モデル就業規則とは?全14章を徹底解説!中小企業向けカスタマイズ方法も紹介

就業規則は、会社と従業員との間のルールを明確にし、お互いが安心して働くために欠かせないものです。
とくに中小企業にとっては、予期せぬ労使トラブルを防ぎ、健全な事業運営をおこなう上で非常に重要な役割を果たします。しかし、就業規則をゼロから作成するのは大変な労力が必要となる場合も少なくありません。
そこで参考になるのが、厚生労働省が公開している「モデル就業規則」です。この記事では、「モデル就業規則」がどのようなものか、14章からなる主要な項目内容、注意点も含めて徹底的に解説します。
目次
厚生労働省の就業規則モデルとは?
厚生労働省が公開している「モデル就業規則」は、労働時間や賃金、服務規律といった労働条件に関するルールを定める際に参考となるひな形です。
事業規模や業種を問わず、労働者が安心して働ける職場環境を作るために、就業規則で労働条件などを明確にすることは非常に重要です。
モデル就業規則は、法令に準拠しており、多くの企業、とくに中小企業が自社の実態に合わせた就業規則を作成する際の土台として活用できます。
必ず記載が必要な「絶対的必要記載事項」と、ルールを定める場合に記載する「相対的必要記載事項」が盛り込まれており、労使間の不要なトラブルを防ぐ助けとなります。
参考)厚生労働省「モデル就業規則について」
就業規則の絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項とは?
就業規則に必ず記載しなければならない事項と、会社でルールを設ける場合に記載が必要な事項は、労働基準法第89条によって以下のように定められています。
必要記載事項 | 項目 | 内容 |
絶対的必要記載事項 | 労働時間 | 始業および終業の時刻 休憩時間 休日 休暇 労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項 |
賃金 | 賃金の決定、計算および支払の方法 賃金の締切りおよび支払の時期 昇給に関する事項 | |
退職 | 退職に関する事項(解雇の事由を含む) | |
相対的必要記載事項 | 退職手当 | 適用される労働者の範囲 退職手当の決定、計算および支払の方法 退職手当の支払時期 |
臨時の賃金 | 臨時の賃金等(賞与等)および最低賃金額に関する事項 | |
費用負担 | 労働者に食費、作業用品その他の負担させる定めをする場合においては、これに関する事項 | |
安全衛生 | 安全および衛生に関する事項 | |
職業訓練 | 職業訓練に関する事項 | |
災害補償など | 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項 | |
表彰および制裁 | 表彰および制裁の種類および程度に関する事項 | |
その他 | その他当該事業場の全労働者に適用される定めをする場合においては、これに関する事項 |
参考)e-Gov 法令検索「労働基準法」
これらの就業規則を自社で作成する際には、モデル就業規則を活用すると安心です。
【全14章】モデル就業規則の主要項目を一気に解説
厚生労働省のモデル就業規則の各章について、中小企業が注意すべき点を一覧表にまとめました。
章 | 中小企業が注意すべき点 | |
1 | 総則 | ・就業規則はすべての労働者に適用されるため、パートタイム労働者や有期雇用労働者等がいる場合は、別途規定や就業規則が必要か検討する ・法令や労働協約に反しないように定める ・就業規則は労働者と使用者が誠実に遵守する義務がある |
2 | 採用・異動など | ・採用において男女均等な機会を与え、間接差別につながるような要件(身長・体重・体力、転居を伴う転勤等)は設けない ・試用期間が14日を超えてからの解雇には解雇予告または解雇予告手当が必要 ・労働条件は、原則書面の交付により明示する必要がある |
3 | 服務規律 | ・必須記載事項ではないが、職場の秩序維持に重要 ・あらゆるハラスメントの防止措置を講じる必要がある ・個人情報保護について、労働者への注意喚起と返却義務等を定める ・労働時間の適正な把握のため、始業・終業時刻の記録方法や自己申告制の場合の措置等を定める |
4 | 労働時間、休憩および休日 | ・絶対的必要記載事項であり、実態に合った規定を設ける ・時間外および休日労働は、36協定の範囲内で労働基準法に基づきおこなう |
5 | 休暇など | ・年次有給休暇は、労働者の権利であり、取得しやすい環境整備に努める ・産前産後休業、育児・介護休業、子の看護休暇、介護休暇は法令に基づく制度であり、適切に規定する必要がある |
6 | 賃金 | ・絶対的必要記載事項であり、明確に定める必要がある ・基本給、諸手当(家族手当、通勤手当、役付手当、技能・資格手当、精勤手当等)、割増賃金、賞与について、計算方法や支給条件を明確にする |
7 | 定年、退職および解雇 | ・高年齢者雇用安定法に基づき、希望者全員を65歳まで雇用する義務がある ・自己都合退職の手続き(◯日前の届出など)を明確に定める ・解雇は、試用期間中の者含め、原則30日前に予告または解雇予告手当の支払が必要 |
8 | 退職金 | ・相対的必要記載事項であり、適用範囲、決定・計算方法、支払方法、支払時期を定める |
9 | 無期労働契約への転換 | ・有期契約労働者が同一使用者との間で契約が5年を超える場合、本人の申込みにより無期労働契約に転換するルールを定める |
10 | 安全衛生および災害補償 | ・労働者の安全と健康確保のために必要な事項(健康診断、安全衛生教育、リスクアセスメント等)を定める ・長時間労働者への医師による面接指導制度やストレスチェック制度についても法令に基づき定める ・業務上の負傷等に対する災害補償について定める |
11 | 職業訓練 | ・職業能力開発促進法に基づき、労働者に必要な教育訓練の機会を設ける場合について定める ・キャリアパスと関連付けて定めることも考えられる |
12 | 表彰および制裁 | ・相対的必要記載事項であり、種類と事由を明確に定める必要がある ・懲戒処分をおこなう場合は、就業規則の根拠、客観的な事実、処分の相当性が必要 |
13 | 公益通報者保護 | ・公益通報をおこなった労働者に対する不利益な取り扱いを禁止することなどを定める ・相談窓口などを明確にすることも有効 |
14 | 副業・兼業 | ・原則として副業・兼業を認める方向で検討し、許可制とする場合は許可しない場合の事由を明確にする ・従業員からの届出制とすることも考えられる |
参考)厚生労働省「モデル就業規則」
ただし、厚生労働省のモデル就業規則であっても、そのまま自社に当てはめてしまうのはリスクがあります。
モデル就業規則をそのまま使うリスクと注意点
厚生労働省のモデル就業規則は参考になりますが、そのまま自社に導入することにはいくつか注意が必要です。
モデルは一般的な内容であるため、自社の事業内容や企業文化、労働者の実態に合わない可能性があります。そのまま使用した場合、以下のようなリスクや問題の生じる恐れがあります。
- 法令改正への対応遅れ
モデル就業規則は改訂されますが、常に最新の法改正に即応しているとは限りません。古いモデルをそのまま使うと法令違反となる可能性があります。
- 自社の実態との不一致
モデル就業規則は、自社固有の事業特性や職種、雇用形態に合わせた規定になっていないため、現場での運用が困難になる、あるいは想定外のトラブルに発展する可能性があります。
- 必要な定めの不足
自社で独自に設けている手当や休暇制度など、モデル就業規則に記載されていない重要なルールが漏れてしまうかもしれません。
- 抽象的な規定
懲戒事由など、モデル就業規則の記載が抽象的すぎると、いざという時に規定を根拠として有効な措置を取れない場合があります。
- 労働者への周知・意見聴取
作成・変更した就業規則は、労働者に周知し、労働者代表の意見を聴く手続きが必要です。モデルを流用する場合でも、この手続きを怠ることはできません。
モデル就業規則はあくまで「たたき台」として活用し、必ず自社の状況に合わせて内容を十分に検討し、必要に応じて修正・加筆をおこなうことが重要です。
参考記事:中小企業が厚生労働省のテンプレート「モデル就業規則」を用いる際の注意点
特定の状況・業種・規模に合わせたモデル就業規則の活用と注意点
厚生労働省のモデル就業規則は汎用的なひな形ですが、個々の事業場の実態や特定の状況、業種、規模に合わせてカスタマイズすることが不可欠です。
小規模事業場におけるモデル就業規則の導入ポイント
常時10人未満の労働者を使用する事業場には就業規則の作成・届出義務はありませんが、労使トラブル防止のために作成することが推奨されます。
モデル就業規則を参考に導入する際のポイントは以下の通りです。
- シンプルにする
- 絶対的必要記載事項の網羅
- 労働条件の明確化
- 労使間の密なコミュニケーション
小規模な企業では、口約束になってしまうこともあるため、しっかりと書面で就業規則を明確化することが大切です。
2022年育児介護休業法改正に対応する就業規則モデルの変更点
2022年4月1日および10月1日に施行された育児介護休業法の改正により、就業規則の見直しが必要になりました。主な変更点は以下の通りです。
- 子の出生後8週間以内に4週間まで取得できる出生時育児休業(産後パパ育休)の新設
- 育児休業を2回に分割して取得できるよう変更
- 対象労働者への個別の周知・意向確認措置の対応追加
- 有期雇用労働者の取得要件緩和
モデル就業規則も改正に対応した内容が示されていますので、自社の規則が最新の法令に適合しているか確認・修正が必要です。
業種別のモデル就業規則(旅館業、運送業、建設業など)の特性
業種によっては、労働時間や休日、手当、服務規律などに独自の特性があります。モデル就業規則を参考にしつつ、各業種の事情に合わせた規定を設ける必要があります。
業種 | 独自の特性 |
旅館業 | シフト制や変形労働時間制、深夜業に関する規定、繁忙期の休日に関する定めなどが重要 |
運送業 | 拘束時間、休息期間、フェリー特例、荷待時間、歩合給に関する定めなど、自動車運転者の労働時間等の改善基準告示に対応した規定が必要 |
建設業 | 現場作業と事務所勤務での労働時間の違い、特定期間の長時間労働、一人親方との関係、安全管理に関する規定などが重要 |
各業種に適用される法令や業界の慣行を考慮し、モデル就業規則を基本にしながらも個別の実態に合わせたカスタマイズが不可欠です。
介護事業所がモデル就業規則を利用する際の留意点
介護事業所は、シフト勤務や夜勤、緊急対応、そして人員配置基準など、労働条件に多くの特性があります。モデル就業規則を参考にしつつ、以下の点に留意して規定を設けることが重要です。
- シフト制や変形労働時間制、短時間勤務など、さまざまな勤務形態に対応できる労働時間・休日規定が必要
- 介護サービス提供時間と連動した休憩や仮眠時間の付与方法の明確化
- 資格手当、夜勤手当、処遇改善加算に関する賃金体系などの明確化
- 利用者のプライバシー保護、ハラスメント防止、事故発生時の対応など、介護サービス提供における服務規律や倫理に関する規定がとくに重要
- 労働時間や休日に関する定めが、介護保険法上の人員配置基準を満たすように考慮する
モデル就業規則を参考に、介護事業所特有の事情や法令に適合するよう、内容を十分に検討しカスタマイズする必要があります。
中小企業がモデル就業規則を最大限に活用する方法
中小企業にとって、就業規則の作成は労力のかかる作業ですが、厚生労働省のモデル就業規則を活用することで効率的に進められます。
最大限に活用するための方法は以下の通りです。
- 自社に合わせたカスタマイズ
モデル就業規則はあくまで一般的な内容です。自社の事業内容、従業員の雇用形態、独自のルールなどに合わせて条項を修正、削除、追加することが不可欠です。
- 解説を参考にする
モデル就業規則に付随する解説や厚生労働省が提供する関連情報を読み込み、各条項の趣旨や注意点を理解します。
- 専門家の活用も検討
自社での判断が難しい項目や、法改正への対応などは、必要に応じて社会保険労務士などの専門家に相談します。
- 周知と意見聴取
完成した就業規則は、従業員に必ず周知し、労働者の代表から意見を聴く手続きが必要です。
モデル就業規則を有効活用することで、法令遵守はもとより、労使間の信頼関係構築やトラブル防止につながる、自社にとって最適な就業規則を作成することが可能になります。
まとめ
この記事では、モデル就業規則をテーマに、その概要から全14章にわたる主要な規定内容、さらには中小企業が活用する上での具体的な方法や注意点について詳しく解説しました。
モデル就業規則は、法令に準拠した基本的な枠組みが示されており、とくに就業規則の作成経験が少ない中小企業にとっては、非常に有用な「ひな形」となります。しかし、業種や事業規模、そして個別の企業文化によって最適な就業規則は異なります。
モデル就業規則をそのまま適用するのではなく、自社の労働条件やルールを正確に反映させるためのカスタマイズが不可欠です。
関連記事
-
ハラスメントの定義を種類ごとに紹介!法律も理解して職場を守ろう
「ハラスメント」という言葉を耳にする機会は多いものの、その定義や種類を正確に理解している方は少ないのではないでしょうか。ハラスメントは、従業員の心身に悪影響を与えるだけでなく、企業の生産性やイメージを損なう原因にもなります。とくに中小企業においては、人材不足や資金繰りの問題から、ハラスメント対策が後手に回ってしまうケースも少なくありません。しかし、ハラスメントを放置すれば、従業員の離職、企業イメージの低下、訴訟など、さまざまなリスクが高まります。この記事では、中小企業がハラスメント問題に適切に対応できるよう、「ハラスメントの定義」に焦点を当て、主要なハラスメントの種類について、具体的な事例を交えながらわかりやすく解説します。
-
「残業しろ」はパワハラ?残業強要の違法性やハラスメントに該当するケース
従業員に「残業しろ」と安易に指示する場面があるかもしれません。しかし、その一言が、思わぬ法的リスクや従業員とのトラブルにつながる可能性があります。
労働基準法では、従業員の健康と権利を守るため、時間外労働に厳しいルールを設けています。ルールを無視した残業の強要は、違法行為であり、パワハラとみなされることがあるのです。
この記事では、中小企業が陥りがちな「残業しろ」と強要することのリスクと、具体的な対策について解説します。
-
103万円の壁が廃止され控除額引き上げへ!中小企業が知っておくべきこと
2024年12月20日、与党は「2025年度税制改正大綱」を決定しました。その中には、国民民主党がこだわっている「103万円の壁の見直し」についても盛り込まれており、所得税の控除額を現行の103万円から123万円まで引き上げる旨が記されています。本記事では、この制度変更の背景や影響、そして中小企業が注意すべきことなどについて、実務的な観点からわかりやすく解説します。
-
フィードバックの意味とは?ビジネスでの活用法をわかりやすく解説
ビジネスの場面でフィードバックが必要だとわかっているものの、適切な伝え方がわからず苦労している方も多いのではないでしょうか。本記事では、マネージャーやリーダーの方に向けて、フィードバックの基本的な考え方や実践的な手法、注意点などを解説します。
-
労働組合は意味ない?問題点、企業としての付き合い方を解説
「労働組合は意味ない」とインターネットや職場でも、そのような言葉を耳にする機会が増えています。
なぜ労働組合は「意味ない」と言われてしまうのか、本当に価値がないのかを、中小企業経営者の視点から掘り下げました。
労働組合が持つ本来の役割や現代における存在意義について、中立的な視点から解説し、とくに中小企業が労働組合とどのように向き合い、良好な関係を築いていくべきかについても具体的に考察します。