【事例付】ミッション・ビジョン・バリューとは?違いや作り方をわかりやすく解説

「組織の方向性が定まらない」 「社員のベクトルが合っていない気がする」

企業としてこのような課題を感じている際に役立つのが、「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」です。

しかし、MVVについて「聞いたことはあるがあまり詳しくわからない」という方も多いでしょう。

そこでこの記事では、MVVの基本的な意味から、導入するメリット、効果的な作り方までを、わかりやすく解説します。

さらに、ユニークなMVVを掲げて成長する中小企業の事例も紹介していきますので、是非参考にしてください。

ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)とは何か?それぞれわかりやすく解説

企業経営や、組織の進むべき方向を示す指針として、「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」を策定する企業が増えています。

MVVとは、経営学者ピーター・ドラッカーが強調した「企業の使命の重要性」などを含む、様々な経営理論をもとに発展したフレームワークです。

3つの要素はそれぞれ独立しているのではなく、ピラミッドのような階層構造を持っています。

最上段に位置する「ミッション」を達成するために「ビジョン」があり、ビジョンを実現するための行動基準として「バリュー」が存在するという関係性です。

ここでは、3つの要素それぞれの定義と役割について解説します。

ミッションとは

ミッション(Mission)は、企業が社会において果たすべき「使命」や「存在意義」を指します。

「企業は何のために存在するのか」

「誰に対して、どのような価値を提供するのか」

こういった根源的な問いへの答えがミッションです。

ミッションは「企業の活動における核」となる部分であり、時代や環境が変化しても簡単には変わらない普遍的な要素といえます。

たとえば、Googleの「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにする」という言葉は、有名なミッションの一例です。

企業活動のすべては、最終的にミッションの達成につながっている必要があります。

従業員が日々の業務を行う際、迷ったときに立ち返るべき原点となるのがミッションなのです。

ビジョンとは

ビジョン(Vision)は、ミッションを追求した結果として、将来的に実現したい「あるべき姿」や「志」を指します。

「ミッションを遂行することで、どのような未来を作りたいのか」という中長期的な目標を言語化したものがビジョンです。

普遍的なミッションとは異なり、ビジョンには「2030年までに」「今後5年間で」といった時間軸が含まれることが多く、経営環境の変化や企業の成長フェーズに合わせて更新される場合があります。

ビジョンが明確であればあるほど、従業員やステークホルダーは企業の目指す未来を具体的にイメージできるようになります。

バリューとは

バリュー(Value)は、ミッションやビジョンを実現するための「従業員が共有すべき価値観や行動指針」のことです。

「日々の業務において、どのような判断基準を持つべきか」

「どのような姿勢で仕事に取り組むべきか」

これらを具体的に示したものがバリューに当たります。

どれほど立派なビジョンを掲げていても、日々の行動が伴わなければ実現は不可能です。

バリューは、抽象的な理念を、「顧客第一」「スピード重視」「挑戦を恐れない」といった具体的な行動レベルに落とし込むための役割を果たします。

バリューが組織全体に浸透することで、企業文化が醸成され、社員一人ひとりが自律的に判断して動ける強い組織が作られます。

「MVV」と「経営理念」の違い

日本企業では、古くから「経営理念」や「社是」「社訓」という言葉が使われてきましたが、これらとMVVはどのような違いがあるのでしょうか。

基本的に、経営理念とMVVは、企業の根幹を成す考え方であるという点では同じ役割を持っています。

しかし、その構成や成り立ちに違いがあります。

経営理念は、創業者の想いや哲学を凝縮した言葉であり、企業の精神的支柱となる概念の総称として使われるケースが一般的です。

一方、MVVは「使命」「未来像」「行動指針」という3つの要素に分解し、論理的に体系化されたフレームワークです。

グローバル化が進む現代において、多様なバックグラウンドを持つ従業員や投資家に対して、企業の方向性をわかりやすく説明するために、構造化されたMVVを採用する企業が増えています。

経営理念を再解釈し、現代風にMVVとして再構築するケースも多く見られます。

つまり、両者は対立するものではなく、経営理念という大きな概念の中にMVVが含まれる、あるいは経営理念をより具体的に展開したものがMVVであると捉えると理解しやすいはずです。

MVVの重要性

なぜ今、多くの企業がMVVの策定や見直しに力を入れているのでしょうか。

その理由は、変化の激しい時代において、「企業がブレずに成長し続けるための軸」が必要だからです。

特に重要なのは、「意思決定の迅速化と統一」です。

ビジネスの現場では日々多くの判断が求められますが、明確なMVVがあれば、経営者から現場の社員まで、「それはミッションに合致しているか」「バリューに沿った行動か」という共通の基準で判断を下せるようになります。

判断基準が統一されれば、組織全体の意思決定スピードは格段に上がるでしょう。

また、「エンゲージメントの向上と採用への効果」も挙げられます。

現在、働き手の価値観は多様化しており、給与などの条件だけでなく「この会社は何のためにあるのか」という社会的意義への共感も重視されるようになりました。

魅力的なMVVは、既存社員のモチベーションを高めるだけでなく、価値観に共感する優秀な人材を引き寄せる採用ブランディングの武器となります。

MVVは単なるスローガンではなく、企業競争力を高めるための実利的な経営資源といえます。

MVVを作るべきタイミング

MVVを策定、あるいは改定すべきタイミングは、企業の成長フェーズの中にいくつか存在します。

適切なタイミングでMVVを整えることで、組織の結束力を高め、次のステージへの成長を加速させることが可能です。

最も代表的なタイミングは「創業時」です。

会社を立ち上げる際、どのような価値を世の中に提供し、どのような組織を作りたいのかを言語化しておくことは、創業メンバーのベクトルを合わせるために欠かせません。

創業時の熱量を言葉に残すことで、事業が拡大しても原点を忘れないための指針となります。

次に、「事業拡大・多角化の時期」も重要なタイミングです。

従業員が増え、拠点が分かれ、事業領域が広がると、どうしても組織の一体感は薄れがちになります。

阿吽の呼吸で通じていた創業期とは異なり、共通言語としてのMVVがなければ組織はバラバラになってしまいます。

また、「組織の停滞期」や「事業承継のタイミング」も、MVVを見直す好機です。

現状を打破するため、あるいは新経営体制の方針を明確にするために、改めて自社の存在意義を問い直し、新たなビジョンを掲げることで、組織の再活性化を図ることができます。

MVVの作り方|ミッション・ビジョン・バリューを言語化する4ステップ

MVVは、経営者が一人で考えてトップダウンで発表すればよいというものではありません。

従業員が自分事として捉えられる内容にするためには、策定プロセスそのものが重要です。

ここでは、効果的なMVVを作るための4つのステップを紹介します。

【STEP.1】自社の事業を分析・把握する

MVVを言葉にする前に、まずは自社の現状と取り巻く環境を客観的に分析する準備が必要です。

思いつきで言葉を並べるのではなく、事実に基づいた分析を行うことで、説得力のあるMVVが生まれます。

具体的には、以下のような手法を用いるのが有効です。

  • 3C分析:「Customer(市場・顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」
  • SWOT分析:「強み」「弱み」「機会」「脅威」

こうした分析方法を活用しつつ、「自社が顧客から選ばれている理由は何なのか」「競合にはない独自の強みは何か」「社会はどのような変化を求めているのか」を整理しましょう。

また、創業者の想いや過去の社史を振り返り、大切にしてきた根幹部分を抽出することも大切です。

過去・現在・未来の視点から自社を棚卸しすることで、MVVに盛り込むべきキーワードが見えてきます。

【STEP.2】ワークショップ形式で議論する

要素が出揃ったら、次は具体的な言葉に落とし込んでいくフェーズです。

ここでは、「対話」が鍵となります。

経営陣だけで決めるのではなく、現場のキーマンや若手社員などを巻き込んだプロジェクトチームを発足させ、ワークショップ形式で議論すべきです。

多様な立場のメンバーが集まり、「自社がなくなったら社会はどう困るか」「10年後、どんな会社になっていたいか」「自社らしい行動とは何か」といったテーマで意見を出し合います。

社員を巻き込むことで、多角的な視点を取り入れられるだけでなく、「自分たちで作った」という当事者意識が生まれ、策定後の浸透がスムーズになります。

【STEP.3】ミッション・ビジョン・バリューを整理して定義する

議論を通じて核となるキーワードや方向性が固まったら、最終的にMVVとしての文章にまとめ上げます。

ここでは、言葉の選び方やリズム、覚えやすさが重要になります。

まず、ミッション、ビジョン、バリューそれぞれの整合性が取れているかを確認しましょう。

ミッションを達成するためのビジョンであり、それを支えるバリューになっているか、論理的なつながりをチェックしてください。

文章は長すぎると覚えられないため、できるだけシンプルかつ力強い言葉を選びます。

必要であれば、コピーライターなどのプロの手を借りるのも一つの手段です。

【STEP.4】社内に浸透させる仕組みを設ける

MVVは、策定して全社的に発表しただけでは、単なるスローガンで終わってしまいます。

策定プロセスと同様、あるいはそれ以上に重要なのが、社内への浸透活動です。

従業員一人ひとりが自分事として捉え、日々の行動に反映できるようになるまで、継続的に働きかける必要があります。

最も効果的な方法は、人事評価制度や採用基準にMVVを組み込むことです。

たとえば、売上などの成果だけでなく、バリューに沿った行動をした従業員を評価する仕組みを作ったり、採用面接でミッションへの共感度を最重要視したりすることで、会社が本気でMVVを大切にしているというメッセージが伝わります。

浸透には時間がかかりますので、すぐに浸透しないからといって諦めず、粘り強く仕組み作りを続けていきましょう。

企業がMVVを作る時に意識すべきポイント

MVVは作って終わりではなく、活用されて初めて意味を持ちます。

形骸化させず、生きた指針として機能させるためには、策定段階で意識すべきいくつかのポイントがあります。

わかりやすく共感しやすい言葉にする

MVVは、従業員が日々の業務で判断に迷ったときに思い出すものでなければなりません。

そのため、難解な専門用語や抽象的すぎる表現は避け、誰が読んでも理解できる平易な言葉を使うことが鉄則です。

また、単に意味が通じるだけでなく、聞いた人の心が動くような「共感性」も重要です。

論理的に正しいだけの言葉よりも、感情に訴えかける言葉の方が、人の行動を変える力を持っています。

「かっこいい言葉」を目指すのではなく、自社の社員が口にしたときにしっくりくる、体温を感じられるような表現を目指してください。

オリジナリティを重視する

他社のMVVを参考にすることは大切ですが、どこかで聞いたようなありきたりのフレーズをつなぎ合わせても、誰の心にも響きません。

「社会に貢献する」「お客様を第一に」といった言葉は間違いではありませんが、それだけでは「なぜこの会社でなければならないのか」という独自性が伝わらないでしょう。

自社独自の歴史、強み、企業風土を反映させ、自社ならではの言葉を紡ぎ出すことが重要です。

たとえば、創業時の具体的なエピソードや、社内で飛び交っている独特の用語などをうまく取り入れることで、他社には真似できないオリジナリティあふれるMVVが完成します。

独自性は、競合他社との差別化要因となり、ブランディングの強化にもつながります。

時代や社会性を考慮する

ミッションは普遍的なものですが、それを表現する言葉や、目指すべきビジョンは、時代の変化に合わせてチューニングする必要があります。

特に現在は、SDGs(持続可能な開発目標)やESG経営への関心が高まっており、企業が利益を追求するだけでなく、社会課題の解決にどう貢献するかが厳しく問われる時代です。

自分たちの利益だけを強調するような内容は、社会からの共感を得にくいだけでなく、優秀な人材からも敬遠されるリスクがあります。

自社の事業が、環境問題や人権、地域社会といった社会的なテーマとどう関わり、どのようなプラスの影響を与えられるのかという視点を盛り込むことで、より多くのステークホルダーから支持されるMVVとなります。

中小企業におけるMVVの事例

MVVは大企業だけのものではありません。

むしろ、リソースが限られる中小企業こそ、MVVによって組織の力を一点に集中させることが成長の鍵となります。

ここでは、特定の業界における中小企業の実際の事例を通して、MVVの具体的なイメージを紹介します。

DXツールを開発している中小企業の例

現場管理アプリなどの「現場DXプラットフォーム」を開発・提供している中小企業の事例です。

同社は、IT化の恩恵を十分に受けられていなかった工場や店舗などの「現場」に焦点を当て、明確なMVVを掲げて事業を推進しています。

ミッションノンデスクワーカーの才能を解き放つ
ビジョンノンデスクワーカーが「挑戦し、報われる世界」の創造
バリュー■現場ドリブン(顧客が求めるものは常に現場にある)
■全開オープン(弱みも見せて情報を共有する)
■β版マインド(100%の確信を待たず、まず一歩を踏み出す)
■外向きベクトル(社内政治ではなく、未来や顧客へ向かう)
■自分リノベーション(変化し続け、成長を手に入れる)

この事例の特徴は、ミッションで「誰に(ノンデスクワーカー)」「何を(才能の解放)」提供するかが明確である点です。

また、バリューの「現場ドリブン」や「全開オープン」といった言葉は、机上の空論ではなく、泥臭く顧客の現場に向き合い、社内外で透明性を保とうとする同社の姿勢を端的に表しています。

これらが共通言語となることで、迷いのない製品開発や組織運営が可能となっています。

シェア乗りサービスを提供する中小企業の例

独自のAIを活用したシェア乗りサービスを展開し、タクシーやバスに次ぐ「第4の公共交通機関」の確立を目指している企業の事例です。

同社は、社会に存在する様々な「もったいない」を解消することを掲げ、以下のMVVを策定しています。

ミッション暮らしの「もったいない」をなくし、「次のあたりまえ」をつくる。
ビジョン人と地域の豊かさを紡ぎ、未来を拓く
バリュー■心身ともに健康でいよう(多様性を尊重し、笑顔を大切にする)
■愚直にやり抜こう(スピードと成果にこだわる)
■寄り添っていこう(地域や相手への思いやりを持つ)
■仕組み化しよう(継続性と成長を見据えて行動する)
■枠を超えていこう(変化や挑戦を恐れず突破する)

特徴的なのは、ミッションに「もったいない」という日常的な言葉を使い、空席などの遊休資産を価値に変えるビジネスの本質をわかりやすく表現している点です。

また、バリューの筆頭に「心身の健康」を掲げている点は、持続可能な組織運営への強い意志を感じさせます。

「仕組み化」や「枠を超える」という言葉からは、既存の交通インフラに変革を起こそうとするスタートアップらしい姿勢が読み取れます。

ECを運営する中小企業の例

友人や家族と協力して商品をお得に購入するサービスを運営する企業の事例です。

同社は、単なる効率や安さだけでなく、買い物を通じた「楽しさ」という価値を提供するために、以下のMVVを掲げました。

ミッション日常に楽しさを
ビジョン世界一楽しいショッピング体験をつくる
組織ビジョン自律・自燃型組織(自ら働く環境を楽しみ、熱量を最大化する組織)
バリュー■Enjoy Working(泥臭くハードな事も含めて心から楽しむ)
■For Team(お客さまや働く仲間を思いやる)
■Try First(良い課題と良い速度でまずはトライ推奨。失敗を許容する)

この事例で注目すべきは、通常のビジョンとは別に、「自律・自燃型組織」という組織ビジョンを定めている点です。

また、バリューの「Enjoy Working」には、スタートアップ特有の困難な局面さえも前向きに楽しもうという意思が込められています。

失敗を許容し、まずは挑戦することを推奨する「Try First」の精神とともに、社員が主体的に熱量を持って働く企業文化が作られていることでしょう。

まとめ

MVVは、企業の存在意義・目指すべき未来・行動指針を示す重要な羅針盤です。

変化の激しい現代において、経営の軸を定め、従業員のエンゲージメントを高め、採用力を強化するためには、明確なMVVの策定が不可欠です。

MVVを作る際は、現状分析に基づき、社員を巻き込んだ対話を通じて、自社独自のオリジナリティある言葉を紡ぎ出すことを重要視して取り組むようにしてください。

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