ストックオプションとは?仕組み・種類・税制・導入ステップまでやさしく解説
「ストックオプション」という言葉を聞くと、上場を控えた急成長中のスタートアップや、IT大企業だけの特別な制度だと感じるかもしれません。
しかし、優秀な人材の確保や離職防止が喫緊の課題となっている現代において、ストックオプションは会社規模を問わず重要です。企業の成長を加速させるための「攻めの人事戦略」として非常に身近な選択肢となっています。
一方で、その仕組みや税制は複雑です。正しい知識がないまま導入すると、思わぬ課税リスクや社内の不満を招くおそれがあります。
この記事では、中小企業やスタートアップの担当者が知っておくべきストックオプションの基本から、最新の種類、気になる税制、そして具体的な導入手続きまでを詳しく解説します。
また以下の資料では、中小企業の人事・労務担当の方に向けて、退職給付金制度についてのマニュアルを紹介していますので、ぜひ無料でダウンロードしてください。
目次
ストックオプションとは?基本の意味と仕組み
ストックオプションは、あらかじめ決められた価格で自社の株式を購入できる「権利」のことです。
将来、会社の価値が上がり株価が上昇した際に、その権利を行使して割安で株を購入し、市場価格で売却することで、その差額を利益(キャピタルゲイン)として受け取ることができます。
なぜ企業がストックオプションを導入するのか
企業がストックオプションを導入する最大の狙いは、経営層と従業員の利害を完全に一致させ、組織全体に強固な経営者意識を浸透させることです。
通常の給与や賞与は、過去の労働や成果に対する対価として支払われるため、どうしても「受け取って完結する」受動的な報酬になりがちになります。
その点、ストックオプションは将来の株価、つまり企業価値の向上が自分自身の直接的な利益に直結するため、社員一人ひとりがオーナー視点で業務に取り組むようになることがメリットです。
また、財務的な側面においては、限られたキャッシュを温存しながら優秀な人材を惹きつけるための極めて有効な戦略となります。現時点での現金支出を抑える代わりに、将来の成功を分かち合う「アップサイド(期待利益)」を提示することで、リスクを取ってでも大きなリターンを狙いたい意欲的な人材を確保することが可能です。
新株予約権との違い
ストックオプションは、法律上の用語である「新株予約権」の一種です。混同されやすい両者の違いを整理しました。
| 項目 | 新株予約権 | ストックオプション |
| 定義 | 株式会社に対して行使することにより、当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利 | 新株予約権のうち、特に役職員へのインセンティブ目的で付与されるもの |
| 主な対象者 | 投資家、取引先、役職員など制限なし | 自社の役員、従業員、社外協力者など |
| 発行の目的 | 資金調達、買収防衛策、M&A、報酬など | 業績向上への意欲向上、人材確保(報酬) |
| 対価の有無 | 有償・無償どちらも一般的 | 無償での付与が一般的(有償タイプもある) |
つまり、新株予約権という大きな枠組みの中に、社内向けの報酬制度として設計された「ストックオプション」が含まれているという関係性になります。
ストックオプションはどんな企業に向いている?中小・スタートアップでの活用シーン
ストックオプションは、すべての企業にとって一律に効果を発揮するツールではありません。
制度を最大限に活かせるのは、将来的な「出口(エグジット)」を見据え、リスクを取ってでも非連続な成長を実現しようとする強い意志を持つ組織になります。自社の目指す方向性に照らし、導入すべきタイミングを見極めることが重要です。
上場や資金調達を目指す成長企業
近い将来にIPO(新規上場)やM&Aによる売却を目標としている企業にとって、ストックオプションは欠かせない戦略的ピースとなります。事業が成功した際に得られる「大きなリターン」を具体的に提示することで、目先のリスクや過酷な環境を許容し、爆発的な成長に向けて一丸となる組織文化を醸成できるからです。
また、外部からの資金調達を行う際も、経営陣だけでなく従業員全体にインセンティブが行き渡っていることは、チームの結束力と成功への執着心を示す証として、投資家から高く評価される要因の一つになります。
参考記事:中小企業のGRC強化法とは?「ガバナンス・リスク・コンプライアンス」の基本
人材獲得・社外パートナーとの連携強化をしたい企業
大手企業に比べて資金力や知名度で劣る中小企業やスタートアップが、労働市場で優秀な人材を奪い合う際、ストックオプションは強力な差別化要因です。
現時点での固定給では太刀打ちできなくても、将来のキャピタルゲインという「夢」を共有することで、志の高いプロフェッショナルを惹きつけることが可能になります。
また、この権利は正社員のみではありません。社外の顧問やエンジニア、コンサルタントといった外部パートナーへの付与も検討に値します。
単なる業務委託費の支払いを超えた「運命共同体」としての権利を付与することで、より深く、コミットメントの高い連携体制を築くことができるようになるのです。
ストックオプションの種類とその違い
ストックオプションには、税務上の優遇措置を受けられるかどうかや、付与される際の条件によっていくつかの種類が存在します。どのタイプを選択するかによって、受け取る社員の税負担や企業の会計処理が大きく変わるため、制度の目的(採用強化なのか、長期的な貢献への報奨なのか等)に合わせて最適なものを選ぶことが必要です。
税制適格ストックオプションと非適格の違い
税制適格ストックオプションとは、租税特別措置法に定める一定の要件を満たすことで、税制面での優遇が受けられる仕組みです。
| 比較項目 | 税制適格ストックオプション | 税制非適格ストックオプション |
| 主な要件 | 付与限度額、権利行使期間、譲渡禁止など | 特になし(要件を満たさないもの) |
| 行使時の課税 | 非課税 | 課税あり(給与所得として最大約55%) |
| 売却時の課税 | 譲渡所得として課税(約20%) | 譲渡所得として課税(約20%) |
| メリット | 手残りの最大化、納税の繰り延べ | 自由な制度設計が可能 |
税制適格の最大の特徴は、「株を買った時(行使時)には税金がかからず、株を売って現金を得た時にだけ課税される」という点にあります。また、税率も一律約20%の譲渡所得課税となるため、受け取る側の利益が大きくなるのです。
対して、非適格は行使時に多額の税金が発生する可能性があり、手元に現金がない状態で納税義務が生じる「黒字倒産」のようなリスクを社員が負うことになります。
有償ストックオプションと無償タイプ
付与される際に社員が対価を支払うかどうかによって、性質が大きく異なります。
| 比較項目 | 無償ストックオプション | 有償ストックオプション |
| 付与時の支払い | 0円(無償) | オプション料(時価)を支払う |
| 社員のリスク | なし(株価が下がれば行使しないだけ) | あり(支払ったオプション料が損失になる) |
| 会計処理 | 費用計上が必要 | 原則、費用計上は不要 |
| 主な目的 | インセンティブ、人材獲得 | 経営参画意識の向上、税負担の軽減 |
無償タイプは社員に金銭的リスクがないため、日本のスタートアップで最も広く普及しています。一方、有償タイプは社員が身銭を切って「権利を買う」ため、投資としての側面が強いです。
有償は、具体的な設計次第で税負担の考え方が変わる場合があり、戦略的なインセンティブ手法の一つとして上場企業などで採用されるケースも見られます。
信託型・1円SOなど新しいタイプ
近年では、従来の枠組みを補完するために登場した新しい設計手法も活用されている状況です。
| 種類 | 概要 | 主な活用シーン |
| 信託型SO | 会社が信託に権利を預け、貢献度に応じて後から分配する | 後から入社する社員への公平な分配 |
| 1円SO | 行使価額を1円に設定し、ほぼ確実に利益が出るようにする | 中長期の定着・貢献に報いるためのインセンティブ設計 |
| 有償時価発行SO | 有償SOの一種。時価で発行し、税務メリットを狙う | 税制適格の枠に収まらない多額の付与 |
信託型は、あらかじめ「将来配る分」をプールしておけるため、採用が進むにつれて付与条件が厳しくなりがちなスタートアップにおいて、後入りの社員にも公平にチャンスを与えられるメリットがあります。
また、1円SOは株価が1円を上回っていれば確実に行使メリットが出るため、現金の代わりに「将来の退職金」を積み立てるような感覚で、中長期的な定着を促すために利用されるものです。
ストックオプションの行使・売却・退職時の流れ
ストックオプションは権利を付与された瞬間に利益が確定するものではありません。
あらかじめ設定された期間(ベスティング期間)を経て、自ら権利を行使し、最終的に株式を売却することで初めて手元に現金が残ります。この一連のライフサイクルを理解しておくことは、自身の資産形成を計画する上で不可欠です。
付与→権利確定→行使→売却の流れ
ストックオプションを手にしてから利益を得るまでには、大きく分けて以下の4つのステップがあります。
| フェーズ | 内容 | 状態の変化 |
| 1. 付与(Grant) | 会社と役職員の間で「新株予約権割当契約」を締結し、権利が与えられる。 | 権利を「持っている」状態(まだ使えない) |
| 2. 権利確定(Vesting) | 契約で定められた条件(例:付与から2年経過、上場するなど)を満たす。 | 権利を「行使できる」状態になる |
| 3. 行使(Exercise) | 行使価額(あらかじめ決めた価格)を会社に支払い、株式を取得する。 | 権利が「現物の株式」に変わる |
| 4. 売却(Sale) | 取得した株式を市場などで売却し、現金化する。 | 利益(または損失)が「確定」する |
ベスティング(権利確定)の仕組みについて、多くの企業では、付与後すぐに全ての権利を行使できるわけではありません。
「入社から2年後に50%、3年後に25%、4年後に25%」といったように、段階的に権利が確定する「ベスティング」が採用されます。これは、優秀な人材に長く会社に留まってもらう(リテンション)ための仕組みです。
また、「行使」には、行使価額×株数分の購入資金が必要になります。一方、「売却」は市場で株を売る行為です。税制適格ストックオプションの場合、税制上のルールも絡んでくるため、資金繰りとスケジュールには注意が必要です。
ストックオプションの活用に関する注意点
ストックオプションは、大きな経済的利益を得られる可能性がある一方で、あらかじめリスクや制約を正しく理解しておくことが必要です。特に「権利が紙切れになる可能性」と「保有し続けられなくなる条件」については、十分な注意が必要です。
行使価格と株価の関係
ストックオプションの価値は、市場の株価とあらかじめ設定された「行使価格」の差額によって決まります。この関係性と利益の有無を整理すると以下の通りです。
| 状態(呼称) | 株価と行使価格の関係 | 経済的メリットの状況 |
| 利益が出るケース(イン・ザ・マネー) | 市場価格 > 行使価格 | 市場より安く株を買えるため、その差額(含み益)が直接的な利益となります。 |
| 利益が出ないケース(アウト・オブ・ザ・マネー) | 市場価格 < 行使価格 | 権利を行使すると市場で買うより高くなってしまうため、実質的な価値はありません(アンダーウォーター)。 |
株価は常に変動するため、付与された当時は大きなメリットが見込めても、景気後退や業績不振によって行使期限まで株価が低迷し続ければ、一度も行使することなく権利が消滅してしまうリスクがある点は忘れてはなりません。
退職時の扱いと失効リスク
ストックオプションは、付与された役職員が継続的に会社に貢献することを期待して提供されるインセンティブです。そのため、退職に伴う権利の消失については、多くの企業で非常に厳格な規定が設けられています。
| 項目 | 内容 |
| 原則としての権利喪失 | 権利を行使する前に退職した場合、すでに権利確定(ベスティング)している分であっても、退職と同時にすべての権利が失効するのが一般的です。 |
| 行使期間の制限 | 定年退職や会社都合による退職など特定の事情がある場合には、例外的に退職後数ヶ月以内に限り行使を認める条項が設けられることもあります。 |
| 失効リスクの確認 | 転職や独立を検討する際は、契約書の「権利行使の条件」や「権利の消滅事由」を確認し、どのタイミングまで在籍が必要かを把握しておくことが不可欠です。 |
退職によってせっかくの権利を無駄にしないためには、付与時に締結した契約書の内容を十分に把握し、自身のキャリアプランと照らし合わせておくことが大切です。特に上場前のタイミングで退職を検討する場合は、その判断が経済的にどのような影響を及ぼすかを慎重に見極めるべきでしょう。
ストックオプションにかかる税金と確定申告
ストックオプションで得た利益(キャピタルゲイン)は、税務上「どのタイミングで、どのような性質の所得として課税されるか」が非常に重要です。
特に、税制適格の要件を満たすかどうかで、手元に残る現金の額が数百万円単位で変わることも珍しくありません。
参考記事:退職金とは?税金の計算方法や年金の種類、相場まで徹底網羅
税制適格SO:行使時は非課税・売却時に課税
税制適格ストックオプションは、一定の要件を満たすことで、本来なら株を購入した時点で発生する税金を「実際に株を売って現金を手にする時」まで先送りにできる制度です。この「課税の繰り延べ」が最大のメリットとなります。
| フェーズ | 税金の取り扱い | 所得の種類 | 税率(目安) |
| 1. 付与時 | 非課税 | - | - |
| 2. 行使時(株の購入) | 非課税 | - | - |
| 3. 売却時(現金化) | 課税あり | 譲渡所得 | 一律 約20.315% |
税制適格の場合、株を買った瞬間には1円も税金を支払う必要がありません。最終的に売却した際の利益に対してのみ、分離課税として一律約20%の税率が適用されます。
これにより、行使時に多額のキャッシュを納税に回すリスクを避け、効率的に資産を形成することが可能です。なお、2024年度の税制改正により、スタートアップ企業における年間行使限度額が大幅に引き上げられるなど、さらに利便性が向上しています。
税制非適格SO:行使時と売却時二段階の課税
一方、税制適格の要件を満たさない「税制非適格ストックオプション」は、株を購入した時点(行使時)と、それを売却した時点(売却時)の二段階で課税が発生するものです。これを実務上「二重課税」のような負担感として捉えるケースが多くあります。
| フェーズ | 税金の取り扱い | 所得の種類 | 税率(目安) |
| 1. 付与時 | 非課税 | - | - |
| 2. 行使時(株の購入) | 課税あり | 給与所得 | 合算で 最大約55% |
| 3. 売却時(現金化) | 課税あり | 譲渡所得 | 一律 約20.315% |
非適格SOの大きな課題は、行使時に発生する「給与所得」としての課税です。まだ株を売っていない(現金を手にしていない)にもかかわらず、時価と行使価格の差額が「給与」とみなされ、他の所得と合算して累進課税が適用されます。
最大55%に達する高い税率が課される可能性があるため、納税のための現金を別途用意しなければならない点が大きな負担です。
確定申告での注意点と必要書類
ストックオプションの権利を行使したり売却したりした年は、原則として自分で確定申告を行う必要があります。会社が年末調整ですべてを処理してくれるわけではないため、以下の必要書類を揃えて正しく手続きを行う準備をしておきましょう。
| 必要書類 | 入手先 | 用途 |
| 給与所得の源泉徴収票 | 勤務先 | 他の所得との合算確認のため |
| 新株予約権の行使に関する調書 | 勤務先 | 行使した株数や価格の証明 |
| 株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書 | 税務署(またはWeb) | 譲渡益の計算結果を記載するため |
| 特定口座年間取引報告書 | 証券会社 | 証券口座での売却損益の確認(一般口座以外の場合) |
確定申告を怠ると、延滞税などのペナルティが課されるだけでなく、税制適格のメリットである「分離課税の適用」が受けられなくなるリスクもあります。特に「行使した年」と「売却した年」が異なる場合、それぞれの年で申告が必要になる可能性があるため、スケジュール管理を徹底しましょう。
不明な点がある場合は、早めに所轄の税務署や税理士に相談することをおすすめします。
会計処理・仕訳の基礎知識【中小企業担当者向け】
ストックオプションは、単に従業員に権利を渡すだけでなく、企業会計上の「費用」として適切に処理しましょう。特に上場を目指す中小企業やスタートアップにとっては、正しいタイミングでの費用計上と資本への振替処理が、正確な財務諸表作成の根幹となります。
付与時・行使時の会計処理フロー
ストックオプションの会計処理は、権利の付与から最終的な行使や失効に至るまで、いくつかのステージに分かれます。それぞれの段階で発生する一般的な仕訳とその意味を整理すると以下の通りです。
| 発生ステージ | 会計上の処理(仕訳のイメージ) | 内容の解説 |
| 付与時 | 仕訳なし | 権利を与えた時点では経済的取引が発生していないため、会計上の仕訳は行いません。 |
| ベスティング期間中 | (借) 株式報酬費用 / (貸) 新株予約権 | サービスの取得に応じて、公正価値をベスティング期間(勤務対象期間)にわたり費用計上します。 |
| 権利行使時 | (借) 現金預金・新株予約権 / (貸) 資本金・資本準備金 | 払い込まれた行使価額と、積み立てた新株予約権を資本金等の純資産の部に振り替えます。 |
| 権利失効時 | (借) 新株予約権 / (貸) 新株予約権戻入益 | 権利が行使されずに期限が過ぎた場合、それまで積み立てていた純資産(新株予約権)を利益として戻し入れます。 |
このように、ストックオプションは「従業員から提供されるサービス(労働)」の対価として、期間に応じて費用を配分していくのが基本原則です。権利が行使された際には、それまで費用として計上してきた「新株予約権」が「資本金」へと姿を変えることになります。
公正価値の算定と費用計上のタイミング
会計処理において最も実務的なポイントとなるのが、いくらを費用として計上するかという「公正価値」の算定と、その計上タイミングです。特に非上場企業においては、独自の算定ルールが認められている点に注目しましょう。
| 項目 | 算定・計上のルール | 詳細な考え方 |
| 公正価値の算定基準 | 公正な評価単価 × 付与数 | 原則として付与日時点の公正な評価額を算定します。非上場企業では「本源的価値(株価-行使価格)」による算定も認められます。 |
| 費用計上の期間 | 対象勤務期間にわたり按分 | 原則として付与日から権利確定日(ベスティング完了日)までの期間にわたり、均等に費用として配分します。 |
| 失効の見積もり | 退職予定者等を除外 | 会計期間ごとに退職等による失効の見積数を見直し、計上額を調整する必要があります。 |
非上場企業の中小企業においては、将来の株価を予測した複雑な算定モデルを用いる代わりに、「特例方式」を選択できる場合があります。これにより算定の実務負担を大幅に軽減することが可能です。
課税リスクを避けるための経理部門のチェックポイント
経理部門にとって、会計処理以上に注意が必要なのが「税務上のリスク管理」です。近年、ストックオプションの申告漏れに対する税務当局の監視が非常に厳しくなっており、適切な書類提出や区分管理が求められています。
| 確認項目 | 経理部門が取るべき対応 | 税務上のリスクと注意点 |
| 税制適格の要件確認 | 租税特別措置法に基づく契約か確認 | 適格要件を外れると、行使時に多額の給与所得課税が発生し、トラブルの原因となります。 |
| 法定調書の提出 | 「新株予約権の行使に関する調書」の提出 | 税制非適格の権利行使があった場合、会社は税務署への報告義務を負います。 |
| 損金算入の可否 | 税制非適格の一部を除き原則不可 | 給与所得課税が生じない税制適格や有償SOは、原則として法人税計算上の損金(費用)にはなりません。 |
2025年10月、会計検査院は、税制適格ストックオプションの譲渡所得の申告確認において、対象者リストの活用方法の周知などが十分でない点を指摘し、国税庁に改善を求めています。
また、税制非適格ストックオプションの権利行使に伴う経済的利益(給与所得として課税対象)についても、適正計上されていない蓋然性が高い事案があるとして、情報提供の改善等が示されています。
これらの指摘を踏まえると、企業・従業員ともに、ストックオプションに関する申告や制度運用について、これまで以上に正確な理解と対応が求められる状況といえます。
参考)会計検査院「本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項(令和7年(2025年)10月20日)」
実務で見落としがちなストックオプションのリスクと対応策
ストックオプションは、企業の成長を加速させる強力なエンジンとなる一方で、運用の仕方を誤ると組織の団結力を削ぎ、経営上の大きな足かせとなるリスクを孕んでいます。
制度設計の美しさだけでなく、実際に運用した際に生じうる「人の感情」や「株価の変動」に対する備えが不可欠です。
株価下落によるモチベーション低下
ストックオプションの価値は株価に依存するため、市場環境や業績の悪化によって株価が下落した際、インセンティブとしての機能が著しく低下するという構造的リスクがあります。
| リスクの具体像 | 主な対応策・予防策 |
| モチベーションの急減退 | ハイブリッド型報酬の導入 |
| 株価が行使価格を下回る(アンダーウォーター)状態が続くと、権利が事実上無価値になり、社員の労働意欲が削がれる。 | ストックオプションだけでなく、譲渡制限付株式(RSU)や業績連動賞与を組み合わせ、株価に依存しすぎない報酬体系を構築する。 |
株価が低迷している時期こそ社員の踏ん張りが必要ですが、期待していた「夢」が霧散したと感じられると、優秀な人材から順に離職してしまう負の連鎖が起こりかねません。
単一のインセンティブに頼り切るのではなく、企業のフェーズに合わせた多角的な報奨制度を検討することが、組織のレジリエンス(復元力)を高めることに繋がります。
公平性がないと社内不満の温床に
付与対象や付与数の基準が不透明な場合、社員間で「なぜあの人だけ多いのか」「後から入った私の方が貢献しているのに」といった不公平感が蔓延することがリスクです。その結果、人間関係のトラブルやチームワークの乱れを招きます。
| 不満が生じる要因 | 解決のための設計 |
| 選抜基準のブラックボックス化 | 明確な評価・付与基準の策定 |
| 経営陣との距離感や印象で付与数が決まっているように見えると、選ばれなかった社員の帰属意識が急落する。 | 職位や貢献度、勤続年数に基づいた「付与マトリクス」を事前に作成し、誰がどのような基準で評価されたのかを説明可能にする。 |
特に創業期から支えてきた初期メンバーと、事業拡大期に高いスキルを持って入社した中途メンバーの間では、期待値のズレが生じやすい傾向にあります。「信託型ストックオプション」を活用して後から入ったメンバーにも貢献度に応じた分配ができる仕組みを整えるなど、時期による不公平を解消する工夫も現代のスタンダードです。
権利行使→即退職というケースへの対策
多額のキャピタルゲインを得た直後に、中心人物が「燃え尽き」や「資産形成の完了」を理由に退職してしまう、いわゆる「ヒット・アンド・アウェイ」のリスクも無視できません。
| 退職リスクの様態 | 制度上の抑止策 |
| 成功報酬による早期離職 | ベスティング期間と行使後保有制限 |
| 上場直後など、権利行使が可能になったタイミングでコア人材が流出し、事業の継続性が危うくなる。 | 権利確定を数年にわたって段階的に行う「ベスティング」の期間を長めに設定する、あるいは行使後に一定期間の株式保有を求める契約を結ぶ。 |
ストックオプションは「辞めさせないための鎖」ではなく、あくまで「共に成長するための旗印」であるべきですが、経営継続の観点からは、一時期に離職が集中しないような時間軸の設計が重要です。
また、金銭的な利益だけでなく、次の挑戦やキャリアパスを社内で提示し続ける「非金銭的な動機付け」を同時に磨くことが、真の離職対策となります。
【導入企業向け】ストックオプション制度の設計と手続き
ストックオプションの導入には、会社法に基づく厳格な法的手続きや、税務上の要件を満たすための緻密な設計が求められます。
単に「権利を付与する」という合意だけでは不十分です。株主の利益保護や登記の義務を遵守するためのステップを一つひとつ着実に進めていく必要があります。
参考記事:従業員エンゲージメントを向上させるには?中小企業が取り組むべき施策・事例を徹底解説
必要な社内手続きと意思決定フロー
制度の導入を決定してから実際に運用を開始するまでには、経営陣による検討と、会社法に則った機関決定のプロセスが必要です。一般的な意思決定のフローと、各段階での主な役割を以下の表にまとめました。
| フェーズ | 主な内容 | 目的 |
| 制度設計・起案 | 発行規模、行使価格、対象者の選定 | 自社の状況に合わせた最適な報酬プランの策定 |
| 取締役会決議 | 株主総会への上程案の承認 | 機関決定としての正式な提案内容とスケジュールの確定 |
| 株主総会決議 | 新株予約権発行の承認(特別決議) | 既存株主から発行に関する法的な許可を取得 |
| 割当決議 | 個別の付与対象者と付与数の決定 | 具体的・最終的な権利付与の対象を確定 |
このフローは、既存株主の持ち分が希薄化するリスクを考慮し、経営の透明性を確保するために不可欠です。各段階で適切な議事録を作成し保管しておくことは、将来の上場審査や税務調査における重要な証跡となります。
株主総会の開催・特別決議
従業員に対して無償でストックオプションを付与する場合、原則として「特に有利な条件」での発行とみなされることを押さえておきましょう。既存株主の不利益を防ぐため、株主総会での特別決議が必要となります。
| 項目 | 内容 | 留意点 |
| 決議要件 | 特別決議 | 発行済株式の過半数を有する株主が出席し、3分の2以上の賛成が必要 |
| 主な議決事項 | 発行の目的、上限数、行使価格、期間 | 希薄化の最大範囲や権利行使の条件を明確に示す必要がある |
| 株主への説明 | 有利発行が必要な理由 | なぜ無償(低価格)で発行するのか、その妥当性の説明義務 |
特別決議は普通決議よりも要件が厳しいため、事前に主要な株主に対して導入の意図や期待される効果を説明し、十分な理解を得ておくことが円滑な進行の鍵となります。株主の理解なしには制度そのものが成立しないリスクがあることを、経営陣は強く認識しておくべきです。
契約書・新株予約権原簿の整備
総会の承認を得た後は、会社と対象者との間で個別に契約を結び、法的に必要な帳簿を整備します。これらは、後の権利行使やトラブル防止のための基盤です。
| 書類・帳簿 | 主な役割 | 記載すべき重要事項 |
| 新株予約権割当契約書 | 会社と社員間の合意の証明 | 権利確定条件(ベスティング)、退職時の失効規定など |
| 新株予約権原簿 | 法定帳簿としての厳格な管理 | 権利者の氏名・住所、発行数、行使や消滅の履歴 |
| 付与通知書 | 付与事実の正式な通知 | 割当が行われた事実と具体的な内容の本人確認 |
特に「新株予約権原簿」の作成は会社法で義務付けられており、これがないと権利の移転や行使の管理を正確に行うことができません。また、契約書に「退職時の扱い」や「不祥事の際の権利剥奪(クローバック)」などを詳細に記載しておかないと、後の法的トラブルに発展する恐れがあるため、専門家のリーガルチェックを受けることが推奨されます。
登記までのスケジュール感
検討の開始から最終的な登記完了までには、最短でも1ヶ月から2ヶ月程度の期間を見込んでおくことが必要です。法務局への申請には期限があるため、逆算したスケジュール管理が重要になります。
| 時期 | ステップ | 具体的な作業内容 |
| 1ヶ月目(前半) | 検討・起案 | スキームの確定、取締役会での承認、招集通知の準備 |
| 1ヶ月目(後半) | 株主総会 | 株主総会の開催と特別決議の可決 |
| 2ヶ月目(前半) | 割当・契約締結 | 付与対象者との個別契約締結、払込み手続き(有償の場合) |
| 2ヶ月目(後半) | 変更登記申請 | 発行(割当)から2週間以内に法務局へ登記申請を行う |
法務局での変更登記は、割当日から2週間以内に行わなければならず、期限を過ぎると過料(ペナルティ)の対象です。登記をもって第三者に対抗できるようになるため、総会後の事務手続きは滞りなく進めるための事前準備を徹底しましょう。
これらの手続きは非常に煩雑ですが、一つひとつのステップを正確に踏むことが、ストックオプションを「不満や争いの火種」にせず、組織の成長を加速させる「真のインセンティブ」にするための最短ルートとなります。
まとめ
ストックオプションは、企業の成長と社員の利益を一つに結びつける強力な仕組みです。しかし、本記事で見てきたように、その種類や税制、会計処理は多岐にわたり、一歩間違えれば多額の課税リスクや社内の不公平感を招く諸刃の剣にもなり得ます。
導入を成功させるためには、まず自社の成長フェーズや目的に合わせて「税制適格」や「信託型」といった最適な種類を選択し、将来の株価変動や退職リスクまでを見越した緻密な制度設計を行うことが不可欠です。
また、経営陣は制度の仕組みだけでなく、「なぜこの制度を導入し、共にどのような未来を目指したいのか」というメッセージを、社員に対して丁寧かつ継続的に発信し続ける責任があります。
正しく設計・運用されたストックオプションは、単なる報酬を超えて、社員一人ひとりが経営者の視点を持ち、自律的に挑戦し続ける組織文化を築くための強力な基盤です。まずは本記事で紹介した導入ステップを参考に、専門家の知見も借りながら、貴社の未来を共に創るための「パートナーシップの証」として、最適な制度を構築してみてください。

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