SDGs経営とは?中小企業が取り組むべき理由と具体的アプローチ

SDGsは、もはや大企業だけの取り組みではありません。中小企業にとっても、SDGsの取り組みは、将来の事業継続に関わる重要な経営課題となっています。

人材や資金などのリソース不足という現実的な壁に直面することも少なくありません。しかし、むしろ中小企業だからこそ、柔軟性をいかした取り組みが可能です。

この記事では、SDGsの本質的な理解から、具体的な成功事例、中小企業ならではの実践方法などを紹介します。

SDGs(持続可能な開発目標)とは

SDGsは「Sustainable Development Goals」の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。

SDGsの起源は、2000年に始まったミレニアム開発目標(MDGs)にさかのぼります。MDGsは、2015年の期限を迎えたことで、新たな枠組みが必要とされました。

MDGsの成果と教訓を踏まえ、より包括的で普遍的な目標としてSDGsが設定されたのです。

SDGsは、主に以下の内容に取り組むことで、全世界の持続可能な発展を目指しています。

  • 貧困の根絶
  • 健康の向上
  • 教育の改善
  • 不平等の軽減
  • 経済成長の促進

17の大きな目標と、具体的な169のターゲットで構成されており、経済、社会、環境の3つの側面を統合的に捉えているのが特徴です。

出典)外務省「SDGsとは?

なぜ今中小企業がSDGsに取り組む必要があるのか

SDGsの達成には、国際社会の協力が不可欠です。各国の政府、企業、グループ、個人がそれぞれの役割を果たし、共同で目標達成に向けた行動をとる必要があるとされています。

中でもSDGs実現の重要な担い手として位置づけられるのが、企業の存在です。

企業が持続可能なビジネス戦略を採用し、イノベーションを活用することで、目標達成に大きく貢献できるのです。

日本における割合の高い中小企業がSDGs経営に取り組んでこそ、国際協力に貢献できると言えます。

SDGsの「17の目標」を中小企業経営に取り入れるには

SDGsでは、合わせて17の目標、さらに169のターゲットに細分化されています。

  1. 貧困をなくそう
  2. 飢餓をゼロに
  3. すべての人に健康と福祉を
  4. 質の高い教育をみんなに
  5. ジェンダー平等を実現しよう
  6. 安全な水とトイレを世界中に
  7. エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
  8. 働きがいも経済成長も
  9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
  10. 人や国の不平等をなくそう
  11. 住み続けられるまちづくりを
  12. つくる責任、つかう責任
  13. 気候変動に具体的な対策を
  14. 海の豊かさを守ろう
  15. 陸の豊かさも守ろう
  16. 平和と公正をすべての人に
  17. パートナーシップで目標を達成しよう

ここでは、特にビジネスや企業経営に関係の深い項目を3つご紹介します。

目標5:「ジェンダー平等を実現しよう」の実践

この目標では、ジェンダー平等の達成を目指しています。

中小企業で実践可能な取り組み:

  • 育児・介護の両立支援制度の整備
  • 管理職への女性登用
  • 同一労働同一賃金の徹底

目標8:「働きがいも経済成長も」の実践

この目標では、すべての人々に働きがいのある、人間らしい雇用を提供することを目指しています。

中小企業で実践可能な取り組み:

  • 業務プロセスの見直しやデジタル化
  • 従業員の教育・研修
  • フレックスタイムやリモートワークなどの導入

目標9:「産業と技術革新の基盤をつくろう」の実践

この目標では、産業化を促進し、技術革新を推進することを目指しています。

中小企業で実践可能な取り組み:

  • デジタル技術の導入
  • 産学連携による研究開発
  • 環境配慮型の設備投資

中小企業の価値を高めるSDGsの効用

SDGsを事業戦略に取り入れることは、中小企業が社会貢献を果たせるだけでなく、大きな意義を持ちます。
ここでは、中小企業でSDGsを経営に活かす意義を詳しく見ていきます。

信頼されるブランドづくり

中小企業がSDGsに取り組むと、社会課題に真剣に向き合っている証として認識され、イメージが向上します。

SDGsの活動を行うと、顧客や取引先、投資家は、環境や社会に配慮した企業として高く評価する流れができ、長期的な顧客関係を築くことが可能となります。

結果として、企業のブランド力や信頼性の向上につながるのです。

社員が誇りを持てる組織づくり

SDGsへの取り組みは、社員のモチベーションアップにもつながります。

企業が社会的責任を果たす姿勢を示すことで、社員は自分の仕事が社会によい影響を与えていると感じやすくなります。

また、SDGsに関連するプロジェクトへの参加を通じ、社員がクリエイティブな発想を発揮できるチャンスが与えられるでしょう。

これにより、職場のエンゲージメントや満足度が高まり、結果として生産性の向上が期待できるのです。

持続可能性の高い組織づくり

SDGsの理念は、事業の持続可能性を高められるという点が最大の特徴です。

再生可能エネルギーへのシフトや資源の効率的な利用は、長期的なコスト削減やリスクの回避につながります。

また、規制や法令遵守の基準が厳しくなる中で、SDGsに沿ったビジネスモデルの構築が、中小企業の競争優位性を保つ助けになります。

中小企業がSDGsに取り組む際の失敗パターンと予防策

中小企業がSDGsに取り組むと、多くのメリットがある一方で、いくつか失敗のパターンも存在します。以下では、主な失敗パターンとその予防策について詳しく説明します。

「SDGsウォッシュ」を防ぐ

「SDGsウォッシュ」とは、実際には企業が十分な取り組みを行っていないにもかかわらず、取り組んでいると見せかける行為を指します。

SDGsを単なるマーケティングツールとして利用し、具体的な成長を伴わない表面的な取り組みのみを行っている場合、消費者や投資家からの信頼を失う可能性があります。

中小企業の信頼性を保つためには、具体的な取り組みを行い、進捗状況を開示して透明性を高めていく必要があるでしょう。

SDGsに興味を持っていない経営層をも巻き込む

企業におけるSDGsの成功は、経営層の関与に大きく依存すると言えます。

経営層がSDGsに関心を持たない場合、組織全体としての取り組みが弱くなり、資源や人材の適切な配分が行われません。

したがって、社員がSDGsに取り組みたいという場合には、経営層に重要性を理解してもらわなければならないのです。

その点、中小企業では、社員と経営層が近いという利点があるため、社員の思いを経営層に伝えやすくなります。

経営層も社員のアイデアや意見を尊重し、意思決定に反映させやすいと言えます。

無理のない目標設定

SDGsに取り組む際に中小企業が直面するもうひとつの課題は、設定した目標が高すぎることです。

達成不可能な高い目標を掲げると社員は失望感を味わい、組織内のモチベーションが低下する恐れがあります。

具体的な行動計画や資源配分により、現実的で達成可能な目標を設定し、小さなステップでの成功を積み重ねることが重要です。

中小企業の学びにつながるSDGsの取り組み事例

日本でも大企業を中心に、SDGsの取り組みが進められています。多くの事例の中でも、中小企業の学びとなる3企業について紹介します。

「リコー」に学ぶ:本業をいかしたSDGs展開

リコーは、持続可能な社会の実現に向けた先進的な取り組みを行っています。

SDGsに対するコミットメントを明確にし、環境、社会、経済の側面で積極的に活動しているのが特徴です。

以下で、リコーのSDGsの各側面における具体的な取り組み事例について紹介します。

リコーのSDGs:環境面における取り組み

リコーの環境目標は、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることです。

この目標に向け、2020年代を「挑戦の10年」と位置づけ、各種のイノベーションと事業改革を進めています。

具体的には、以下の取り組みを進めています。

  • 再生可能エネルギーの活用を拡大し、製品設計の段階から環境負荷を低減する技術の導入
  • エネルギーの使用効率を高める製品開発に力を入れ、ユーザーの環境負荷を低減するサポートを強化

リコーのSDGs:社会面における取り組み

リコーは、多様性とインクルージョンの推進を重視しており、ジェンダー平等や質の高い教育の提供といったSDGsの目標に直接貢献しています。

具体的には、以下のような取り組みを行っています。

  • 職場における女性の活躍を支援するプログラム
  • 多様な働き方を実現するためのテレワーク環境の整備
  • 地域コミュニティとの連携による教育支援
  • 地域の活性化プロジェクト

リコーのSDGs:経済面における取り組み

リコーは、経済面の持続可能性を確保するため、製品のライフサイクル全体での環境負荷を低減し、資源循環型の物づくりを行うビジネスモデルの追求を進めています。

使用済み製品の回収とリサイクルによる資源の有効活用が、代表的な取り組み例です。

「ユニクロ」に学ぶ:SDGsとグローバル展開

ユニクロは、さまざまな取り組みを通じ、SDGsの達成に向けたリーダーシップを発揮しています。

SDGsの取り組みが、ブランドの価値を高め、消費者、従業員、地域社会などに対してポジティブな影響を与えているのです。

ユニクロのSDGs:環境への配慮

ユニクロは、主に以下のような方法で環境負荷の低減を目指し、製品のライフサイクル全体での資源効率の向上を図っています。

  • 再生素材の活用
  • 製品製造プロセスにおける水やエネルギーの使用削減

ユニクロのSDGs:社会的責任

ユニクロは、以下のような方法により、公正で安全な労働環境の確保を重視しています。

  • サプライチェーン全体において、労働者の権利を尊重し人権に配慮したビジネス慣行を実施
  • 監査を通じて工場の労働環境を継続的に改善してパートナー企業との協力を深める

ユニクロのSDGs:地域社会への貢献

ユニクロは、地域コミュニティと連携し、以下のような形で教育や災害支援などの社会貢献活動を展開しています。

  • 服のリサイクルプログラムを通じて発展途上国の人々に衣料を提供する
  • 地域の教育施設や福祉団体への支援

ユニクロのSDGs:イノベーション

ユニクロは、イノベーションを通じて持続可能なファッションの実現を目指しています。

耐久性の高い高品質な衣類の開発により、消費者が長く愛用できる製品を提供することで、使い捨ての文化を変えていくことが含まれます。

ファッション業界全体の持続可能性を高めることに貢献しているのです。

「トヨタ自動車」に学ぶ:製造業ならではのSDGsアプローチ

トヨタ自動車は、SDGsの達成に向け、持続可能な社会の実現を目指して多角的な取り組みを行っています。

明確なロードマップを掲げ、環境負荷を軽減しながら社会的責任を果たすことを目標としているのです。

トヨタのSDGs:環境面における取り組み

「トヨタ環境チャレンジ2050」を掲げ、2050年までに自動車のライフサイクル全体で温室効果ガス排出をゼロにすることを目指しています。

ハイブリッド車や電気自動車、燃料電池車の開発を進め、すべての人々が安全で手ごろなモビリティを享受できるようにしているのが特徴です。

トヨタのSDGs:社会面における取り組み

トヨタのSDGsにおける取り組みでは、グローバル企業として異なる文化や価値観を尊重し、多様性とインクルージョンの促進にも力を入れています。

男女平等な機会の提供、障がい者雇用の拡大、働きやすい職場環境の整備などが含まれます。

これにより、すべての従業員が能力を最大限に発揮できる環境づくりが可能となるのです。

トヨタのSDGs:経済面における取り組み

トヨタは、以下のような方法で地域経済の発展に貢献し、持続可能な産業を育成することを重視しています。

  • 地元企業との連携
  • 技術移転による雇用創出
  • 工場のエネルギー効率化
  • サプライチェーン全体での倫理的かつ責任ある調達の推進

まとめ

SDGsは、中小企業にとって遠い話だと感じる方が多いかもしれません。しかし、すでに多くの中小企業がその取り組みを始めており、成果を上げつつあるのも事実です。

中小企業は、自社の強みをいかしながら、無理のない範囲で着実にSDGsの取り組みを進めることが重要です。

「できることから始める」を意識し、新たな道を開いていきましょう。

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