下請法の対象かどうかを確認するには?中小企業が押さえるべきポイントを解説

事業を行う際、自社の取引が下請法の対象になるのか、判断に迷うこともあるでしょう。取引先との関係や事業規模によっては、知らぬ間に下請法に違反するリスクもあるため注意が必要です。
この記事では、どのような場合に下請法の対象となるのか、その判断基準となる「資本金額」や「取引内容」について詳しく解説します。また、子会社を通じた取引における注意点や、親事業者が守るべき義務、違反した場合の罰則についても触れていきます。
下請法に関する疑問を解消し、安心して事業活動を進めるためにも、ぜひ参考にしてください。
下請法の対象かどうかを確認する方法
自社の取引が下請法の対象となるかどうかを、正確に把握することは事業をするうえで欠かせません。下請法の適用を判断するには、資本金額と取引内容、禁止行為などを確認する必要があります。
各項目を詳しく見ていきましょう。
資本金額
取引する両者の資本金額の組み合わせにより、下請法の対象となるかどうかが判断されます。
具体的には、以下のとおりです。
物品の製造・修理委託及び政令で定める情報成果物・役務提供委託を行う場合
※プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管および情報処理に係るもの
親事業者 | 下請事業者 |
資本金3億円超 | 資本金3億円以下(個人を含む) |
資本金1千万円超3億円以下 | 資本金1千万円以下(個人を含む) |
情報成果物作成・役務提供委託を行う場合(上記の情報成果物・役務提供委託を除く。)
親事業者 | 下請事業者 |
資本金5千万円超 | 資本金5千万円以下(個人を含む) |
資本金1千万円超5千万円以下 | 資本金1千万円以下(個人を含む) |
親事業者と下請事業者の双方がこれらの基準を満たす場合に、下請法が適用されます。
参考)公正取引委員会 「下請法の概要」
取引内容
下請法が適用されるのは、特定の取引内容に限られます。大きく分けて以下の4種類です。
種類 | 取引内容 |
製造委託 | 物品を販売し、または製造を請け負っている事業者が、規格、品質、形状、デザイン、ブランドなどを指定して、他の事業者に物品の製造や加工などを委託すること |
修理委託 | 物品の修理を請け負っている事業者がその修理を他の事業者に委託したり,自社で使用する物品を自社で修理している場合に、その修理の一部を他の事業者に委託すること |
情報成果物作成委託 | ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなど、情報成果物の提供や作成を行う事業者が、他の事業者にその作成作業を委託すること |
役務提供委託 | 運送やビルメンテナンスをはじめ、各種サービスの提供を行う事業者が、請け負った役務の提供を他の事業者に委託すること |
自社が行っている取引が、これらのいずれかの類型に当てはまるかどうかを確認することが重要です。
判断に迷う場合は、公正取引委員会に相談しましょう。
参考)公正取引委員会 「ポイント解説下請法」
禁止行為
下請法では、親事業者が下請事業者に対して行うべきではない「禁止行為」が11項目定められています。
具体的には、以下のとおりです。
禁止行為 | 内容 | 対策 |
受領拒否の禁止 | 正当な理由なく発注した物品等の受領を拒否すること | ・検収(受領)手続きの明確化・社内教育の徹底 |
下請代金の支払遅延の禁止 | 支払期日(受領後60日以内)までに下請代金を支払わないこと | ・支払スケジュールの管理徹底・システム導入による支払管理 |
下請代金の減額の禁止 | 下請事業者に責任がないのに、一方的に下請代金を減額すること | ・契約内容の明確化・書面化・取引条件変更時の同意手続き |
返品の禁止 | 下請事業者に責任がないのに、発注した物品等を受領後に返品すること | ・検収プロセスの明確化・厳密化・品質トラブルへの事前対策 |
買いたたきの禁止 | 著しく低い下請代金を不当に定めること | ・適正価格算出のルール化・コストダウン交渉のプロセス明確化 |
購入・利用強制の禁止 | 親事業者の指定する商品やサービスを、下請事業者に強制的に購入・利用させること | ・購入・利用が必要な場合の透明性確保・競争入札や選択肢の提示・不当に利益を得ない社内ルール |
報復措置の禁止 | 請事業者が公正取引委員会に違反行為を申告した場合などに、取引を停止したり、不利な扱いをすること | ・コンプライアンス教育の徹底 |
有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止 | 有償で支給した原材料などの代金を、下請代金の支払期日よりも早く支払わせること | ・適正価格算出のルール化・追加費用発生時の協議 |
割引困難な手形の交付の禁止 | 下請代金の支払いに、割引が困難な手形を交付すること | ・支払方法の多様化・透明化・手形期間の明確な設定 |
不当な経済上の利益の提供要請の禁止 | 自己のために、下請事業者に金銭やサービスなどの経済的な利益を不当に要求すること | ・取引条件・費用負担の明確化・不正な寄付・協賛金の要求禁止ルール・コンプライアンス監査の強化 |
不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止 | 下請事業者に責任がないのに、給付内容を変更させたり、やり直しをさせること | ・変更プロセスの書面化・原因分析と費用負担のルール化・再作業・修正の基準設定 |
下請法違反は、故意ではなく禁止行為への認識が足りずに発生するケースがあるため、まずは禁止行為の理解を深めましょう。
参考)政府広報オンライン「下請事業者を守る「下請法」親事業者との取引で困ったら相談を!」
【中小企業も該当】子会社を通して取引する際の注意点
下請法の適用は、大企業だけの問題ではありません。たとえ自社が中小企業であっても、取引の形態によっては下請法の対象となるケースがあるため注意しましょう。
とくに、資本金の大きな親会社が存在し、その子会社を通して間接的に下請事業者へ発注するような場合、その子会社が下請法上の「親事業者」とみなされる可能性があります。
形式的には資本金要件を満たさなくても、実質的に親会社が取引を決定していると判断されれば、下請法の規制が及ぶのです。
再委託
再委託とは、受託者が発注者から委託された業務を、さらに第三者に委託することを指します。たとえば、A社がB社に業務を委託し、B社がその業務の全部または一部をC社に再委託するといった行為です。
再委託の可否は、契約形態によって異なります。請負契約では、成果物の完成が目的であるため、原則として再委託は可能です。
一方、委任契約(準委任契約)では、受任者の専門的な能力や信頼関係が重視されるため、原則として再委託(復委任)は禁止されています。
ただし、委任者の承諾がある場合ややむを得ない事情がある場合には、再委託が認められることもあるのです。
再委託禁止の業務はもちろんのことながら、再委託可能の業務であっても、業務遅延等のトラブルが生じた場合、再委託をした元請けの法人が責任を負うため注意しましょう。
トンネル会社規制
下請法の適用を意図的に回避する目的で、実質的な取引に関与しない形式的な中間会社(いわゆる「トンネル会社」)を取引に介在させる行為は、規制の対象となるので注意が必要です。
たとえば、本来であれば下請法の対象となる資本金規模の親会社が、規制を免れるために資本金の小さい子会社を設立し、その子会社を通じて下請事業者に発注するようなケースが考えられます。
しかし、形式上は子会社との取引であっても、以下に該当すると親会社による直接の取引とみなされ、下請法違反となる可能性があります。
- 議決権が過半数あるなど、親会社が、役員の任免、業務の執行等について、子会社を実質的に支配していること
- 親会社から受けた委託の額又は量の50%以上を再委託しているなど相当部分を他の事業者に再委託していること
公正取引委員会はこのような脱法行為を監視しており、発覚した場合は指導や勧告の対象となるのです。
参考)公正取引委員会 「ポイント解説下請法」p.7
下請法違反を避けるために理解しておくべきポイント
下請法違反を未然に防ぐためには、親事業者に課せられている義務の内容と、万が一違反した場合にどのような罰則が待っているのかを正確に理解しておくことが重要です。
ここからは、下請法における親事業者の4つの義務と違反した場合の罰則について解説します。
下請法における親事業者の4つの義務
下請法では、親事業者に対して4つの重要な義務を課しています。
義務 | 内容 |
書面交付の義務 | 委託内容、下請代金の額、支払期日、支払方法などを具体的に記載した書面を下請事業者に交付する |
支払期日を定める義務 | 下請代金の支払期日を、物品等を受け取った日から数えて60日以内の、できる限り短い期間内に定める |
書類の作成・保存義務 | 給付の内容や下請代金の額など、取引に関する記録を作成し、2年間保存する |
遅延利息の支払義務 | 定められた支払期日までに下請代金を支払わなかった場合は、年率14.6%の遅延利息を支払う |
これらの義務を怠ると、下請法違反となり罰則の対象となる可能性があるため、内容を理解し、遵守しましょう。
参考)公正取引委員会「親事業者の義務」
違反した場合の罰則
下請法に違反した場合、公正取引委員会から勧告や命令を受けたり、50万円以下の罰金刑が科されたりする恐れがあります。
また、下請事業者に損害が発生した場合、民事上の裁判になる可能性があります。
参考)e-Gov 法令検索「下請代金支払遅延等防止法」
下請法を遵守するためのポイント
下請法を遵守するためには、法律知識を深めることに加えて、日常の業務プロセスの中でチェックする仕組みを組み込む必要があります。
ここからは、そのための具体的な取り組みのポイントを解説します。
マニュアルやチェックリストを作成する
下請法を確実に遵守するためには、担当者任せにせず、組織的な運用体制の整備が不可欠です。
具体的な業務フローや確認事項を明文化したマニュアルや、チェックリストを作成することが有効な手段となります。
これらのツールを整備することで、担当者が変わっても、あるいは経験の少ない従業員であっても、遵守すべき重要なポイントを確実にチェックできるようになります。
とくに、下請代金の支払期日、発注書面の交付内容、返品や減額の扱いなど、法令違反に直結しやすいポイントをチェック項目として落とし込むことで、リスクの早期発見と対応が可能です。
リーガルチェックを受けた契約書を用意する
下請法の違反リスクを避けるには、契約書の内容が法令に適合しているかを専門家に確認してもらう「リーガルチェック」が重要です。
実務では、雛形や過去の契約書を流用して取引を進めてしまうケースも多いですが、その中に法的に不適切な条項や、下請法上問題となる表現が含まれていることがあります。
とくに注意が必要なのは、支払条件、検収期間、返品・変更条項、再委託に関する規定など、下請法で義務や制限が定められている事項です。
弁護士や法務担当者による事前のチェックを通じて、契約の透明性と法的安全性を確保することで、トラブルの防止につながります。
また、契約締結後も法改正や業界動向に応じて定期的に見直すことが、継続的なコンプライアンス体制の維持には不可欠です。
まとめ
この記事では、下請法の対象となるかどうかを確認するための資本金額や取引内容、禁止行為を中心に解説しました。
親事業者には書面の交付や適切な支払期日の設定などの義務があり、違反した場合には勧告や罰金といったペナルティが科される可能性があります。
下請法違反を避けるためには、社内マニュアルの整備や、専門家による契約書のリーガルチェックといった具体的な対策を講じることが重要です。
下請法を正しく理解し、遵守することは、取引先との信頼関係を築き、コンプライアンスリスクを低減するために欠かせません。日常の取引においても、法的ルールを意識した適切な対応を心がけましょう。
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