【企業向け】誹謗中傷に対する開示請求とは?費用・手続き・期間をわかりやすく解説
近年、SNSや口コミサイトにおける企業への誹謗中傷・風評被害が増加しています。根拠のない投稿がネット上に広がり、企業イメージを損なうケースも珍しくありません。
こうした書き込みを放置すると、採用活動への悪影響や顧客離れ・売上低下といった実害に発展する可能性もあります。特に中小企業では、ひとつの風評が経営に致命的なダメージを与えることもあるため、迅速な対応が重要です。
そこで今回は、「誹謗中傷の投稿者を特定するための開示請求(発信者情報開示請求)」について、企業向けにわかりやすく解説します。
また以下の資料では、中小企業の経営者、コンプライアンス対応部署の方に向けて、情報漏洩への対策マニュアルを紹介していますので、こちらもぜひ参考にしてください。
目次
そもそも開示請求(発信者情報開示請求)とは何か?
開示請求(正式には「発信者情報開示請求」)とは、インターネット上で誹謗中傷や虚偽の投稿を行った人物を特定するための法的な手続きです。
SNSや掲示板、口コミサイトなどでは、投稿者の多くが匿名であるため、誰が書いたかを特定するのは困難といえます。
そこで、企業などの被害者が、サイトの運営者や通信事業者(プロバイダ)に対し、投稿者のIPアドレスや契約者情報などの開示を求めるのがこの手続きです。投稿者を特定できれば、その後、損害賠償請求や刑事告訴を行うことも可能になります。
開示請求は、一般的に裁判所を通じて行われるため、「正当な権利侵害があった」と法的に認められることが必要です。また、請求にあたっては、問題の投稿内容や該当ページのURL、投稿日時など、客観的な証拠を揃えることも求められます。
誹謗中傷による企業のレピュテーションリスクや実害を防ぐには、こうした法的手段を理解し、必要に応じて迅速に活用することが大切です。
誹謗中傷を放置するとどうなる?採用・評判・業績へのリスク
インターネット上に書き込まれた企業への誹謗中傷や風評被害を放置すると、経営にさまざまな悪影響を及ぼします。特に中小企業にとっては、ひとつの書き込みが大きな実害に発展するおそれもあり、軽視できません。
この章では、誹謗中傷が企業活動に与える影響について、採用、信用、業績の3つの観点から具体的に見ていきます。
採用活動への悪影響|応募者が離れる・内定辞退が増える
就職活動中の求職者は、企業名でインターネット検索を行い、口コミサイトやSNSの評判を確認しているのは間違いありません。
その際、「ブラック企業」「パワハラが横行」などの投稿が見つかると、応募を控えたり、内定辞退につながる可能性があります。企業にとって優秀な人材の確保は重要な課題であり、誤った情報によって採用機会を失うことは大きな損失です。
企業の信用失墜|取引先・顧客からの信頼が低下する
取引先や顧客もまた、企業の評判を調べる際にネット上の情報を参照しています。
匿名の書き込みであっても、「◯◯社と取引したらトラブルになった」などの投稿が複数見つかれば、信頼の喪失は避けられません。
その結果、商談が中止されたり契約の見直しを迫られることもあります。信頼回復には時間と労力がかかるため、早期の対処が重要です。
売上・業績の低下|風評被害が実害に繋がる恐れ
誹謗中傷がきっかけで顧客離れが進めば、売上や業績にも直接的な影響が出ます。
特に中小企業では、一部の主要顧客を失うことが経営全体に波及するケースも少なくありません。また、BtoCビジネスの場合は、ECサイトや口コミアプリでの評判が購買行動に直結するため、風評が売上減少という実害に発展する恐れがあります。
【企業向け】誹謗中傷への開示請求の流れ
インターネット上の誹謗中傷に対して発信者情報の開示請求を行うには、段階的な手続きが必要です。企業として適切に対応するためには、証拠の確保から法的措置までの流れを理解しておきましょう。
ここでは、一般的な対応フローを5つのステップに分けて解説します。
参考記事:誹謗中傷はどこからが罪になる?中小企業が知るべき法的基準と対処法を徹底解説
1. 証拠の保全(スクショ・日時・URL)
まず重要なのは、投稿が掲載されていた証拠をしっかりと残しておくことです。
時間の経過とともに削除されたり内容が変更される可能性があるため、該当する画面のスクリーンショット、投稿日時、掲載URLなどを記録・保存します。投稿内容に対する法的判断を行う上でも、証拠の精度が重要となります。
2. サイト管理者やSNS運営への削除依頼
次に、問題の投稿が掲載されているサイトやSNSの運営者に対して、削除を求めましょう。運営側がガイドライン違反と判断すれば、任意で削除されることもあります。
ただし、削除された場合でも開示請求に必要な発信者情報が得られないことがあるため、削除依頼の前に証拠の保全を必ず済ませておくことが重要です。
3. サイト運営者にIPアドレスなどの発信者情報を請求する
投稿者を特定するには、まずサイトの運営者に対して投稿時のIPアドレスやタイムスタンプなどの開示を求める必要があります。
この段階では、裁判所への仮処分申立てなどの法的手続きを通じて請求するのが一般的です。任意で応じてもらえるケースもありますが、法的手続きを前提に準備しておくことを意識すべきといえます。
参考記事:企業の個人情報保護の重要性を理解しよう! リスク、対策などを紹介
4. プロバイダに契約者情報の開示を請求する
サイト運営者から得たIPアドレスをもとに、次は通信事業者(プロバイダ)に対して、そのIPを使っていた契約者の情報(氏名・住所など)の開示を求めましょう。こちらも裁判所の手続きを経る必要があり、発信者情報開示命令の申立てなどを通じて対応します。
プロバイダ側のログ保存期間を過ぎると特定が困難になるため、迅速な対応が必要です。
5. 投稿者を特定後、損害賠償請求や告訴を検討する
投稿者が特定できた後は、その人物に対して損害賠償請求や刑事告訴を行うことが可能になります。
損害賠償請求では、名誉毀損によって生じた経済的損害の回復を求め、刑事告訴では名誉毀損罪や業務妨害罪などの適用が検討されることを覚えておきましょう。いずれにしても、弁護士と連携しながら進めることが現実的です。
開示請求の費用・時間は?企業としてのコスト感を把握
発信者情報開示請求は、裁判所を通じた法的手続きが必要なため、一定の費用と時間がかかります。中小企業にとっては、実際にどれくらいのコストが想定されるのかを事前に把握しておくことが重要です。
以下は、一般的なケースで発生する費用と所要期間の目安です。
| 項目 | 費用の目安 | 期間の目安 | 内容 |
| 弁護士費用(着手金) | 10万〜30万円 | - | 開示請求の準備・代理交渉・裁判所手続きなどを一括で依頼する場合 |
| 仮処分申立て費用 | 1万〜3万円(印紙代・郵便切手代) | 約1〜2ヶ月 | サイト運営者にIPアドレス等を開示させるための裁判手続き |
| 発信者情報開示請求訴訟 | 2万〜5万円(印紙代+郵券) | 約2〜3ヶ月 | プロバイダに契約者情報を開示させるための裁判手続き |
| 合計想定費用 | 70万〜100万円程度 | 約3〜6ヶ月 | ケースの複雑さや投稿数によって変動あり |
また、損害賠償請求や告訴などを追加で行う場合は、さらに費用と時間がかかる可能性があります。
企業側で対応に不慣れな場合や、社内に法務機能がない場合は、早期に弁護士に相談することで無駄なコストや時間のロスを防ぐことが可能です。費用面に不安がある場合でも、まずは無料相談などを活用して初期対応の方向性を確認しておきましょう。
中小企業が誹謗中傷対策を弁護士に依頼するメリットは?
発信者情報開示請求をはじめとした法的対応は、専門的な知識とスピードが求められる分野です。 特に中小企業の場合、法務部門を持たないケースも多く、弁護士の力を借りることでリスクや手間を大きく軽減できます。
以下では、弁護士に依頼することによる具体的なメリットを4つの観点から整理しました。
参考記事:企業が備えるべき「誹謗中傷」完全ガイド! リスクを知って正しく対策しよう
法的要件の適合判断から一括サポートが可能に
開示請求は、単に「誹謗中傷だ」と感じるだけでは認められません。裁判所に申立てるには、「権利侵害が明確であるか」「開示の必要性があるか」といった法的要件をクリアすることが必要です。
弁護士に依頼すれば、投稿内容が要件を満たすかどうかの判断から、証拠の整理、書類作成、裁判所への申立てまでを一括してサポートしてもらえます。自社で判断に迷う時間を短縮できるのも大きな利点です。
アクセスログ保存のタイムリミットを逃さず対応
発信者の特定に必要なIPアドレス等のログ情報には、保存期間があり、それを過ぎると開示が不可能になる場合があります。
弁護士であれば、手続きの優先順位やタイムリミットを把握したうえで迅速に対応してくれるため、情報の消失リスクを避けることが可能です。
開示後の損害賠償請求・刑事告訴も視野に入れられる
投稿者が特定できた場合には、名誉毀損や業務妨害に基づく損害賠償請求、あるいは刑事告訴に進むことも検討されます。
こうした次のステップも視野に入れて対応できるのが、弁護士に依頼する強みです。必要に応じて警察との連携や、示談交渉も含めた実務対応を任せることができるため、自社リソースの消耗を抑えながら問題解決を図れます。
顧問弁護士がいない中小企業はどうする?
顧問弁護士がいない場合は自身で弁護士を探さなければいけません。個別に対応してくれる弁護士や法律事務所は数多く存在します。
「ネット誹謗中傷対策」「IT法務」「発信者情報開示」などを専門分野とする事務所を検索しましょう。継続的な顧問契約がなくても依頼できるので、まずは相談しやすい専門家に問い合わせてみることが第一歩です。
もし中小企業が「開示請求された側」になったら?
発信者情報開示請求は、被害者が誹謗中傷などの投稿者を特定するための手続きですが、万が一その投稿が自社の関係者によるものであった場合、自社が「請求を受ける側」として関わる可能性もあります。
中小企業においては、社員や元社員、関係者による個人的な投稿が発端になるケースもあり、無関係と思っていた企業が巻き込まれることも珍しくありません。
ここでは、企業として注意すべき2つの観点を解説します。
社員が個人として誹謗中傷投稿をした場合の企業責任は?
原則として、社員が業務外・個人の立場で投稿した内容については、企業が直接的な法的責任を問われることはありません。ただし、その投稿が「会社の業務に関連する内容」や「職務中に社用端末から発信されたもの」であった場合、企業の管理責任が問われる余地があります。
また、投稿者が会社の役員・経営層である場合や、会社が投稿を黙認・容認していたと受け取られる状況であれば、企業への損害賠償請求や評判への影響が広がるリスクもあるため、注意が必要です。
したがって、「あくまで社員個人の問題」と一線を引くだけでなく、社内規程の整備や研修の実施、SNS利用に関する指導体制などをあらかじめ整えておきましょう。
弁護士依頼前に社内でできる初動対応とは?
誹謗中傷に関する開示請求を受けた際、すぐに弁護士に依頼するのが理想ではありますが、まずは企業内でできる初期対応を把握し、速やかに実行することが重要です。
特に開示対象となる情報やログには保存期限があるため、対応の遅れは情報の消失や不利益につながります。
企業として、弁護士依頼前に対応すべき初動対応は以下の3点です。
| 初動対応項目 | 内容 |
| 投稿の証拠を残す | スクリーンショット、投稿日時、掲載URLなどを記録し、後の確認や法的対応に備えます。 |
| 内部要因の確認 | 社内チャットや口コミサイトなど、投稿が社内関係者によるものでないかを可能な範囲で確認します。 |
| 削除依頼・通報機能の活用 | GoogleマップのクチコミやX(旧Twitter)、掲示板などには削除依頼や通報機能があるため、即時対応できるものは対応します。 |
これらはできる限り48時間以内に対応することが望ましく、スピードがリスク最小化につながります。
証拠を確保したうえで、投稿の性質や関係性を見極め、必要に応じて弁護士への相談へとつなげていく流れが重要です。
まとめ
インターネット上での誹謗中傷は、企業にとって採用・信用・業績のすべてに悪影響を及ぼしかねない深刻なリスクといえます。匿名性の高い投稿でも、法的な手続きを通じて発信者を特定し、損害賠償や削除対応につなげることが可能です。
特に中小企業においては、開示請求の流れや費用感を事前に把握し、社内でできる初動対応と弁護士に依頼すべき判断を切り分けておくことが、スムーズな対応につながります。
また、誹謗中傷の「被害者」としてだけでなく、「加害者側」として請求される可能性もあることを念頭に置き、社内のSNSリスク管理体制の整備も重要です。
万が一に備えて、証拠の保全や通報対応、専門家との連携体制を日頃から準備しておくことが、企業の「守り」を強化する第一歩となります。
関連記事
-
中小企業のハラスメント対策、見直しませんか?形骸化させない運用術と企業事例
2022年4月から、パワーハラスメント防止措置が中小企業の事業主にも義務化されて3年が経過しました。多くの企業でハラスメント対策への意識は高まっている一方で、対策が形骸化しているという新たな課題に直面しているケースも少なくありません。
この記事では、中小企業向けに、ハラスメント対策を作って終わりにせず、実効性のあるものとして運用・定着させるための具体的な方法と、先進的な企業の取り組み事例を詳しく解説します。
-
中小企業のGRC強化法とは?「ガバナンス・リスク・コンプライアンス」の基本
中小企業の経営では、売上拡大や人材確保に目が向きがちですが、会社を「守る力」=ガバナンス・リスク管理・コンプライアンス(GRC)も同じくらい重要です。
たとえば「社内の不正や情報漏えいを防ぐ」「取引先からの信頼を得る」「融資や補助金の審査をスムーズに進める」などのうえでも、こうした「土台の整備」が必要不可欠になっています。
この記事では、「GRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)」について、中小企業が無理なく始められる実践方法や、少人数でもできる体制づくりを紹介しますので、経営者・バックオフィス担当の方は参考にしてください。
中小企業だからこそできる「無理のないGRC強化法」を押さえて、信頼される経営基盤を整えていきましょう。
-
電子契約は中小企業を救う!やり方を覚えてコストカットや業務効率化を図ろう
「契約書の押印のためだけに出社している」
「毎月の収入印紙代や郵送費が経営を圧迫している」
このような悩みを抱えている中小企業の経営者や担当者の方も多いのではないでしょうか。
こういった課題は、「電子契約」を導入することで解消できる可能性があります。
そこでこの記事では、電子契約の基本的な仕組みから、中小企業が導入することで得られる具体的なメリット、そして失敗しないための導入手順やサービス選びのポイントまで、わかりやすく解説していきます。
-
BCP対策とは?具体的なやり方、マニュアルの作り方などをわかりやすく解説
地震や台風、感染症、サイバー攻撃など、企業活動を脅かすリスクが年々多様化・深刻化しています。そんな中、企業や事業者に求められているのが「BCP対策(事業継続計画)」です。
特に中小企業にとっては、ひとたび事業が停止すれば経営への打撃は計り知れません。さらに近年では、医療・介護分野でBCP対策が法令上義務化されています。
業界を問わず“やっておくべき対策”から“やらなければならない対応”へと変化している状況です。
-
残業時間が月45時間・年6回を超えたらどうなる?上限規制を守ってリスク回避
労働基準法では、原則として1日8時間、週40時間の法定労働時間が定められています。そのため、これを超える残業は、労使間で36協定の締結が不可欠です。
しかし、36協定を締結したとしても、無制限に残業をさせられるわけではありません。原則として、残業時間の上限は月45時間以内と定められています。
もし、この月45時間という上限を超えて残業させてしまった場合、企業はどのようなリスクが及ぶのか、具体的な内容と注意点を知っておく必要があるのです。
この記事では、残業時間が月45時間、さらに年6回を超えた場合に生じる可能性のある問題点や、企業がリスクを回避するための具体的な対策について詳しく解説していきます。

マモリノジダイとは
会員登録







