ハラスメントは何種類?職場における事例と対策を学んで会社を守ろう

ハラスメントとは、職場において従業員の尊厳を傷つけ、就業環境を悪化させる行為のことです。近年、多様なハラスメントが問題視されるようになっています。

特に中小企業では、人員や管理体制の関係でハラスメント対策が十分に整っていないケースも多いことが現状です。しかし「企業の信頼失墜」や「訴訟リスク」につながる可能性があるため、対策をしましょう。

この記事では、ハラスメントの基本的な定義、法律上の位置づけ、リスクの影響と防止策・対応策について詳しく解説します。

まずは「ハラスメントとは」を理解する

ハラスメントとは、他者に対する嫌がらせ、いじめ、暴力行為など、相手に不快感や苦痛を与える行為のことです。

ハラスメントの種類は多岐にわたります。主なものは、パワーハラスメント(パワハラ)、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、マタニティハラスメント(マタハラ)などです。

たとえば、厚生労働省ではパワーハラスメントについて以下のとおり定義しています。

職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。

出典)あかるい職場応援団「ハラスメントの定義

中小企業がハラスメントを軽視すると、従業員の士気低下や離職につながるだけでなく、法的責任を問われるリスクもあります。まずは基本を理解することが、対策の第一歩です。

職場で起きやすいハラスメントは?

厚生労働省が運営する「あかるい職場応援団」では、以下の5種類のハラスメントについて定義しています。特に職場で起きやすいハラスメントです。

項目具体例
パワーハラスメント上司が部下を皆の前で叱責し、人格を否定する発言をする。
セクシュアルハラスメント職場で性的な冗談を繰り返し、特定の従業員に不快感を与える。
妊娠・出産・育児休業等ハラスメント妊娠中の従業員に対し、「仕事に支障が出るなら辞めてほしい」と発言する。
カスタマーハラスメント顧客が従業員に対して過度なクレームや暴言を繰り返す。
就活ハラスメント採用面接で、業務に関係のない個人的な質問を行い、応募者に圧力をかける。

中小企業としては、これらのハラスメントすべてに対して防止策を取っておく必要があります。まずは自社の職場環境を見直し「どのようなハラスメントが起きやすいか」を整理しましょう。

「ハラスメント」の判断は人それぞれであることを理解しておこう

ハラスメントの判断は完全に定型化できるものではありません。受け手の価値観や背景によって異なります。

ある人にとっては何気ない言動でも、別の人にとっては精神的な負担となる場合があるので注意が必要です。年齢や文化、職業経験によって受け取り方に違いが生じます。

そのため、一方的な基準ではなく多様な視点を意識することが重要です。

ただし、個々の感じ方に依存しすぎると、組織内で共通の認識を持つことが難しくなります。そのため、企業としては一般的な基準を設け、ハラスメントに関する明確な方針を策定しましょう。

たとえば、就業規則や社内マニュアルに具体例を示し、従業員が判断に迷わないようにすることで、防止策を強化できます。

またハラスメントを防ぐためには、共通の理解を深める努力が必要です。職場全体でハラスメントに対する認識を共有することが、健全な職場環境を守る第一歩となります。

ハラスメントに関する法律を知って危機感を高める

ハラスメントによっては、法令違反と深い関係があります。中小企業の経営者、バックオフィス担当者の方は、法律の内容を理解することが重要です。

以下が、主なハラスメントと関連する法律です。

ハラスメント法律
パワーハラスメント労働施策総合推進法第30条の2
セクシュアルハラスメント男女雇用機会均等法第11条
妊娠・出産等ハラスメント男女雇用機会均等法第11条の3および、育児・介護休業法第25条

出典)あかるい職場応援団「ハラスメントに関する法律とハラスメント防止のために講ずべき措置

これらの法律に違反した場合、企業は法的責任を問われ、損害賠償を命じられる可能性があります。また、社会的信用の失墜や従業員の士気低下、離職率の増加といったこともリスクです。

法律を遵守することは、適切なガバナンスの構築に直結します。法律を正しく理解し、中小企業の危機感の醸成につなげましょう。

ハラスメントは犯罪にあたるか

ハラスメントは、その内容や程度によっては刑法や民法上の犯罪行為とみなされることがあります。たとえば、暴行や脅迫、名誉毀損などです。

具体的には、身体的な攻撃を伴うパワーハラスメントは「暴行罪」や「傷害罪」に該当する可能性があります。また、セクシュアルハラスメントや、強制わいせつ罪や名誉毀損罪が適用される場合があります。

つまり、加害者個人だけでなく、企業も使用者責任を問われる可能性があるということです。特に中小企業では、ガバナンス体制が十分でない場合、企業全体の信用失墜や法的責任を負うリスクが高まります。

犯罪リスクを防ぐためには、ハラスメントの発生を未然に防ぐことが不可欠です。従業員一人ひとりがハラスメントに対する意識を高め、企業全体で健全な職場環境を築く努力が求められます。

【注意】企業のパワハラ対策は義務化されている

ハラスメントのなかでも「パワーハラスメント」は職場でよく起こる問題です。職場におけるパワーハラスメント対策は、現在、法的に義務付けられています。

「職場でのハラスメントが労働者の健康や職場環境に深刻な影響を及ぼすこと」が社会問題になったことが義務化の背景です。これを受け、労働施策総合推進法が改正されました。

出典)厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」 p1

義務を果たさなかった場合、法的制裁のリスクもあります。中小企業は防止策を講じて、守りを固めることが重要です。

なぜ職場でハラスメントが起きてしまうのか

防止策を講じるうえで、まずは企業としてハラスメントが起きる要因を理解しましょう。主な要因は以下の3つです。

項目詳細
社員同士のコミュニケーション不足日常的な意思疎通が不足すると、誤解や不信感が生じやすくなり、些細な行動がハラスメントと受け取られる可能性が高まります。
職場の悪い文化過度な競争や成果主義、上下関係の強調などの文化が根付いていると、ハラスメント行為が黙認される風土が形成されることがあります。
ハラスメントの理解不足ハラスメントに関する知識や認識が不足していると、無意識のうちに他者を傷つける言動を行い、結果的にハラスメントを引き起こすことがあります。

これらの要因を理解し、早期に対応することが、企業を守る重要な手段となります。

ただし企業によって要因は千差万別です。まず自社の職場環境を客観的に分析し、どのような要因が影響を与えているのかを把握しましょう。

たとえば以下の取り組みで、ハラスメントの要因をキャッチアップできます。

  • 従業員アンケートの実施
  • 定期的な1on1ミーティング
  • 相談窓口の設置と周知

こうした取り組みを通じて、企業は職場環境の課題を把握することが重要です。このうえで対策法を講じる必要があります。

【必見】具体的なハラスメント事例からリスクを学ぼう

中小企業の経営者やバックオフィス担当者の方にとって参考となる事例を紹介しましょう。

これらの事例を通じて、自社でも同様の問題が起こり得るという意識を持ち、適切な対策を講じることの重要性を認識してください。

【セクハラ】A市役所

ある市役所の男性職員が、勤務時間中に制服を着用したまま、コンビニエンスストアの女性店員に対し、手首をつかんで商品棚まで連れて行く、腕を絡める、手を引き寄せて自身の股間に触れさせるなどの行為を行いました。これらの行為により、職員は停職6ヶ月の懲戒処分を受け、その適法性が争われましたが、最終的に処分は適法と判断されました。

出典)あかるい職場応援団「【第67回】「勤務中にコンビニ店員の手を触るなどして、停職6ヶ月とされた市職員が懲戒処分の取消を求めたが、懲戒処分は適法であるとして、訴えが認められなかった事案」 ―A市事件

こうした事例の背景には、職員のハラスメント意識の低さがあります。そのため、「行動指針の策定」「外部研修の導入」といった対策を行うことが重要です。

【セクハラ】生命保険会社

ある生命保険会社の忘年会において、上司が部下の保険外交員に対し、不適切な身体接触を行いました。被害者側にも行為を煽るような言動があったとされましたが、最終的に上司の行為はセクシュアルハラスメントに該当すると判断され、会社にも損害賠償責任が認められました。

出典)あかるい職場応援団「【第65回】「生命保険会社の忘年会で上司等が保険外交員にセクハラ行為をした事案において、被害者によるセクハラ行為を煽る言動があったとしても、行為者及び使用者の損害賠償責任が認められた一方、被害者にも落ち度があるとして損害賠償額が減ぜられた事例」 ―広島セクハラ(生命保険会社)事件

この事例の背景には、飲み会の場におけるハラスメント意識の低さがあります。職場内だけでなく、社外のイベントでもハラスメントは企業の責任を問われるため、対策が必要です。

【パワハラ】A旅館

ある旅館で、従業員が客室係から厨房の洗い場係に配置転換を命じられました。この配転命令には業務上の必要性が認められず、嫌がらせを目的としたものと判断され、不法行為と認定されました。最終的に、企業側に対して損害賠償が命じられました。

出典)あかるい職場応援団「【第34回】 「客室係から厨房洗い場係に配置転換する旨の配転命令が不法行為と判断された事案」

この事例の背景には、職場内での権力の乱用と配置転換の不透明性があります。そのため「配転ルールの明確化」「人事評価・異動に関する相談窓口の設置」といった対策が必要です。

中小企業が取り組むべきハラスメント対策とは

中小企業の経営者やバックオフィス担当者にとって、ハラスメント対策の整備はガバナンス強化の要です。以下に、現実的に取り組める対策をまとめました。

項目詳細
不安を報告しやすい雰囲気づくり日常的にコミュニケーションを活発にし、従業員が不安や悩みを気軽に共有できる職場環境を整えることが重要です。
報告しやすい環境づくり匿名での相談が可能な窓口や、外部の専門機関との連携を設け、従業員が安心して報告できる体制を構築します。
ハラスメントを正しく理解するハラスメントの定義や具体例を全社員に周知し、誤解や無意識の加害行為を防止します。
ハラスメント研修を定期的に受ける定期的な研修を実施し、最新の情報や対策を学ぶことで、組織全体の意識向上を図ります。

特に中小企業では、社内の人間関係が密接であるため、ハラスメントの影響がより顕著に表れます。そのため、問題が顕在化する前に未然に防ぐ仕組みを整えることが不可欠です。

たとえば、経営層が率先して対策に取り組み、オープンなコミュニケーションを促進することで、従業員が安心して働ける環境が生まれます。

ハラスメントが発生した場合はどうすればいい?

ハラスメントの防止策はもちろん、発生した際の対策も重要です。企業として迅速かつ適切な対応が求められます。

以下がハラスメントが発生した際の対応のステップです。

  1. 被害者の保護
  2. 事実関係の確認
  3. 問題解決のための対応策の実施
  4. 再発防止策の導入
  5. 必要に応じた外部機関への相談や報告

まずは被害者の安全と心身の健康を最優先に考えましょう。必要に応じて勤務場所や業務内容の変更、休業の検討などを行います。

その後は事実確認です。第三者を交えつつ被害者・加害者・関係者からの聞き取りや、関連資料の収集を行い、事実を正確に把握します。

その結果、就業規則や社内規定に従って、加害者への適切な処分や指導を行いましょう。

しかし「問題を解決して終わり」ではいけません。再発防止策を組織全体で考えることが重要です。研修の開催、相談窓口の周知などを行いましょう。

場合によっては、専門の相談機関、法的な専門家などと連携して体制構築をする必要があります。

まとめ

ハラスメント対策の強化は、中小企業が従業員の安全と信頼を守り、持続的な成長を実現するために不可欠な取り組みです。

適切な対策を講じることで「職場環境の改善」「従業員の定着率向上」「企業ブランドの強化」といったメリットが期待できます。

「すべての従業員が安心して働ける環境を整備すること」が、企業の発展と社会的信用の向上に不可欠です。問題が顕在化する前に守りを整備し、ハラスメントのない健全な職場を目指しましょう。

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