労務管理とは?仕事内容・関連資格・勤怠管理との違いなどを簡単に解説
「労務管理」は、企業が従業員を雇用し、事業を運営していく上で欠かすことのできない重要なバックオフィス業務の一つです。
従業員が安心して働ける環境を整備し、法令を遵守することは、コンプライアンス違反のリスクを回避するだけでなく、従業員のモチベーションや生産性の向上にも直結します。
しかし、労務管理と勤怠管理や人事管理との違いが曖昧であったり、労務管理の具体的な業務内容が多岐にわたるため、全体像を把握しにくいと感じる担当者も少なくないでしょう。
この記事では、労務管理の基本的な定義から、混同されやすい言葉との違い、具体的な仕事内容、役立つ資格などについて簡単に解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
労務管理とは何か?基礎知識について簡単に解説
労務管理とは、企業が従業員を雇用する上で必要となる、労働に関するあらゆる管理業務の総称です。
具体的には、社会保険の手続きや就業規則の作成などの「法律に基づいた手続き」や、「従業員が働く環境や安全衛生の整備・運用」を行います。
企業は、労働基準法をはじめとする様々な法令を遵守する義務を負っています。
労務管理の根本的な目的は、これらの法令を守り、適切な労働条件を確保・改善することです。
特に中小企業では、担当者が総務・人事・経理を兼務しているケースも多く、労務管理がおろそかになると、思わぬ労基署の是正勧告や未払い残業代請求などのリスクにつながりかねません。
労務管理と混同されやすい言葉との違い
労務管理の領域には、似たような言葉がいくつか存在します。
特に「勤怠管理」と「人事管理」は混同されやすいため、それぞれの役割の違いを明確に理解しておく必要があります。
勤怠管理との違い
勤怠管理とは、従業員の日々の出勤・退勤時刻、休憩時間、休暇取得状況などを正確に把握し、記録・管理する業務を指します。
労働時間を客観的に把握することは、残業代の計算や健康管理を行う上で不可欠です。
一方、労務管理は、勤怠管理も含む、より広範な概念です。
勤怠管理は、労務管理という大きな枠組みの中で行われる「労働時間の管理」という特定領域の業務に過ぎません。
労務管理は、勤怠管理によって得られたデータをもとに給与計算を行ったり、長時間労働を是正したり、労働契約全体を管理したりする役割を担います。
参考記事:中小企業の勤怠管理、正しくできていますか?基本からシステム選びまで徹底解説
人事管理との違い
労務管理と人事管理は、管理対象と目的に明確な違いがあります。
最も大きな違いは、「管理する対象」です。
人事管理の対象は「人」そのものです。
従業員を「人的資源」として捉え、その能力や意欲をいかにして最大限に引き出すかに焦点を当てます。
具体的には、採用、人材育成、人事評価、人員配置(異動)などを通じて、組織のパフォーマンス向上を目指す戦略的な役割を担います。
一方で、労務管理が管理する対象は、「労働」です。
従業員と企業が結んだ「労働契約」に基づいて発生する、労働時間、賃金(給与計算)、休日、社会保険、安全衛生といった「働くことに関連するルールや環境」を適切に管理します。
主な目的は、労働基準法などの法令を遵守し、従業員が安心して働ける基盤を整備・維持することにあります。
労務管理の主な仕事内容
労務管理の業務は非常に多岐にわたります。
従業員の入社から退社までのあらゆる場面で、法律に基づいた正確な手続きと適切な環境整備が求められます。
ここでは、代表的な6つの仕事内容について解説します。
就業規則の作成・管理業務
就業規則は、職場のルールブックであり、労務管理の根幹を成すものです。
- 労働時間
- 休日
- 賃金
- 服務規律
これらの、従業員が守るべきルールや労働条件を明文化したものが就業規則です。
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。
労務管理担当者は、就業規則を策定するだけでなく、法改正に合わせて内容を随時見直し、更新する役割を担います。
変更した場合は、従業員へ周知徹底することも重要な業務です。
参考記事:就業規則とは?労働基準法とどちらが優先される?2つの関係を正しく理解しよう
労働契約に関する業務
従業員を採用する際、企業は労働条件を明示した「労働契約書」や「労働条件通知書」を交付する義務があります。
労務管理では、これらの契約書類を作成し、法律に違反する内容がないかを確認した上で、従業員と契約を締結します。
また、正社員、契約社員、パートタイマーなどの雇用形態に応じた適切な契約管理や、契約更新の手続き、退職時の手続きも、労働契約に関する重要な業務に含まれます。
社会保険等の保険手続き業務
従業員を雇用すると、企業は社会保険および労働保険への加入手続きを行わなければなりません。
労務管理担当者は、年金事務所やハローワークなどの管轄の行政機関に対して、従業員の入社時や退職時に発生する資格取得・喪失の手続きを行います。
その他にも、従業員やその家族の状況変化(出産、結婚、扶養家族の増減など)に伴う変更手続きや、業務中・通勤中の怪我が発生した際の給付申請など、正確かつ迅速な事務処理が必要になる業務です。
参考記事:社会保険料とは?標準報酬月額の決め方・控除額・計算方法を解説
勤怠管理・給与計算業務
勤怠管理は、従業員の労働時間を日々正確に把握する業務です。
タイムカードや勤怠管理システムを使用し、遅刻、早退、欠勤、残業時間、有給休暇の取得状況などを管理します。
現在、労働時間の客観的な把握は法律で厳しく求められていることから、勤怠管理は労務管理の根幹の一つです。
給与計算業務では、勤怠管理で把握した労働時間に基づき、残業代や各種手当を計算します。
さらに、社会保険料や税金(所得税、住民税)を控除した上で、毎月の給与額を確定させます。
36協定の管理や最低賃金を下回っていないかの確認も、この業務に含まれます。
従業員の安全衛生管理業務
企業は、労働安全衛生法に基づき、従業員の安全と健康を確保する義務を負っています。
労務管理では、従業員に対する定期健康診断の実施と、その結果の管理・フォローアップを行います。
また、長時間労働者や高ストレス者に対する産業医面談の設定・実施、メンタルヘルス不調者の休職・復職支援なども重要な業務です。
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、衛生管理者の選任や衛生委員会の設置・運営も必要となり、職場の安全衛生水準を維持・向上させる役割を担います。
参考記事:【わかりやすい】労働安全衛生法(安衛法)を理解して中小企業を守る!ストレスチェックは?改正内容は?
福利厚生の整備・管理業務
福利厚生には、法律で義務付けられている「法定福利」と、企業が独自に設ける「法定外福利」があります。
労務管理では、これらの福利厚生制度の運用・管理も行います。
なお法定外福利には、以下のようなものがあります。
- 住宅手当
- 家族手当
- 社員食堂
- レクリエーション
- 退職金制度
労務管理担当者は、既存制度の運用だけでなく、従業員のニーズや社会情勢の変化に合わせて新しい福利厚生制度を企画・導入し、従業員満足度の向上を図る役割も期待されます。
労務管理に関連する資格
労務管理の業務は法律の知識を深く要求されるため、関連する資格を取得することで、専門性を高め、キャリアアップにつなげることが可能です。
ここでは、労務管理と関連の深い3つの資格を紹介します。
社会保険労務士
社会保険労務士は、労働関連法規や社会保険に関する専門家であることを証明する国家資格です。
| 労働・社会保険の問題の専門家として、(1)書類等の作成代行、(2)書類等の提出代行、(3)個別労働関係紛争の解決手続(調停、あっせん等)の代理、(4)労務管理や労働保険・社会保険に関する相談等を行うのが、社会保険労務士です。 |
社労士の資格を持つことで、労働社会保険の手続き代行、就業規則の作成・変更、給与計算、労務トラブルに関する相談・指導など、企業内での専門家として活躍できます。
また、独立開業して企業の労務管理をサポートするコンサルタントとして活動する道も開かれます。
労務管理士
労務管理士は、一般社団法人日本人材育成協会などが認定する民間の資格です。
国家資格である社労士とは異なり、手続きの代行業務(独占業務)は行えません。
しかし、労務管理士の学習内容は、労働基準法や労務管理の実務知識、人事考課、採用面接のノウハウなど、企業の人事・労務担当者として必要な実践的スキルに重点が置かれています。
社内で労務管理の専門性を高めたい担当者にとって有用な資格の一つです。
衛生管理者
衛生管理者は、労働安全衛生法に基づく国家資格です。
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、事業場の規模に応じて一定数以上の衛生管理者を選任することが義務付けられています。
必要な衛生管理者の人数は、事業場の労働者数によって決まります。
| 事業場の労働者数 | 衛生管理者の選任数 |
| 50人以上~200人以下 | 1人以上 |
| 200人超~500人以下 | 2人以上 |
| 500人超~1,000人以下 | 3人以上 |
| 1,000人超~2,000人以下 | 4人以上 |
| 2,000人超~3,000人以下 | 5人以上 |
| 3,000人超 | 6人以上 |
衛生管理者は、以下のような「職場の衛生全般」を管理する専門家です。
- 作業環境の管理
- 従業員の健康管理
- 労働衛生教育の実施
- 健康障害の防止措置
労務管理の中でも「安全衛生管理」の領域を担う上で必須となる資格であり、企業内での需要が非常に高いといえます。
労務管理における注意点
労務管理は、企業の根幹を支える重要な業務であると同時に、多くのリスクを伴います。
ここでは、特に注意すべき3つのポイントを解説します。
労務管理に関連する法律を把握する
労務管理の業務は、労働基準法、労働契約法、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法など、数多くの法律と密接に関連しています。
これらの法律は、社会情勢の変化に応じて頻繁に改正されます。
たとえば、近年では「働き方改革関連法」による時間外労働の上限規制、同一労働同一賃金の徹底、有給休暇取得の義務化などが施行されました。
法改正の情報をキャッチアップせず、古い知識のまま業務を続けると、意図せず法令違反を犯してしまうリスクがあります。
労働局の発表や専門家の情報を常に確認し、就業規則や社内体制を最新の状態に保つ努力が不可欠です。
リモートワークなど多様化した働き方に対応する
コロナ禍以降、リモートワークやフレックスタイム制など、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方が急速に普及しました。
現在、これらの働き方は多くの企業で定着しつつあります。
しかし、多様な働き方は、従来の労務管理に新たな課題を突きつけています。
特にリモートワークでは、以下のような問題への対応が必要です。
- 労働時間の客観的な把握をどう行うか
- 自宅での作業環境の安全衛生をどう確保するか
- コミュニケーション不足によるメンタルヘルス不調をどう防ぐか
勤怠管理システムの導入や、オンラインでの健康相談窓口の設置など、新しい働き方に合わせた労務管理の仕組みを再構築しなければなりません。
情報管理を徹底する
労務管理業務では、従業員の氏名、住所、生年月日といった基本的な個人情報に加え、マイナンバー、給与額、社会保険情報、健康診断結果、病歴など、極めてセンシティブな情報を大量に取り扱います。
特にマイナンバーや健康情報のような機微情報は、漏えい時のインパクトが非常に大きく、情報漏えいがレピュテーションリスクや損害賠償に直結する点を踏まえた管理が求められます。
個人情報保護法を遵守し、情報へのアクセス権限を厳格に管理すること、セキュリティ対策が施された労務管理システムを導入すること、担当者の情報リテラシー教育を徹底することなど、万全の情報管理体制を敷くようにしてください。
まとめ
以上、労務管理の具体的な業務や、似た用語との違い、関連資格、注意点などについてわかりやすく解説してきました。
適切な労務管理を行うことで、法的リスクを回避するだけでなく、従業員の満足度や定着率を向上させ、最終的には企業の生産性向上にも貢献します。
本記事で解説した内容を参考に、自社の労務管理体制を見直し、強化するきっかけとしてください。
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