助成金と補助金の違いをわかりやすく解説!目的・管轄・支給要件など7つの相違点を紹介

資金調達を検討している経営者や担当者にとって、国から支給される助成金や補助金は大きな助けになります。

しかし、制度の内容を正しく理解していないと、申請の機会を逃したり、受給要件を満たせなかったりする恐れがあります。

そこでこの記事では、混同されがちな「助成金」と「補助金」の特徴や、それぞれの違いについてわかりやすく解説していきますので、ぜひ参考にしてください。

助成金とは

助成金とは、主に厚生労働省が管轄し、「雇用環境の整備」や「従業員の職業能力向上」などを目的として支給されるお金のことです。

助成金の最大の特徴は、「要件を満たしていれば原則として受給できる」という点にあります。

申請においては、就業規則の改定や雇用の維持、残業時間の削減といった具体的な取り組みが求められます。

形式的な不備がなく、定められた基準をクリアしていれば、支給決定がなされるケースがほとんどです。

したがって、計画的に準備を進めれば、資金調達の確実性は高いといえるでしょう。

補助金とは

補助金とは、主に経済産業省が管轄し、国策に沿った事業の活性化や公益の実現を目的として支給されるお金を指します。

税金を財源としており、新しい設備投資や新サービスの開発、ITツールの導入など、企業の「攻め」の姿勢を支援する制度が多く存在します。

助成金との大きな違いは、予算に上限があり、申請したすべての企業が受給できるわけではないという点です。

補助金には「採択」というプロセスがあり、提出した事業計画書の内容が担当者によって審査されます。

優れた計画であると認められた企業のみが採択され、支給を受ける権利を得られるのです。

そのため、どれほど素晴らしい事業であっても、競争率が高ければ不採択となるリスクがあります。

助成金と補助金の違い|目的・管轄・支給要件など7つの相違点

助成金と補助金は、どちらも返済不要の資金調達手段である点は共通していますが、その性質には明確な違いがあります。

助成金と補助金の違い|目的・管轄・支給要件など7つの相違点

出典)日本政策金融公庫「補助金・助成金の活用による経営改善」

以下の項目で、それぞれの違いについて詳しく解説していきます。

目的の違い

助成金は、主に「ヒト」に関する課題解決を目的としています。

具体的には以下の通りです。

  • 非正規雇用労働者の正社員化
  • 育児休業の取得促進
  • 賃金の引き上げ
  • 労働時間の短縮

従業員が安心して働ける環境を整える企業を支援することが、助成金の狙いです。

一方で補助金は、以下のように、「事業」や「モノ」に関する支援を目的としています。

  • 生産性を向上させるための機械導入
  • インボイス制度への対応
  • 海外展開
  • 新技術の開発

国として推進したい経済政策や社会課題の解決に寄与する事業に対し、資金が投入される仕組みです。

そのため、補助金の種類によって求められる成果は大きく異なります。

管轄の違い

助成金の多くは、厚生労働省が管轄しています。

窓口となるのは、各都道府県の労働局やハローワークであることが一般的です。

雇用保険制度と密接に関わっているため、申請企業は雇用保険の適用事業所である必要があります。

対して補助金は、主に経済産業省が管轄しています。

実際の運営事務局は、民間企業や団体に委託されているケースも少なくありません。

また、地方自治体が独自に行っている補助金もあり、その場合は各自治体の商工観光課などが窓口となります。

管轄が異なると、情報の掲載場所や問い合わせ先も変わるため、情報収集の際にはどの省庁が実施しているかを確認しなければなりません。

原資の違い

助成金の代表的な原資は、事業主が国に納めている「雇用保険料」です。

企業と従業員が負担している保険料の一部が還元される形になるため、雇用保険に加入していない事業主は、原則として助成金を利用できません。

自分たちが積み立てた保険料から支援を受ける、という側面を持っています。

補助金の原資は、主に「税金」です。

法人税や所得税など、国民や企業から集めた税金が使われています。

そのため、補助金の使途については高い透明性と公共性が求められます。

税金を投入する価値がある事業かどうかという視点で厳しく審査されるのは、この原資の性質によるものです。

支給額の違い

助成金の支給額は、数万円から、高くても数百万円程度に設定されているものが大半です。

取り組みの内容に応じて金額が定額で決まっているケースや、対象となる経費の一部を助成するケースがあります。

比較的少額ではありますが、要件を満たせば手堅く受給できるため、経営の安定化に役立ちます。

補助金の支給額は、制度によって非常に幅広くなっています。

小規模な販路開拓を支援する数十万円のものから、大規模な工場建設やシステム開発を支援する数千万円のもの、場合によっては1億円を超えるものまで存在します。

助成金よりも高額になる傾向があるものの、金額が大きくなるほど審査も厳しくなるので、十分な準備が必要です。

支給要件の違い

助成金において最も重要なのは「形式要件の適合」です。

就業規則の整備や帳簿類の保管、残業代の適正な支払いなど、労務管理が正しく行われていることが前提となります。

その上で、各助成金が定める特定の取り組みを実施すれば、ほぼ支給が認められます。

選抜試験のような競争はありません。

補助金における支給要件は、「審査基準のクリア」です。

事業計画書の実現可能性、収益性、政策との整合性などが点数化され、上位の企業から順に採択されます。

たとえ要件を形式的に満たしていても、他の申請企業より評価が低ければ不採択となります。

補助金の採択率は30%〜50%程度ですので、支給を受けられる企業の方が少ないということを理解しておきましょう。

支給時期の違い

助成金と補助金は、どちらも原則として「後払い」ですが、そのプロセスやタイミングには差異が見られます。

助成金の場合、取り組みが完了した後に支給申請を行い、労働局の審査を経て入金されます。

申請から入金までの期間は数ヶ月から1年程度かかることが一般的です。

補助金の場合は、以下のようなプロセスを経るため、さらに期間が長くなる傾向があります。

  1. 「採択」された後に「交付決定」を受ける
  2. 事業を実施する
  3. 事業終了後に報告書を提出する
  4. 確定検査に合格する
  5. 補助金を請求する

したがって、採択から実際の入金まで1年半以上かかるケースも珍しくありません。

支援者の違い

申請手続きを外部の専門家に依頼する場合、助成金と補助金では依頼できる資格者が異なります。

助成金の申請代行は、社会保険労務士の独占業務です。

社労士以外のコンサルタントなどが有償で書類作成や提出代行を行うことは法律で禁止されています。

一方、補助金の申請支援には、法律上の独占業務規定はありません。

中小企業診断士、税理士、行政書士、民間コンサルタント会社、金融機関など、多様な専門家が支援を行っています。

事業計画の策定能力が高いパートナーを選ぶことが、採択への近道となるでしょう。

助成金・補助金を受給するまでの流れ

制度を利用するためには、受給までの全体像を把握しておくことが大切です。

助成金と補助金では、着手から入金までのステップが異なるので、それぞれの違いを理解しておきましょう。

助成金を受給する流れ

助成金の申請プロセスは、計画の提出から始まります。

まず、自社が利用したい助成金の要件を確認し、それに基づいた「計画届」を労働局などへ提出します。

計画が受理された後、実際に就業規則の変更や研修の実施、設備の導入といった取り組みを行います。

取り組みが完了したら、定められた期間内に「支給申請書」を提出しなければなりません。

この際、出勤簿や賃金台帳などの証拠書類も合わせて提出します。

その後、行政による審査が行われ、問題がなければ支給決定通知書が届き、指定口座に助成金が振り込まれます。

重要なのは、「取り組みの実施と書類の整合性が取れていること」です。

補助金を受給する流れ

補助金のプロセスは、「公募」への応募からスタートします。

公募要領を読み込み、自社の事業アイデアをまとめた「事業計画書」を作成して申請しましょう。

その後、事務局による審査が行われ、採択された企業のみが「交付申請」へと進むことができます。

交付申請が認められ、「交付決定通知」を受け取った後でなければ、事業を開始してはいけません。

これが最大の注意点です。

事業終了後には「実績報告書」を提出し、経費の支払いが適正であったかの検査を受けます。

検査に合格して補助金の額が確定し、ようやく請求・入金となります。

補助金を受給するには、上記のような長いプロセスを管理する体制が必要です。

中小企業が利用できる助成金・補助金

現在、中小企業が活用しやすい助成金・補助金が数多く用意されています。

ここでは、特に利用実績が多く、幅広い業種で活用が検討できる代表的なものをピックアップして紹介しますので、自社の課題に合ったものがあるかどうかぜひ確認してください。

ただし、制度は毎年のように内容や名称が変わるため、「過去に使えたから今回も同じ条件で使える」とは限りません。

最新情報は、厚生労働省や経済産業省、各自治体などの公式サイトで必ず確認するようにしましょう。

中小企業が利用できる助成金

厚生労働省系の助成金の中で、特に中小企業の利用頻度が高いのが以下の制度です。

キャリアアップ助成金有期雇用労働者や派遣労働者などを正社員化したり、処遇改善を行ったりした場合に支給される。「正社員化コース」がもっともポピュラー。
人材開発支援助成金従業員に対して専門的な職業訓練や研修を実施した際に、訓練経費や期間中の賃金の一部が助成される。従業員のスキルアップを図りたい企業に最適。
両立支援等助成金育児休業や介護休業を取得しやすい環境を整備し、実際に従業員が制度を利用した場合などに支給される。働き方改革を推進する企業への支援策。

参考)厚生労働省「キャリアアップ助成金」

参考)厚生労働省「人材開発支援助成金」

参考)厚生労働省「両立支援等助成金のご案内」

中小企業が利用できる補助金

経済産業省系の補助金では、以下の制度が定番として多くの企業に利用されています。

IT導入補助金業務効率化や売上アップのためにITツールを導入する経費の一部が補助される。インボイス対応やセキュリティ対策も対象。
ものづくり補助金革新的な製品・サービスの開発や、生産プロセス改善のための設備投資に対して補助される。製造業だけでなく、サービス業や小売業でも要件を満たせば申請可能。
小規模事業者持続化補助金小規模事業者が経営計画を作成することで、販路開拓に取り組む費用が補助される。比較的申請しやすい制度。

参考)経済産業省 中小企業庁「人気の補助金」

参考)独立行政法人 中小企業基盤整備機構「最新の補助金情報」

企業が助成金や補助金を活用する際の注意点

返済不要の資金は魅力的ですが、利用にあたってはリスクや負担も存在します。

安易な気持ちで申請を行うと、後で予期せぬトラブルに巻き込まれるかもしれません。

実際の運用にあたっては、人事・労務部門だけでなく、経理・経営層との連携が必要です。

「誰が申請をリードするのか」「どのタイミングで専門家に相談するのか」といった役割分担を事前に決めておくと、トラブルを防ぎやすくなります。

また、以下の3つの注意点も非常に重要ですので、ぜひ意識するようにしてください。

助成金や補助金前提で事業計画を立てない

もっとも避けるべきなのは、「お金がもらえるからやる」という動機で事業を始めることです。

助成金や補助金はあくまで支援策であり、事業費の全額がカバーされるわけではありません。

必ず自己負担分が発生します。

もし補助金が不採択になったり、助成金の要件を満たせず不支給になったりした場合でも、事業を継続できるだけの資金計画が必要です。

補助金・助成金ありきの計画で進めてしまうと、入金されなかった瞬間に資金ショートを起こし、経営危機に陥るリスクがあります。

本業の成長に必要な投資かどうかを、冷静に見極める視点を持ってください。

参考)日本政策金融公庫「補助金・助成金の活用による経営改善」

助成金も補助金も原則として後払いになる

前述の通り、助成金や補助金は、経費を支払った後に支給される「後払い」の仕組みですので、設備投資や外注費の支払いは、先に自社の資金で済ませなければなりません。

そのため、一時的に多額のキャッシュアウトが発生することになります。

数百万円から数千万円単位の投資を行う場合、入金されるまでの数ヶ月から1年以上の間、資金繰りをどう支えるかが課題となります。

必要に応じて金融機関からの「つなぎ融資」を検討するなど、手元資金を枯渇させないための準備が不可欠です。

参考)日本政策金融公庫「補助金・助成金の活用による経営改善」

レピュテーションリスクにつながる可能性がある

不正受給に対するペナルティは、年々厳しくなっています。

事実と異なる書類を提出したり、経費を水増しして請求したりすることは犯罪行為です。

不正が発覚した場合、受給額の返還に加えて高額な違約金が請求されるだけでなく、企業名が公表されるケースもあります。

企業名が公表されれば、取引先や金融機関からの信用は失墜し、事業継続が困難になるでしょう。

また、悪質なコンサルタントにそそのかされて、知らず知らずのうちに不正に加担してしまう事例も報告されています。

うまい話には乗らず、法令を遵守して正当な手続きを行うことが、会社を守ることにつながります。

参考記事:レピュテーションリスクから会社を守る!風評被害との違い・事例・対策

まとめ

助成金と補助金は、管轄や目的、審査の有無など、多くの点で異なります。

どちらの制度も、正しく活用すれば企業の大きな力となりますので、自社の状況に合った制度を見極めることが成功への第一歩です。

まずは、自社が現在抱えている課題が「人」にあるのか、それとも「事業設備」にあるのかを整理することから始めてみてください。

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