キャリアプランの考え方とは? 中小企業が人材定着に進める年代別・属性別支援策
多くの中小企業が、人材の確保と定着に深刻な悩みを抱えています。とくにリソースが限られる中で、採用した人材が早期に離職してしまうことは大きな損失です。この課題を解決する鍵こそが、従業員のキャリアプラン支援なのです。
企業がキャリアプランを後押しする考え方で支援することにより、従業員のエンゲージメントを高めます。
この記事では、中小企業がキャリアプラン支援を導入する重要性から、従業員の年代別・属性別に配慮した具体的な支援策の考え方、そして人材定着に成功した企業の事例までを詳しく解説します。
なぜ従業員は会社を辞めてしまうのか、その本音を知ることが、人材定着の第一歩です。
本サイトでは、従業員のリアルな離職理由や、企業が取るべき具体的な離職対策をまとめた調査資料を無料で提供しています。貴社のキャリアプラン支援策を考える上で、ぜひお役立てください。
目次
なぜ今、中小企業に従業員の「キャリアプラン支援」の考え方が必要なのか?
中小企業庁の「2024年版 中小企業白書」によれば、多くの中小企業が深刻な人手不足、とくに中核人材の不足に直面しています。採用難や指導リソースの不足も大きな課題です。

出典)中小企業庁「2024年版 中小企業白書(HTML版)」
限られたリソースの中、大企業と給与だけで勝負するのは困難です。キャリアプランの考え方は、単なる人材定着策にとどまりません。従業員の主体的なスキルアップを促し、多様な能力を引き出すことが、生産性の向上や新たなイノベーションの創出に直結するのです。
従業員がこの会社で成長できるという道筋を明確に持つことはエンゲージメントを高め、成長した人材が中核を担うことで、事業環境の変化に対応できる強い組織が育まれます。
キャリアプランの考え方は、中小企業にとって人材流出を防ぐ「守り」と、企業競争力を高める「攻め」の両面を持つ経営戦略でなければならないのです。
【年代別】キャリアプラン支援の基本的な「考え方」
厚生労働省の資料で示されているように、従業員がキャリアにおいて直面する課題やニーズは、職業生活のステージ、すなわち年代によって大きく異なります。
中小企業こそ、従業員との距離の近さを活かし、それぞれの年代の特性に合わせた柔軟なキャリアプランの考え方を持つことが重要です。
キャリアプランの考え方:新卒・20代
新卒・20代は、社会人としての基礎スキルを習得し、自身の適性を見極める探索・確立の時期です。多くは早く一人前になりたいという意欲と、この仕事でよかったのかという不安を同時に抱えています。
企業が提示できる主なキャリアプランの支援例
- 具体的な業務スキルを習得させるOJT
- 精神的な支えとなるメンター制度
定期的な1on1ミーティングで小さな成功体験を承認し、本人の適性を見ながら少しずつ任せる仕事の幅を広げていくことが、成長実感と定着につながります。
キャリアプランの考え方:30代
30代は、専門性を確立し、中核人材として活躍が期待される一方、プライベートでは結婚や出産・育児といったライフイベントが集中しやすい時期でもあります。
また、プレイヤーとしての専門性を極めるか、マネジメントへ進むか、キャリアの分岐点に立つ時期でもあります。
企業が提示できる主なキャリアプランの支援例
- 本人の希望に応じて「専門職コース」や「管理職コース」といったキャリアパスを明確に示す
- リーダーシップ研修や高度な専門知識を学べる外部研修の機会を提供
- 育児と両立できる柔軟な勤務制度を整備
今後もキャリアを中断させずに活躍してもらえるような環境づくりが、企業には求められます。
キャリアプランの考え方:40代
40代は、豊富な経験とスキルを持ち、管理職やチームの指導役として組織の中核を担う年代です。一方で、自身のキャリアの停滞を感じたり、組織内での役割が固定化し、モチベーションの維持が難しくなったりするケースも見られます。
企業が提示できる主なキャリアプランの支援例
- これまでの経験を棚卸しし、会社にどう貢献できるか再定義する機会を設ける
- 培った知見を若手に伝承する「メンター」としての役割を公式に与える
- 経営層に近い視点でのマネジメント研修や、次世代幹部としての育成
これらの支援により、従業員から新たなやりがいを引き出せます。
キャリアプランの考え方:50代
50代は、役職定年や定年後のセカンドキャリアを意識し始める時期です。会社に貢献し続けたいという意欲と、この先どうなるのかという不安が入り混じります。
企業が提示できる主なキャリアプランの支援例
- 定年をゴールではなく通過点とするキャリアプランの考え方を提示
- 本人の意向を丁寧にヒアリングし、長年培った専門知識や人脈活用を一緒に模索
- 60代以降も活躍するためのリスキリングの機会を提供
これらの支援を通じて、豊富な経験を組織の資産として最大限に活用する考え方が重要です。
とくに配慮したいキャリアプラン支援の考え方
従業員の主体的なキャリア形成を促すプランは、企業の持続的な成長に不可欠です。厚生労働省の資料によれば、企業が金銭的な援助や就業時間の配慮といった支援により、従業員の自己啓発が促進される可能性が示されています。

出典)厚生労働省「令和4年版 労働経済の分析 -労働者の主体的なキャリア形成への支援を通じた労働移動の促進に向けた課題-(HTML版)」
画一的な支援ではなく、とくに専門性が高い職種や、離職リスクが高い属性の従業員に対しては、個別の事情に配慮したキャリアプランの考え方が求められるのです。
キャリアプランの考え方:エンジニア
エンジニアは、技術の陳腐化が非常に早いという特性を持つ職種です。常に最新のスキルを習得し続けなければ市場価値が下がるという危機感を抱えており、成長できる環境がなければ容易に転職を選択します。
企業が提示できる主なキャリアプランの支援例
- 技術を深める専門職としてのキャリアパスと、組織をまとめる管理職としてのキャリアパスの両方を明確に示す
- 社内勉強会の開催支援
- 最新技術を学ぶ外部研修やカンファレンスへの参加費用補助
- 資格取得支援制度
会社がスキルアップを積極的に応援する姿勢を見せることが重要です。
キャリアプランの考え方:転職希望者
転職したいという従業員のサインを察知した時、それはキャリアプラン支援の大きなチャンスです。転職を考える理由は、キャリアアップしたい、評価・待遇に不満がある、人間関係などさまざまですが、その多くは社内の仕組みで解決できる可能性があります。
企業が提示できる主なキャリアプランの支援例
- 1on1ミーティングで、転職理由を丁寧に傾聴
- 今の仕事に将来性が見えないという理由であれば、社内公募制度やジョブローテーションによって、社内で新たなキャリアが構築できる可能性を提示
本人の希望と会社のニーズが合致する部署への異動を支援することは、優秀な人材の流出を防ぐ有効な手段となります。
【事例】中小企業のキャリアプラン支援
キャリアプラン支援と聞くと大企業の制度と思われがちですが、実際には多くの中小企業が独自性を活かした取り組みで人材育成と定着に成功しています。リソースが限られる中でも実践できた、具体的な3つの事例をご紹介します。
事例:技能工の育成と多能工化でキャリアアップを支援
熊本県で建築工事仕上げの専門業者として事業を展開する株式会社こざきは、創業以来、技能工の育成に注力してきました。
キャリアプラン支援
- 新卒者には職業訓練校への通学を2年間会社負担で実施
- 卒業後の技能検定受検を支援し、最短コースでの資格取得をバックアップ
- 管理職研修や全社員参加の経営方針発表会での面談を通じ、個々の力量評価と目標の明確化
成果
- 取得した資格が月々の資格手当に反映されるため、従業員の満足度とモチベーション向上につながった
- 会社全体の有資格者が増加したことで、企業の信頼性や営業面での評価向上にも効果を上げた
事例:従業員の適性を見極めた柔軟なキャリアパス構築
福岡県でコンサルティングや社会保険の手続きを代行する社会保険労務士法人T2パートナーズは、「顧問先の見本となる労務管理」を掲げ、社員のキャリアプラン実現支援を実践しています。
キャリアプラン支援
- 法律系業務より、人と関わる業務に強みがあると判明した事務職員のキャリア形成と会社の業務貢献を両立させるため、キャリアコンサルタントの資格取得を全面的に支援
成果
- 代表社員が推進者を兼務することで、トップダウンによる迅速な支援が実現
- 従業員は得意分野を伸ばし、その資格を顧問先社員とのコミュニケーションギャップを埋める新たな業務に活かし、業績への貢献と本人のモチベーションアップにつながった
事例:全社的な教育訓練体系で「ものづくりは人づくりから」を実践
佐賀県で製造業を営む東亜工機株式会社は、会社の業務成果は組織機能によるものと考え、全社員に対する多様な業務能力の養成を重視しています。
キャリアプラン支援
- 入社後約5か月間の基礎教育に加え、管理者・監督者・初級といった階層別の教育訓練体系を整備
- 技能検定の受検を推奨し、自己啓発意欲のある従業員を積極的に支援
- 毎年、全社員がレベルアップ目標を設定し、その結果が納得できる形で評価されるシステムを運用
成果
- 体系的な教育により、社員が素直で積極的に業務に取り組む姿勢が醸成される
- 技能検定の合格者増加が製品の高品質化と企業信用に直結
- 問題解決能力も高まり、将来の管理監督候補者が増える
中小企業が社内で実践するキャリアプラン支援の考え方と具体的な進め方
大掛かりな制度を導入しなくても、日々のコミュニケーションや仕組みの工夫によって、中小企業でも効果的なキャリアプラン支援は実践できます。従業員との距離が近いからこそ有効な、具体的な3つの進め方を紹介します。
「1on1ミーティング」による対話
キャリアプラン支援の第一歩は、従業員が何を考え、何に悩み、将来どうなりたいのかを知ることです。そのために有効なのが、上司と部下による定期的な「1on1ミーティング」です。
評価面談とは異なり、部下のキャリアの意向や悩みに耳を傾ける対話の場として設定します。上司は傾聴を第一に、部下の主体的なキャリア形成をサポートする伴走者としての考え方を持つことが重要です。
研修や資格取得支援
従業員の「学びたい」という意欲に応えることは、スキルアップやモチベーション向上に直結します。
中小企業では、全方位的な研修を自社で用意するのは難しくても、業務に必要な専門知識や、本人が希望する分野の学習を支援することは可能です。
eラーニングの導入、外部研修への参加費用補助、資格取得時の報奨金制度などを設け、会社が成長を応援しているという考え方を明確に示しましょう。
社内公募制度・ジョブローテーション
従業員のキャリアの可能性を社内に広げる「社内公募制度」や、定期的に部署を異動する「ジョブローテーション」は、中小企業でも有効な施策です。
とくに小規模な組織では、柔軟な配置転換が本人の適性発見や多能工化につながります。社内で多様なキャリアパスを経験できることは、この会社で働きたいという動機付けになります。
キャリアプランを制度として成功させるコツ
- 募集するポストの要件や評価基準を明確にし、全従業員に公平に周知する
- 管理職には、全社的な人材育成の考え方を持ってもらい、優秀な部下の囲い込みを防ぐ
- 1on1での対話と制度を連動させ、把握した本人の希望と公募情報を結びつけて背中を押す
キャリアプランの面談や配置転換は、従業員にとってプレッシャーになりやすい場面でもあります。
評価や人事異動と密接に関わるからこそ、「退職を促している」と受け取られないようにすることも人事・労務担当者にとって重要な視点です。
目的や判断基準を事前に丁寧に説明し、記録を残しておきましょう。
参考記事:社員のエンゲージメントを高めるには?言葉の意味・測定方法・向上施策など
キャリアプラン支援に活用できる施策と基本的な考え方
国が提供する公的な支援策を活用することで、リソース不足を補いながら効果的なキャリアプラン支援を実施することが可能です。
キャリアコンサルティング・キャリアコンサルタント
キャリアコンサルタントは、キャリア形成に関する専門家です。従業員が自身のキャリアについて考える機会を定期的に設け、専門家による相談を受けられるようにする「セルフ・キャリアドック」制度の導入が推奨されています。
社内に専門家を配置するのが難しくても、地域のキャリア形成サポートセンターなどを通じて、外部の専門家によるキャリアプラン支援を活用することが可能です。
人材開発支援助成金
従業員のスキルアップのために職業訓練・研修を実施した際、その経費や訓練期間中の賃金の一部を国が助成する制度です。OJTやOFF-JT(外部研修)、eラーニングなど、幅広い訓練が対象となります。
「人材育成支援コース」や「教育訓練休暇付与コース」などは、中小企業が従業員のキャリアプランに合わせた学習機会を提供する際に、大きな助けとなります。
教育訓練給付金
従業員個人が、厚生労働大臣の指定する教育訓練講座を修了した際に、受講費用の一部の支給を受けられる制度です。
企業が直接利用する制度ではありませんが、従業員の自主的な学びを促進するために、このような制度があることを社内で周知・推奨することは、キャリアプラン支援にとって非常に有効です。
まとめ
人手不足が深刻化する現代において、中小企業が持続的に成長するためには、人材の採用だけでなく育成と定着が不可欠です。その核となるのが、従業員一人ひとりの「キャリアプラン支援」という考え方です。
企業が従業員のキャリアに真剣に向き合い、年代や属性に応じたキャリアプラン支援をすることが、従業員のエンゲージメントを高め、「この会社で長く働きたい」という思いを育むことにつながります。
社内リソースだけで賄おうとせず、国の人材開発支援助成金やキャリアコンサルティングといった公的支援も積極的に活用しながら、自社に合ったキャリアプラン支援の仕組みを構築していくことが、未来への確かな投資となるのです。
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