スキルマップの作り方や作成目的を解説!役立つテンプレートも紹介
「従業員のスキルを正確に把握できていない」
「評価基準が曖昧で部下から不満が出ている」
「特定の社員しかできない業務があり、休まれると困る」
組織運営において、上記のような人材マネジメントに関する悩みを抱えている企業も多いのではないでしょうか。
こういった場合に役立つのが、従業員の能力を一目でわかるように可視化できる「スキルマップ」です。
しかし、いざ導入しようと思っても、どのような項目を設定し、どう運用すればよいのか迷う場合も少なくありません。
そこでこの記事では、スキルマップを導入する目的やメリット、失敗しないための具体的な作り方などについて詳しく解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
目次
スキルマップとは何か?
スキルマップとは、業務において、従業員一人ひとりが保有しているスキルや能力を、「1〜5」などの数値を用いて一覧表にまとめたものを指します。
「力量管理表」や「スキルマトリクス」とも呼ばれ、あらゆる業界で活用されています。
スキルマップを作成することで、個人の能力だけでなく、組織全体としてどのスキルが不足しているか、誰がどの業務に対応できるかといった現状を、客観的なデータとして把握できるようになります。
これにより、感覚的な人事管理から脱却し、データに基づいた戦略的な人材マネジメントが可能になるのです。
スキルマップを作成する主な目的
企業がスキルマップを作成する目的は、単に従業員の能力をリスト化することだけではありません。
その本質的な目的は、「可視化されたデータを活用して、組織全体のパフォーマンスを最大化すること」にあります。
具体的には、現状の組織に足りないスキルを特定し、採用計画や研修計画の根拠とするために作成されます。
たとえば、新規プロジェクトを立ち上げる際に、必要なスキルを持った人材が社内にいるのか、あるいは外部から採用する必要があるのかを判断する材料となります。
また、従業員に対して「会社が求めているスキル」を明示し、目指すべきキャリアの方向性を示すという目的も重要です。
従業員は、「自身のスキルレベル」と「目標とのギャップ」を認識することで、自律的なスキルアップに取り組むべきだという意識を持ちやすくなるでしょう。
業務の属人化解消も大きな目的の一つです。
特定の担当者しかできない業務を可視化し、他の従業員でも対応できるように対策することで、組織のリスク管理を強化できます。
このように、スキルマップは「人材育成」「配置」「評価」「リスクマネジメント」といった多岐にわたる経営課題を解決するための基礎データとして機能します。
スキルマップを作成するメリット
スキルマップを導入し、適切に運用することは、企業と従業員の双方に多くのメリットをもたらします。
この項目では、スキルマップを作成することで得られる具体的なメリットについて解説します。
従業員のスキルを可視化できる
最大のメリットは、目に見えにくい個人の能力やスキルを可視化できる点にあります。
通常、業務遂行能力は個人の頭の中や経験則に留まりがちで、客観的に把握することが困難です。
スキルマップによってこれらが一覧化されると、誰がどのような強みを持っているのか、逆にどの分野が苦手なのかが一目で分かるようになります。
管理職は、部下の能力を正確に把握することで、適切な業務配分を行えるようになるでしょう。
また、組織全体を見渡した際に、特定のスキルに長けた人材が偏っている、あるいは重要なスキルを持つ人材が不足している、といった「組織の強みと弱み」も浮き彫りになります。
従業員への教育を効果的に実施できる
スキルマップを活用することで、効率的かつ効果的な人材育成が可能になります。
全社一律の研修を実施するのではなく、個々の従業員の不足しているスキルに焦点を当てた教育プログラムを提供できるようになるからです。
たとえば、ある部署全体で「交渉力」が不足していることがデータから判明すれば、その部署向けに交渉力強化の研修を重点的に実施できます。
また、個人レベルでも、次に習得すべきスキルが明確になるため、上司は部下に対して具体的な指導やOJTを行いやすくなります。
従業員自身も、自分がどのレベルを目指せばよいのかという目標がクリアになるため、学習意欲の向上につながるでしょう。
人事における評価基準が公平になる
人事評価において、評価者の主観による偏りを防ぎ、公平性を高められることも大きなメリットです。
従来のような「頑張っている」「意欲がある」といった曖昧な評価ではなく、「このスキルがレベル3に達しているため評価する」といった客観的な事実に基づいた評価が可能になります。
評価基準が明確であれば、従業員は評価結果に対しての納得感が増します。
さらに評価する側にとっても、「なぜこの評価なのか」を論理的に説明できるため、評価フィードバックの質も向上するでしょう。
最適な人材配置に繋がる
プロジェクトの立ち上げや人事異動の際、スキルマップは「適材適所」を実現するための強力なツールとなります。
新しいプロジェクトに必要なスキル要件を定義し、スキルマップと照らし合わせることで、最適なメンバーを迅速に選抜することが可能です。
また、従業員の異動を検討する際にも、異動先の部署で必要とされるスキルと本人の保有スキルを比較することで、ミスマッチを防ぐことができます。
能力を発揮しやすい環境に従業員を配置することは、個人のパフォーマンス向上だけでなく、組織全体の生産性向上に直結するため、この点もスキルマップを作成するメリットだと言えます。
離職防止に役立つ
スキルマップは、従業員の離職防止にも役立ちます。
自分のスキルが正当に評価され、今後のキャリアパスが明確に示されている環境ならば、従業員は将来への不安を感じにくくなります。
自分が会社から何を期待されており、どのスキルを伸ばせば昇進や昇給につながるのか理解できれば、モチベーションを維持しながら働き続けることができるでしょう。
また、成長を実感できる機会を提供し続けることで、「この会社で働き続けたい」という意欲を高めることにもつながるはずです。
人材不足が深刻化する中、優秀な人材を定着させる施策としてスキルマップは有効です。
業務の属人化を防ぎやすくなる
特定の業務が特定の人物にしかできない「属人化」は、その担当者が休んだり退職したりした際に業務が停止するリスクを孕んでいます。
スキルマップを作成すると、どの業務に対応できる人が何人いるかが可視化されるため、属人化している業務を早期に発見できます。
そして、対応者が一人しかいない業務があれば、計画的に他のメンバーへスキルを習得させ、複数名が対応できる体制を整える対策が打てます。
また、業務マニュアルや引き継ぎ体制と組み合わせて運用することで、「特定の担当者が不在だとインシデント対応が止まってしまう」といったリスクも軽減できます。
コンプライアンスや情報セキュリティなど、ミスが重大なトラブルにつながる領域ほど、スキルマップによる属人化の見える化が重要です。
上記のような対策により、急な欠員が出た場合でも業務を滞らせることなく遂行できる、強靭な組織体制を構築することができるのです。
スキルマップの作り方を4ステップで解説
実際にスキルマップを作成する際は、いきなり表を作り始めるのではなく、順序立てて進めることが重要です。
適切な手順を踏まずに作成すると、現場の実態に合わない使いにくいものになってしまう恐れがあります。
この項目では、効果的なスキルマップを作成するための基本的な4つのステップを紹介します。
【STEP.1】スキルマップ作成の目的を明確にする
まずは、「なぜスキルマップを作るのか」という目的を明確に定義することから始めてください。
- 人材育成に重点を置きたい
- 人事評価の公平性を高めたい
- 業務の属人化を解消したい
上記のような目的の違いによって、設定すべき項目や評価の粒度が異なります。
目的が曖昧なままスキルマップ作成を進めると、不要な項目まで網羅しようとして「作成する行為自体」が目的化してしまったり、完成しても活用されなかったりする事態になりかねません。
経営層や現場の管理者と話し合い、「誰が」「いつ」「何のために」使うものなのかを具体的にイメージしましょう。
【STEP.2】業務に必要なスキルを洗い出して整理する
目的が定まったら、対象となる部署や職種の業務に必要なスキルを洗い出します。
まずは業務内容を細分化し、それぞれの業務を遂行するために必要な知識、技術、資格などをリストアップしてください。
この際、実際に現場で働いている従業員へのヒアリングや、業務マニュアルの確認を行うと、漏れがなくなるでしょう。
洗い出したスキルは、「基礎スキル」「専門スキル」「マネジメントスキル」のようにカテゴリー分けし、さらに難易度や重要度に応じて階層化して整理します。
項目が多すぎると管理が煩雑になるため、本当に必要なスキルに絞り込む作業も重要です。
【STEP.3】スキルの評価基準を決定する
次に、整理したスキルをどのように評価するか、具体的な基準(評価レベル)を策定します。
一般的には、1〜4段階や1〜5段階のレベルを設定するケースが多いです。
たとえば、以下のような形です。
- レベル1:補助はできる
- レベル2:指導を受ければできる
- レベル3:一人で遂行できる
- レベル4:他者を指導できる
このように、誰が見ても客観的に判断できる定義を作成します。
この定義が曖昧ですと、評価者によって結果にばらつきが出てしまい、信頼性の低いデータになってしまいます。
定性的な表現だけでなく、可能な限り具体的な行動事実に基づいた基準を設けるよう心がけてください。
【STEP.4】実際にスキルマップを作成し運用する
項目の洗い出しと評価基準の策定が完了したら、実際にスキルマップのフォーマットを作成します。
Excelやスプレッドシートを使用するのが一般的ですが、専用のタレントマネジメントシステムを活用する場合もあります。
スキルマップが完成したら、各従業員のスキル評価を入力してください。
最初は本人による自己評価を行い、その後上司が確認・修正を行うプロセスを経ることで、確度の高いスキルマップになりやすいです。
スキルマップ完成後は、そのまま放置せず、定期的な面談のタイミングなどで情報を更新し、常に最新の状態を保つ運用ルールを定めることも忘れないでください。
スキルマップのテンプレートとして使えるエクセルファイル
自社でゼロからスキルマップを作成しようとすると時間と労力がかかってしまいますが、公的機関などが提供している既存のテンプレートや資料を活用すれば、効率的に作成を進めることができます。
ここでは、信頼性が高く、無料で参照・ダウンロードが可能なテンプレートを紹介します。
厚生労働省の「職業能力評価シート」
厚生労働省では、従業員の職業能力を適正に評価するためのツールとして「職業能力評価シート」を公開しており、誰でも無料でダウンロードして利用できます。
このシートは、多種多様な業種や職種に対応している点が大きな特徴です。
事務系職種から、製造業、建設業、介護、卸売業、ホテル業など、幅広い分野のテンプレートが用意されています。
それぞれの職種で必要とされる標準的なスキル項目や評価基準(レベル設定)があらかじめ詳しく記載されているため、自社の業務内容に近いものを選んで加工すれば、短時間で質の高いスキルマップを作成することが可能です。
製造業や建設業など、ISOの「力量管理」を求められる業種では、これらのシートをベースに自社のスキルマップを整備しておくことで、「誰がどの業務をどのレベルで担当できるか」を説明しやすくなり、審査対応や安全衛生面のリスク低減にもつながります。
参考)厚生労働省「キャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルのダウンロード」
独立行政法人情報処理推進機構の「情報システムユーザースキル標準(UISS)」
IT関連の職種や情報システム部門のスキルマップを作成したい場合は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が提供している「情報システムユーザースキル標準(UISS)」が非常に役立ちます。
これは、企業や組織の情報システム利用者が備えるべきスキルを体系化したものです。
UISSでは、情報システムの企画、開発、運用、保守といったプロセスごとに必要なタスクとスキルが詳細に定義されています。
また、それらのスキルを評価するための指標やレベル分けの考え方も示されています。
IT人材の育成や評価指標の策定において、業界標準のフレームワークを参照することは、客観性や網羅性を確保する上で大きな助けとなるでしょう。
参考)独立行政法人情報処理推進機構「情報システムユーザースキル標準(UISS)と関連資料のダウンロード」
スキルマップに関するよくある質問
スキルマップの導入を検討する際や運用中に生じる疑問について、Q&A形式で解説します。
多くの企業が直面する課題への対策も含めて紹介しますので、導入前の参考にしてください。
スキルマップを作成しても意味ない?
スキルマップを作成すること自体には、人材育成や組織力強化において大きな意味があります。
しかし、「作成して終わり」になってしまっている場合は、意味がないと感じられるかもしれません。
いわゆる「形骸化」の状態です。
現場の実態と乖離した項目を設定していたり、更新頻度が低くデータが古かったりすると、現場では活用されなくなります。
意味あるものにするためには、半年に一度などの定期的なスキルマップの見直しを行い、常に最新の状態にアップデートすることが不可欠です。
また、作成段階から現場の管理者を巻き込み、現場で実際に使えるツールとして運用フローを設計することで、形骸化を防ぐことができます。
スキルマップには主にどのような項目がある?
職種によって異なりますが、大きく分けて3つのカテゴリーで構成されることが一般的です。
1つ目は、業務遂行に直結する専門的な知識や技術を指す「テクニカルスキル」です。
たとえば、プログラミング言語、機械操作、商品知識などが該当します。
2つ目は、コミュニケーション能力、リーダーシップ、問題解決能力などの対人関係や仕事への姿勢に関わる「ヒューマンスキル(ソフトスキル)」です。
3つ目は、業務に必要な免許や資格の保有状況を示す「資格・免許」です。
これらに加えて、企業理念への理解度やコンプライアンス意識など、会社として重視したい独自の項目を追加するケースもあります。
スキルマップを作成すればすぐに効果が出る?
スキルマップを作成したからといって、即座に業績が向上したり、人材が育ったりするわけではありません。
スキルマップはあくまで現状を可視化するための「診断ツール」であり、効果を出すためには、その結果に基づいたアクションが必要です。
可視化されたデータを基に、不足しているスキルを補う研修を実施したり、適切な配置転換を行ったりと、具体的な施策を実行し続けることで、中長期的に効果が現れます。
効果が出るまでには一定の時間が必要であることを理解し、粘り強く運用を継続する姿勢が大切です。
スキルマップはエクセルで十分?
はい、エクセルで十分です。
実際、官公庁が配布しているスキルマップのテンプレートもエクセルで作成されているものがあるので、何も問題はありません。
共有のしやすさを重視するのであれば、エクセルと同じような機能を持つGoogleスプレッドシートで作成するという方法もあります。
まとめ
スキルマップは、従業員の能力を可視化し、人材育成、公平な評価、適材適所の配置を実現するための強力なツールです。
作成することで、組織の現状を客観的に把握でき、業務の属人化防止や離職防止といった経営課題の解決に役立ちます。
ただし、作成して終わりではなく、定期的な更新と適切な運用が必要ですので、本記事を参考にぜひスキルマップを有効活用してください。
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