地域採用(エリア限定職)とは? 難しい理由・メリットデメリット・制度設計のポイントを解説
地域採用は、「エリア限定職」「地域限定正社員」などとも呼ばれ、転居を伴う転勤を前提としない雇用区分です。
「転勤なし」を希望する求職者が増えている昨今、人材確保の切り札として「地域採用」の導入を検討する企業が増えています。
しかし、いざ導入しようとすると、「給与設定をどうすべきか」「将来的に支店がなくなったらどうするのか」といった運用面での不安や、「募集しても思ったように人が集まらない」という壁に直面するケースも少なくありません。
地域採用は、従業員の定着率向上などの大きなメリットがある一方で、組織の柔軟性を損なうリスクもあり、戦略的な制度設計が求められます。
そこでこの記事では、地域採用の基本的な定義や注目される背景から、企業にとってのメリット・デメリット、そして「地域採用は難しい」と言われる理由について解説していきます。
地域採用を導入した後に後悔しないための成功のコツも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
地域採用とは何か?
地域採用とは、勤務地を特定の地域に限定し、原則として転居を伴う異動がないことを条件とした採用形態のことです。
地域採用は、企業によって呼び方が異なり、「地域限定採用」「エリア限定職」「エリア採用」「エリア総合職」「地域総合職」などとも呼ばれます。
従来の日本企業、特に大企業では、総合職として採用された場合、全国各地への転勤や海外赴任がキャリア形成の前提となっていました。
しかし、地域採用という枠組みでは、あらかじめ働くエリアを決めて雇用契約を結びます。
企業にとっては、地域に根差した人材を確保できる手段であり、求職者にとっては、住み慣れた土地で安定して働き続けられる選択肢となります。
地域採用は「転居を伴う転勤」がない雇用形態
地域採用の最大の特徴は、「原則として、転居を伴う転勤がない」という点に尽きます。
通常の採用では、会社の命令があれば全国どこへでも引っ越す必要がありますが、地域採用の従業員にはその義務が発生しません。
ただし、全く異動がないわけではありません。
自宅から通勤可能な範囲内での支店間異動や、部署異動は発生するケースが一般的です。
たとえば、「東京都内の支店間での異動」や「通勤時間が多少増える範囲での異動」などがこれに該当します。
こうした場合、住居を変える必要がないため、生活基盤を変えずにキャリアを継続できる点が多くの求職者にとって魅力となっています。
地域採用が注目を集める背景
地域採用が多くの企業で導入され、注目を集めている背景には、「労働者の価値観の多様化」と「少子高齢化による深刻な人手不足」があります。
かつてのように「会社のために家庭を犠牲にして全国を飛び回る」という働き方は、若年層を中心に支持されなくなりました。
そのため、地元にこだわる優秀な新卒を確保しようと考える場合、地域採用は非常に有効な制度となっています。
また、中途採用においても、「親の介護を理由に地元を離れられない」「配偶者の仕事や子供の教育環境を維持したい」という理由から、地元に残りたいと考える人も増えています。
企業側も、こうしたニーズに応えなければ優秀な人材を確保・定着させることが難しくなってきています。
従来のメンバーシップ型雇用から、勤務地や職務を限定するジョブ型雇用への移行が進んでいることも、地域採用の普及を後押ししています。
地域採用を実施しているのは大手企業が多い
「地域採用」という区分は、主に全国に支店や営業所を展開している大手企業ほど導入しやすい制度です。。
銀行、証券、保険などの金融機関や、メーカー、大手小売チェーンなどが代表的です。
中小企業の多くは、そもそも拠点が一つ、または限られた地域にしかないため、意図せずとも全員が「地域採用」のような状態になります。
そのため、あえて制度として地域採用を導入する必要性があまり高くありません。
地域採用という言葉が使われる場合、それは「全国転勤がある総合職」との対比として用いられるケースが多いです。
地域採用と地方採用の違い
「地域採用」と似た言葉に「地方採用」がありますが、この2つは使われる文脈や意味合いが異なります。
混同しないよう、それぞれの違いを以下の表で整理します。
| 地域採用 | 地方採用 | |
| 定義 | 企業が設けた「勤務地を限定する雇用区分・制度」のこと | 都市部の企業が、地方の拠点で人材を採用する「活動・手法」のこと |
| 場所 | 東京や大阪などの大都市圏を含む、特定のエリアすべてが対象 | 主に大都市圏以外の「地方」が対象 |
| 目的 | 従業員のワークライフバランスへの配慮、定着率向上 | 地方拠点の労働力確保、Uターン・Iターン人材の獲得、地方創生 |
| 対象者 | 新卒・中途問わず、転居を望まない人全般 | その地方に住んでいる人、または移住を希望する人 |
「地域採用」は、勤務地を限定するという「契約内容や制度」に焦点を当てた言葉です。
東京限定で働く場合も地域採用に含まれます。
一方、「地方採用」は、本社が都市部にある企業が、地方工場や地方営業所のために現地で人を募集するという「採用活動の場所」に焦点を当てた言葉です。
地域採用が難しいと言われる主な理由
地域採用は求職者からの人気が高い一方で、企業側にとっては運用が難しく、採用活動に苦戦するケースも少なくありません。
なぜ地域採用が難しいと言われるのか、構造的な要因を解説します。
採用の母集団が少ない
首都圏や大都市圏以外の地域で採用を行う場合、絶対的な人口が少ないため、母集団形成に苦労します。
特に少子高齢化が加速する地方都市では、若手人材の獲得競争が激化しています。
全国採用であれば、日本中から応募者を集められますが、地域採用はそのエリアに居住している、もしくは居住予定の人に対象が限定されます。
特定のスキルを持った経験者を採用しようとしても、その地域内に該当する人材が存在しなければ実現しません。
求める要件が高ければ高いほど、限られた商圏内でマッチする人材を見つける難易度は跳ね上がります。
柔軟な人員配置が難しくなる
企業経営において、地域採用の従業員が増えることは、組織の硬直化を招くリスクがあります。
たとえば、ある地域で事業を縮小し、別の地域で事業を拡大したい場合でも、地域限定社員を成長エリアへ異動させることができません。
A支店では人が余っているのに、B支店では人が足りないという状況になっても、地域採用の壁があるため、人員調整がスムーズに行えない、という事態に陥ることがあるのです。
その結果、拠点ごとに適切な人員配置ができず、経営効率が悪化する恐れがあります。
企業は、各地域の需給バランスを長期的に予測しながら、慎重に採用人数を決定しなければなりません。
転勤がないため業務や経験が偏る
地域採用の従業員は、同じ拠点で長く働き続けることが多くなります。
これは、地域の顧客と深い関係を築ける利点がある一方で、業務経験や視野が狭くなるという懸念も生じます。
全国転勤型の社員は、さまざまな地域の市場特性や、本社・支店それぞれの業務を経験することで、多角的な視点を養うことが可能です。
しかし、地域採用の従業員はその機会が限られるため、特定業務には特化できても、幅広い業務に対応できる人材にはなりづらいという側面があります。
また、人間関係が固定化されやすく、組織の新陳代謝が滞ることも課題の一つです。
地域採用を実施する企業側のメリット
多くの課題があるにもかかわらず、大手企業がこぞって地域採用を導入するには理由があります。
企業経営の観点から見た、地域採用の主なメリットを3つ紹介します。
従業員の定着率が高くなる
地域採用を導入する最大のメリットは、離職率の低下です。
「転勤」は、従業員が退職を決意する大きな要因の一つです。
特に、結婚・出産・育児・介護・マイホーム購入などのライフステージの変化に直面した従業員にとって、転居を伴う辞令は生活基盤を揺るがす一大事ですが、勤務地を限定することで、従業員は将来の生活設計を描きやすくなります。
その結果、安心して長く働き続けることができるため、優秀な人材が転勤を理由に流出するのを防ぐことができるのです。
人材の定着率が上がれば、採用コストの削減や、長期的なノウハウの蓄積に直結します。
人件費を抑えられる
一般的に、地域採用の給与水準は、全国転勤型の社員と比較して低めに設定されます。
これは、転勤に伴う負担がないことや、異動範囲が限定されることによる責任範囲の違いが考慮されるためです。
また、会社都合の転勤がないため、社宅の借り上げ費用や引っ越し手当、単身赴任手当といったコストも発生しません。
同一労働同一賃金の原則に配慮する必要はありますが、転勤の有無という合理的な理由に基づいて給与差を設けることで、人件費の総額を抑えられる点は経営的なメリットといえます。
多様な人材が集まりやすい
地域採用枠を設けることで、これまでは採用対象にならなかった層へアプローチできるようになります。
たとえば、地元志向の強い優秀な学生や、配偶者の仕事の都合で転勤できない中途採用の即戦力となれる人材などです。
全国転勤を必須条件にすると、能力が高くても家庭の事情で応募を諦めざるを得ない人材が多く存在します。
勤務地の制約を取り払うことで、ワークライフバランスを重視する現代の求職者ニーズにマッチし、多様で優秀な人材の中から採用を行うことが可能になります。
地域採用を実施する企業側のデメリット
制度導入には負の側面も存在します。
メリットだけでなくデメリットも把握した上で、適切な制度設計を行わなければ、組織内に不協和音が生じる可能性があります。
待遇に不満を持つ従業員が出てくるかもしれない
全国転勤型社員と地域限定社員が同じ職場で働く場合、待遇差による不公平感が生まれるリスクがあります。
「仕事内容は同じなのに、なぜ給料が違うのか」という不満が地域採用社員から出たり、逆に全国転勤型社員から「転勤リスクを負っているのだから、もっと給与差をつけるべきだ」という意見が出たりすることがあります。
特に、仕事の成果や責任の重さが同等に見える場合、この不満は深刻化しやすく、従業員のモチベーション低下を招く可能性が高まるでしょう。
役割の違いや給与体系の根拠を明確にし、全国転勤型社員も地域限定社員も納得して働けるよう、丁寧な説明が必要です。
支店の移動や廃止が難しい
事業環境の変化により、特定の地方拠点や支店を統廃合する必要が生じた際、地域採用の従業員の処遇が大きな問題となります。
勤務地限定の契約を結んでいる以上、本人の同意なしにエリア外への異動を命じることは法的に困難です。
結果として、リストラを検討せざるを得ない状況に陥る可能性がありますが、日本の労働法制下では解雇のハードルは非常に高いのが現実です。
地域採用の人数を増やしすぎると、将来的な事業再編の足かせとなり、経営の柔軟性を損なう恐れがあります。
地域採用を導入する際に注意すべき制度設計のポイント
地域採用制度を導入する際は、単に「転勤なし」とするだけでなく、詳細なルールを定めておくべきです。
曖昧な制度設計は、後の労務トラブルや従業員の不満に直結します。
ここでは、特に注意すべき5つのポイントを解説します。
①勤務地・異動範囲を明確にする
「地域」の定義を具体的に定めることが、制度設計の第一歩です。
単に「勤務地限定」とするだけでは、後々トラブルになる可能性があります。
- 「〇〇県内」
- 「〇〇市および隣接する市町村」
- 「現在の居住地から片道90分以内で通勤可能な事業所」
上記のように、明確な範囲を具体的に規定しましょう。
特に、広域のエリア(例:関東エリア)を採用区分とする場合は、転居を伴わないとしても長距離通勤が発生するリスクがあるため、通勤時間の上限を定めておくことが重要です。
②給与・評価差の「理由」を説明できるようにする
全国転勤型(総合職)と地域採用型で給与テーブルを分ける場合、その差の根拠を明確に説明できなければなりません。
2020年のパートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金)の施行以降、不合理な待遇差は厳しく制限されているため、単に「地域採用だから」という理由だけでは不十分です。
「全国転勤の負担(転居の有無、単身赴任の可能性)」「担当する業務範囲や責任の重さ」「キャリアパスの違い」などを整理し、給与差が合理的であることを論理的に構築する必要があります。
③拠点廃止・事業縮小時の扱いを想定しておく
地域採用の最大のリスクは、その地域の拠点がなくなった場合の対応です。
拠点の閉鎖や事業縮小が発生した際、地域限定社員をどう処遇するかをあらかじめシミュレーションしておきましょう。
選択肢としては、「本人の同意を得てエリア外へ異動」「近隣の他職種への配置転換」「テレワークによる他拠点業務の遂行」などが考えられます。
万が一の場合に備えて、就業規則に「事業所の閉鎖等により、勤務場所の変更を命じる場合がある」といった例外規定や、その際の協議プロセスを盛り込んでおくことも検討してください。
④コース転換(地域→全国)のルールを決めておく
従業員のライフステージは変化するものです。
入社時は地域限定を希望していても、数年後に「キャリアアップのために全国転勤も厭わない」と考えが変わることもあれば、その逆も然りです。
そのため、地域採用型と全国転勤型を行き来できる「コース転換制度」を設けることも検討してください。
転換試験の実施時期や要件、給与変更のルールを定めておくことで、優秀な人材の離職を防ぎ、長期的なキャリア形成を支援できます。
⑤契約書・就業規則に必ず明記する
決定したルールは、必ず労働条件通知書や就業規則に明記します。
特に2024年4月の労働基準法施行規則の改正により、労働条件通知書において「就業の場所・業務の変更の範囲」の明示が義務化されました。
地域採用の場合は、「変更の範囲:〇〇県内の各事業所(転居を伴う異動はなし)」といった形で、具体的に記載しなければなりません。
口頭での約束や、曖昧な記載は法律違反となるだけでなく、言った言わないのトラブルの元凶となります。
企業が地域採用を成功させるコツ
地域採用を単なる「転勤なしの雇用」として安易に導入するのではなく、戦略的に制度を設計・運用することが成功の秘訣です。
この項目では、企業が押さえておくべき運用のポイントを解説します。
勤務地範囲・異動範囲・例外条件を最初に定義する
勤務地や異動範囲などについては、単にルールを決めるだけでなく、運用を通じた「伝え方」の徹底が不可欠です。
まず求人票や面接では、具体的な異動範囲や、拠点が閉鎖した際の例外条件を示し、候補者の期待値を正確に調整しましょう。
また、入社後の不満を防ぐためには、地域限定でも管理職等を目指せる評価・昇進ルートを可視化し、キャリアの停滞感を与えない工夫が求められます。
全国型との待遇差についても、不公平感を生まないよう「異動リスクへの対価」といった合理的な理由を現場が説明できる「共通テンプレ」を用意しておきましょう。
定義した条件を納得感のある形で発信し続けることが、ミスマッチ防止と組織の安定に直結します。
全従業員に周知して理解を得る
地域採用制度を導入する際は、対象者だけでなく、全従業員に対して制度の趣旨を説明し、理解を得ることが重要です。
特に、全国転勤型と地域限定型で給与テーブルや昇進スピードに差がある場合、その合理的な理由をオープンにする必要があります。
互いの働き方を尊重し合える風土を作らなければ、従業員間に溝ができ、組織の一体感が失われてしまいます。
定期的な説明会や、評価制度の透明性を確保し、公平性を保つようにしてください。
優秀な人材は成果に応じて昇進させる
「地域採用は出世できない」というイメージが定着すると、優秀な人材のモチベーションは低下し、最終的には離職につながります。
転勤の有無にかかわらず、高い成果を上げた従業員は適切に評価し、管理職への登用を行うべきです。
拠点長やエリアマネージャーなど、地域限定でも目指せるキャリアポストを用意することで、上昇志向のある人材を繋ぎ止めることができます。
勤務地は限定されていても、キャリアの可能性まで限定しない仕組みづくりが、組織の活性化につながります。
キャリア形成の支援体制を整える
一つの地域に留まることで視野が狭くなるリスクに対しては、会社側からの支援でカバーします。
たとえば、オンライン研修を充実させて最新の知見に触れる機会を提供したり、本社のプロジェクトにリモートで参加させたりすることで、刺激を与えることができるでしょう。
地域採用社員が自律的にキャリアを描けるよう、定期的なキャリア面談の場を設けることも忘れてはいけません。
まとめ
地域採用は、人手不足の解消や従業員の定着率向上に役立つ有効な採用手法です。
働く場所を限定することで、育児や介護と仕事を両立したい層や、地元志向の強い優秀な人材を確保できる可能性が広がります。
一方で、採用母集団の確保の難しさや、組織の硬直化といった課題も存在します。
地域採用のメリットとデメリットを正しく理解し、自社の経営戦略に合わせた制度設計を行うことが、地域採用を成功させる第一歩となるでしょう。

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