中小企業向け年末調整の電子化のやり方解説!義務化はいつから?従業員への対応など

年末調整は、中小企業の経理や人事担当者にとって、毎年恒例の大きな負担です。大量の申告書を配布・回収し、内容を一件一件チェックし、控除額を計算し、税務署や自治体に提出しなければなりません。

この煩雑な作業により、紙ベースであるがゆえに発生しているミスや工数を増やしていると考えられるのではないでしょうか。

近年、この年末調整業務を劇的に効率化する電子化が急速に進んでいます。国税庁もマイナポータルとの連携などを推進しており、大企業だけでなく、人手の限られる中小企業こそ、電子化によるメリットを享受すべき時代です。

この記事では、中小企業が年末調整を電子化する具体的なやり方、メリット・デメリット、そして従業員への対応のコツまで、わかりやすく解説します。

【中小企業向け】年末調整の電子化、紙との違いは?

年末調整の電子化とは、従来紙だった控除申告書のやり取りや、控除証明書の提出・確認を、ソフトウェアやクラウドシステム上でおこなうことです。従業員はスマートフォンやPCから情報を入力し、担当者はそのデータをシステムで一元管理できます。

参考)国税庁「年末調整手続の電子化の概要・メリット」

年末調整の電子化とは?紙との違いを解説

年末調整の電子化とは、申告書のやり取りを紙からデータへ移行することです。国税庁の年調ソフトや民間のクラウドサービスを利用し、従業員はPCやスマートフォンで申告書データを入力・提出します。

比較項目紙(アナログ)電子化(デジタル)
申告書の配布・回収担当者が印刷・配布・手渡しで回収システム上で通知
従業員が入力
オンライン提出
控除証明書ハガキなどの原本を糊付け・添付電子データ(XML)で受領
またはマイナポータル連携による受領
内容チェック担当者が目視で全件確認システムによる自動チェック
計算・転記電卓やExcelで手計算
給与ソフトへ手入力
システムが自動計算
データ連携(CSVなど)
保管・管理7年間の物理的な書類保管スペースが必要電子データで保管

年末調整を電子化すると、控除証明書もマイナポータル連携などで電子データ(XML)として扱えるため、原本の添付や確認作業が不要になります。

年末調整担当者はデータをシステムで自動集計し、給与計算ソフトと連携できるため、転記ミスや計算ミスを根本から防げるのです。

参考)国税庁「年末調整手続の電子化に向けた取組について」

中小企業こそ年末調整を電子化すべき3つのメリット

人的リソースが限られる中小企業こそ、年末調整を電子化する恩恵は絶大です。

  • 圧倒的な業務効率化
    申告書の配布・回収・催促・チェック・転記といった手作業が自動化され、担当者の負担が激減します。

  • ミスの撲滅と品質向上
    システムの自動計算や入力チェック機能により、従業員の記入ミスや担当者の転記ミスがゼロになります。税務署からの指摘リスクも回避できます。

  • ペーパーレス化によるコスト削減
    紙の印刷代、郵送費、そして7年間の書類保管スペースが不要になり、電子データ保存により、検索性も向上します。

年末調整を電子化する前に押さえたい「個人情報保護」と「電帳法」

中小企業が業務効率化のためにペーパーレス化や電子化を進める際、利便性だけでなく「セキュリティ」と「法令対応」が不可欠です。

電子化で求められる個人情報保護とマイナンバー管理

中小企業であっても「個人情報保護法」に基づき、データの暗号化、アクセス権限の厳格な設定、操作ログの監視、担当者へのセキュリティ教育といった安全管理措置を講じる義務があります。

万が一電子化により、個人情報やマイナンバーが漏洩した場合、企業の社会的信用は失墜し、重い法的責任を問われることになるのです。

参考)e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」

電子帳簿保存法・e-Tax対応の注意点

請求書や領収書、契約書などの国税関係帳簿書類の電子化は、「電子帳簿保存法(電帳法)」のルールに従う必要があります。

とくにメールやWebサイト経由で受け取ったPDFの請求書などは、紙に印刷して保存するのではなく、電子データのまま所定の要件を満たして保存することが義務化されているため注意が必要です。

参考)経済産業省「どうすればいいの?「電子帳簿保存法」

年末調整の電子化はいつから義務化される?

「年末調整の電子化」と一言で言っても、実は2つの側面があります。

  • 従業員とのやり取りで生じる申告書の配布・回収の電子化
  • 税務署への提出(法定調書)の電子化

まず、年末調整で生じる従業員とのやり取りの電子化は、2025年11月現在、義務化されていません。これは大企業・中小企業問わず、あくまで「推奨」の段階です。

しかし、税務署への提出については、すでに一部の企業で義務化されています。

法定調書のe-Tax等による提出義務化の概要について

出典)国税庁「法定調書のe-Tax等による提出義務化の概要について」

国税庁のページにあるとおり、2014年の税制改正により、基準年に提出すべき法定調書が100枚以上であった場合、その法定調書の提出はe-Taxまたは光ディスクなどによる電子申告が義務となっています。

年末調整の最終成果物である給与所得の源泉徴収票も、この「法定調書」に含まれます。

つまり、中小企業であっても、2年前に源泉徴収票を100枚以上発行していれば、税務署への提出はすでに電子化が必須です。

このように、国はまず年末調整の出口となる税務署への提出の電子化を義務化し、次に入口である従業員とのやり取りの電子化を推奨しているのです。

この流れから、今後、行政のデジタル化が一層進むことを踏まえると、中小企業も年末調整プロセス全体の電子化を見据えておくことが現実的です。

要注意!年末調整電子化のデメリットと対策

年末調整の電子化には、多くのメリットがある一方、中小企業が進める上での課題も存在します。しかし、これらは導入時の計画と運用ルールを整備することで十分対策可能です。ここで年末調整電子化の具体的な懸念点と対策を解説します。

初期導入コストとソフト選定の手間

年末調整を電子化するにあたり、対応したクラウド型システムを導入する場合、初期費用や月額または年額の利用料が発生します。

また、自社の給与計算ソフトとの連携可否、操作性、サポート体制などを比較検討し、数あるソフトから最適なものを選ぶ手間もかかります。

まずは無料トライアルを活用し、操作性を確認するのも一つの対策です。国税庁が無料提供する「年調ソフト」からスモールスタートする方法もあります。

従業員への教育・サポート体制の構築

従業員全員がITに習熟しているとは限りません。とくにPCやスマートフォン操作に不慣れな従業員が多い場合、年末調整の際に「どう入力すればいいかわからない」といった問い合わせが担当者に集中し、かえって業務負担が増えるかもしれないのです。

その場合、年末調整用のわかりやすい操作マニュアル配布、社内説明会の実施が不可欠です。また、電子化初年度は紙との併用も視野に入れ、徐々に慣れてもらう体制を整えます。

システムトラブルやセキュリティリスク

クラウドサービスを利用する場合、システム障害のリスクがあります。また、年末調整データはマイナンバーを含む重要な個人情報ですから、不正アクセスや情報漏洩が発生すれば、企業の信頼問題に直結します。

これらを防ぐため、年末調整を電子化する際は、バックアップをしっかり確保し、セキュリティ体制が強固な信頼できるベンダーを選定することが重要です。

これらの電子化対応は、とくに初年度は「紙より楽になる」はずが、以下のようにかえって負担が増えたように感じるケースもあります。

  • 従業員からの問い合わせ
  • 社内説明
  • マニュアル整備

そのため、2〜3年スパンで「慣れる期間」を見込んで導入することが大切です。

年末調整の電子化最大の懸念?従業員への対応

中小企業において、年末調整の電子化が失敗する最大の要因は従業員の非協力です。ITアレルギーや面倒だという反発は必ず起こります。

年末調整で担当者の負担を減らし、会社全体で効率化を進めるためにも、従業員への丁寧な説明と、拒否された場合の対応策を準備しておくことが重要です。

従業員が年末調整の電子化に協力的になる説明のコツ

従業員に会社(担当者)が楽をしたいだけと受け取られると協力を得られません。年末調整を電子化すると、従業員自身にも以下のようなメリットがあると強調することが重要です。

  • 従業員のメリット
    • スマートフォンで簡単に入力が終わり、保険料の面倒な計算も不要になる
    • 控除証明書のハガキを失くす心配がなくなる
    • 還付金がより早く正確に受け取れる
    • 紙の記入ミスで書き直しになりにくい(赤入れで戻ってくるストレスが減る)

もし従業員が年末調整の電子化を拒否した場合の対処法

PCやスマートフォンを持たない、または操作に不慣れな従業員がいる場合、年末調整の電子化を強制できません。

その場合、年末調整の原則は電子化としつつ、希望者には、従来どおり紙での提出も認めるハイブリッド運用を検討します。ただし、紙の場合は提出期限を早めに設定する、あるいは入力補助のための相談窓口を設けるなど、電子化を促す工夫もあわせておこなうと安心です。

年末調整の電子化で控除証明書はどうなる?

年末調整電子化の大きな利点は、控除証明書の扱いです。従来、紙で集めていた生命保険料や地震保険料の控除証明書、住宅ローン控除申告書などをデータで扱えます。

主な方法は2つです。

  • マイナポータル連携
    従業員がマイナポータル経由で各種証明書データを一括取得し、年末調整ソフトに入力または取り込んで自動連携する

  • 電子データ(XML)
    保険会社などのサイトからダウンロードした電子データ(XML形式)を、ソフトにアップロードする

これにより、原本の添付漏れや、ハガキを見ながらの金額の転記ミスがなくなります。

参考)国税庁「控除証明書等の電子的交付について」

年末調整電子化のやり方徹底ガイド

年末調整の電子化は、思いつきで導入すると現場が混乱します。とくに中小企業では、担当者が主導し、経営層の理解を得ながら計画的に進めることが成功の鍵です。導入決定から従業員への周知まで、具体的なステップを解説します。

年末調整電子化の方針決定と体制準備

  1. なぜ年末調整を電子化するのかという目的を明確にし、経営層の承認を得る
  2. 誰がプロジェクトの責任者となるか、従業員からの問い合わせ窓口をどうするかを決定
  3. マイナポータル連携までするのか、紙の運用も一部残すかなど、自社がどこまで電子化するかの範囲を決める
  4. 導入スケジュールを策定

年末調整電子化対応ソフトの選定・導入

方針が決まったら、年末調整に対応したソフトを選びます。

  • 選定ポイント
    • 現在使用中の給与計算ソフトとデータ連携できるか
    • 導入・運用コストは予算内か
    • 操作性はわかりやすいか
    • サポート体制は充実しているか

国税庁の「年調ソフト(無料)」の利用も選択肢ですが、サポート面を重視するなら民間のクラウドサービスが安心です。

従業員への周知と説明

年末調整対応システムの導入と並行し、電子化に向けて以下の内容を従業員へ周知します。

  • いつから変更になるか
  • 従業員のメリットを含む、変更の理由
  • 具体的な操作方法

とくにマイナポータル連携を利用する場合は、従業員自身がマイナンバーカードの準備や、マイナポータルでの事前設定が必要になるため、早めのアナウンスと丁寧なマニュアル提供が必須です。

毎年の見直しも重要!運用チェックリスト

年末調整の電子化は、一度導入したら終わりではありません。税制改正や従業員の入退社、システムのアップデートに対応するため、毎年運用方法を見直し、最適化していくことが重要です。

カテゴリ確認項目チェック
体制・スケジュール今年の年末調整の担当者は明確になっているか?
データ回収から申告までの社内スケジュールを確定し、周知したか?
法令・システム今年の税制改正の内容を把握したか?
利用中の年末調整システムや給与計算ソフトは、最新の法令に対応済みか?
システムのログインID・パスワード、アクセス権限は適切に管理されているか?
対象者・データ今年の年末調整対象者のリストは最新か?
従業員が保険料控除証明書等をデータで取得・提出する手順を把握しているか?
周知・サポート従業員向けの操作マニュアルは、今年の仕様に合わせて更新済みか?
従業員からの問い合わせ窓口を設置・周知したか?
PCやスマホ操作が苦手な従業員へのサポート体制は決まっているか?
セキュリティ・保管昨年度の電子データは、法定保存期間に基づき適切に保管されているか?
今年回収するデータの保存場所とアクセスやセキュリティ権限は適切か?

参考記事:中小企業の年末調整マニュアル|書き方・必要書類から電子化まで、やり方を徹底解説

失敗しない!年末調整電子化ソフトの選び方

年末調整の電子化を成功させる鍵は、自社に合ったソフトウェアを選ぶことです。多機能なものからシンプルなものまで、さまざまな種類のソフトがあります。

しかし、大企業向けの年末調整対応ソフトを選んでしまうと、コストや機能が過剰になる場合もあります。ここでは、中小企業が本当に重視すべき選び方の軸を解説します。

無料ソフトと有料ソフトの比較

まずは無料で国税庁の「年調ソフト」を検討する企業も多いですが、機能やサポートには限りがあります。

一方、有料のクラウドサービスはコストがかかりますが、手厚いサポートや給与計算ソフトとの連携が魅力です。

それぞれのメリット・デメリットを整理し、自社のリソースと予算に合うほうを選ぶことが大切です。

給与計算ソフトとの連携機能は必須か?

年末調整ソフトで計算した結果を、最終的に給与計算ソフトに手入力していては、電子化の効果が半減します。

現在利用中の給与計算ソフトとCSVやAPI連携が可能かどうかは、最優先で確認すべき項目です。連携の可否が、担当者の工数を大きく左右するのです。

中小企業が見落としがちなサポート体制の重要性

情報システム部がない中小企業にとって、サポート体制は生命線です。とくに年末調整電子化の初年度は、設定方法や従業員からの問い合わせ対応で混乱が予想されます。

メール対応のみなのか、電話サポートがあるのか、さらには年末調整の繁忙期(11月〜1月)も手厚いサポートが受けられるかは、ソフトの機能以上に重要です。

セキュリティ要件と電子帳簿保存法への対応

年末調整データは、マイナンバーを含む最高レベルの個人情報です。ベンダーのセキュリティ体制は必ず確認しなければなりません。

また、年末調整電子化にともない、控除証明書データなどを電子保存する機会も増えます。電子帳簿保存法の要件に対応した機能があると、将来的な法改正や税務調査の際にも安心です。

まとめ

年末調整の電子化は、担当者の負担を劇的に軽減し、計算ミスを防ぎ、ペーパーレス化を実現します。これは、人的リソースが限られる中小企業にとってこそ大きなメリットです。

導入コストや従業員への教育といった課題はありますが、適切なソフトを選び、丁寧に説明を進めれば必ず乗り越えられます。

現時点で義務化はされていませんが、将来的な行政のデジタル化の流れは確実です。この機会に、煩雑な紙業務からの脱却に向けた第一歩として、年末調整電子化の検討をおすすめします。

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