従業員が安心して申請できる環境を整えることが、制度の適切な運用につながります。特に弔事はセンシティブな内容が多いため、個別事情に踏み込みすぎないことを心がけましょう。

慶弔休暇制度を整備する際のポイント

慶弔休暇は法律上の義務ではないからこそ、制度の内容や運用方針を明確にしておくことが非常に重要です。特に中小企業では、個別対応や慣習で運用されてきた結果、従業員間で不公平感が生じるケースもあります。

制度設計の段階で対象範囲・日数・給与の扱い・申請手続きなどを整理し、就業規則に反映することが重要です。これにより企業・従業員双方が安心して利用できる制度になります。

対象者・日数・給与のルールを明文化する

どの従業員が、どの出来事で、何日取得できるのか、給与は支払うのかといった点は、企業が自ら定めることが必要です。明文化されていないと、運用が属人的になり、従業員間で不公平感が生じやすくなります。

以下の4点は、就業規則に必ず明記しておきたい基本項目です。

項目ルールとして明文化すべき内容の例
対象者正社員だけでなく、パート・契約社員・アルバイトが対象となるかを明記する
対象となる出来事結婚・出産・近親者の死亡など、慶事/弔事の範囲を定義する
付与日数出来事ごとの日数、親等による違い、追加日数の扱いを設定する
給与の扱い有給扱い/無給扱いのどちらとするかを明確にする

これらの要素を明確にしておくことで、従業員が安心して休暇を取得できるだけでなく、企業側も公平性を保った運用が可能になります。特に近年では、同性パートナーや事実婚を対象に含めるかなども検討すべきです。

社内の公平性と個別対応のバランス

制度を整備する際は、公平性と柔軟性のバランスが重要になります。

例えば、弔事の対応は家庭によって大きく異なるため、喪主や遠方移動が必要な場合など、一定の個別事情に配慮する余地を残すことも重要です。

とはいえ、個別対応を広く認めすぎると「特定の人だけ優遇されている」といった不満の原因にもなります。そのため、基本ルールは公平に適用しつつ、例外を設ける場合は「追加日数の基準」「相談窓口」「必要書類」などを明確にしておきましょう。

まとめ

慶弔休暇は、従業員の人生の節目に寄り添い、安心して働ける環境を整えるうえで重要な制度です。法定ではない分、企業が自由に内容を設計できる一方で、対象者・日数・給与の扱い・申請方法を明確にしておくことが重要になります。

中小企業にとっては、制度づくりが負担に感じられる場合もあるかもしれません。しかし、慶弔休暇を整理しておくことは、従業員の定着や安心感の向上にも直結します。

近年は家族の在り方や働き方が多様化しているため、同性パートナーや事実婚への対応、パート・契約社員の扱いなども含め、公平で分かりやすいルールづくりが重要です。

これにより企業としての信頼性が高まり、従業員にとっても安心してライフイベントに向き合える環境が整います。自社の実情に合わせて制度を整備し、働きやすい組織づくりに役立ててください。

【チェックリスト付き】労務・定着・エンゲージメントの 3本柱でつくる 人が辞めない組織

関連記事

TOP