ないとNG?「採用決定通知書」はこれ一つでOK!すぐ使える見本
ようやく良い人材が見つかったと安堵するのも束の間、採用活動には通知書という重要なステップが残っています。とくにリソースが限られる中小企業では、採用通知書の不備が思わぬ内定辞退や将来の労務トラブルにつながることもあるのです。
この記事では、中小企業向けに、採用通知書の法的な役割から、よくあるトラブル事例と対策までを徹底解説します。採用実務の不安を解消し、優秀な人材を確実に迎え入れましょう。
目次
採用通知書とは?中小企業でも発行は必須か?
採用通知書とは、企業が応募者に対して「あなたの採用を決定しました」という意思を正式に伝えるための書類です。
法的に発行が義務付けられているわけではありませんが、中小企業であっても、後のトラブルを避けるために発行することが強く推奨されます。
採用通知書がないとマズイ?その法的な役割と重要性
採用通知書の発行は法律で義務付けられていませんが、発行しない場合、企業にとって大きなリスクをともないます。採用通知書は、法的には企業からの労働契約の申込みと解釈されます。応募者がこれを承諾した時点で、労働契約が成立するからです。
採用通知書がないと、以下のような問題を生じる可能性があります。
- 「言った・言わない」のトラブル
口頭での内定通知のみの場合、労働条件や入社日などについて後から認識の齟齬が発覚し、「そんな話は聞いていない」という水掛け論になるリスクがあります。 - 労働契約成立の証拠不十分
万が一、内定取り消しなどで訴訟に発展した場合、企業側が「いつ、どのような条件で採用の申込みをしたか」を証明する客観的な証拠が弱くなります。 - 応募者の不安と内定辞退
正式な書類が届かないと、応募者は不安になり、他社の内定を優先してしまう可能性があります。
中小企業こそ、信頼関係の構築とリスク管理のために、採用通知書を証拠として発行することが重要です。
採用通知書と内定通知書、労働条件通知書の違いは?
採用実務で使われる採用通知書、内定通知書、労働条件通知書は、それぞれ役割と法的な位置づけが異なります。とくに労働条件通知書は、労働基準法で交付が義務付けられているため、混同しないよう注意が必要です。
中小企業ではこれらを一体化して「採用決定通知書 兼 労働条件通知書」として発行するケースも多いですが、違いを理解しておくことが重要です。
| 書類名 | 内定通知書 | 採用通知書 | 労働条件通知書 |
| 目的・役割 | 採用決定を通知する新卒採用など入社日まで期間が空く場合に使うことが多い | 採用が決定したことを通知する | 賃金、労働時間、就業場所などの労働条件を明示する |
| 法的義務 | なし | なし | あり(労働基準法第15条) |
| 発行タイミング | 最終選考後、速やかに | 最終選考後、速やかに | 労働契約締結時(通常、採用通知と同時または入社日まで) |
採用通知書をめぐるトラブルと企業リスク
採用通知書や内定のプロセスを曖昧にしていると、深刻なトラブルに発展することがあります。とくに中小企業では、一つのトラブルが経営に与える影響も小さくありません。軽視せずに潜むリスクを理解しておくことが重要です。
労働条件通知書と内容が食い違うケース
多くあるトラブルの一つが、採用通知書や面接時の口約束と、後から提示された労働条件通知書の内容が異なるケースです。
よくある食い違い
- 聞いていた額より基本給が低い
- 残業代の扱いが違う
- 転勤はないはずだった
これらの食い違いは、応募者の不信感を招き、内定辞退の直接的な原因となります。
悪質と判断された場合、応募者から損害賠償を請求されるリスクもゼロではありません。採用通知の段階では条件を曖昧にせず、労働条件通知書との整合性を徹底することが不可欠です。
採用通知書を出さないまま口頭内定したケース
中小企業の社長や担当者が、その場で採用を口頭で伝えてしまうケースです。
法的には、口頭でも双方の合意があれば労働契約は成立し得ます。 しかし、書面がないため、後から「内定と言われた」「いや、まだ検討段階だと伝えたはずだ」と水掛け論になりがちです。
また、口頭で伝えた労働条件が曖昧なまま入社日を迎え、入社直後に話が違うと退職されてしまうリスクも高まるため、必ず書面で証拠を残します。
トラブル防止のための社内ルール整備
中小企業こそ、採用通知に関する社内ルールを明確化すべきです。
まず、誰がいつ採用通知書を発行するかを決めます。社長が直接伝える場合でも、必ず人事担当者または総務担当者が書面作成・送付のフローを確立します。
次に、採用通知書と労働条件通知書の内容のズレを防ぐため、記載内容のダブルチェック体制を構築します。
とくに給与や労働時間などの重要項目は、求人票・面接時の説明・通知書がすべて一貫しているかを確認するルールが不可欠です。
参考記事:悪い口コミで採用が止まる?会社ですぐにやるべき口コミ対策を解説
【すぐ使える】採用決定通知書の見本と記載項目
採用通知書をいざ作成するとなると、何を書くべきか迷うかもしれません。ここでは、中小企業がそのまま使えるシンプルな採用決定通知書の見本と、必須の記載項目を解説します。
採用通知書に必ず含めるべき項目リスト
採用通知書に法的な書式はありませんが、応募者への通知と証拠としての役割を果たすため、以下の項目は必ず含めるようにしましょう。
- 発行日・宛名:いつ、誰に宛てたものか明確にする
- 差出人(会社名・代表者名):企業の正式名称と代表者職氏名、会社印(角印など)を記載
- タイトル:「採用決定通知書」など、一目で内容がわかるようにする
- 応募への感謝:選考に参加してくれたことへの謝意を伝える
- 採用決定の旨:「貴殿を採用することに決定いたしました」と明確に記載
- 入社日:具体的な日付を明記
- 同封書類:労働条件通知書、内定承諾書、身元保証書など、同封した書類をリスト化
- 返送期限:内定承諾書の提出期限
- 連絡先:本件に関する問い合わせ先(担当部署、氏名、電話番号)を明記
- 試用期間:有無、期間、本採用とならなかった場合の取り扱い
※試用期間中であっても、客観的合理性・社会的相当性を欠く解雇は認められないため、安易な「お試し採用」として扱わないよう注意が必要です。
採用通知書の見本

※見本内の[ ](カッコ)部分は、必ず自社の情報(応募者名、入社日、給与、労働時間など)に、また、同封書類は実際に送付する書類に合わせて書き換えてください。
厚生労働省でも以下のPDFの見本を配布しています。印刷後に手書きを加えた上で活用できます。

採用通知書の送付方法とマナー|メール・郵送それぞれの文例と注意点
採用通知書を作成したら、応募者へどう送付するかを決めます。スピード重視ならメール、丁寧さや確実性を重視するなら郵送が選ばれます。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自社の状況や応募者に合わせて最適な方法を選びましょう。
郵送・メールのメリット・デメリット
郵送とメール、それぞれの利点と欠点を比較します。
| 送付方法 | 郵送 | メール |
| メリット | ・丁寧な印象を与え、誠意が伝わりやすい ・「書面を受け取った」という確実性が高い | ・即時に送付でき、応募者にいち早く通知できる ・送信履歴が残り、コストがかからない |
| デメリット | ・応募者の手元に届くまで時間がかかる・郵送コストがかかる ・誤送付のリスクがある | ・迷惑メールフォルダに入り、見逃される可能性がある ・郵送に比べ、事務的な印象を与える場合がある ・重要書類のPDF添付はセキュリティリスクがある |
中小企業においては、スピードとコスト面からメールを活用しつつ、重要な書類は別途郵送または入社時に書面で交付する、といった併用も有効です。
送付状(添え状)の見本と作成のポイント
採用通知書を郵送する場合は、必ず「送付状(添え状)」を同封するのがビジネスマナーです。これは、誰が、何を、何のために送ったのかを明確にするためのものです。

【作成のポイント】
- 簡潔に:要件が伝える
- 同封書類の明記:送付した書類の名称と部数を「記」書きでリストアップする
- 返送期限の明記:内定承諾書など、返送を必要とする書類がある場合は、その旨と期限を明確に記載する
採用通知書を送付した後(内定承諾・辞退)の対応ステップ
採用通知書を送付したら終わりではありません。応募者からの返答を受け、速やかに入社手続きまたは欠員補充に進む必要があるからです。
1. 内定承諾書またはメールの受領
応募者から内定承諾書が返送されてきたら、またはメールで承諾の意思表示があったら、労働契約が正式に成立します。受領した旨を応募者に一報入れると丁寧です。
2. 入社手続きの案内
承諾を受けたら、入社日までに社会保険、雇用保険の手続きに必要な書類、給与振込口座の確認など必要な手続きを具体的に案内します。
3. 入社日までのフォロー
とくに新卒など入社日まで期間が空く場合は、定期的に連絡を取り、入社前研修の案内を送るなどし、内定者の不安を払拭して入社意欲を維持するよう努めます。
4. 辞退連絡を受けた場合
残念ながら辞退の連絡を受けた場合は、将来の採用活動の改善に役立てるため、辞退理由を差し支えない範囲でヒアリングします。
無理な引き止めはせず、丁寧に対応し、応募書類の返却または破棄について伝えます。同時に、速やかに次の採用活動を開始します。
参考記事:【第3回マモリクラブ人事会レポート】人事・採用の「他社はどうしてる?」が気軽に聞ける交流会|10/28(火)東京開催分
中小企業のよくある疑問:採用通知書のケース別対応
採用通知書に関して、中小企業の経営者や人事担当者から寄せられるよくある疑問について、Q&A形式で解説します。自社のケースに当てはめて、適切な対応を確認しましょう。
ハローワーク経由の採用でも、採用通知書は必要?
はい、必要です。 ハローワークから交付されるのは紹介状であり、企業が発行する採用通知書や労働条件通知書とは全く別物になります。 ハローワーク経由であっても、採用を決定したのはあくまで企業です。
そのため、企業自身の名義で正式に採用の意思と労働条件を明示し、応募者に交付する必要があります。これを怠ると、ほかのルートでの採用と同様にトラブルのリスクが残ります。
アルバイト・パート採用にも採用通知書は出すべき?
発行することが強く推奨されます。 アルバイトやパートであっても、労働契約を結ぶことに変わりはありません。
採用通知書の発行は法的には義務ではありませんが、トラブル防止の観点からは発行すべきです。
採用通知書はメール送付でも法的に問題ない?
採用通知書自体は、メール送付でも法的な効力を持ちます。 応募者がそのメールに対して「承諾します」と返信すれば、その時点で労働契約は成立します。
ただし、労働条件通知書をメール添付などで交付する場合、労働者が希望した電磁的方法による交付であることや、本人が内容を確認・保存できる環境が整っていることなど、一定の要件を満たす必要があります。
したがって、自社だけで判断せず、社労士・弁護士など専門家に確認するのが安心です。
中小企業の実務としては、まずメールで採用決定の速報を伝え、後から正式な「採用通知書 兼 労働条件通知書」を郵送する、または本人の希望を確認した上でPDF送付するのが安全で丁寧な方法です。
まとめ
採用通知書は、法的な発行義務こそないものの、中小企業が採用という重要なプロセスを無事に完了させるために不可欠な書類です。
それは単なる採用の連絡ではなく、企業からの労働契約の申込みという法的な意味を持ち、応募者との認識のズレを防ぎます。「言った・言わない」のトラブルから会社を守る証拠ともなるのです。
しかし、労働基準法で交付が義務付けられている労働条件通知書と内容が食い違えば、内定辞退や訴訟リスクにも発展しかねません。
まずは、自社で現在使っている採用通知書・内定通知メール・労働条件通知書を一覧にし、
- 記載内容に矛盾がないか
- 口頭での約束とズレていないか
- パート・アルバイト採用にも同じレベルの書類を出せているか
を確認してみてください。
そのうえで、本記事の見本をベースに、「採用決定通知書 兼 労働条件通知書」として使える一枚を整えておくと、今後の採用がぐっとスムーズになります。
見本を活用し、求人票や面接時の説明と一貫させて作成・発行するルールを社内で確立することが、中小企業の安定した人材確保とリスク管理の第一歩なのです。
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