深夜残業は何時からが該当する?割増率や深夜残業代の計算方法も解説

深夜残業は、従業員の健康を害するだけでなく、企業の生産性低下や労務リスクの増加にもつながる重要な課題です。
労働基準法では、深夜労働に対して特別な割増賃金の支払いが義務付けられており、その定義や計算方法を正しく理解することは、適切な労務管理を行う上で不可欠です。
この記事では、中小企業の経営者の皆様に向けて、深夜残業が始まる時間、割増率、そして具体的な深夜残業代の計算方法をわかりやすく解説します。
深夜残業の定義
通常の残業が所定労働時間を超える労働のことであるのに対し、深夜残業は深夜時間帯に行われる残業を指します。
深夜労働は何時から?
労働基準法では、午後10時から午前5時までの労働を深夜労働と定義しています。深夜労働には、通常の労働時間に対する割増賃金の支払い義務があり、割増賃金率は25%以上です。
(時間外、休日及び深夜の割増賃金) 第三十七条 ④ 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。 |
出典)e-Gov 法令検索「労働基準法」
この時間帯は、人間の生理機能が低下し、疲労を感じやすい時間帯であるため、特別な保護が必要とされています。
通常の残業と深夜残業の違い
通常の残業とは、所定労働時間(会社が定めた労働時間)を超えて労働することを指します。一方、深夜残業は、通常の残業時間のうち、午後10時から午前5時までの時間帯に行われる残業を指します。
通常の残業 | 深夜労働 | 深夜残業 | |
所定労働時間 | 超える | 関係なし | 超える |
時間帯 | 所定労働時間を超える | 午後10時~午前5時 | 午後10時~午前5時 |
割増賃金 | 25%以上 | 25%以上 | 50%以上 |
ここで注意すべきなのは「残業ではない深夜労働」と「深夜残業」があるという点です。つまり、深夜残業は通常の残業の一部であり、深夜時間帯に行われた場合に特別な割増賃金が適用されます。
深夜労働をした際の割増賃金
労働基準法では、午後10時から午前5時までの深夜労働に対して、通常の25%以上の割増賃金を支払うことが義務付けられています。

出典)厚生労働省「しっかりマスター 労働基準法 割増賃金編」p.2
深夜における割増賃金の計算例:所定労働時間内の深夜労働
所定労働時間が午後11時から午前8時(休憩1時間)の従業員が、午前0時から午前3時までの3時間労働した場合の割増賃金を計算します。
この場合、残業にはあたらないため、以下の計算で求められます。
1,500円×3×1.25=5,625円
深夜における割増賃金の計算例:一般的な深夜残業
1時間あたりの賃金が1,500円の従業員が法定労働時間を超えて勤務し、午後10時から午前1時までの3時間深夜残業をした場合の割増賃金を計算します。
深夜残業の場合、法定労働時間を超えた割増率25%以上に加え、深夜手当が25%加算されるため、以下の計算で求められます。
1,500円×3×1.5=6,750円
深夜における割増賃金の計算例:法定休日の深夜残業
1時間あたりの賃金が1,500円の従業員が、法定休日に午後10時から午前1時までの3時間深夜残業をした場合の割増賃金を計算します。
法定休日の労働は、休日手当が35%、さらに深夜手当25%が加算されるため、割増率は60%以上となります。
1,500円×3×1.6=7,200円
深夜残業が違法になるケース
36協定なし、18歳未満への深夜労働、妊産婦からの請求拒否は違法です。36協定の上限超過や健康配慮不足な深夜残業、深夜残業代の未払いも問題です。
36協定を結んでいない
労働基準法では、1日8時間、週40時間を法定労働時間として定めています。これを超える時間外労働や休日労働をさせるためには、労働者と使用者の間で「36協定」という労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
労働基準法では労働時間、休日について1日8時間、1週40時間、1週少なくとも1日または4週4日以上の休みの原則を定めています(労働基準法第32条)。そのため、これを超えて残業や休日出勤をさせる場合には労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は過半数を代表する者)と会社が「三六協定」を結ぶ必要があります。 |
出典)厚生労働省「三六協定(さぶろくきょうてい)」
36協定を締結せずに深夜残業をさせた場合、労働基準法違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金を科される可能性があります。
18歳未満に深夜残業をさせる
労働基準法では、18歳未満の年少者に対して、午後10時から午前5時までの深夜労働を原則として禁止しています。これは、年少者の心身の発達を保護するためです。
(深夜業) 第六十一条 使用者は、満十八才に満たない者を午後十時から午前五時までの間において使用してはならない。ただし、交替制によつて使用する満十六才以上の男性については、この限りでない。 |
出典)e-Gov 法令検索「労働基準法」
ただし、例外として、特定の事業や職種においては、労働基準監督署長の許可を得ることで、18歳未満の年少者に深夜労働をさせることができます。
妊産婦から請求があったにもかかわらず深夜残業をさせる
労働基準法では、妊娠中の女性および産後1年を経過しない女性(妊産婦)から請求があった場合、深夜残業をさせることはできません。これは、妊産婦の健康を保護するためです。
第六十六条 ③使用者は、妊産婦が請求した場合においては、深夜業をさせてはならない。 |
出典)e-Gov 法令検索「労働基準法」
深夜残業における注意点
深夜残業には、管理職への深夜手当、固定残業代制でも別途割増賃金が必要、割増賃金の端数処理(50銭未満切り捨ては原則NG)といった注意点があります。これらを遵守しない場合、法律違反となる可能性があります。
深夜手当は管理職に対しても必要
労働基準法上の「管理監督者」は、その職務の性質上、労働時間、休憩、休日に関する規定の適用が除外されます。このため、「管理監督者には残業代を支払う必要がない」と認識している企業は少なくありません。しかし、この認識には大きな落とし穴があります。
誤解:管理監督者には残業代が一切発生しない?
多くの企業が誤解している点として、「管理監督者には時間外労働や休日労働に関する残業代の支払い義務がない」という認識が、「深夜労働に関する割増賃金も不要である」という誤った解釈につながってしまうケースが散見されます。
しかし、これは明確な誤りです。労働基準法第41条では、管理監督者に対し、労働時間、休憩、休日に関する規定は適用しないと定めていますが、深夜労働に関する割増賃金の支払い義務を定めた労働基準法第37条は、管理監督者にも適用されるのです。
つまり、管理監督者であっても、午後10時から午前5時までの深夜時間帯に労働した場合は、法律に基づき深夜手当(通常の賃金の25%以上)を支払う必要があります。
労働の種類 | 管理監督者への適用 | 備考 |
時間外労働 | 適用除外 | 残業代の支払い義務なし |
休日労働 | 適用除外 | 休日手当の支払い義務なし |
深夜労働 | 適用 | 深夜手当の支払い義務あり |
管理監督者という立場であっても、深夜労働の対価は保障されるべきという考え方に基づいています。
また、企業が「管理職」という肩書を付与しているだけで、労働基準法上の「管理監督者」としての厳格な条件を満たしていないケースも多く見られます。労働基準法上の管理監督者とみなされるためには、以下の4つの基準を全て満たす必要があります。
基準 | 内容 |
職務内容の重要性 | 経営上の重要事項に関する企画、立案、決定に参画する権限と責任がある |
経営者と一体的な責任と権限 | 労働時間管理など、従業員に対する指示・命令に関する広範な裁量権を有している |
勤務時間の裁量 | 出退勤の自由があるなど、自己の労働時間について大きな裁量を持っている |
地位にふさわしい対価 | 一般の従業員と比較して、その地位にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与など)が保障されている |
これらの条件を満たさない場合、たとえ「管理職」という肩書があっても、労働基準法上の管理監督者とはみなされず、一般社員と同様に労働基準法の休憩・休日・労働時間の規定が適用されます。
この場合、時間外労働や休日労働に対する割増賃金も発生するため、企業は大きなリスクを抱えることになるのです。
リスク:深夜手当の未払いが招く重大な結果
深夜手当の未払いは、企業にとって法的なリスクと信用失墜に直結します。
- 罰則
労働基準法第119条により、深夜手当の支払い義務を怠った場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される可能性があります。これは、たとえ意図的でなかったとしても適用されるため、注意が必要です。
- 未払い賃金の請求
未払いの深夜手当は、従業員から遡って請求される可能性があります。これにより、過去に遡って多額の未払い賃金と遅延損害金(年利6%など)の支払いを命じられるリスクが生じます。
- 企業イメージの悪化
労働基準監督署からの是正勧告や、従業員による労働審判・訴訟といった事態は、企業のブラック企業イメージを招き、採用活動や事業継続に悪影響を及ぼします。
対策:管理職への深夜手当を確実に支払うために
このようなリスクを回避し、法令遵守を徹底するためには、以下の対策を講じることが重要です。
- 正確な勤怠管理の実施
- 就業規則の明確化と周知
- 給与計算プロセスの見直し
- 定期的な法改正情報のキャッチアップ
深夜労働に対する適切な対価の支払いは、企業の法的義務であるだけでなく、従業員の健康とモチベーションを維持し、良好な労使関係を築く上でも不可欠です。管理監督者という立場にかかわらず、すべての従業員が安心して働ける環境を整備しなければなりません。
参考)
e-Gov 法令検索「労働基準法」
厚生労働省「しっかりマスター 労働基準法 割増賃金編」p.5
固定残業代制でも別途割増賃金が必要
固定残業代制(みなし残業代)を採用している場合でも、深夜労働に対する割増賃金は別途支払う必要があります。
固定残業代は、あくまで一定時間分の残業代を事前に支払う制度であり、深夜労働分の割増賃金まで包括しているわけではありません。
深夜時間帯の労働時間に応じて、通常賃金の25%以上上乗せした深夜手当を、固定残業代とは別に計算し、支払う義務があります。
参考)厚生労働省「残業手当」
切り捨てられる割増賃金は50銭未満
割増賃金の計算において、1円未満の端数が生じた場合の取り扱いには注意が必要です。
労働基準法では、1か月の割増賃金の合計額について、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げることを認めています。
したがって、日々の割増賃金計算で生じた50銭未満の端数を個別に切り捨てることは原則として違法となります。月単位で集計し、適切な端数処理を行う必要があります。
参考)厚生労働省「Q10 残業手当の端数処理は、どのようにしたらよいですか。」
深夜残業を減らすには
深夜残業は、従業員の健康面への悪影響が大きいだけでなく、生産性の低下やモチベーションの低下にもつながりかねません。企業にとっても、割増賃金の負担増や人材流出のリスクを高める要因となります。
そのため、残業時間全体を削減する取り組みはもちろんのこと、特に深夜残業を減らすための具体的な対策を講じることが重要です。
以下に、深夜残業を減らすための具体的な施策をいくつかご紹介します。
業務効率化と生産性向上
深夜残業の根本的な原因の一つに、業務効率の悪さや生産性の低さがあります。以下の対策を通じて、業務効率化と生産性向上を図り、所定時間内での業務完了を目指せます。
- 業務プロセスの見直しと改善
- タスク管理の徹底
- 情報共有の円滑化
- 会議の効率化
- ツールの導入と活用
労働時間管理の徹底と意識改革
企業全体で労働時間管理を徹底し、深夜残業の是正意識を高めることが重要です。
- 勤怠管理システムの導入と活用
- 残業許可制の導入
- ノー残業デーの設定と徹底
- 管理職への意識啓発
- 従業員への啓発活動
業務の属人化解消と標準化
特定の担当者しか対応できない業務が多いと、その担当者に業務が集中し、残業や深夜残業が発生しやすくなります。
- 業務の可視化と標準化
- 多能工化の推進
- ヘルプ体制の構築
納期設定の見直しと調整
無理な納期設定は、従業員に過度な負担をかけ、残業や深夜残業を引き起こす大きな原因となります。
- 現実的な納期設定
- 納期交渉の実施
- 進捗管理の徹底
柔軟な働き方の導入
従業員が柔軟な働き方を選択できると、ワークライフバランスの向上を図り、結果的に深夜残業の抑制に繋がる可能性があります。
- フレックスタイム制
- テレワークの導入
これらの対策を複合的に実施することで、深夜残業を効果的に削減し、従業員の健康と生産性の向上、そして企業の持続的な成長に繋げることが期待できます。
重要なのは、トップダウンだけでなく、従業員一人ひとりの意識改革と協力体制を築きながら、継続的に取り組むことです。
まとめ
この記事では、中小企業向けに、深夜残業の定義、割増率、計算方法、そして削減に向けた注意点と対策について解説しました。
深夜残業は午後10時から午前5時までの労働を指し、通常の賃金に25%以上の割増率が適用されます。時間外労働が深夜に及んだ場合は、さらに割増率が加算される点も覚えておきましょう。
違法な深夜残業を防ぐためには、36協定の遵守、18歳未満や妊産婦への配慮が不可欠です。また、管理職への深夜手当や固定残業代制における別途支払い義務など、労務管理上の注意点も押さえておく必要があります。
深夜残業の削減は、従業員の健康とモチベーション向上、ひいては企業の生産性向上に繋がります。正しい知識と適切な対策によって、深夜残業のない、より良い職場環境を実現できるはずです。
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