ユニオン(合同労働組合)からの交渉に注意!社内組合との違いや、企業の適切な対処法

ユニオン(合同労働組合)は、労働者が雇用条件の改善や権利を守るために結成する組織です。

特定の企業内に縛られず、個人で加入できるため、中小企業にとって予期せぬ交渉の申し入れが発生しやすいのが特徴です。一方、社内組合は企業内で構成されており、その性質や交渉スタイルも異なります。

ユニオンからの交渉に適切に対応しない場合、不当労働行為に該当し、法的なリスクが生じるだけでなく、企業の評判や従業員との信頼関係にも悪影響を及ぼす可能性があります。

この記事では、ユニオンと社内組合の違いを明確にし、企業としてトラブルを未然に防ぎ、適切に対応するための方法を解説します。

ユニオン(合同労働組合)とは

ユニオン(合同労働組合)とは、労働者が雇用条件の改善や不当解雇の撤回などを目的に団結し、労働者の権利を守るために活動する組織です。

とくに合同労働組合は、会社内の組合ではなく、特定の企業に属さない労働者が個人で加入できる外部の労働組合を指します。これにより、非正規雇用や個人でも労働条件改善を求めることが可能です。

ユニオンは労働基準法や労働組合法に基づいて活動し、企業に対して団体交渉を申し入れる権利を持っており、企業は適切に対応する必要があります。

以下にユニオンと社内労働組合との違いをまとめます。

項目ユニオン(合同労働組合)社内労働組合
定義特定の企業に属さない外部の労働組合で、個人が加入可能特定の企業内に設立された労働組合で、その企業の従業員が加入する組織
加入資格雇用形態や企業の所属を問わず、誰でもその企業に雇用されている従業員のみ
交渉対象一つの企業に限定されず、複数の企業や使用者に対して自社内の経営陣や管理職
活動目的個人労働者の権利保護、労働条件改善、不当解雇撤回など広範社内での賃金や労働条件の改善、職場環境の向上
団体交渉の頻度突然申し入れる場合が多く、企業にとって予期しにくい定期的に交渉を行うことが多く、企業側もスケジュールが把握しやすい
法的保護労働組合法に基づき活動の正当性が保護され、企業には交渉に応じる義務がある同じく労働組合法に基づいて保護されるが、企業内での活動が前提

ユニオンは企業外部に存在し、幅広い労働者を対象に活動するため、その活動や交渉内容が多岐にわたる点が特徴です。一方、社内組合は企業内の従業員主体であり、より内部的な問題解決に貢献します。

中小企業の従業員がユニオンに相談する理由

どのような問題が発生するとユニオンに相談されるのかを理解し、未然に防ぐ対策を考えるヒントにしましょう。

相談内容具体例
未払い残業代の請求長時間労働に対して残業代が支払われていない、または適切に計算されていない場合
・みなし残業が不当に適用される
・深夜残業手当が支払われない
不当解雇の撤回要求事前の十分な説明や手続きなしに解雇されたと感じるケース
・業績不振を理由とした解雇
・試用期間終了時の一方的な解雇
ハラスメント問題の対応要求パワハラ、セクハラ、モラハラなどが職場で発生し、適切な対応が取られないケース
・上司が暴言を吐く
・職場いじめが放置される
・セクハラが無視される
育児休業・介護休業中の待遇不利益育児休業や介護休業中に給与カット、配置転換、不当な評価を受けるケース
・復職後に降格される
・休業取得を理由に解雇される
・昇進が遅れる

労働者とのコミュニケーション不足、契約書や労働条件通知書の不備、労働法の理解不足が労働組合やユニオンへの相談につながります。

企業側の労務管理体制を強化し、ユニオンに訴えられる前に問題を解決することが求められます。

ユニオンによる団体交渉の流れとルール

ユニオンから団体交渉が申し込まれた場合、企業は基本的に拒否せず、誠実に対応する義務があります。

交渉内容を明確に整理し、労働組合法に基づいて冷静に話し合いを進めることが重要です。

不当労働行為とならないよう適切に対応し、交渉が成立すれば文書化して記録を残すことが求められます。

ユニオンによる団体交渉の流れ

ユニオンが企業に対し団体交渉を行う際の一般的な流れは以下の通りです。

プロセス具体的内容
1.ユニオンによる相談受付労働者からユニオンに対し、労働条件や不当解雇などの問題が相談され、状況を確認
2.団体交渉の申し入れユニオンが企業に対して正式な団体交渉の申し入れ
3.団体交渉日時・場所の調整企業とユニオンが協議し、団体交渉の日程や交渉の場(会議室など)を設定
4.団体交渉の実施ユニオンと企業の担当者が、未払い賃金、解雇撤回、労働条件改善などの問題について話し合い
5.合意内容の文書化双方が合意に至った場合、その内容を明確にするため文書化
(場合によって)不調時の対応交渉が不調の場合、労働委員会への申し立てや裁判手続きへと移行する場合がある

このように、企業は法的義務を理解し、迅速かつ適切に対応することが求められます。

ユニオンによる団体交渉のルール

ユニオンによる団体交渉は、労働組合法に基づき、企業と労働者(ユニオン)が対等に話し合うことが基本です。以下のルールに基づいて進められます。

  • 交渉の拒否は基本的に不可

ユニオンからの正当な交渉申し入れを企業側が拒否することはできません。これを拒否すると、不当労働行為とみなされる可能性があります。

ただし、以下のような正当な理由がある場合には拒否が可能です。

  • ユニオンが労働組合法に定める「労働組合」としての要件を満たしていない場合
  • 企業運営に関する経営事項や経営戦略に関わる内容のみを要求された場合
  • ユニオンが交渉の場で威圧的な行為を行ったり、企業を不当に困らせる目的で交渉を申し入れてきた場合
  • 労働組合ではなく無関係な個人や団体が参加しようとする場合
  • 対象となる交渉のみ

労働条件、賃金、解雇問題、ハラスメント対応など、労働者の権利に関わる事項が主な交渉内容となります。

  • 誠実な対応が求められる

交渉は互いに冷静かつ建設的な姿勢で行う必要があります。一方的な圧力や威圧的な態度はルール違反とされます。

  • 合意内容の書面化

合意に至った場合は、内容を文書化し、双方の義務や取り決めを明確にすることが重要です。これにより後のトラブルを防止します。

企業はこれらのルールを理解し、法的に適切な対応を心掛けることで、問題の円滑な解決が可能になります。

中小企業がユニオンから団体交渉を申し込まれたときの対応

ユニオンから団体交渉を申し込まれた場合、中小企業は迅速かつ適切に対応することが重要です。

団体交渉への対応を段階的に理解するのに役立つ具体的な対応ステップとポイントを整理しました。

対応ステップ具体的なポイント
1.冷静に状況を把握する冷静に対応し、感情的にならず、事実関係を確認
2.どのような要求がされているのか整理ユニオンからの要求内容(解雇撤回、賃金未払い、労働条件改善など)を正確に整理し、交渉の範囲と目的を明確化
3.書面で正式な申し入れがあるか確認団体交渉の申し入れが正式な書面で行われているか確認
不足があれば速やかにユニオン側に問い合わせ
4.法律上の義務を確認労働組合法や労働基準法に基づき、企業側が交渉に応じる義務があるかを確認
不当労働行為とならないよう法的要件をしっかり理解する
5.交渉の準備(弁護士・社労士と連携)弁護士や社会保険労務士などの専門家と連携し、交渉の進め方や法的リスクを整理
6.誠実な対応と合意形成交渉において企業は誠実な態度で臨むことが求められる
合意に至った場合は内容を文書化

中小企業は、ユニオンからの団体交渉を前向きな関係構築の機会と捉え、適切な対応を通じて問題解決と職場環境の改善を図ることが求められます。

逆に、以下のような対応は逆効果となり、企業のリスクを高めます。

  • 団体交渉を無視する
  • 圧力をかける
  • 逆に従業員を脅す

次の章で具体的なリスクについて解説します。

ユニオンとの団体交渉で中小企業が受けるリスク

中小企業がユニオンと団体交渉を行う際、法的な対応が求められるだけでなく、さまざまなリスクに直面します。

適切に対応しなければ、以下のような深刻な影響を受ける可能性があるため、注意が必要です。

リスクの種類具体例企業への影響
訴訟リスク・団体交渉の拒否や不誠実な対応による不当労働行為の認定
・労働委員会や裁判への発展
・多額の賠償金や和解金の発生
・法的手続きにかかる時間やコストの増加
風評リスク・トラブルが外部に漏洩し、SNSや口コミで拡散
・労働問題がメディアに取り上げられる
・企業イメージの悪化
・顧客や取引先からの信頼喪失
・新規採用への悪影響
労働環境の悪化・交渉の長期化による従業員間の不満の蓄積
・モチベーション低下や職場の分裂
・生産性の低下
・離職率の上昇
・従業員満足度の低下による人材確保の困難

中小企業がユニオンとの団体交渉に直面した場合、これらのリスクを正しく認識し、適切な対応を取ることが重要です。

中小企業としてユニオンとの関係を適切に保つ方法

ユニオンとの関係を適切に維持することは、トラブルを未然に防ぎ、安定した労働環境を築くために非常に重要です。

以下では、中小企業が取るべき具体的な方法を解説します。

労働環境を整備する

労働者の不満がユニオンへの相談につながるため、働きやすい環境を整えることが重要です。

具体例:

  • 残業代を明確にし、未払いを防ぐためにクラウド型勤怠管理システムを導入する。
  • 就業規則の内容を定期的に見直し、最新の法令に沿ったルールを従業員へ周知する。
  • ハラスメント防止研修を実施し、職場環境の改善を図る。

これらにより、従業員の不満を最小限に抑えられます。

従業員とのコミュニケーションを強化する

信頼関係を築くことで、職場内の問題を早期にキャッチできます。

具体例:

  • 月1回の個別面談を実施し、業務上の課題や不満を共有する場を設ける。
  • 匿名で回答可能な従業員満足度調査を行い、会社への期待や不満を把握する。
  • 従業員が気軽に相談できる窓口を設置し、専任スタッフが対応する仕組みを構築する。

これにより、従業員の声を聞き、問題の解決に迅速に取り組むことができます。

法令遵守を徹底する

労働基準法や労働組合法などの関連法令を正確に理解し、適切に対応することが必要です。

具体例:

  • 団体交渉の申し入れがあった際には無視せず、法に則った対応を行う。
  • 労働時間や賃金に関する制度が法律を満たしているか、専門家による定期的な監査を実施する。
  • 労働契約書にあるすべての労働条件を明確に記載し、不備がないことを確認する。

法令を遵守することで、ユニオンとのトラブルを予防できます。

専門家と連携する

労働問題は法的リスクが伴うため、専門家を頼ることで適切な対応が可能になります。

具体例:

  • 団体交渉時に弁護士や社労士を同席させ、法的に正しい対応を行う。
  • 労働問題が発生する前に、定期的に顧問弁護士からリスクに関する助言を受ける。
  • 労務管理体制を整えるため、専門家のコンサルティングを活用する。

専門家との連携は、企業をトラブルから守る大きな助けとなります。

ユニオンの活動を尊重する

ユニオンを労働者の権利を守るパートナーとして尊重し、建設的な関係を築くことが重要です。

具体例:

ユニオンからの交渉申し入れに対し、迅速に対応し、誠意を持って話し合う場を設ける。

  • ユニオンの提案に対して、賛否に関わらず具体的なフィードバックを行う。
  • 交渉内容を記録に残し、双方が合意した際にはその内容を確実に実行する。

対立するのではなく、協力的な姿勢を示すことで円滑な関係を保つことができます。

中小企業がユニオンと適切な関係を築くためには、労務管理や法令遵守、従業員とのコミュニケーションが鍵となります。

具体的な取り組みを積極的に行い、誠実な対応を心掛けることで、信頼関係を維持し、良好な労働環境を実現できるのです。

【事例で知る】ユニオンによる団体交渉

中央労働委員会の事例より、ユニオンによる団体交渉に関する中小企業のリスクと対応策を考えてみます。

セクシュアル・ハラスメントをめぐる民事訴訟の提起と団体交渉

事例①Y社に勤務していたAさんが、事業所の支配人Bから継続的なセクシュアル・ハラスメントを受けており、合同労組Xに加入後、退職
②労組XはY社に対し、Bによるセクハラ行為の謝罪、慰謝料の支払い、セクハラ防止措置の実施、逸失利益の支払いなどを要求し、団体交渉を申し入れ
③Y社は、Aさんが損害賠償を求める民事訴訟を別途提起したことを理由に、団体交渉を拒否
④労組Xは団体交渉応諾を求め、あっせんを申請
⑤Y社は団体交渉に応じることとなり、労使間で和解が成立
中小企業のリスク・訴訟を理由に団交拒否は不当労働行為となる可能性
・専門知識不足から不適切な対応を招きやすい
対策・訴訟中でも団交に応じる
・専門家(弁護士等)に相談
・ハラスメント防止措置を整備
・あっせん等、柔軟な解決手段も検討する

参考)中央労働委員会「[64] セクシュアル・ハラスメントをめぐる民事訴訟の提起と団体交渉(PDF)

ストライキを行ったことを理由とする派遣労働者の解雇

事例①特定労働者派遣事業を行うY社(派遣元)からZ社(派遣先)への派遣社員25名で結成したX組合は、Y社に賃上げ等の労働条件を求め団体交渉を行うも不調
②X組合はストライキ権を確立し、全日ストライキを実施したため、Z会社の生産ラインが停止
③Z会社は、Y社に対し25名の労働者派遣契約解除と1年間の新規契約凍結を通告
④Y社はZ社以外に顧客がなく、派遣社員を解雇せざるを得ない状況となり、25名の派遣社員を解雇
⑤X組合は解雇の撤回と雇用契約満了までの生活費補償を求め、Y社と団体交渉を行うも不調となり、X組合があっせんを申請
⑥あっせんの結果、Y社がX組合に対し解決金を一括で支払うことで労使双方が合意し、解決
中小企業のリスク・正当なストライキを理由とする解雇は不当労働行為に該当する可能性
・特定顧客への依存度が高い場合、ストライキによる派遣契約解除が経営に大きな打撃を与える可能性
対策・団体交渉には誠実に対応
・弁護士等の専門家に相談
・特定顧客への依存度を下げる
・ストライキ等の争議行為を未然に防ぐ労使関係を構築

参考)中央労働委員会「ストライキを行ったことを理由とする派遣労働者の解雇(PDF)

まとめ

ユニオン(合同労働組合)からの交渉は、従業員の権利を守るという正当な目的で行われますが、企業にとっては慎重な対応が求められます。

社内組合との違いを理解し、労働法に基づいた誠実な対応を取ることで、トラブルを未然に防ぐことが可能です。

また、日頃から従業員とのコミュニケーションを重視し、労働環境を整備することで、ユニオンへの相談を防ぐことにもつながります。

適切な労務管理や法令遵守に加え、専門家との連携を活用することで、交渉への備えを万全にしましょう。ユニオンとの対話を前向きな機会と捉え、労使間の信頼関係を強化することで、企業と従業員が共に成長できる環境を構築することが大切です。

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