環境基本法とは?内容と中小企業の取り組み事例をわかりやすく紹介

近年、地球温暖化や資源の枯渇、生物多様性の損失など、私たちの暮らしや経済活動に深刻な影響を及ぼす環境問題への関心が世界的に高まっています。こうした状況に対し、日本の環境政策の根幹をなしているのが「環境基本法」です。
環境基本法では、事業者に対して環境に配慮した企業活動が求められています。
この記事では、環境基本法の制定背景や企業が環境保全に取り組むべき理由、中小企業の具体的な取り組み事例まで、幅広く解説します。環境基本法への理解を深め、持続可能な社会に向けた取り組みを考えていきましょう。
環境基本法とは?
環境基本法は、国民が健康で文化的な生活を営む上で欠くことのできない良好な環境を守り、将来の世代に引き継いでいくことを目的としています。
第一条 この法律は、環境の保全について、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにするとともに、環境の保全に関する施策の基本となる事項を定めることにより、環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とする。 |
出典)e-Gov 法令検索「環境基本法」
具体的には、環境保全に関する基本的な理念や、国、地方公共団体、事業者、そして国民それぞれの責務を定めています。
個別の環境問題に対処する法律(大気汚染防止法や水質汚濁防止法など)の上位に位置づけられ、日本の環境行政全体の方向性を決定づける重要な役割を担っているのです。
環境基本法が制定された背景
環境基本法が制定されるに至った背景には、いくつかの要因があります。
まず、高度経済成長期における深刻な公害問題(水俣病や四日市ぜんそくなど)の発生が挙げられます。
これらに対応するため、1967年には公害対策基本法が制定されましたが、この法律は主に産業活動に伴う公害への対策が中心でした。
その後、地球温暖化やオゾン層の破壊、生物多様性の損失といった地球規模の環境問題が明らかになり、国際的な関心が高まっていきました。
こうした国内外の状況の変化を受け、従来の公害対策だけでは対応しきれない、より広範な環境問題へ総合的に取り組むための新たな法的な枠組みが必要とされたのです。
参考)独立行政法人環境再生保全機構「公害対策基本法の成立(1967年)」
参考)環境省「持続可能な開発−対立から統合へ−」
環境基本法の変遷
環境基本法の前身となったのは、1967年に制定された「公害対策基本法」です。しかし、公害への対策を主眼としており、地球環境問題など新たな課題に十分に対応できるものではありませんでした。
そこで、持続可能な社会の実現を目指すため、1993年に環境基本法が新たに制定されました。
環境基本法は、公害対策基本法の理念を引き継ぎつつ、環境保全の範囲を地球環境全体に広げ、国、自治体、事業者、国民が一体となって取り組むべき責務を明確にした、より進化した環境政策の基本法として位置づけられています。
参考)独立行政法人環境再生保全機構「環境基本法の制定(1993年)」
環境基本法の内容
環境基本法は、日本の環境政策の土台となる法律であり、その内容は多岐にわたります。
環境を守るための取り組みを、場当たり的ではなく、総合的かつ計画的に行うための具体的な仕組みも規定しています。
環境基本法の理念や柱を見ていきましょう。
環境基本法の3つの理念
環境基本法は、次の3つの理念を掲げています。
- 環境の恵沢の享受と継承
- 環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築
- 国際的協調による地球環境保全の積極的推進
環境基本法は、豊かな環境を将来の世代へ確実に引き継ぐことを目指しています。また、環境への負荷を減らしつつ社会経済が持続的に発展できる社会を構築し、国境を越える地球規模の環境問題に対しては、国際社会と協力して積極的に取り組むことを基本理念としています。
参考)環境省「新たな環境政策の枠組み」
環境基本法の4つの柱
環境基本法の施策は、以下の4つの柱に基づいています。
循環 | 資源を効率的に利用し、廃棄物を減らし、リサイクルを進めて環境負荷を低減する |
共生 | 豊かな自然や生態系を守り、回復させ、人と自然が調和する社会を目指す |
参加 | 国、自治体、企業、国民などすべての主体が、公平な役割分担のもと協力して環境保全に取り組む |
国際的取組 | 地球温暖化など国境を越える問題に対し、国際社会と連携して解決に貢献する |
これらが一体となって、現在および将来の世代のための良好な環境を確保し、持続可能な社会を築いていくための基盤となります。
参考)環境省「環境基本法の概要」
中小企業が環境保全に取り組むメリット
環境保全への取り組みは、単なる社会貢献活動にとどまらず、企業経営そのものに多くのメリットをもたらす可能性があります。具体的には以下のとおりです。
- 優位性の構築
- 光熱費・燃料費の低減
- 知名度や認知度の向上
- 従業員のモチベーション向上や人材獲得力の強化
- 資金調達において有利にはたらく
それぞれ見ていきましょう。
優位性の構築
環境問題への関心が高まる現代において、企業が環境保全に積極的に取り組む姿勢は、競合他社との差別化につながります。環境に配慮した製品やサービスは、環境意識の高い消費者や取引先から選ばれる理由となるからです。
また、環境マネジメントシステムの国際規格であるISO14001の認証取得などは、企業の環境に対する取り組みを客観的に証明し、社会的な信頼を高める効果が期待できます。こうした取り組みを通じて、「環境に優しい企業」というブランドイメージを構築することは、競争優位性を確立するうえで有効な戦略といえます。
光熱費・燃料費の低減
環境保全活動の多くは、エネルギー効率の改善や資源の有効活用に直結します。たとえば、工場やオフィスの照明をLEDに交換したり、省エネ性能の高い設備を導入したり、断熱性を高めたりすることで、電気やガスの使用量を削減できます。
また、社用車を燃費の良い車両に入れ替える、輸送ルートを見直すといった取り組みも有効です。日々の業務におけるエネルギー消費や資源利用を見直し、改善していくことは、直接的なコスト削減効果を生み出し、企業の収益性向上に貢献します。
知名度や認知度の向上
企業が環境保全に真摯に取り組む姿は、社会から高く評価される傾向にあります。環境に関する賞を受賞したり、メディアでその活動が取り上げられたりすれば、企業の知名度やイメージアップに大きく貢献します。
また、自社のウェブサイトやSNS、統合報告書などを通じて、環境への取り組みを積極的に情報発信することも重要です。これにより、消費者、投資家、地域社会など、様々なステークホルダーからの共感や支持を得やすくなり、企業の認知度向上につながる可能性があります。
従業員のモチベーション向上や人材獲得力の強化
自社が社会貢献度の高い環境保全活動に取り組んでいるという事実は、従業員の企業に対する誇りや愛着を高める要因となります。環境問題への意識が高い従業員にとっては、日々の業務が社会的な意義を持つと感じられ、仕事へのモチベーション向上が期待されます。
さらに、環境への配慮を重視する企業文化は、就職活動を行う学生や求職者にとっても魅力的に映るのがメリットです。若年層ほどサステナビリティへの関心が高い傾向にあるため、若い人材を獲得し、定着させる上で、企業の環境への取り組みは重要な要素といえます。
資金調達において有利にはたらく
近年、投資判断において企業の環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)への取り組みを重視する「ESG投資」が拡大しています。環境保全に積極的に取り組む企業は、こうしたESG投資家からの資金を呼び込みやすくなるのです。
また、国や地方公共団体は、企業の省エネ設備導入や再生可能エネルギー活用などを支援するための様々な補助金や助成金制度を設けています。これらの制度をうまく活用することで、環境投資の負担を軽減できます。
環境基本法の罰則
環境基本法は、日本の環境政策の根幹となる理念や基本的な方向性を示す法律であり、いわば環境に関する法律の「憲法」のような位置づけです。そのため、環境基本法そのものには、特定の行為を直接禁止したり、違反した場合に懲役や罰金を科したりするような罰則規定は含まれていません。
しかし、環境基本法の理念を実現するために、より具体的な規制や基準を定めた個別の環境関連法が数多く存在します。
たとえば、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、土壌汚染対策法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律などがこれにあたります。これらの個別法には、それぞれ具体的な規制内容と、それに違反した場合の罰則が明確に定められています。
【罰則の例】
大気汚染防止法 | ・ばい煙の排出制限に違反した場合、6月以下の懲役または50万円以下の罰金 ・ばい煙発生施設の設置の届出をしなかった場合、30万円以下の罰金 |
水質汚濁防止法 | ・改善命令に違反した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金 ・排出水の排出の制限に違反した場合、6月以下の懲役または50万円以下の罰金 |
土壌汚染対策法 | ・措置命令に違反した場合、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金 ・変更の許可の届け出をしなかった場合、3月以下の懲役又は30万円以下の罰金 |
廃棄物の処理及び清掃に関する法律 | ・一般廃棄物処理業の許可を受けずに事業を行った場合、5年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金 |
したがって、企業の活動などが環境基本法の精神に反し、結果的にこれらの法律における違反行為があれば、その個別法の規定に基づいて罰則が科される可能性があるのです。
参考)e-Gov 法令検索「大気汚染防止法」
参考)e-Gov 法令検索「水質汚濁防止法」
参考)e-Gov 法令検索「土壌汚染対策法」
参考)e-Gov 法令検索「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」
中小企業における環境への取り組み事例
環境基本法の理念を踏まえ、環境保全に取り組むことは大企業だけの課題ではありません。資源や人材が限られる中小企業においても、工夫次第で効果的な環境対策を進めることが可能です。
実際に、多くの中小企業が環境への取り組みを通じて、コスト削減や生産性向上といった経営上のメリットを実現しています。ここでは、具体的な取り組み事例を見ていきましょう。
参考)環境省「中小規模事業者のための 脱炭素経営ハンドブック」
エネルギーコスト削減に取り組んだ事例
株式会社大川印刷は、1881年創業の「ソーシャルプリンティングカンパニー®」として、本業を通じた社会課題解決に取り組んでいます。
具体的な行動として、LED UV印刷機の導入による省エネルギー化や、自社工場の屋根への太陽光発電設置、さらに風力発電由来の電力購入を組み合わせることで、事業所で使用する電力の再生可能エネルギー100%化を達成しました。
これらの先進的な脱炭素経営は、単に環境負荷を低減するだけでなく、売上増加とエネルギーコスト削減の同時実現、災害時における事業継続計画(BCP)の強化、メディア露出による新規取引先の獲得、そして従業員の環境意識向上とモチベーションアップといった、多岐にわたる経営上のメリットをもたらしています。
参考)環境省「中小規模事業者のための 脱炭素経営ハンドブック」p.8-11
省エネ無料診断を受けて施策に落とし込んだ事例
山形精密鋳造株式会社は、自動車部品などを製造している会社です。将来、サプライチェーン全体での環境対応が求められることを見越し、競争力強化のために温室効果ガス削減に取り組んでいます。
同社では、電力消費の6割を占める溶解工程での省エネは難しいと判断しました。その代わりに、県の電力測定事業や国の省エネ無料診断を活用し、他の工程での課題を把握しました。国の補助金も利用しながら、コンプレッサーやボイラーの効率化、LED照明の導入などを着実に進め、光熱費削減を実現しています。
取り組みはトップダウンで始まりましたが、「省エネ推進委員会」を設置して現場からのアイデアを吸い上げるボトムアップの仕組みを構築し、継続的な活動につなげています。
参考)環境省「中小規模事業者のための 脱炭素経営ハンドブック」p.12-14
補助金を活用した事例
中部産商株式会社は、ストレーナーなどの鋳造用耐火物を製造販売しています。大きな課題であった焼成工程の高額なガス代(年間約1,200万円)と乾燥工程の電気代に対し、徹底した省エネ対策を実施しました。
具体的には、既存の焼成炉における燃焼ガス流量管理の最適化や、補助金を活用した新型炉導入による製品ごとの温度調整、乾燥工程の遠赤外線電気乾燥への変更、コンプレッサー更新、照明のLED化などです。
これらの多角的な取り組みの結果、生産量は増加したにも関わらず、ガス消費量を約半分に削減し、年間1,000万円以上の光熱費削減に成功しました。このコスト削減効果は、これまで採算の合わなかった製品の積極的な拡販を可能にし、製造原価のさらなる低減と業界内での知名度向上という経営上の好循環を生み出しています。
参考)環境省「中小規模事業者のための 脱炭素経営ハンドブック」p.15-16
まとめ
この記事では、日本の環境政策の根幹である環境基本法について解説しました。この法律は、豊かな環境を将来世代へ引き継ぎ、持続可能な社会を築くこと、そして国際協調の下で地球環境保全を進めることを基本理念としています。
企業が環境保全に取り組むことは、コスト削減や競争力の強化、人材獲得など多くの経営メリットをもたらします。中小企業の事例も参考に、自社での取り組みを考えていきましょう。
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