【中小企業向け】独占禁止法とは?禁止行為・罰則・事例をわかりやすく解説

独占禁止法は、不当な取引制限や私的独占などを禁止し、消費者の利益保護と経済の健全な発展を目的としています。
しかし、「独占禁止法」という言葉を聞いたことはあっても、具体的にどのような行為が禁止されているのか、中小企業にも関係があるのかなど、疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、独占禁止法の基本から、中小企業が押さえておくべきポイント、違反した場合のペナルティ、過去の事例まで、わかりやすく解説します。独占禁止法を正しく理解し、健全な企業活動を行うためにも、ぜひ最後までご覧ください。
目次
独占禁止法とは?
独占禁止法とは、公正な競争秩序を維持し、消費者の利益を保護するために、企業の不当な取引行為を規制する法律です。正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といいます。
第一条 この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。 |
出典)e-Gov 法令検索「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」
市場における自由な競争は、企業の創意工夫を促し、より良い商品やサービスの提供につながります。しかし、一部の企業が強大な力を持つと、競争が阻害され、消費者が不利益を被る可能性があるのです。
独占禁止法は、このような事態を防ぐために、不当な価格操作、カルテル、入札談合、不当な取引制限など、さまざまな行為を規制しています。
参考)公正取引委員会「独占禁止法の概要」
独占禁止法で禁止されている行為とは?
独占禁止法は、市場における公正な競争を阻害する行為を幅広く禁止しています。具体的な禁止行為は以下のとおりです。
- 私的独占の禁止
- 不当な取引制限
- 事業者団体の規制
- 企業結合の規制
- 独占的状態の規制
- 不公正な取引方法の禁止
それぞれ見ていきましょう。
参考)公正取引委員会「独占禁止法の規制内容」
私的独占の禁止
私的独占とは、他の事業者を排除したり、新規参入を妨げたりすることで、特定の事業者が市場を支配する行為です。
具体的には、単独または他の事業者と手を組んだ不当な低価格販売や差別価格による販売、株式取得や役員派遣によりほかの事業者の活動に制約を与えることなどが挙げられます。
これは、消費者の選択肢を狭め、価格の混乱を招く可能性があるため、独占禁止法で禁止されています。
不当な取引制限
不当な取引制限とは、事業者同士が共謀して、価格や生産量などを取り決める行為です。カルテルがこれに該当します。
また、国や地方公共団体などの入札に参加する事業者たちが、事前に相談して受注事業者や受注金額などを決める入札談合も禁止されています。
事業者団体の規制
事業者団体が、その構成事業者の競争を制限する行為も禁止されています。たとえば、業界団体が会員企業に対して、価格や販売地域などを制限するルールを押し付けるようなケースです。
また、事業者の数の制限や、事業者に不公正な取引方法をさせる行為なども禁止されています。
企業結合の規制
企業結合(M&Aなど)によって、市場における競争が著しく制限される場合、その企業結合は規制の対象となります。
たとえば、会社グループが単独で、または他の会社と協調的行動をとることによって、ある程度自由に市場における価格、供給数量などを左右できるようになる場合などです。
一定の要件に該当する企業結合を行う場合、公正取引委員会に届出・報告を行う必要があります。
独占的状態の規制
独占的状態の規制とは、競争が働かない独占状態を解消するための規制です。
独占禁止法は、カルテルや企業結合などの競争に影響を及ぼす行為を対象に規制していますが、適切な市場競争の結果、市場シェアの50%以上を単独で占める事業者も存在します。
そのような状況下で、需要やコストが減少しても価格が下がらないなど、価格の下方硬直性がみられる場合には、競争を回復するための措置として当該事業者の営業の一部譲渡を命じる場合があります。
不公正な取引方法の禁止
不公正な取引方法とは、以下のような懸念のある取引を指します。
- 自由な競争が制限されるおそれがあること
- 競争手段が公正とはいえないこと
- 自由な競争の基盤を侵害するおそれがあること
具体的には以下のとおりです。
- 取引拒絶:共同で特定の企業との取引を拒んだり、断わらせたりする行為
- 排他条件付取引:競争者との取引をしないことを条件として取引する行為
- 拘束条件付取引:相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて取引する行為
- 再販売価格維持行為:小売業の販売価格を拘束する行為
- ぎまん的顧客誘引:実際よりも優良であると誤認させる行為
- 不当廉売:正当な理由なく著しく安い価格で販売する行為
自社の優位性を保とうとした結果、独占禁止法に違反してしまうケースがあります。
なお、不公正な取引方法の指定には、すべての業種に適用される「一般指定」と特定の業種に適用される「特殊指定」があります。
特殊指定とは、特定の業種や業界において、不公正な取引方法としてとくに問題になりやすい行為を、公正取引委員会が個別に指定したものです。
たとえば「新聞特殊指定」や「自動車特殊指定」などがあり、それぞれの業界の特性に応じて独自の規制が設けられています。
参考)公正取引委員会「特殊指定の見直しに関するQ&A」
中小企業が押さえておくべき独占禁止法のポイント
独占禁止法は、大企業だけでなく、中小企業にも深く関わる法律です。ここでは、中小企業が特に押さえておくべきポイントを解説します。
独占禁止法の対象は大企業だけではない
「独占禁止法は大企業だけに関係のある法律」ではありません。
中小企業であっても、独占禁止法に違反する行為を行った場合、法的責任を問われる可能性があります。
たとえば、同業者間で価格カルテルを結んだり、入札談合に参加したりする行為は、中小企業であっても独占禁止法違反です。
規模の大小に関わらず、すべての事業者が独占禁止法を遵守する必要があります。
故意がなくても責任を負う
独占禁止法違反は、故意に行った場合に限らず、過失によって違反した場合でも責任を問われます。「知らなかった」「うっかりやってしまった」という言い訳は通用しません。
たとえば、自社の優位性を守るために、契約書に排他条件を付けてしまった場合などです。
独占禁止法に関する知識をしっかりと身につけ、日頃から注意深く事業活動を行うことが重要です。
社内研修などを実施し、従業員の意識を高めましょう。
自社を守るためにも役立つ
独占禁止法は、自社の事業活動を取り締まるだけでなく、取引先からの不当な要求から自社を守るための武器にもなります。
たとえば、取引先から不当な廉売を強要されたり、不利益な条件を押し付けられたりした場合、独占禁止法を根拠に拒否できます。
独占禁止法を正しく理解し、活用することで、自社の権利を守り、公正な取引を実現することが可能です。
独占禁止法違反で企業が受けるペナルティとは?
独占禁止法に違反した場合、企業は以下のようなペナルティを受けることになります。
- 課徴金制度
- 排除措置命令
- 刑事罰と民事責任
- 信頼の失墜
それぞれ見ていきましょう。
課徴金制度
独占禁止法違反に違反した場合、課徴金の支払いを命じられることがあります。
課徴金とは、違反行為によって得た不当な利益を没収するための金銭的なペナルティです。
課徴金の額は、違反行為が行われた期間の売上額や購入額に一定の割合を乗じて算出されます。
不当な取引制限 | 支配型私的独占 | 支配型私的独占 | 共同の取引拒絶差別対価、不当廉売再販売価格の拘束 | 優越的地位の濫用 |
10%(4%) | 10% | 6% | 3% | 1% |
※( )内は違反事業者及びそのグループ会社が全て中小企業の場合
違反の程度によっては、多額の課徴金が課されることになります。
参考)公正取引員会「課徴金制度」
排除措置命令
公正取引委員会は、独占禁止法違反行為に対して、排除措置命令を発令できます。
排除措置命令とは、違反行為を直ちにやめさせ、競争状態を回復させるための行政処分です。
たとえば、カルテルを解消したり、不当な取引条件を改めさせたりするなどの措置が命じられます。排除措置命令に従わない場合、刑事罰が科されることもあります。
刑事罰と民事責任
独占禁止法違反に違反した場合や排除措置命令に従わない場合は、刑事罰が科されることがあります。
実行行為者は5年以下の懲役又は500万円以下の罰金、法人は5億円以下の罰金が科されます。
また、民事訴訟にも注意が必要です。違反行為によって損害を受けた者から、差止請求訴訟や損害賠償請求を受けるおそれがあります。
参考)公正取引委員会「独占禁止法教室」p.14
信頼の失墜
独占禁止法違反が公になると、企業の社会的信用は大きく損なわれます。顧客や取引先からの信頼を失い、取引停止や契約解除につながる可能性もあるのです。
また、企業イメージの低下により、採用活動にも悪影響が及ぶことが考えられます。信頼の回復には、多くの時間と労力が必要になることを理解しておきましょう。
過去の独占禁止法違反事例
独占禁止法違反は、決して他人事ではありません。ここでは、過去に実際に独占禁止法違反で排除措置命令を受けた事例を紹介します。
排除措置命令の事例
高知県発注の地質調査業務に関する入札談合 | 高知県が発注する地質調査業務の入札において、参加業者が受注予定者を事前に決定し、特定の業者が受注できるよう調整していた。 |
東邦瓦斯供給区域の都市ガス見積り合わせにおける受注調整 | 東邦瓦斯供給区域内の大口需要家が発注する都市ガスの見積り合わせ等で、参加業者が受注予定者を決定し、特定の業者が受注できるようにしていた。 |
国立印刷局発注の再生巻取用紙入札における談合 | 独立行政法人国立印刷局が発注する再生巻取用紙の入札で、参加業者らが受注予定者を決定し、特定の業者が受注できるよう調整していた。 |
参考)公正取引委員会「高知県が発注する地質調査業務の入札参加業者に対する排除措置命令及び課徴 金納付命令について」
参考)公正取引委員会「東邦瓦斯供給区域に所在する大口需要家が発注する都市ガスの見積り合わせ等の参 加業者に対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」
参考)公正取引委員会「独立行政法人国立印刷局が発注する再生巻取用紙の入札参加業者らに対する 排除措置命令及び課徴金納付命令について」
また、企業に雇われた側からは、下記のような声が挙がることも多々あります。
・電気機器メーカー12社が、それぞれ行っていた廃棄処理を1つの団体でまとめることにしたが、これは不当な取引制限に該当しない?
・コスト高で新規契約をやめる際に、同製品を扱っている競合に一般消費者との契約の取次ぎを依頼したが、私的独占に該当しない?
・4社が環境技術を研究して成果を共有しているが、他の会社が入れない仕組みになっている。これは私的独占及び不当な取引制限に該当する?
・建設業者の団体が、残業規制に対応するために週休二日を前提とした工期と費用で見積もる方針を決定し、発注者や外部に示したが、不公正な取引方法に該当しない?
・自動車修理業者の団体が、保険会社と話し合って工賃の基準を上げる取り決めを結んだが、競争の実質的制限に該当しない?
参考)公正取引委員会「(令和6年6月13日)独占禁止法に関する相談事例集(令和5年度)について」
企業は、自社の事業活動におけるリスクを認識し、違反を未然に防ぐことが重要です。
まとめ
この記事では、独占禁止法の基本から、中小企業が押さえておくべきポイント、違反した場合のペナルティ、過去の事例について解説しました。
独占禁止法は、公正な市場競争を維持し、消費者の利益を保護するための重要な法律です。
中小企業も例外ではなく、違反すれば厳しいペナルティが科せられます。独占禁止法を正しく理解し、コンプライアンス体制を構築することで、健全な企業活動を行い、持続的な成長を目指しましょう。
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本記事を読むことで、そのようなリスクを回避することができます。ぜひ最後までご一読いただき、男女雇用機会均等法についての理解を深めてください。