メンター制度とは?導入のメリット・デメリットやいらないと言われる理由
新入社員の早期離職防止や、若手社員のメンタルケアを目的として「メンター制度」を導入する企業が増えています。
しかし、導入したものの「現場の負担が増えただけで効果がない」「OJTと何が違うのかわからない」といった理由から、「いらない」と言われてしまうケースも少なくありません。
そこでこの記事では、メンター制度の基本的な仕組みから、導入によって得られるメリット・デメリット、制度運用が失敗してしまう原因などについて詳しく解説していきます。
メンター制度導入の成功事例も紹介しますので、自社に適した制度設計の参考にしてください。
目次
メンター制度とは何をする制度?簡単に解説
メンター制度とは、豊富な知識や経験を持つ先輩社員(メンター)が、後輩社員(メンティ)に対して、対話を通じたキャリア形成支援や精神的なサポートを行う人材育成制度のことです。
一般的に、メンターは直属の上司や先輩ではなく、他部署の年齢の近い先輩社員が担当します。
利害関係が少ないことから、メンティ側は業務上の指導評価を気にせず、仕事の悩みや人間関係のトラブル、将来のキャリアプランなどを本音で相談しやすくなります。
メンター制度は、単なる業務指導の場ではありません。
メンターとの対話を通じて、メンティが自律的に課題を解決し、精神的な安定を得ながら成長していくプロセスを支援する「メンタリング」が活動の中心となります。
混同されやすい他の制度との違い
人材育成の現場では、メンター制度と似た用語や手法がいくつか存在します。
それぞれの役割や目的の違いを明確に理解しておかないと、制度の導入目的が曖昧になり、現場の混乱を招く原因となります。
ここでは、「OJT」と「エルダー制度」との違いについて解説していきます。
メンター制度とOJTの違い
OJT(On-the-Job Training)は、実際の業務を通じて行う「実務指導」のことです。
通常、直属の上司や同じ部署の先輩がトレーナーとなり、業務遂行に必要な具体的なスキルや知識を教えます。
一方、メンター制度は「メンタル面のサポート」や「キャリア支援」に重きを置いています。
OJTが「仕事のやり方」を教えるのに対し、メンター制度は「仕事への向き合い方」や「組織での在り方」を共に考える場であるといえます。
この2つの制度は対立するものではなく、相互に補完し合う関係です。
メンター制度とエルダー制度の違い
エルダー制度は、新入社員に対して年齢の近い先輩社員(エルダー)が、業務指導や職場生活の世話をする制度です。
OJT制度の一種と捉えられることが多く、基本的には「同じ部署の先輩」が担当します。
メンター制度との最大の違いは、「業務指導を含むかどうか」と「担当者の所属」です。
エルダー制度は実務のサポートも含みますが、メンター制度は評価や利害関係を排除するため、原則として他部署の先輩が担当し、直接的な業務指導は行いません。
メンター制度とコーチングの違い
コーチングは、対話によって相手の中から答えを引き出し、業務における目標達成を支援する手法の一つです。
1対1で向き合うという点はメンター制度と共通していますが、「支援や指導の内容」が異なります。
コーチングは、業務における目標達成やパフォーマンス向上を支援することが中心です。
一方、メンター制度は「仕事への向き合い方」や「キャリア・生活面を含めた包括的なサポート」を目的としています。
メンターは、メンティとの対話の中でコーチングの手法を使うこともありますが、それだけでなく、自身の経験に基づいた助言を行ったり、単に話を聞いて共感したりというように、状況に応じて多様な関わり方をします。
メンター制度を導入した際の企業側のメリット
メンター制度は、メンティだけでなく、企業全体やメンターにも多くのメリットをもたらします。
組織の活性化や人材定着にどのような効果があるのか、具体的に見ていきましょう。
社内のコミュニケーション活発化に役立つ
メンター制度では、普段の業務では関わりのない他部署の社員同士がペアを組みます。
これにより、部署の壁を超えた「斜めの関係」が構築され、組織内のコミュニケーションが活性化します。
部門を超えた人脈ができることで、社内の情報共有がスムーズになったり、縦割り組織の弊害が解消されたりする効果が期待できます。
また、メンティにとっては、自部署以外の視点を知ることで視野が広がり、会社全体への理解が深まるきっかけにもなるでしょう。
メンターを務める従業員の指導力向上に期待できる
メンター制度は、メンター自身の成長機会としても非常に有効です。
後輩の話を聞き、適切な助言を行い、相手の自律的な成長を促すプロセスは、将来管理職になった際に求められるマネジメントそのものです。
「教えることは学ぶこと」と言われるように、自身の経験を言語化して伝えることで、業務への理解がさらに深まります。
メンター経験者が次世代のリーダーとして成長していくことは、企業にとって大きな資産となるはずです。
離職率低下につながる
新入社員や若手社員の離職理由の多くは、「職場の人間関係」や「仕事の悩み」に起因します。
メンター制度により、直属の上司には言いにくい悩みを相談できる相手がいることは、若手社員にとって大きな精神的支えとなるでしょう。
その結果、孤独感を解消し、心理的安全性を確保することで、メンタルヘルス不調による休職や早期離職を防止できます。
「会社に自分のことを気にかけてくれる人がいる」という安心感は、エンゲージメントの向上に直結します。
管理職の負担を軽減できる
プレイングマネージャーが多い現代の職場では、管理職が部下全員のメンタルケアまで細やかに行うことは物理的に困難です。
メンター制度を導入することで、若手社員の精神的なフォローやキャリア相談の一部をメンターが分担できます。
これにより、管理職は本来の業務である「部門の目標達成」や「実務指導」に集中しやすくなります。
組織全体で若手を育てる体制を作ることで、現場の負担分散が可能となるのです。
メンター制度を導入した際の企業側のデメリット
多くのメリットがある一方で、メンター制度の導入にはコストやリスクも伴います。
デメリットを正しく理解し、対策を講じておかないと、制度が形骸化してしまう恐れがあります。
メンター制度の整備に人的コストや時間的コストがかかる
メンター制度を成功させるためには、事前の準備と運用に多大なリソースが必要です。
- メンターとメンティの選定とマッチング
- 制度のルール作り
- メンター向け研修の実施
- 事務局による定期的なモニタリング
こういった人事担当者の工数は決して少なくありません。
また、メンターとメンティが面談を行う時間は業務時間に含まれるため、その分だけ現場の稼働時間が減ることになります。
これらの人的コスト・時間的コストに見合う効果が出せるよう、戦略的な運用が求められます。
メンターとメンティの相性が悪いと逆効果になる
メンター制度が成功するかどうかは、ペアの相性に大きく左右されます。
性格や価値観が合わないメンターと組まされたメンティは、相談すること自体がストレスになりかねません。
信頼関係が築けないまま形式的に面談を続けても効果がないばかりか、「会社は現場の状況をわかっていない」という不満につながり、かえってモチベーションを低下させるリスクがあります。
相性が悪い場合の変更ルールなどを事前に定めておくことを忘れないでください。
メンターを務める従業員の負担が増える
メンターに選ばれる社員は、通常業務でも優秀で多忙なケースが多いです。
自身の担当業務がありながら、さらに後輩のケアまで行うことは、物理的にも精神的にも大きな負担となります。
メンターの活動が人事評価に反映されなかったり、周囲のサポートがなかったりすると、「やり損」と感じてしまう可能性もあるでしょう。
メンターの業務量を調整したり、手当を支給したりするなど、会社としてメンターを支援する体制が不可欠です。
【要注意!】メンター制度の失敗例
「メンター制度はいらない」と言われてしまう企業の多くは、導入プロセスや運用方法に問題を抱えています。
ここでは、よくある失敗パターンを解説します。
メンター制度と他の育成制度の違いを理解しないままスタートする
たとえば、OJT制度とメンター制度の役割分担を明確にしないままメンター制度を導入すると、現場が混乱してしまう可能性があります。
「OJT担当がいるのに、なぜわざわざ他部署の先輩と面談しなければならないのか」という疑問を解消できていなければ、現場の協力は得られません。
メンターが良かれと思って業務上のアドバイスをした結果、直属の上司の指導方針と食い違い、メンティが板挟みになってしまうトラブルもよく見られます。
「メンターは業務指導をしない」という原則を徹底する必要があります。
メンターの役割が定まっていない
「とりあえず先輩と後輩で話をしてほしい」といった曖昧な指示だけでスタートすると、面談が「単なる雑談」や「愚痴の言い合い」で終わってしまうかもしれません。
また、メンター自身が何をすべきかわからず、自分の成功体験を押し付けるだけの説教になってしまうこともあります。
メンターに対して事前研修を行い、「傾聴のスキル」や「役割の範囲」をしっかりと教育することが重要です。
相性の悪いメンターとメンティを放置する
慎重にマッチングを行っても、実際にメンタリングを始めてみると「相性が悪かった」ということは起こり得ます。
失敗する企業は、ペアの変更や解消の仕組みがなく、不適切な関係を放置してしまうことが多いです。
事務局(人事)が定期的にアンケートやヒアリングを行い、関係性がうまくいっていないペアを早期に発見し、ペア変更などの介入を積極的に行うようにしてください。
メンター制度導入による成功事例
メンター制度を導入したことによって、離職率を下げたりエンゲージメントの向上につながったりといった成功事例は多数存在します。
ここでは、3つの成功事例について紹介していきますので、自社にメンター制度を導入する際の参考にしてください。
産業用電子機器メーカーの成功事例
兵庫県にある大手電子機器メーカーでは、「若手社員の育成」と「気軽に相談できるコミュニケーション風土の構築」を目的にメンター制度を導入しました。
同社では、若手社員と指導役の年齢差が開いたことによるコミュニケーション不足や、コロナ禍による横のつながりの希薄化が課題となっていました。
そこで、入社10年前後の社員をメンターとして任命し、利害関係のない先輩と本音で対話できる場を設けたのです。
単なる制度導入に留まらず、管理職への説明会やメンターへの研修を徹底したことで、「仕事の悩みを率直に話せて前向きになれた」といった若手社員の声が上がり、モチベーション低下やメンタル不調の防止に効果を上げています。
また、メンター役の社員にとっても、信頼関係を築くスキルを磨く貴重な機会となっています。
医薬品製造・販売業の成功事例
奈良県にある医薬品の製造・販売を行う企業では、高齢化による需要拡大に伴う業務量の増加と、それに伴う労働環境の変化から、新入社員の離職対策が急務となっていました。
そこで、新入社員の職場定着と、部署を超えたコミュニケーションの促進を目的にメンター制度を導入しました。
同社の取り組みの特徴は、メンターとなる入社10年前後の社員に対し、「メンター養成研修」だけでなく「フォロー研修」や「ステージアップ研修」といった手厚い教育プログラムを実施した点です。
単に制度を導入するだけでなく、メンターのスキル向上に注力したことで、新入社員全員の職場定着を実現しました。
さらに、職場全体で気軽に話し合える雰囲気が醸成され、社員の求心力向上にもつながっています。
輸送用機器製造業の成功事例
群馬県にある輸送用機器関連の製造企業では、新入社員のコミュニケーション能力向上と定着率の改善、そして良好な職場づくりを目的にメンター制度を導入しました。
この事例の最大の特徴は、一般的な「他部署」のメンターではなく、あえて「同じ部門内」の先輩社員(入社5~7年目)をメンターに選定した点です。
ただし、直接の評価者となる直属の上司や先輩ではなく、「同じ部門の違う課」の先輩とペアを組む仕組みにしました。
これにより、業務特有の悩みや背景事情をスムーズに理解してもらいつつ、利害関係のない相談相手としての立場を確保することに成功しています。
また、1対1のメンタリングに加え、数組のペアが合同で行う「グループ・メンタリング」を3ヶ月に1回実施している点もユニークです。
個別の信頼関係だけでなく、部署全体での縦・横のつながりを強化し、組織全体で新人を育てる風土づくりを実現しています。
メンター制度はいるのかいらないのか
「メンター制度はいらない」という意見が出る根本的な理由は、「目的の曖昧さ」と「費用対効果の低さ」にあります。
単に流行りだからと導入し、現場に丸投げしてしまうと、忙しい現場社員にとっては負担が増えるだけの「邪魔な制度」になります。
しかし、「離職防止」「コミュニケーションの活性化」などの目的を明確にし、メンターへの教育やインセンティブ、相性不一致時のフォロー体制などを適切に設計すれば、メンター制度は組織を強くする非常に有効な制度となります。
「いる・いらない」の二元論ではなく、「自社の課題解決のために、どのような形で運用するのが最適か」を検討することが重要です。
まとめ
メンター制度は、他部署の先輩社員との対話を通じて、若手社員のメンタルケアや自律的なキャリア形成を支援する仕組みです。
導入にはいくつものメリットがあるものの、運用方法を間違うとデメリットの方が多くなってしまうため、導入の際は、本記事を参考に適切な制度運用を心掛けてください。
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