【中小企業担当者必見】もう迷わない!社会保険の手続き完全マニュアル

中小企業の総務・人事担当者にとって、社会保険の手続きは複雑で時間がかかる業務の一つです。

従業員の入退社、結婚や出産、住所変更など、ライフイベントが発生するたびに「どの書類が必要?」「提出先はどこ?」「期限はいつまで?」と悩むことも多いのではないでしょうか。

とくにリソースが限られる中小企業では、社会保険手続きの漏れや遅れが、従業員の不利益や会社の信用問題につながる可能性もあります。

この記事では、中小企業向けに、社会保険手続きの基本から具体的なケース別の手続き方法、さらには手続きの効率化までを徹底解説します。

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社会保険手続きの基本

社会保険の種類、手続きをおこなう場所、期限、そして社労士に依頼せず自社でおこなう場合の注意点など、担当者が最初に知っておくべき基本をわかりやすく解説します。

参考)日本年金機構「事業主の方 社会保険事務担当の方」

そもそも社会保険とは?中小企業が加入すべき保険の種類

社会保険とは、病気、怪我、出産、死亡、老齢、障害、失業などに備える公的な保険制度です。法人事業所や常時5人以上の従業員を使用する個人事業所は、原則として加入が義務とされています。

社会保険は「健康保険」「介護保険(40歳以上)」「厚生年金保険」の3つを指し、これに「労働保険(労災保険・雇用保険)」を加えた総称として使われることもあります。中小企業もこれらの保険に適切に加入し、従業員の生活を守る義務があるのです。

社会保険手続きはどこでおこなう?

手続きは社会保険の種類によって窓口が異なります。

保険の種類主な手続き窓口
健康保険・厚生年金保険年金事務所(日本年金機構)
組合健保に加入している場合は健康保険組合
雇用保険公共職業安定所(ハローワーク)
労災保険労働基準監督署

どこに何を提出すべきか、混同しないよう整理しておくことが重要です。

手続きはいつまでに?何日かかる?

社会保険の手続きには厳格な期限が定められています。

届出の種類主な提出先期限(事実発生から)
採用時(資格取得)年金事務所(健保・厚年)5日以内
ハローワーク(雇用保険)翌月10日まで
退職時(資格喪失)年金事務所(健保・厚年)5日以内
ハローワーク(雇用保険)10日以内

期限を過ぎると、社会保険料の遡及徴収や、従業員が適切な給付を受けられないリスクが生じます。手続きにかかる日数は、窓口や電子申請によって異なりますが、早めの対応が鉄則です。

社会保険手続きは自分でできる?社労士以外がおこなう注意点

社会保険手続きは、社会保険労務士(社労士)の資格がなくても、自社の担当者がおこなうことは可能です。

ただし、社会保険手続きには専門知識が必要であり、法改正も頻繁にあるため、書類の不備や提出漏れ、期限遅れが、大きなリスクとなります。

とくに中小企業で担当者がほかの業務と兼任している場合、負担が大きくなりがちです。自社でおこなう場合は、社会保険最新情報のキャッチアップと厳格なスケジュール管理が不可欠です。

【ケース別】社会保険手続き:従業員の入社時

従業員を新たに雇い入れた際は、社会保険の加入手続き(資格取得)が必須です。ここでは、正社員の入社手続き、国民健康保険からの切り替え、そして間違いやすいパート・アルバイトの加入条件について、必要書類とともに解説します。

参考)日本年金機構「就職したとき(健康保険・厚生年金保険の資格取得)の手続き」

入社時の社会保険加入手続きと必要書類

従業員を採用したら、速やかに社会保険の加入手続きをおこないます。

  • 提出先:年金事務所、ハローワーク
  • 必要書類
    • 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
    • 雇用保険 被保険者資格取得届
  • 添付書類
    • 基礎年金番号通知書(または年金手帳)のコピー
    • 雇用契約書のコピーなど(マイナンバーの記載も必要)

国民健康保険から社会保険への切り替え手続きと従業員への案内

前職を退職して国民健康保険(国保)に加入していた従業員や、新卒で親の扶養から外れた従業員は、会社の社会保険加入後に自身で国保の脱退手続きが必要です。

会社は新しい健康保険証を交付したら、従業員に対して新しい保険証と国保の保険証を市区町村役場へ持参し、国保の喪失手続きをおこなうよう案内します。これを怠ると、従業員が保険料を二重払いしてしまう可能性があります。

パートの社会保険加入手続き:加入条件と必要書類

パートやアルバイトでも、以下の一定の条件を満たすと社会保険への加入が義務付けられます。

  • 週の所定労働時間および月の所定労働日数が、正社員の4分の3以上である
  • 上記に満たなくても、従業員数51人以上の企業で、特定の条件(週20時間以上、月額賃金8.8万円以上など)を満たす

該当する場合は、正社員と同様に「被保険者資格取得届」を提出します。

【ケース別】社会保険手続き:従業員の退職時

従業員が退職する際も、社会保険の資格を喪失する手続きが必要です。手続きを怠ると、会社が不要な保険料を負担し続けることになります。退職時の手続き、本人がおこなうべきこと、任意継続の制度について解説します。

参考)日本年金機構「従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き」

退職時の社会保険喪失手続きと必要書類

従業員が退職する場合、会社は社会保険資格喪失の手続きをおこないます。

  • 提出先:年金事務所、ハローワーク
  • 必要書類
    • 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届
    • 雇用保険 被保険者資格喪失届
  • 添付書類
    • 健康保険証(本人・扶養者分を回収)
    • 雇用保険の離職証明書(本人が希望する場合)

退職する本人の社会保険手続きは?

会社が喪失手続きをおこなった後、退職者本人は次の進路に応じて社会保険の手続きが必要です。

  • すぐに転職する場合:新しい勤務先で加入手続き
  • 国民健康保険に加入する場合:退職日の翌日から14日以内に、市区町村役場で加入手続き
  • 家族の扶養に入る場合:家族の勤務先を通じて扶養追加の手続き
  • 任意継続する場合:後述する手続き

会社はこれらの選択肢を退職者に案内する必要があります。

退職後の社会保険任意継続の手続き方法と条件

退職後も、一定の条件を満たせば、最長2年間、会社の健康保険を継続できる「任意継続被保険者制度」があります。

  • 条件:退職日までに継続して2か月以上の被保険者期間がある
  • 手続き:退職日の翌日から20日以内に、本人が居住地の協会けんぽ支部または健康保険組合に「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出
  • 注意点:保険料は全額自己負担(在職中の約2倍)

育休中に退職する場合の社会保険手続き

育児休業中(社会保険料免除期間中)に退職する場合も、通常の退職と同様に社会保険の「資格喪失届」の提出が必要です。育休の免除は退職日の前月までで終了します。

たとえば、10月15日に退職した場合、9月分までの保険料が免除され、10月分の保険料は同月得喪でない限り発生しません。

退職日をいつにするかによって社会保険料の扱いが変わるため、従業員と事前に確認しておくことが重要です。

参考記事:【中小企業向け】退職後の健康保険手続き完全ガイド|案内方法を網羅解説

【ケース別】社会保険手続き:家族が増えたとき・収入が増えたとき

従業員の結婚や出産、家族の就職・離職などにより、扶養家族の状況が変わった際も社会保険手続きが発生します。扶養に入れる追加手続きと、扶養から外す削除手続きについて、必要書類やタイミングを解説します。

参考)日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」

従業員の家族を社会保険の扶養に入れる手続きと必要書類

従業員に結婚や出産などで扶養する家族が増えた場合、健康保険被扶養者(異動)届を年金事務所または健康保険組合に提出します。

主な必要書類

  • 被扶養者(異動)届
  • 扶養対象者のマイナンバー
  • 続柄を確認する書類(住民票など)
  • 収入を確認する書類(所得証明書、退職証明書など)

年間収入130万円未満などの認定基準を満たすか確認が必要です。

社会保険の扶養から外れる手続きが必要なケースとタイミング

社会保険の扶養に入っていた家族が、以下の状況になった場合は、扶養から抜ける手続きが必要です。

  • 主なケース
    • 就職して自身の勤務先で社会保険に加入した
    • パート収入が基準額(130万円など)を超えた
    • 死亡した
    • 離婚した
  • 手続き
    • 「健康保険 被扶養者(異動)届」を提出
    • 健康保険証もあわせて返却
  • タイミング:事実発生後原則5日以内

手続きが遅れると、扶養から外れた期間の医療費を返還請求される場合があるため、従業員に速やかな申告を徹底させる必要があります。

参考記事:103万円の壁が廃止されるとどうなる?社会保険等の観点から中小企業が備えるべきこと

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【ケース別】社会保険手続き:その他のライフイベント

入退社や扶養変更以外にも、社会保険手続きが必要となる場面があります。ここでは、見落としがちな住所変更や氏名変更、そして定年退職と再雇用が重なる場合の特殊な手続きについて解説します。

参考)日本年金機構「被保険者・被扶養者関係(その他)」

従業員の氏名・住所変更手続き

  • 結婚・離婚などによる氏名変更
    • 「被保険者氏名変更届」を年金事務所に提出
    • 健康保険証の差し替え
    • 「雇用保険被保険者氏名変更届」をハローワークに提出

ただし、マイナンバーと基礎年金番号が連携していれば、年金事務所への届出は原則不要になるなど、簡素化が進んでいるため、要確認

  • 住所変更
    • マイナンバーと基礎年金番号が連携している場合、原則として届出は不要

ただし、連携していない場合や健康保険組合の場合は、別途「被保険者住所変更届」が必要な場合あり

定年退職後の再雇用における社会保険手続き

従業員が定年退職し、嘱託などで1日も空けずに再雇用される場合、社会保険の「同日得喪」という手続きをおこないます。これは、一度「資格喪失届」を提出し、同時に「資格取得届」を提出する手続きです。

これにより、再雇用後の給与額に基づいた新しい標準報酬月額が再設定されます。

60歳以上の高齢者を再雇用する場合は、「高年齢雇用継続給付」の対象となるかどうかも確認が必要です。

【ケース別】社会保険手続き:会社の状況変化

従業員の変動だけでなく、会社自体の状況が変わった際も社会保険手続きが必要です。個人事業主から法人成りした場合の新規加入手続きや、事業所を廃止する際の脱退手続きなど、経営の節目で必要な手続きを解説します。

参考)日本年金機構「事業所が健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするとき」

個人事業主から法人化する際や会社設立時の社会保険手続き

個人事業主から法人化(法人成り)した場合、または新たに会社を設立した場合、社長1人の会社であっても社会保険の加入は義務となります。

手続き

  • 「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を、設立から5日以内に年金事務所に提出
  • 社長や従業員の「被保険者資格取得届」を提出
  • 「保険関係成立届」などを労働基準監督署・ハローワークに提出

事業所の廃止などに伴う社会保険脱退手続き

会社を解散したり、事業所を廃止したりする場合、社会保険の適用事業所ではなくなるため、社会保険脱退の手続きが必要です。

手続き

  • 「健康保険・厚生年金保険 適用事業所全喪届」を、事業廃止から5日以内に年金事務所に提出
  • 全従業員の「資格喪失届」を提出
  • 「保険関係消滅」の手続きを労働基準監督署・ハローワークでおこなう

中小企業こそ知っておきたい!社会保険手続きの効率化

複雑で多岐にわたる社会保険手続きは、リソースが限られる中小企業こそ、効率化することが重要です。ここでは、オンラインで手続きを完結できる電子申請のメリットと、専門家へのアウトソーシングという選択肢を紹介します。

参考)日本年金機構「電子申請・電子媒体申請(事業主・社会保険事務担当の方)」

社会保険手続き電子申請(オンライン化)のメリット

従来は紙の書類を窓口に持参・郵送していましたが、現在は「e-Gov(イーガブ)」などのシステムを利用した社会保険の電子申請が主流です。以下が電子申請のメリットです。

  • 時間と場所を選ばない
  • コスト削減
  • スピードアップ
  • 履歴管理

中小企業こそ、社会保険手続きの電子申請を活用し、担当者の業務負担を軽減すべきです。

社会保険手続きをアウトソーシングして、コア業務の時間を確保

社会保険の手続きに自信がない、法改正のキャッチアップが難しい、担当者の負担が大きすぎる、という場合は、社会保険労務士に手続きを外部委託するのも賢明な選択です。

専門家に任せることで、手続きの漏れやミスがなくなり、行政調査などへの対応も安心です。担当者は面倒な手続きから解放され、採用や教育、制度設計といったコア業務に集中できるようになります。

まとめ

中小企業の担当者にとって、社会保険手続きは従業員の生活を守る重要な業務ですが、その内容は多岐にわたり、期限も厳格です。入社・退職といった基本的な手続きから、扶養の変更、定年再雇用、法人成りまで、ミスなく対応するには正確な知識が求められます。

社会保険手続きの漏れや遅れは、従業員の不利益や会社の信頼失墜につながりかねません。日頃から各種手続きの流れや必要書類を整理しておくとともに、法改正の情報にもアンテナを張っておくことが重要です。

また、リソースが限られる中小企業だからこそ、社会保険手続きに電子申請や、専門家である社労士へのアウトソーシングを積極的に検討し、業務を効率化する必要があります。

【チェックリスト付き】労務・定着・エンゲージメントの 3本柱でつくる 人が辞めない組織

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