労働組合は意味ない?問題点、企業としての付き合い方を解説

「労働組合は意味ない」とインターネットや職場でも、そのような言葉を耳にする機会が増えています。

なぜ労働組合は「意味ない」と言われてしまうのか、本当に価値がないのかを、中小企業経営者の視点から掘り下げました。

労働組合が持つ本来の役割や現代における存在意義について、中立的な視点から解説し、とくに中小企業が労働組合とどのように向き合い、良好な関係を築いていくべきかについても具体的に考察します。

「労働組合は意味ない」と言われる理由とは?

中小企業の経営者にとって、労働組合の存在は常にさまざまな思いが交錯するものです。「意味がない」「面倒だ」と感じてしまう背景には、以下のような4つの意見があります。

賃上げ交渉の成果が見えにくい

多くの労働組合にとって、春闘に代表される賃上げ交渉は重要な活動の一つです。しかし、経営者側から見ると、この交渉の成果が組合活動の価値としてストレートに伝わってこない場合があります。

中小企業ではとくに、大手企業のような明確な要求水準や妥協ラインが確立されていないことも多く、経営側から見ても組合の貢献度が測りにくいことから、「意味がない」という印象につながるのです。

運営が不透明/役員の高齢化など形骸化の問題

労働組合の内部運営の不透明さや組織課題も「意味がない」と感じる要因です。役員の高齢化や固定化は組織のフットワークを悪化させ、新しい発想を妨げます。

より深刻なのは、組合活動の形骸化です。

経営者からは、会社の現状理解が浅く、建設的な議論ができない「意味がない」組織に映ってしまいます。

対立姿勢だけが目立ちやすい

労働組合の活動が、権利主張や会社への要求といった対立の側面に偏っているように見える場合、経営者は労働組合を「問題を提起し、会社と争う相手」として認識しやすくなります。

たしかに、労働組合は労働者の権利を守り、労働条件の改善を求める組織です。しかし、その姿勢が常に批判的であったり、会社の経営状況を顧みずに要求を突きつけたりするばかりだと、経営者としては「意味がない」と感じてしまいます。

コストや交渉の負担が多いと感じる

中小企業経営者にとって、労働組合対応はコストや負担となりがちです。とくに、団体交渉は要求検討や資料準備、実際の交渉に多くの時間を要し、本業の負担となります。組合員からの個別相談対応や社内調整といった日常業務も加わります。

かけた労力に対し、明確な成果やメリットを感じにくいため、「意味がない」と感じてしまうのです。

本当に労働組合は意味がないのか?本来の役割と存在意義

中小企業の経営者が「労働組合は意味がない」と感じるのは、労働組合の持つ機能のごく一部を見ていたり、現代における役割が見えにくくなっていたりすることが原因かもしれません。

ここでは、労働組合が本来果たすべき役割と、その存在意義についてあらためて考えてみます。

労働組合の意味と役割

労働組合は、憲法で保障された「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利」(日本国憲法第28条)に基づき設立される組織です。

日本国憲法第28条では、
1. 労働者が労働組合を結成する権利(団結権) 
2. 労働者が使用者(会社)と団体交渉する権利(団体交渉権)
3. 労働者が要求実現のために団体で行動する権利(団体行動権(争議権))
の労働三権を保障しています。

出典)厚生労働省「労働組合

もっとも基本的で重要な役割は、以下の3点に集約されます。

  • 労働条件の維持・改善に向けた労使交渉(団体交渉)

労働組合は、労働者の代表として団結し、賃金、労働時間、休日、休暇、安全衛生など、働く上での基本的な条件について会社と交渉します。これにより、個々の力では実現できない労働条件の維持・改善を目指します。

  • 働く上での悩みや問題解決のサポート

職場で起こるさまざまな問題、たとえばハラスメント、不当な配置転換、解雇、賃金未払いなどについて、組合員からの相談を受け付け、解決に向けて会社との話し合いを仲介したり、必要な情報を提供したりします。

  • 労働者の権利保護と啓発

労働組合法やその他の労働関連法規に基づき、労働者の権利が侵害されないよう監視し、必要に応じて是正を求めます。また、労働者自身が自身の権利について理解を深めるための学習会などを開催し、啓発活動をおこないます。

労働組合がない中小企業のデメリット

中小企業の経営者の中には、労働組合は意味がないため不要だと感じる方がいるかもしれません。しかし、労働組合がないことは、会社全体にとって以下のような見過ごせないデメリットも存在します。

  • 労働者の声が経営に届きにくい
  • 労働条件の決定プロセスが不透明になりがち
  • 不満や不平が鬱積しやすい
  • 個別の労働トラブル発生時の対応が難しい
  • 法改正への対応が遅れる可能性

労働組合がないことは、長期的に見ると従業員の不満蓄積、労働トラブルのリスク増大、組織の硬直化など、さまざまなデメリットを招く可能性があるのです。

従業員が安心して意欲的に働ける環境づくりという観点からも、労働組合がない企業では何らかの形で従業員の声を吸い上げ、経営に反映させる仕組みが必要となります。

参考記事:労働組合のない会社が抱えるリスクは?労働問題はどう解決すべき?

中小企業における労働組合のあらたな価値

時代が変化し、働き方が多様化する中で、労働組合の役割も変化し、あらたな価値を生み出しています。

  • 多様な働き方への対応とセーフティネット機能

多様な働き方をする人々の労働環境や権利についても関心を払い、その改善に向けて活動する組合も増えています。

また、経営環境の悪化などにより雇用不安が生じた際に、組合が従業員の雇用の安定や再就職支援について会社と交渉するなど、セーフティネットとしての役割も期待されます。

  • ハラスメント対策やメンタルヘルスケアへの関与

近年重要視されているハラスメント対策や従業員のメンタルヘルスケアについても、組合は積極的に関与できます。相談窓口の設置、防止策の提言、実態調査など、健全な職場環境づくりに貢献します。

  • 企業文化の改善やエンゲージメント向上への寄与

労働組合は、企業の組織文化をよりオープンで風通しの良いものに変えたり、従業員のエンゲージメントを高めたりする役割も担います。

従業員の率直な意見や現場の声を経営に届けるパイプ役として機能することで、会社全体の活性化につながる可能性を秘めているのです。

もちろん、すべての労働組合がこれらの役割を十分に果たしているわけではありません。しかし、健全に機能している労働組合は、結果として従業員のモチベーション向上や離職率の低下、ひいては生産性の向上といった、意味あるものになりうる存在なのです。

中小企業が労働組合と良好な関係性を保つには

「労働組合は意味がない」といったネガティブなイメージを持つ中小企業の経営者でも、労働組合を単なる対立相手としてではなく、共に会社の未来を考えるパートナーとして捉え直すことで、労使間の関係性は大きく改善します。

ここでは、中小企業が労働組合に意味を持たせ、良好な関係性を保つ具体的なアプローチについて解説します。

労働組合の存在意義を理解し尊重する

労働組合が憲法や労働組合法に基づいて認められた労働者の権利を守り、労働条件を改善するために活動する組織だと理解し、その存在を尊重することが重要です。

感情的な好き嫌いではなく、法的な位置づけを正しく認識することが、建設的な関係の第一歩となります。組合の目的や存在意義を理解しようと努めましょう。

オープンで誠実なコミュニケーションを心がける

労働組合との良好な関係構築において、もっとも重要なのはコミュニケーションです。経営者側から一方的に情報を遮断したり、組合からの提案に耳を傾けなかったりする姿勢は、不信感を招き、対立を深める原因となります。

コミュニケーションを図る際には、以下の心がけが大切です。

  • 定期的な情報共有
  • 組合の意見に耳を傾ける
  • 話し合いの場を設ける

団体交渉は誠実な姿勢で臨む

労働組合からの要求に対する団体交渉は、時に厳しいものになることもありますが、感情的にならず、以下に注意して常に誠実な姿勢で臨むことが重要です。

  • 要求内容の吟味
  • 根拠に基づいた回答
  • 代替案の提示
  • 記録の保持

日常的に信頼関係を構築する

団体交渉のような改まった場だけでなく、日頃から組合役員と良好な人間関係を築くことも大切です。組合役員も会社の従業員であり、会社のことを真剣に考えている場合がほとんどです。

日頃から以下の心がけが重要となります。

  • 組合活動への理解
  • 役員との個人的な対話
  • 差別的な扱いはしない

労使協議会などを積極的に活用する

団体交渉は労働条件に関わる義務的な交渉の場ですが、労使協議会はより幅広いテーマに関する任意の協議の場です。労使協議会を積極的に活用することで、以下のようなメリットがあります。

  • 早期の問題発見と解決
  • 経営課題の共有
  • 対立の予防

必要に応じて外部の専門家を活用する

労働組合との対応に不安を感じる場合や、法的に複雑な問題が発生した場合は、弁護士や社会保険労務士といった外部の専門家に相談することも有効です。専門家から客観的なアドバイスを得ることで、労働組合の存在がより大きな意味を持つようになります。

まとめ

この記事では、「労働組合は意味ない」という意見がなぜ生まれるのか、その背景にある中小企業経営者の声に耳を傾けつつ、労働組合が本来持つ重要な役割と存在意義について解説しました。

賃上げ交渉の成果が見えにくいといった課題や、運営の不透明さといった問題点が指摘される一方で、労働条件の改善、労働者の権利保護、多様な働き方への対応など、労働組合が果たす役割は少なくありません。

労働組合の有無に関わらず、企業と従業員が良好な関係を築くことは、組織全体の活力と持続的な成長に不可欠です。「意味ない」と切り捨てるのではなく、労働組合の本質を理解し、対話を通じて共に働く環境をより良くしていく姿勢が求められています。

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