中小企業の人事制度改革を成功させる!基本設計、見直しポイント、コンサルの選び方
多くの中小企業が「人材の確保・定着・育成」という共通の課題に直面しています。
優秀な人材が集まらず、せっかく育てた社員が辞めてしまう背景には、評価やキャリアパスの不明確さ、つまり「人事制度」の不備があるかもしれません。
中小企業にとって、人事制度は単なる給与決定のルールではなく、経営者の理念を浸透させ、社員の成長を促し、組織力を最大化するための重要な経営インフラです。
この記事では、中小企業が今こそ取り組むべき人事制度の基本設計から、既存制度の見直しポイント、さらには外部コンサルティングの賢い選び方まで、人事制度改革を成功に導くための実践的なノウハウを徹底解説します。
人事制度の改革は、社員が安心して長く働ける組織の土台づくりから始まります。まずは、自社の「人が辞めない組織」づくりに必要な要素が揃っているか、チェックしてみませんか?
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目次
中小企業こそ人事制度が重要!
実は、リソースが限られる中小企業こそ、社員一人ひとりの力を最大限に引き出すための明確な人事制度が不可欠です。人事制度の基本的な役割と、中小企業に必要な理由を解説します。
参考)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「日本企業における人事制度改革の 30 年史」
そもそも人事制度とは?
人事制度とは、企業が従業員を処遇するための基本的な仕組みであり、企業の「人」に関する考え方や方針を具現化したものです。一般的に、人事制度は「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の3つの柱で構成されています。
| 人事制度の柱 | 内容 |
| 等級制度 | 社員に求める能力や役割に応じた序列・区分を定める |
| 評価制度 | 等級ごとに定められた基準に基づき、社員の業績や能力、行動を一定期間ごとに評価 |
| 報酬制度 | 等級や評価結果に基づいて、給与や賞与、昇進・昇格といった処遇を決定 |
これら3つの人事制度が互いに連動し、公平性・透明性を持って運用されることで、社員の納得感を高め、成長を促す機能が発揮されます。
なぜ中小企業にこそ人事制度の設計や改革が必要なのか?
中小企業では、経営者や特定社員の個人的な判断で評価や処遇が決定されがちです。しかし、こうした属人的な運用は、社員の不公平感やモチベーション低下を招き、離職の大きな原因となります。
明確な人事制度を設計・導入するメリット
- 社員は何を頑張れば評価されるのかを理解し、主体的に成長しようと努める
- 社員の納得感が高まり、エンゲージメントや定着率の向上が期待できる
- 人材育成の仕組みやキャリアパスを明確にし、採用活動においても成長できる環境としてアピールできる強力な武器となる
中小企業が持続的に成長するためにこそ、人事制度の整備が急務なのです。
既存の人事制度が機能しない?見直しと改定の成功ポイント
過去に導入した人事制度が、現在の経営環境や組織の実態と乖離するなど、制度が形骸化・陳腐化すると、社員のモチベーションを奪う原因にもなります。
ここでは、人事制度の見直しが必要なサインと、中小企業が陥りがちな失敗例から、改定成功のポイントを探ります。
人事制度の見直しが必要なサインとは?
以下のような現象が見られる場合、既存の人事制度が機能不全に陥っている可能性があり、早急な見直しが求められます。
- 社員から評価や処遇への不満が多い
「頑張っても評価されない」「評価基準が曖昧」といった声が代表例です。 - 中核となる社員の離職が続く
キャリアアップへの不安や、評価への不満が原因であると考えられます。 - 経営戦略と社員の行動が一致しない
人事制度が経営目標の達成に向けた行動を促せていない証拠です。 - 導入時から長期間、制度が変わっていない
市場や事業内容が変化しているにもかかわらず、古い人事制度を使い続けていると実態と乖離します。 - 評価が「平均点」に集中する
評価者が適切な評価をできていない、あるいは評価制度そのものが機能していないと言えます。
これらは、人事制度が組織成長の足かせとなっているサインです。
中小企業が陥りがちな評価制度の失敗例
人事制度の中核である「評価制度」において、中小企業が陥りやすい失敗パターンは以下になります。
- 評価基準の曖昧さ・不透明さ
経営者や上司の主観・感覚に頼った評価は、社員の不信感を招きます。 - 評価と報酬・育成が連動していない
評価結果が昇給や賞与にほとんど反映されない、あるいは評価後のフィードバックや育成プランがないなど、評価のみで終わってしまう状態では、人事制度の意味がありません。 - 運用リソース不足で形骸化
大企業向けの複雑な人事制度をそのまま導入し、形骸化するのも典型的な失敗です。
中小企業では、管理職など評価者の負担を考慮した、シンプルで運用しやすい評価制度の設計が不可欠です。これらの失敗を避けることが、人事制度改革の第一歩となります。
知っておきたい人事制度の最新トレンド
働き方の多様化や価値観の変化にともない、人事制度のあり方も進化しています。従来の年功序列型とは異なる、最新の人事評価トレンドを紹介します。
- OKR(Objectives and Key Results)
企業の高い目標(O)と、それを達成するための主要な成果(KR)を連動させ、高頻度で進捗を確認する手法です。変化の速い中小企業のスピード感にもマッチします。 - ノーレイティング
期末に一度だけ評価を下すのではなく、リアルタイムでのフィードバックを重視します。これは、ランク付けを廃止し、1on1ミーティングなどを通じて継続的な対話と育成を促す人事制度です。 - ピアボーナス
社員同士が感謝や成果を称賛し合い、ポイントなどを送り合う評価制度です。中小企業のコミュニケーション活性化やチームワーク向上に寄与する人事制度として導入が進んでいます。
他社はどうしてる?ユニークな人事制度の事例紹介
独自の人事制度を設計する際、他社の取り組みも参考になります。以下では、人事制度の改革に取り組んだ事例をご紹介します。
評価の不満をなくす人事制度設計と運用の工夫
鋼構造物施工を手掛ける株式会社ヨネモリは、人事制度の課題に対し、以下のような取り組みで成果を上げています。
- 課題
- 会社が求める人材の明確化
- 時代に合わせた人材育成・動機づけ
- 取り組み
- 職能資格制度を軸に「能力・成績・情意」の3つの考課制度を自社で設計
- 協調性を重視するなど、家族的な社風を人事考課マニュアルで見える化
- 評価者研修や取締役会での評価調整でブレをなくし、丁寧なフィードバック面談で動機づけを徹底
- 成果
- 制度導入から20年間改善を重ね、現場の不満や抵抗なく運用
- 社員の納得感を醸成し、能力開発と業績向上
人が育つことを目指した人事制度設計と面談活用
青果卸売業の有限会社岡田商店は、八百屋の原点という理念のもと、人事制度の改革に取り組みました。
- 課題
- 創造工夫のできる社会に役立つ人財の育成
- 取り組み
- 人を育てる人事戦略の成文化と、望ましい社員像や会社が期待する能力を明確化
- 絶対評価に基づき、責任感が強いとされる具体的な測定項目を人事考課制度に取り入れる
- 人事考課の主旨や実施方法を解説する運用の手引きを作成し、制度を浸透
- 年3回の管理者との面談を導入し、目標把握と適切なアドバイスを通じて、教育面からの支援体制を整備し、制度の見直しにも活用
- 成果
- 公正公平な評価と風通しの良い相談体制を実現
中小企業向け人事制度設計の具体的な作り方 5ステップ
自社で人事制度を設計・構築する際の具体的なプロセスを5つのステップで解説します。中小企業が自社の実情に合った人事制度をゼロから作る、あるいは根本から見直すためのロードマップです。
参考)福岡市・北九州市雇用労働相談センター「中小・成長企業のためのシンプルかつミニマムマストの人事制度」
ステップ1:現状の課題整理と改革の目的を明確に
現行の人事制度の何が問題なのか、社員が何に不満を感じているのかを把握します。経営者へのヒアリングだけでなく、社員アンケートやインタビューも有効です。
その上で、人事制度を改革する目的を明確にします。
目的例:
- 経営理念の浸透
- 若手の定着率向上
- 次世代リーダーの育成
人事制度を通じて達成したいゴールを経営陣とすり合わせることが、改革のぶれない軸となります。
ステップ2:【等級制度】の作り方
人事制度の骨格となる等級制度を設計し、社員に求める役割や能力、職務の難易度に応じて階層(等級)を定義します。
中小企業の場合、あまりに複雑な等級制度は運用が難しいため、「一般層」「リーダー層」「管理職層」といったシンプルな区分から始めるのも一手です。
各等級に期待する役割定義を明確にすることが、後の評価制度や報酬制度の設計につながる重要なステップです。
ステップ3:【評価制度】の設計
等級制度で定めた基準に基づき、「何を」「どうやって」評価するかを具体的に決めます。
以下の3つの側面から評価項目を設定するのが一般的です。
- 業績評価(成果)
- 能力評価(スキル)
- 情意評価(スタンス)
中小企業では、経営理念や行動指針(バリュー)を体現できているかを情意評価に組み込むことが重要です。評価方法も、運用負荷を考慮して設計します。
ステップ4:【報酬制度】の設計
評価結果をどのように処遇に反映させるか、報酬制度を設計します。等級制度と連動した給与テーブルや昇給ルール、賞与の算定方法などを決定します。重要なのは、評価制度の結果が適切に報酬制度に連動していることです。
頑張った人が報われるメリハリのある仕組みでありながら、人件費の総額をコントロールできる設計が求められます。人事制度に対する納得感が、報酬への反映度合いに大きく左右されるのです。
ステップ5:導入と運用、定期的な見直しの計画
人事制度は作っただけで終わりではありません。導入時には、社員説明会を丁寧に実施し、制度の目的や変更点を周知徹底します。評価者となる管理職への研修は、新制度の成否を分ける鍵となるのです。
導入後も、運用状況をモニタリングし、不具合や実態とのズレが生じていないかを確認します。経営環境や組織の変化に合わせて、人事制度を定期的に見直し、改善し続ける仕組みをあらかじめ計画しておくことが重要です。
参考記事:人事評価制度の作り方!不満を解消し「やる気」を引き出す評価シートと書き方
人事制度設計はコンサルティングに頼むべき?中小企業の判断基準
人事制度の設計・改革には専門的な知識と多くの工数がかかります。中小企業が判断するための基準と、コンサルに依頼する場合のメリット・デメリット、そして失敗しない選び方を解説します。
参考)中小企業庁「 2022年版 中小企業白書(HTML版)」
人事制度設計コンサルに依頼するメリット・デメリット
人事制度設計コンサルに依頼すべきなのか、判断基準となるメリットとデメリットを表にまとめました。
| メリット | デメリット |
| 専門知識とノウハウの活用 法的な知見や最新トレンドに基づいた人事制度が設計できる | 高額なコスト 特に中小企業にとっては大きな投資となる |
| 客観的な視点の導入 社内のしがらみにとらわれない、公平で客観的な制度設計が期待できる | 自社の実情とのミスマッチ テンプレート的な制度を提案され、実態に合わない可能性がある |
| 時間・労力の削減 複雑な制度設計や分析を委託でき、本業に集中できる | 社内にノウハウが蓄積しにくい コンサルに任せきりになると、運用や将来の見直しが難しくなる |
| スムーズな導入支援 社員説明会や評価者研修など、導入時の抵抗を減らすサポートが受けられる | コンサルへの依存 制度運用後もコンサルなしでは回らなくなるリスクがある |
コンサルに依頼する際のコストが心配という中小企業が多いものの、人事制度をしっかり設計できれば、結果的に人材が定着するため、一概にデメリットとは言えないでしょう。
中小企業に強い人事制度設計コンサルの選び方
人事制度コンサルティング会社を選ぶ際、中小企業はとくに注意すべきポイントがいくつかあります。
- 中小企業の支援実績が豊富かどうか
大企業向けの人事制度を規模だけ縮小して提案するコンサルではなく、中小企業特有の課題を深く理解している必要があります。 - 運用・定着までのサポート体制
人事制度は設計して終わりではなく、導入後の運用こそが重要です。社員説明会や評価者研修はもちろん、導入後のモニタリングや微修正まで、伴走支援してくれるコンサルを選びましょう。 - 自社の理念や文化への共感
人事制度は経営の根幹です。自社の目指す姿や大切にする価値観に共感し、それを制度に落とし込むための「対話」を重視してくれるパートナーかを見極めることが、人事制度改革の成功に不可欠です。
助成金・支援制度の活用でコンサル費用を抑える方法
人事制度設計をコンサルに依頼する際、コストが課題になりがちです。しかし、国や自治体は中小企業の制度整備を支援する助成金を用意している場合があります。
厚生労働省の「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)」は、生産性向上を目指す人事評価制度や賃金制度の整備・実施を支援するものです。
たとえば人材育成に関する訓練内容に、「定期的なキャリアコンサルティングの機会を確保する」ことが含まれている場合などは、人事評価制度や賃金制度の整備とあわせて、これらの助成金を活用できるケースがあります。
参考)厚生労働省「従業員の人材育成に『人材開発支援助成金』が活用できます」
※助成金は年度ごとに内容が異なることがあるため、詳細は厚生労働省のサイトで事前確認が必要です。
まとめ
中小企業にとって、人事制度は単なる給与計算のルールではなく、企業の成長を支える経営戦略そのものです。明確で公平な人事制度は、社員のモチベーションと能力を引き出し、人材の定着と育成を促進します。
既存の制度が機能していないと感じるなら、それは改革のチャンスです。まずは自社の課題を明確にし、経営理念に立ち返って「どのような社員に育ってほしいか」を定義することから始めます。
人事制度の設計は、現状分析から等級・評価・報酬の各制度構築、そして導入・運用と、時間と労力がかかるプロジェクトです。
自社で取り組む場合も、コンサルの力を借りる場合も、重要なのは「自社の実態に合った、運用し続けられる人事制度」を目指すことです。
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