【企業向け】退職とは?種類・手続き・注意点を知ってトラブルを防ぐ

従業員の「退職」は、どの企業でも避けては通れないイベントです。その背景には、さまざまな種類や法的ルール、そして企業が適切に対応すべき手続きや配慮事項があります。

本記事では、退職の定義や種類、法律上のルールから、退職時に企業が行うべき具体的な手続き、注意点までを網羅的に解説。信頼される企業運営のために、ぜひご一読ください。

退職とは?意味と法律上の定義を整理

「退職」とは、労働者が会社との雇用契約を終了することです。労働基準法では、退職は「労働契約の終了」に該当し、自己都合による場合や会社都合による場合など、発生理由によって扱いが異なります。

企業にとっては単なる人の出入りではなく、法的手続きや労務管理が求められる重要な対応事項です。正確な定義やルールを理解していないと、退職者とのトラブルや後々のリスクにつながる恐れがあるため、基礎知識をしっかり押さえておくことが重要です。

「辞職」「退任」「解雇」「退社」との違いは?

退職に関連する言葉には「辞職」「退任」「解雇」「退社」などがあります。それぞれ意味や使われる場面が異なることに注意です。

特に中小企業の人事・労務担当者は、社内手続きや退職通知書の文面などで誤解を招かないよう、正確な用語理解が求められます。以下の表で、それぞれの違いを整理してみましょう。

用語主な対象意味・定義
辞職従業員(一般社員)従業員が会社の承諾なく一方的に雇用契約を終了させること
退任取締役・役員など役員が任期満了や辞任により職を辞すること
解雇従業員全般使用者側が一方的に雇用契約を終了させること
退社全般会社を辞めることを示す一般的な表現(辞職・解雇・定年退職などを含む)

「辞職」は正社員などが自主的に会社を辞める場合に使われます。一方、「解雇」は企業側の都合で雇用契約を終了させるものです。

また、「退任」は経営層の役職者が職を辞する行為を指します。「退社」はこれらすべてのケースを含んだ広義的な表現です。

社内外での誤解を防ぐためにも、これらの違いを理解して正しく使い分けましょう。

退職には大きく分けて3つの種類がある

企業における「退職」は、一律に扱えるものではなく、発生原因や契約形態によって大きく3つのタイプに分けられます。

それぞれの退職理由によって企業側がとるべき対応や必要書類、労働者が受けられる失業給付なども異なるため、正確な理解が欠かせません。

種類主な内容代表例注意点
自己都合退職労働者が自らの意思で退職を申し出る転職、家族の事情、体調不良など退職願の受付、退職日確定、有給残日数の確認など
会社都合退職企業側の都合により労働契約を終了させる倒産、事業縮小、解雇、退職勧奨など解雇理由書の作成、助成金・給付金手続きの確認
自然退職あらかじめ定められた条件に基づき雇用契約が終了する定年退職、契約期間満了、死亡など契約終了日の事前通知、退職金の支払い準備など

このように、退職の種類によって対応が大きく異なります。特に会社都合退職は、労働基準法や雇用保険の扱いにも直結するため、手続きの正確性が求められるため注意が必要です。

また、誤って退職区分を間違えると、従業員からの苦情や法的トラブルにつながる恐れもあります。社内体制の整備や周知も重要です。

労働基準法上の退職のルールを知っておこう

退職に関する法的ルールは、労働基準法および民法に基づいて定められています。企業がこれらを正しく理解しないまま対応すると、トラブルや損害賠償につながる恐れがあるため注意です。

以下に、代表的な雇用形態別に適用される退職ルールを整理しました。

雇用形態・退職の種類適用法令原則ルール例外・補足事項
正社員(無期)の辞職民法627条1項退職の申出から2週間で雇用契約終了就業規則に「◯日前申出」などの規定があっても効力なし
契約社員等(有期)の辞職民法628条原則、契約満了まで辞職不可「やむを得ない事由」があれば即時退職可能
契約社員等(1年以上の辞職労働基準法附則137条契約初日から1年経過後は、いつでも辞職可能「やむを得ない事由」がなくてもOK
全雇用形態の合意退職労働基準法89条3号就業規則に沿った申出・承諾で雇用契約終了規定例:「退職日の30日前までに申出し、承諾を得ること」など

参考)e-GOV「労働基準法

参考)e-GOV「民法

このように、辞職か合意退職か、有期か無期かで法律の適用が大きく異なります。

特に中小企業では「退職申出を拒否できる」と誤解して対応してしまうケースが珍しくありません。その結果、退職代行サービスの利用や労使トラブルに発展する原因となります。

企業としては、まずは「就業規則の明記」「民法との区別」「社員区分の把握」を徹底し、退職ルールを正しく理解することが重要です。

中小企業側が行うべき基本的な退職手続きの流れ

従業員が退職する際には、企業側にも多くの事務手続きが発生します。退職届の受理から保険・税金の手続き、書類の発行まで、漏れなく対応することが必要です。

中小企業が対応すべき退職時の作業を、従業員側・会社側に分けて整理し、スケジュール感とあわせてわかりやすくまとめました。

ステップ担当者対応期限の目安内容
退職の意思表示従業員退職希望日の1〜3か月前直属の上司へ口頭で伝える。引き継ぎ期間を考慮して早めに申し出る。
退職届の提出従業員退職日の14日前まで(就業規則で1ヶ月前など)「退職理由・退職日・氏名」を記載し、トラブル防止のため文書で提出。
業務の引き継ぎ従業員最終出勤日3日前までに完了が理想マニュアル作成、後任への引き継ぎ、取引先への挨拶も含む。
貸与物・保険証の返却従業員退職日または最終出勤日までにPC・名刺・保険証等。郵送対応時は事前に企業と方法を確認。
退職届の受理会社即日〜数日内意思確認と記録を残す。退職日が法的に妥当かも併せて確認。
貸与物・保険証の回収会社最終出勤日まで貸与リスト管理や保険証(扶養分含む)の確実な回収が必要。
社会保険資格喪失手続き会社退職日の翌日から5日以内年金事務所へ喪失届を提出。健康保険証も添付。
雇用保険資格喪失手続き会社退職日の翌々日から10日以内ハローワークへ離職証明書等を提出。離職票の交付も忘れずに。
所得税・住民税の手続き会社原則翌月10日まで源泉徴収票の発行や住民税異動届の提出を速やかに行う。
各種証明書の発行・郵送会社退職日の翌々日から10日を目安離職票・退職証明書などを退職者へ送付。
再就職しない従業員の手続き従業員退職日の翌日から14日以内国民年金などの申請。必要書類を事前に受け取っておく。

出典)日本年金機構「従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き

出典)厚生労働省「雇用保険被保険者離職証明書についての注意」 p.1

出典)国税庁「No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例

出典)e-GOV「所得税法

出典)厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~

出典)日本年金機構「国民年金に加入するための手続き

このように、従業員と企業それぞれに明確な役割と期限があります。チェックリストを活用しながら進捗管理を行うことが鍵です。

特に中小企業では担当者が限られるため、タスクの見える化とルール整備がトラブル防止のポイントになります。

特に保険、税金の手続きに注意

退職時にもっとも見落とされやすく、かつミスが許されないのが、社会保険・雇用保険・税金に関する各種手続きです。これらは提出期限が厳格に定められています。

たとえば、社会保険の「健康保険・厚生年金資格喪失届」は退職日の翌日から5日以内での年金事務所への提出が必須です。また雇用保険の資格喪失手続きは退職日の翌々日から10日以内となっています。

所得税については源泉徴収票の発行義務があることに注目です。これを怠ると所得税法第226条に違反するリスクもあります。

参考)e-GOV「所得税法

また、退職者が59歳以上かどうかで離職票の発行義務の有無が変わるため、書類の自動処理に頼りすぎてはいけません。

退職スケジュールに組み込んでタスク管理を行うとともに、「資格喪失届の控えを保存する」「発行書類に宛先・郵送日を記録する」などの運用ルールを設けると安心できます。また必要に応じてツールを導入しましょう。

退職者の有給休暇や最終給与の扱いも重要

従業員が退職する際、有給休暇が未消化のまま退職を迎えるケースは少なくありません。企業としては、有給休暇の取り扱いを正しく認識して対処しましょう。

項目原則ルール補足
退職後の有給休暇消滅する退職日までが有給休暇の権利有効期間。取得できなければ失効。
最終出勤日と退職日の調整可能有休残日数に応じて、出勤最終日を早めて調整することで消化が可能。
企業による取得拒否原則不可時季変更権を行使できるのは業務に重大な支障がある場合のみ。
有給休暇の買取り原則禁止ただし、退職時に未消化分を買い取るのは例外的に認められる。

出典)厚生労働省「年次有給休暇関係」 p.1 - 2

従業員の申請がないまま有給が残って退職日を迎えた場合でも、企業に違法性は生じません。

ただし、退職直前にまとめて有給取得を希望された際、業務調整が困難になるリスクもあります。早期に残日数を把握し、出勤スケジュールを共有することが重要です。

退職対応で信頼を損なわないためのポイント

退職時の対応は、企業と従業員の関係の「最後の印象」を決定づける重要な局面です。不適切な対応をすると、社内の信頼を失うだけでなく、SNSや口コミなどで企業の評判を損なうリスクもあります。

以下に、退職対応で信頼を損なわないために企業が取るべき具体的な行動を整理しました。

項目対応ポイント
1. 退職の意思表示への対応感情的にならず冷静に受け止める
2. 引き継ぎの支援担当業務をリスト化し、引き継ぎを明確に指示する
3. 最終出勤日や退職日の調整有給休暇の残日数を考慮しスケジュールを立てる
4. 書類対応の迅速化離職票・源泉徴収票などを遅れず発行・送付する
5. コミュニケーションの記録引き継ぎや貸与物返却は文書・メールで記録する
6. 社内への周知退職情報は必要な範囲にタイミングよく共有する
7. 感謝の姿勢最終日に感謝の言葉や簡単なセレモニーをする

このように、退職者への対応は「やめる人のため」だけではなく、「残る人の信頼を守るため」にも極めて重要です。形式だけでなく、人としての敬意を持った対応が求められます。

退職者を減らすために中小企業ができること

人材の確保が難しくなっている昨今、せっかく採用した社員が短期間で離職してしまうのは中小企業にとって大きな損失です。給与や待遇の改善だけでなく、職場環境や人間関係、将来の見通しなど、さまざまな側面から離職リスクを軽減する取り組みが求められます。

以下に、退職を防ぐために中小企業が実行しやすい具体策を整理しました。

項目施策
1. コミュニケーション強化定期的な1on1面談の実施
2. キャリア支援中長期的なキャリアパスの提示
3. 労働環境の整備勤務時間の柔軟化(フレックス・リモート等)
4. 評価制度の見直し成果とプロセスを適切に評価
5. 人間関係の改善ハラスメント対策・管理職研修の実施
6. 組織の風通し改善ボトムアップの意見収集体制
7. 福利厚生の充実手当やメンタルケア制度の導入
8. 離職分析と対策退職者ヒアリングの徹底

退職者を「出たあとに対応する」のではなく、「出る前に気づいて防ぐ」姿勢が求められます。限られた人員で運営する中小企業こそ、個別の声に耳を傾け、柔軟に制度を見直す姿勢が定着率を左右します。

まとめ

従業員の退職は、企業活動における避けがたい出来事の一つですが、適切な理解と対応を行うことで、不要なトラブルや信頼損失を防げます。

特に中小企業においては、限られたリソースの中で対応しなければならない場面も多いため、「退職後に慌てる」のではなく「退職前から準備する」ことが非常に重要です。チェックリストの整備、就業規則の見直し、従業員との対話を通じた早期の離職防止策などを推進しましょう。

企業と従業員の双方が納得のいく形で退職を迎えられるよう、今一度自社の体制を見直してみてください。

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