企業の個人情報保護の重要性を理解しよう! リスク、対策などを紹介

近年、個人情報の漏洩や不適切な利用が企業にとって大きなリスクとなっています。特に中小企業では、大企業ほどのリソースがない中で個人情報を適切に管理しなければなりません。
本記事では、中小企業の経営者やバックオフィス担当者が押さえておくべき「個人情報保護」の基本を解説します。個人情報保護法のポイント、保護の対象となる情報、具体的な対策など、ぜひ参考にしてみてください。
個人情報保護は「中小企業の守り」の観点から重要な要素の一つです。セキュリティやガバナンスを強化し、リスクを未然に防ぎましょう。
目次
まずは個人情報保護の基本を理解しよう
個人情報保護は、大企業だけでなく中小企業にとっても重要な課題です。個人情報の適切な管理は、顧客や従業員の信頼を維持するだけでなく、法的リスクの回避にも直結します。
個人情報保護が重要な理由は大きく分けて以下の3つです。
項目 | 内容 |
法的義務 | 個人情報保護法により、企業は個人情報を適切に管理する義務を負っています。 |
企業のブランド維持 | 個人情報の漏洩が発覚すると、企業の信用は大きく損なわれます。 |
取引先・顧客との信頼維持 | ビジネスでは、顧客・取引先からの情報管理が必要です。個人情報管理が不十分な企業は、取引を継続できなくなる可能性があります。 |
このように、「個人情報の保護」は単なるコンプライアンス対応ではなく、企業経営の根幹に関わる重要な要素です。
特に、近年ではデジタル化の進展により、個人情報の収集や活用が容易になりました。一方で、不適切な管理による情報漏洩や不正利用のリスクも高まっているため注意が必要です。
個人情報保護法とは?
個人情報保護法(正式名称:「個人情報の保護に関する法律」)は、個人情報の利用を適正に管理し、個人の権利利益を保護することを目的とした法律です。中小企業の「個人情報保護」を推進するにあたって、ベースとなる法律となっています。
企業や行政機関が個人情報を適切に取り扱うためのルールを定めていることが特徴です。これにより情報漏洩や不正利用を防ぎ、社会全体の信頼を確保することを目指しています。
個人情報保護法は、中小企業を含むすべての事業者が対象です。
中小企業の経営者、バックオフィス担当者の方は、必ず押さえておかなくてはいけません。また、必要に応じて従業員に教育をして、社内のガバナンスを強化しましょう。
参考)e-GOV「個人情報の保護に関する法律」
どんな情報が「個人情報」「要配慮個人情報」に該当するのか?
個人情報保護法では、「個人情報」とは生存する個人に関する情報であり、特定の個人を識別できる情報を指します。具体的には、以下のような情報が含まれる可能性があるため、取り扱いに注意しましょう。
- 氏名
- 住所
- 電話番号
- メールアドレス
- 生年月日
- 顔写真
- IPアドレス
単体では個人を特定できない情報でも、他の情報と組み合わせることで特定の個人を識別できる場合は、個人情報として扱われます。
また、個人情報の中でも、特に慎重な取り扱いが求められる情報が「要配慮個人情報」です。これは、不適切な取り扱いによって本人が不利益を被る可能性が高いため、取得や利用の際に本人の同意が必須とされます。
具体的には、以下のような情報です。
- 人種・信条・社会的身分
- 病歴・健康診断結果・障害情報
- 犯罪歴・犯罪被害歴
- 身体障害・精神障害・知的障害に関する情報
- 医療・診療・調剤情報
- 本人が刑事事件の被疑者や被告人として手続を受けた事実
- 非行歴・保護処分歴
参考)政府広報オンライン「「個人情報保護法」を分かりやすく解説。個人情報の取扱いルールとは?」
中小企業は「要配慮個人情報」に要注意!
要配慮個人情報は、差別や偏見の原因となるリスクが高いため、個人情報保護法において特に厳格な管理が義務付けられています。
中小企業が要配慮個人情報を扱う際には、以下の点に注意しましょう。
項目 | 対策 |
取得時の本人同意を徹底する | ・書面や電子的な手段で明確に同意を得る(暗黙の同意では不十分) ・利用目的を具体的に提示し、範囲を限定する |
保存・管理のセキュリティを強化する | ・要配慮個人情報はアクセス権限を限定し、暗号化して保存する ・紙ベースの場合は施錠されたキャビネットで管理 |
第三者提供は原則禁止とする | ・本人の同意がない限り、他社や外部機関に提供してはならない ・クラウドサービスの利用時も、適切な契約を締結し管理体制を確認する |
廃棄・削除時のルールを明確にする | ・保存期間を定め、不要になったデータは安全に廃棄(復元できない状態にする) |
要配慮個人情報を適切に管理することは、企業の信用維持だけでなく、法的リスクの回避にもつながります。特に中小企業においては、限られたリソースの中で適切な管理体制を構築することが重要です。
中小企業が知っておくべき個人情報保護のポイント
個人情報の取得・保管・外部提供時にはポイントを押さえておくことが重要です。政府広報オンラインでは研修動画を発表しています。
出典)政府広報オンライン「これだけは知ってほしい個人情報保護10のチェックポイント(中小企業編)」
この動画で触れられている、以下の10の項目について対策が取れているかを確認してください。
- 個人情報の利用目的を決める
- 利用目的を本人に通知または公表する
- 取扱いのルールや責任者を決める
- 従業員の教育を行う
- 物理的に安全な措置を行う
- パソコン等にセキュリティ対策を施す
- 事業者に取扱いを委託する際は、適切な管理を求める
- 個人情報を提供する場合は、本人の同意を得る
- 提供したり提供を受けたりしたときは、年月日等を記録し保存する
- 本人からの開示や訂正、利用停止等の申出には、速やかに応じる
特に「取得・保管・外部提供」の3つのステップで適切な対策を講じることが重要です。個人情報管理を強化することで、取引先や顧客からの信頼が高まり、企業の競争力向上にもつながります。
個人情報を守らなかった際の企業のリスクとは?
企業が個人情報を適切に管理しなかった場合、業務にも深刻な打撃を与えます。個人情報保護の不備がもたらす主要なリスクを以下の表にまとめました。
リスクの種類 | 具体的な影響 |
法的リスク | 個人情報保護法違反による罰則(懲役・罰金など) |
金銭的リスク | 賠償請求、罰金、訴訟費用、漏洩対応コストの増加 |
信用リスク | 企業の評判悪化、取引先からの信頼喪失、ブランドイメージの低下 |
業務リスク | 顧客離れ、売上減少、マーケティング活動への影響 |
行政対応リスク | 個人情報保護委員会への報告義務、行政指導、業務改善命令の発動 |
個人情報保護を怠ることは単なる法的リスクにとどまらず、企業経営全体に深刻な影響を及ぼします。特に中小企業では、一つのトラブルが経営問題に発展する可能性もあるため注意しましょう。
企業の成長にとって、マーケティングやセールスなどの攻めの施策は必要です。しかしこうしたトラブルを未然に防ぐためのガバナンス、セキュリティといった守りの施策は、それ以上に重要だといえます。
個人情報保護を強化するために中小企業ができること
中小企業にとって、個人情報保護は「コストがかかる対策」ではなく「企業の信頼を守るための投資」です。特に、限られたリソースの中で実践できる具体的な対策を導入することが重要になります。
具体的には、以下の表のとおり対策を取り入れましょう。
項目 | 期待される効果 |
社内ルールの明確化 | 従業員の情報管理意識が向上し、誤った取り扱いを防ぐ。 |
従業員教育の実施 | 人的ミスによる情報漏洩を防ぎ、従業員のセキュリティ意識を向上させる。 |
技術的対策の導入 | 不正アクセスや外部からの攻撃を防ぎ、データの安全性を確保する。 |
取引先・委託先の管理 | 外部からの情報漏洩リスクを低減し、適切な管理体制を構築できる。 |
定期的なチェック | ルールが形骸化するのを防ぎ、継続的な改善が可能になる。 |
特に中小企業では個人情報管理が属人的になりがちです。担当者の異動や退職によってルールが曖昧になることがあります。再現性を持たせるために、ルール作りが必要です。
また取引先・委託先との管理を怠ると、自社の管理が適切でも外部から情報が漏洩するケースがあります。外部企業も含めてガバナンスを意識しましょう。
個人情報保護を違反した事例
個人情報保護違反の代表的な事例を紹介します。事例を知ることで、自社の個人情報管理の課題を見直し、適切な対策を講じることが重要です。
同意を得ずに内定辞退率を掲載
A社の卒業生向けの就職支援サービスで、学生の同意を得ずに「内定辞退率」を採用企業B社へ提供する事例が発生。企業側が特定の個人を識別できる可能性があり、事実上の個人情報の無断提供と判断されました。 |
出典)個人情報保護委員会「個人情報保護法の違反行為に係る事例等(個人データの違法な第三者提供等、その他)」p.3
これに対して個人情報保護委員会は関係企業に、組織体制の見直し、意識改革の必要性などについて「勧告」を実施しました。
この事例の問題点は以下です。
- 本人の同意なしにデータを第三者提供したこと
- プライバシーポリシーに明確な記載がなかったこと
- 採用活動に影響を与える可能性があること
この事例は、匿名データであっても特定の個人を識別できる可能性がある場合は、個人情報として厳格に管理すべきであることを示しています。また、個人情報を利用する際は、本人の同意取得とプライバシーポリシーの明確な開示が不可欠です。
破産者の個人データをWeb上に公開
あるWebサイトが、破産者の氏名や住所などの個人データを、地図データと紐付けて公開する事例が発生。さらに、情報の削除を希望する場合、利用者に6万円分のビットコインを要求する仕組みが問題視されました。これにより、破産者が社会的な不利益を受けるリスクが高まり、深刻なプライバシー侵害と判断されました。 |
出典)個人情報保護委員会「個人情報保護法の違反行為に係る事例等(個人データの違法な第三者提供等、その他)」p.4
これに対して個人情報保護委員会は2022年7月、11月に「停止勧告」「命令」をしました。しかし守られなかったため、2023年1月に「刑事告発」まで発展した事例です。
この事例の問題点は以下です。
- 本人の同意なしに破産者情報を公開したこと
- 削除の対価として金銭を要求する不当な行為をしたこと
- 個人情報保護委員会からの勧告、命令を無視したこと
個人情報の公開が本人の意図に反して行われることの重大なリスクを示した事例です。
特に、削除のための金銭要求は悪質性が高く、厳しい行政対応を招くことが明らかでした。企業は、個人情報の取り扱いにおいて、基本的な知識、モラルを持っておく必要があります。
Webサイトの閲覧ユーザーデータを第三者に共有
サービスにおいて、ソーシャルプラグインが設置されたWebサイトをユーザーが閲覧すると、ボタンを押さなくても「ユーザーID」などの情報が自動送信される事例が発生。さらに、アプリを介して取得した個人情報が、不正にイギリスの分析会社へ共有されていました。 |
出典)個人情報保護委員会「個人情報保護法の違反行為に係る事例等(個人データの違法な第三者提供等、その他)」p.5
これに対して行政は「ユーザーへの説明徹底」「本人同意の取得」などの指導をしました。また、アメリカのFTCやイギリスのICOなどの機関が調査し、50億ドルの支払などの処分を行っています。
この事例の問題点は以下です。
- ユーザーの意図しない形で個人情報が第三者へ自動送信されていた
- アプリ経由で不適切に個人情報を取得・共有していた
- プラットフォーム事業者の監視・管理不足だった
企業は、個人情報取得時の透明性を確保し、プライバシー保護のための管理体制を強化する必要があります。特に、プラットフォーム事業者は、第三者が開発するアプリやサービスの監視を徹底しましょう。
まとめ
中小企業の経営者やバックオフィス担当者が知っておくべき個人情報保護の基本と、具体的なリスクや対策について解説しました。個人情報の適切な管理は、法的義務の遵守はもちろん、企業の信用維持のためにも不可欠です。
近年のデジタル技術の発展により、情報漏洩や不正利用のリスクも高まっています。企業としては、ポイントを押さえたうえで適切な対策を講じましょう。
個人情報保護は「守りの施策」として、企業経営における重要な柱の一つです。今一度、自社の個人情報管理体制を見直してみましょう。
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