残業代が出ない会社が抱えるリスクとは?会社側がやりがちなNG行為も紹介
原則として、会社が労働者に法定労働時間を超える労働や休日労働をさせた場合、残業代を支払う義務があります。
この義務を怠ることは、単に法律に違反するだけでなく、企業にとって想像以上に大きなリスクを招く可能性があるのです。
この記事では「残業代が出ない会社」が直面する可能性のある法的責任や、企業イメージの低下といった深刻なリスクを解説します。
さらに、コスト削減や誤った認識から、中小企業を中心とした残業代が出ない会社のNG行為についても具体的に紹介します。
目次
残業代が出ないのは違法性あり
日本の労働基準法では、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて労働させた場合、または法定休日に労働させた場合、その時間に対して割増賃金(残業代)を支払う義務があります。
「うちの会社は残業代が出ないのが当たり前だ」「そういう決まりになっている」といった会社側の主張は、法律の前では通用しません。
したがって、残業代が出ない会社には、明確な法律違反があると言えます。
参考)e-Gov 法令検索「労働基準法」
残業代が出ない会社の割合
残業代が出ない会社の割合に関するデータは公開されていませんが、厚生労働省では賃金不払い残業を解消するために、労働基準監督署による監督指導を継続的に行っています。
令和5年は、残業代が出ていない企業への監督指導により、賃金不払い残業の件数、労働者数、金額のいずれも、9割以上が年内に支払われたというデータがあります。
参考)厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和5年)」
残業代が出ないケース【例外】
原則として、会社は労働者に残業代を支払う義務があるものの、労働基準法にはいくつかの例外規定が存在します。これらの例外に該当する場合、残業代が出ません。
残業代が出ない役職
労働基準法では、「管理監督者」に該当する労働者については、労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されません。そのため、管理監督者には時間外労働や休日労働に対する割増賃金、つまり残業代が出ないとされています。
| (労働時間等に関する規定の適用除外) 第四十一条 二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者 |
出典)e-Gov 法令検索「労働基準法」
しかし、「管理監督者」に該当するかどうかは、その職務内容、権限、待遇などを総合的に判断します。具体的には、以下の要素が重要視されます。
- 重要な会議への参加や経営方針への関与など、経営判断に参画している
- 広い裁量権を持ち、自分の判断で業務を遂行できる
- 部下の採用や解雇、人事評価など、労務管理に関する権限を有している
- その地位にふさわしい高い賃金が支払われている
- 時間管理の対象となる一般の労働者と比較して、明確に優遇されている
単に「部長」「課長」といった肩書が付いているだけで、上記の要件を満たさない場合は、「名ばかり管理職」と判断され、残業代の支払い義務が発生します。
参考)厚生労働省「しっかりマスター 労働基準法 管理監督者編」
残業代が出ない賃金制度
特定の賃金制度を採用している場合、残業代の支払われ方が通常と異なることがあります。
固定残業制
一定時間分の残業代を毎月の給与にあらかじめ含めて支払う、固定残業代制自体は違法ではありませんが、有効と認められるためには以下の要件を満たす必要があります。
- 通常の賃金と固定残業代が明確に区分されている
- 固定残業代に対応する残業時間数が明示されている
- 実際の残業時間が固定残業代に含まれる時間を超えた場合、超過分の残業代が別途支払われる
これらの要件を満たしていない場合、無効と判断されます。
参考)厚生労働省「事業者・労務管理担当の方のQ&A」
みなし時間労働制
みなし時間労働制は、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定められた時間だけ労働したものとみなす制度です。
| 制度の種類 | 適用できる場合 | 条件 |
| 事業場外労働 | 営業職など、事業場外で労働し、労働時間の算定が困難 | 業務遂行に必要な時間があらかじめ明確に定められている場合に限る |
| 専門業務型裁量労働制 | 研究開発、情報処理システムの設計・分析、編集、デザイナーなど、専門性の高い一部の業務について、労働者に広い裁量を与えて業務を進める | 労使協定で対象業務やみなし労働時間などを定める必要がある |
| 企画業務型裁量労働制 | 企業の経営企画、調査・分析、情報システム企画などの業務について、労働者に裁量を与えて業務を進める | 労使委員会での決議と労働者本人の同意が必要 |
これらの制度が適正に運用されている場合、みなし労働時間を超える労働に対しては、別途残業代を出す必要があります。残業代が出ない仕事だからといって、すべての残業が対象外となるわけではありません。
参考)
厚生労働省「『事業外労働に関するみなし労働時間制』の適正な運用のために」
厚生労働省「専門業務型裁量労働制について」
厚生労働省「企画業務型裁量労働制について」
公務員は残業代が出ないこともある
国家公務員や地方公務員の場合、その労働時間や賃金に関する規定は、一般の労働者を対象とする労働基準法とは異なります。地方公務員法58条で労働基準法の適用除外が定められているためです。
一般的に、公務員にも時間外勤務手当や休日勤務手当といった、いわゆる残業代に相当する手当が支給されます。
しかし、予算の制約や特別な規定により、一部の職種や階級、または特定の状況下においては、残業代が支給されないケースがあるのです。
参考)e-Gov 法令検索「地方公務員法」
残業代が出ない中小企業がやりがちなNG行為
中小企業においては、人手不足やコスト削減のプレッシャーから、意図せず、あるいは誤った認識のままに残業代の未払いにつながるNG行為が見受けられます。
以下にその問題点を解説します。
残業が出ない名ばかりの管理職を増やす
人件費を抑制するために、実際には管理監督者としての権限や責任、待遇が伴わないにもかかわらず、従業員を「管理職」という肩書にするケースがあります。これは典型的な違法行為であり、残業代が出ない管理職を作り出す温床となります。
参考)厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」
タイムカードを定時で打刻させる
従業員が実際には残業しているにもかかわらず、「定時になったらタイムカードを打刻するように」と指示する行為は、残業代を出さないための明白な不正行為です。これは、労働時間の記録を改ざんし、残業の事実を隠蔽する意図があるとみなされます。
持ち帰りの仕事に残業が出ない
持ち帰りで行った仕事に対する残業代を出さないという考え方も、誤った認識です。
たとえ自宅に仕事を持ち帰って行った場合でも、それが会社の指示によるものであったり、業務遂行上必要不可欠な行為であったりする場合は、労働時間とみなされます。
残業が出ない企業のリスクは深刻
企業が安易なコストカットや誤った認識から適切な残業代が出ない場合、そのリスクは非常に深刻です。
- 労働基準監督署からの是正勧告を受ける
- 懲役や罰金が科される可能性
- 従業員から未払い残業代請求や集団訴訟を受ける
是正勧告は、違反状態を改善するよう行政指導が入るものであり、企業イメージの低下は避けられません。
また、労働基準法に違反し、悪質な残業代未払いを行った場合、企業やその責任者は刑事罰を受ける可能性があります。
残業代の未払いは、従業員の不満を募らせ、最終的には未払い残業代の請求という形で企業に大きな経済的負担をもたらすのです。
一人ひとりの請求額は小さくても、長期間にわたる未払いや、多数の従業員からの請求が重なると、その総額は莫大なものになる可能性があります。
参考)e-Gov 法令検索「労働基準法」
「残業代が出ない会社」からの脱却を図るステップ
もしあなたの会社が、これまで残業代を適切に支払ってこなかった場合でも、今から改善を図ることは十分に可能です。「残業代が出ない会社」という状態から脱却し、健全な労務管理体制を構築するための具体的なステップをご紹介します。
1. 現状の正確な把握と問題点の洗い出し
最初に行うべきは、現状の労働時間管理と賃金支払いの実態を詳細に把握することです。従業員の労働時間の記録方法、残業時間の計算方法、残業代の支払い状況などを改めて確認します。
タイムカードや勤怠管理システムだけでなく、日報や業務日誌なども参考に、実態との乖離がないかを検証しましょう。
2. 法令遵守の徹底と意識改革
現状の問題点を把握したら、労働基準法をはじめとする関連法規を改めて確認し、正しい知識を全社的に共有することが不可欠です。
経営層から従業員まで、残業代の支払いについて、理解を深めるための研修や勉強会を実施します。
3. 適切な労働時間管理体制の構築
正確な残業時間を把握するために、ICカードや生体認証を用いた勤怠管理システムの導入、適切なタイムカードの運用ルールの策定など、実労働時間を正確に記録できる仕組みを整えます。
また、残業を許可制にする、事前申請を義務付けるなど、不要な残業を抑制するための取り組みも重要です。
4. 適法な賃金制度への見直し
固定残業代制や裁量労働制などを導入している場合は、その運用が法律の要件を満たしているか再度確認します。
固定残業代が基本給と明確に区分されているか、実際の残業時間に見合った金額が支払われているかなどを検証し、不備があれば改善する必要があります。場合によっては、これらの制度の導入自体を見直すことも検討すべきです。
5. 未払い残業代の清算
過去に未払いとなっている残業代がある場合は、早急にその金額を算出し、従業員に支払う必要があります。未払いの事実を放置することは、さらなる法的リスクを高めるだけでなく、従業員の信頼を大きく損なう行為です。
6. 従業員とのコミュニケーションの強化
制度や運用を変更する際は、その目的や内容を従業員に丁寧に説明し、理解と協力を得るように努めます。透明性の高い情報共有は、従業員の不安を解消し、信頼関係を構築する上で不可欠です。
7. 専門家との連携
自社だけで改善を進めることが難しい場合は、弁護士や社会保険労務士などの専門家のサポートを積極的に活用します。専門的な知識やノウハウに基づいたアドバイスを受けることで、より確実かつ効率的に「残業代が出ない会社」からの脱却を図れます。
まとめ
残業代が出ない会社の長期的な損失は計り知れません。一時的なコスト削減に目がくらみ、労働基準監督署からの是正勧告や刑事罰、従業員からの訴訟を起こされるリスクだけでなく、企業文化の悪化や人材流出といった目に見えないダメージも深刻です。
健全な企業運営のためには、従業員の権利を尊重し、適切な残業代を支払うことが不可欠です。
誤ったコストカットに走るのではなく、コンプライアンスを重視した経営こそが、企業の持続的な成長と信頼につながる道であることを肝に銘じる必要があります。
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