採用ペルソナの作り方とは?中小企業のミスマッチを防ぐ設計シート・項目例

「せっかく採用したのに、すぐに辞めてしまった」「なかなか自社に合う人が見つからない」など、中小企業にとって、採用の悩みは尽きないものです。その原因は、採用ペルソナのミスマッチにあるかもしれません。

このミスマッチを防ぐために非常に有効な手法が採用ペルソナの設定です。採用ペルソナとは、自社が本当に求める人物像を具体的に描き出したものです。

曖昧な「良い人」ではなく、「自社で活躍できる、たった一人の人物像」を明確にすることで、採用活動の精度は格段に上がります。

この記事では、なぜ中小企業こそ採用ペルソナが必要なのか、具体的な作り方の5ステップから活用術まで、わかりやすく解説します。

採用ペルソナとは? 中小企業が設定すべき理由

「採用ペルソナ」とは、自社が採用したい理想の人物像を、まるで実在するかのように詳細に設定した、たった一人のモデルのことです。性格、価値観、休日の過ごし方、情報収集の方法まで具体的に描き出します。

採用ペルソナとは何か? ターゲットとの明確な違い

「ペルソナ」とよく似た言葉に「ターゲット」がありますが、これは20代・営業経験者など、ある程度の幅を持たせた集団(層)を指します。

項目採用ペルソナ採用ターゲット
定義理想的な「個人」理想的な「集団・層」
設定例・氏名
・年齢
・性格
・趣味
・年代
・経験
・性別
鈴木太郎(28歳)/営業職/趣味はキャンプ...20代後半/営業経験3年以上/男性
効果メッセージが鋭く響く広く浅く届く

採用活動において、ターゲット設定だけではどのような人に何を伝えるかが曖昧になりがちです。一方、ペルソナを設定すると、その一人に響くメッセージやアプローチ方法が明確になり、採用活動の精度が格段に向上します。

なぜ今、中小企業に採用ペルソナが必要なのか?

採用市場は人手不足が続き、大企業と同じ土俵で戦うのは困難です。とくに、採用にかけられる人手や予算、時間が限られている中小企業にとって、「誰でもいいから」という採用は、入社後のミスマッチや早期離職という最悪の結果を招きかねません。

採用ペルソナを設定する最大のメリットは、この「ミスマッチ」を徹底的に防げる点にあります。自社が本当に必要とし、かつ自社で活躍・定着してくれる人物像が明確になれば、採用活動のすべてに一貫した軸が生まれるからです。

また、どのような人を採用するかという目線が社内で統一されるため、面接官による評価のブレも防げます。限られたリソースを最大限に活かし、確実に自社に合う人と出会うために、今こそ中小企業に採用ペルソナが必要なのです。

参考記事:リファラル採用がもたらす中小企業へのメリット・デメリットを徹底紹介

採用ペルソナを誤ると起こるリスクと注意点

採用ペルソナは強力な武器ですが、作り方や使い方を誤ると大きなリスクをともないます。特定のイメージに固執しすぎたり、現実離れした設定をしたりすると、かえってミスマッチを助長するのです。

また、ペルソナの更新を怠れば、採用の機会損失にもつながります。ここでは、陥りがちな失敗例と注意点を解説します。

ペルソナの偏りによるミスマッチ採用

よくある失敗は、ペルソナへの理想の詰め込みです。

「営業もできて、マネジメントも得意で、新しい技術にも明るい」といった、実在する可能性の低い「スーパーマン」のようなペルソナを設定してしまうケースがあります。これでは、当然ながら応募者は現れません。

また、経営者や採用担当者の好みや思い込みだけでペルソナを作ってしまうのも危険と言えます。

特定の出身大学や前職の企業イメージだけで人物像を固めてしまうと、本来なら活躍できるはずの多様な人材を、無意識のうちに排除してしまうことになるからです。

ペルソナは、社内の誰か一人の理想ではなく、現場で活躍している社員のデータや、現場が本当に求めている声に基づいて、現実的な人物像として設定することが重要です。

SNS・広告表現でのコンプライアンスリスク

採用ペルソナを具体的に設定する際、年齢や性別、国籍、居住地などを細かく決めることがあります。これ自体は、人物像を明確にするために有効です。

しかし、そのペルソナをそのまま求人票や採用広告の募集要項に反映してしまうと、法的な問題を引き起こす可能性があります。

「20代の女性を募集」「体力に自信のある男性」といった表現は、性別や年齢による差別とみなされる恐れがあります。

ペルソナは、あくまで社内でターゲットを共有するためのものです。対外的な募集の際は、ペルソナが持つ思考性やスキル、価値観といった本質的な部分を抽出し、なぜその経験が必要なのかを差別的表現にならないよう注意して、求人票に落とし込む必要があります。

ペルソナ更新を怠ることで生じる機会損失

採用ペルソナは、一度作ったら終わりではありません。市場の状況や求職者の意識は日々変化していますし、自社の事業フェーズや求める人物像も変わっていきます。

数年前に「ガッツがあり、長時間労働もいとわない営業担当者」というペルソナを設定したとします。しかし、今の時代の市場には、もうそのような人材は少なく、むしろ「効率性を重視し、ITツールを使いこなす人材」のほうが、自社の課題を解決してくれるかもしれません。

古いペルソナに固執し続けると、市場にいない人を追いかけたり、自社の現状に合わない人を採用し続けたりすることになり、大きな機会損失を生みます。

採用活動の結果や、入社した社員の活躍状況を振り返りながら、最低でも年に1回はペルソナを見直しましょう。

【ケース別】新卒・中途・職種別の採用ペルソナ例

採用ペルソナは、採用する対象によって重視するポイントが異なり、新卒採用と中途採用では、当然ながら設定すべき項目や具体性が変わってきます。

ここでは、新卒、中途(営業職)、専門職(エンジニア)の3つのケース別に、ペルソナの作り方と項目例を紹介します。

新卒採用ペルソナの作り方と例

新卒採用では、社会人経験や専門スキルがないため、価値観やポテンシャルを重視したペルソナ設定が重要です。

そのためには、現時点で活躍している若手社員の傾向をヒアリングするのが効果的です。

【新卒採用ペルソナ(地方メーカー・営業職)の例】

設定項目具体例
基本情報山田 健太(21歳)、〇〇大学 経済学部
価値観・安定志向よりは挑戦志向
・地元に貢献したいという思いが強い
学生時代の経験体育会の部活動では、副キャプテンとしてチームの目標達成のために、個別の声がけや練習メニューの改善を主体的におこなった
情報収集企業の人や社風が見えるSNS発信をよくチェックしている
会社選びの軸・若いうちから裁量を持って働けること
・研修制度よりもOJTで早く成長したい

中途採用ペルソナの作り方と例

中途採用では、入社後にすぐに活躍してもらう即戦力が求められます。そのため、具体的な業務経験やスキルをペルソナに落とし込むことが不可欠です。

同時に、「なぜ今の会社を辞めたいのか」「次に何を求めているのか」という「転職動機」を深く掘り下げることが、ミスマッチを防ぐ鍵となります。

【中途採用ペルソナ(ITベンチャー・営業職)の例】

設定項目具体例
基本情報佐藤 裕子(29歳)、都内在住、一人暮らし
現職・大手SIerで法人営業(3年)
・社内調整や事務作業の多さに疑問を感じている
スキル・新規開拓のテレアポ、訪問経験
・CRMの基本操作
情報収集・転職エージェント
・転職口コミサイト
求める条件・年収は現状維持でよいが、裁量権が欲しい
・リモートワーク併用可能だと嬉しい

エンジニアなど専門スキル採用ペルソナの設計例

エンジニアなどの専門職採用では、ペルソナ設定に現場の協力が不可欠です。人事担当者だけではわからない専門的なスキルセットや、技術への志向性を、現場のエンジニアにヒアリングして具体化します。

また、働き方の自由度や開発環境を重視する傾向が強いため、それらの希望も項目に含めると効果的です。

【専門職採用ペルソナ(Webエンジニア)の例】

設定項目具体例
基本情報高橋 誠(32歳)、既婚・子供1人
技術・PHP (Laravel) 5年
・フロントエンドはVue.jsの経験あり
経験・ECサイトの保守、運用がメイン
・今後は新規開発や、より上流工程(設計)に携わりたい
学習方法・技術ブログを読み書きする
・GitHubで個人のプロジェクトを公開
求める条件・フルリモート可能
・技術選定にある程度の裁量がある
・古い開発環境や、レガシーコードの保守ばかりは避けたい

【5ステップ】採用ペルソナの作り方と設計のポイント

採用ペルソナは、思いつきで作成してもうまくいきません。社内の情報を集め、分析し、具体的な人物像に落とし込むプロセスが重要です。ここでは、中小企業が採用ペルソナを作成するための具体的な5つのステップと、各段階でのポイントを解説します。

ステップ1:採用目的の明確化と現状分析

なぜ採用するのかという目的を明確にします。

「新規開拓の営業力が弱いため、即戦力の営業担当が必要」「若手社員の離職が多いため、定着して中核を担える人材が必要」など、具体的な経営課題と結びつけます。

同時に、今いる社員を分析します。活躍している社員の共通点は、ペルソナ作成の重要なヒントになるはずです。

ステップ2:社内ヒアリング

ヒアリングは、ペルソナ作成で重要なステップです。

  • 経営層へのヒアリング
    会社が目指す未来と、そのために必要な人物像

  • 現場へのヒアリング
    • 具体的な業務内容
    • 現場のやりがい
    • 今困っていること
    • どのような人が来たら助かるか

経営の理想と現場の現実の双方から情報を集めることで、独りよがりではない、地に足のついたペルソナが作れるのです。

ステップ3:情報整理と採用ペルソナ項目の決定

ステップ2で集めた情報を整理し、共通点や重要なキーワードを抽出すると、自社が大切にしている価値観や、現場の求めている資質が見えてくるはずです。

これらの情報をカテゴリーに分類し、今回の採用で重視する項目を決定します。

抽出したキーワードをもとに、「基本情報」「経験・スキル」「価値観・行動特性」「働き方のニーズ」などの項目に分けた“ペルソナ設計シート”を作成し、1枚のフォーマットに落とし込みます。これがペルソナの設計図となるのです。

ステップ4:具体的な人物像の設計

ステップ3で決めた項目に沿って、具体的な人物像を描き出します。この時、単なる箇条書きではなく、その人の背景や人生を物語のように想像することがコツです。

設計シートの各項目を埋めながら、「この人がどんな1日を過ごしているか」「どんなときに転職を考えるか」まで具体的に書き出すと、求人メッセージや面接質問にも直接つながる解像度になります。

基本情報から背景まで、リアルに設定します。この人物像について、社内の誰もが同じ顔を思い浮かべられるレベルまで具体化できれば成功です。

ステップ5:ペルソナの共有と見直し

作成したペルソナは、必ず関係者全員で共有し、共通認識を持ちます。これにより、面接官ごとの評価のバラつきを防げます。

また、一度作ったら終わりではありません。採用活動を進める中でフィードバックを集め、定期的にペルソナを見直し、更新していくことが重要です。

作成して終わりではない!採用ペルソナの活用術

採用ペルソナは、作成して満足しては意味がありません。採用活動の羅針盤として、あらゆる場面で活用することが重要です。

求人票・採用サイトへの活用

採用ペルソナが設定できたら、その人にだけ響くように求人票や採用サイトの言葉を選びます。

例えば、大手企業で裁量権のなさに不満を感じているペルソナなら、アットホームな職場というありきたりな言葉より、若いうちから裁量権を持って、事業の中核を担えるというメッセージのほうが強く響くはずです。

また、情報収集にSNSをよく使うペルソナであれば、自社もSNSで社風や働き方を発信することが有効なアプローチとなります。

面接設計・評価基準への活用

面接は、ペルソナと実際の応募者がどれだけ一致しているかを確認する場です。ペルソナを設定することで、何を聞くべきかが明確になります。

例えば、ペルソナが主体性を重視する人物像であれば、「学生時代に最も力を入れたことは?」といった定番の質問ではなく、「困難な状況で、周囲を巻き込んで解決した経験はありますか?」といった、ペルソナの特性を測るための具体的な質問を用意できます。

何より大きなメリットは、面接官全員がペルソナ(=採用基準)を共有できることです。評価のブレが少なくなり、客観的で公平な選考が可能になるのです。

参考記事:人事評価制度の作り方!不満を解消し「やる気」を引き出す評価シートと書き方

内定者フォロー・オンボーディングへの活用

採用ペルソナの活用は、内定を出したら終わりではありません。入社後の目標設定や評価の場面でも活用できます。

ペルソナは自社が求める人物像であると同時に、自社で活躍・定着してくれる可能性が高い人物像でもあります。そのペルソナが不安に思うことや入社に期待することを予測し、先回りしてフォローします。

たとえば、ペルソナで描いた「こう育ってほしい姿」を、評価項目や1on1でのテーマに落とし込んでおくと、以下を同じ物差しで確認でき、早期離職の兆しにも気づきやすくなります。

  • 採用時に期待していたこと
  • 入社後にどこまで実現できているか

ペルソナが早期の成長を望んでいるなら、内定者時代からメンターとなる先輩社員と交流の機会を設けたり、入社後は手厚すぎる研修よりも、早期に現場で裁量を与えることも効果的です。

まとめ

この記事では、中小企業が採用のミスマッチを防ぐための採用ペルソナについて、その必要性から具体的な作り方、活用術までを解説しました。

採用ペルソナとは、単なるターゲット層(集団)ではなく、自社で活躍できるたった一人の理想の人物像です。

リソースが限られる中小企業こそ、ペルソナを設定することで採用活動の「軸」を定め、社内の目線を統一し、ミスマッチによる早期離職という最悪のリスクを防げます。

重要なのは、経営者や人事担当者の思い込みではなく、現場の声や活躍社員のデータに基づいて、現実的なペルソナを描き出すことです。

採用ペルソナを作成したあとは、求人票、面接、入社後フォローまで一貫して活用することが成功の鍵と言えます。

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