もう採用とシフトで疲弊しない
多拠点ビジネスの壁を壊す次世代人事DX

現場の負担を減らし、業務をスムーズにする「HRツール」。多種多様な機能で企業のマモリを助けてくれますが—— 中小企業のバックオフィス担当者を悩ませるのが、ツールの「選び方」「使い方」です。
そこで新連載「理想のHRテックを探そう」では、中小企業の現場担当者を直撃。実際に導入しているツールと役割、選定基準などを紹介していただきました。


今回お話を伺ったのは、株式会社ワンダーテーブルで人材開発マネジャーを務める西島氏。
海外レストランの「ピーター・ルーガー」「ロウリーズ」「バルバッコア」「オービカモッツァレラバー」などを展開する飲食フランチャイズを手掛ける同社は、正社員だけでなくパート・アルバイト・海外人材まで多様なスタッフとともに成長してきました。そのバックオフィスを支えるHRテックの取り組みは、試行錯誤の連続でもありました。

採用管理や人材評価のHRテックを通して見えてきたのは、単なる業務効率化ではなく、「現場が本来やるべき仕事に集中するためのDX」という考え方でした。

■プロフィール

株式会社ワンダーテーブル
人材開発部マネジャー 西島 里沙

1946年創業。海外レストランブランドを国内展開するインバウンド事業、自社創出のレストランを国内展開するオリジナルブランド事業、さらにブランドとノウハウを海外展開するアウトバウンド事業の3ドメインを推進し、国内外に120店舗以上の飲食店を展開する。

「入社前」「入社後」に役立つHRテック

ワンダーテーブル 人材開発部マネジャー 西島 里沙さん

―― 利用しているHRテック(バックオフィス支援ツール)についてお聞かせください。

ワンダーテーブル 人材開発部マネジャー 西島 里沙さん:
当社ワンダーテーブルで導入しているHRツールは、大きく分けて「入社前の求職者向け」と「入社後の従業員向け」の2種類です。どれも数年という長いお付き合いになるツールで、当社のHRはこうした支援ツールなしでは運営できません。

—— まずは「入社前の求職者向け」から。採用関連のツールでしょうか?

西島さん その通りです。当社のビジネスは、アルバイト・パートさんに支えられています。学生さん、主婦の方、外国籍の方など多様な人材を採用しているなかで、その管理と効率化は極めて重要になります。
活用している採用管理ツールは「リクオプ」(HRソリューションズ株式会社)「ApplyNow」(株式会社ApplyNow)です。

「リクオプ」で作成したワンダーテーブル採用ページ


「リクオプ」は、自社サイトや各求人媒体から来たアルバイト応募を1か所にまとめ、そこで面接調整なども完結できるツールです。
「ApplyNow」は、面接を動画やオンラインで進められるツールです。さらに雇用契約まで一貫して完了。当社では「リクオプ」で採用の入り口を管理し、面接決定からはApplyNowに連携という使い方ですね。

―― 「ApplyNow」についてですが、「動画で面接」というと応募者自身が撮った動画が企業に送られてくるのですか。

西島さん はい。自撮りで映像を送ってもらい、当社の採用担当が判断する。若い世代はスマホでの撮影に慣れていて、ほとんど抵抗がないんですよ。これが採用スピードを上げる鍵になっています。
というのも、アルバイトに応募いただく学生さんが自由に動けるのは、夕方。でも飲食店にとっては一番忙しい時間帯です。現場でリアルタイムで面接するのは難しいけれど、オンライン面接なら24時間いつでも動画を確認できる。
応募があって、すぐ面接して、1時間後にはこちらに動画が届いているということもあります。早いケースだと、応募から承諾まで丸1日で進むことも。
一方で、30代、40代の応募者からは「直接話さずに進むのは不安」という声が上がることもありました。自分で動画を撮るのが面倒という方もいますよね。
そこで運用をカスタマイズし、ApplyNow側のプロの面接官がオンライン面接を代行してくれるサービスも利用しています。

ApplyNowの面接代行サービス「Interview Cloud」(サンプルイメージ)AIによる評価支援などの機能も備える 画像提供:株式会社ApplyNow

 
―― では、応募が来てからはかなりスムーズに雇用まで進む仕組みなんですね。

西島さん そうですね。合否判定が出れば、そのまま雇用契約まで進められますし、担当者の肌感覚では、3ステップくらい省略できています。アルバイト・パートさんだけでなく、正社員も最終的にはApplyNowに集約して入社手続きが完了する流れです。

―― こうした採用関連ツールを導入した課題は。

西島さん 当社がHRツールを導入したのは2010年代半ばです。当時は人手不足がかなり強く言われていた時期で、採用はまさに奪い合いでした。企業からの返答が少しでも遅れると、その間に他社に決まってしまう。ですから、まず応募者への返信スピードを最大化するためにツール導入の検討を開始しました。
もう一つの課題は、現場社員の作業負担を減らしたかったという点です。店舗の支配人や料理長は営業と採用を兼務しなければいけないなかで、PC業務に長く時間を取られないようにしたいという考えがありました。

人事評価は“成長の履歴”として資産化する

—— 「入社後の従業員向け」のHRテックについてはどうですか。

西島さん 利用しているツールは「カオナビ」(株式会社カオナビ)です。顔写真とプロフィールで従業員を管理できるタレントマネジメントシステムですね。
主な用途は、正社員の人事評価です。給与改定や賞与支給、半年ごとの評価結果などが蓄積され、社内の人材データバンクのような位置づけで活用しています。導入は2015年ごろ、もう10年の運用になります。

「カオナビ」(ワンダーテーブル管理画面)

―― カオナビの導入の背景は?

西島さん とにかく、社員のデータが膨大になっていたんです......。ExcelやWordで管理していると散逸しやすいですし、最新の情報もどれかわかりにくく、誤って削除・紛失のリスクもあります。この点は人事担当者の方なら共感いただけるのではないでしょうか。

そして何より「情報が蓄積されない」ことが課題でした。社員の評価とは、本来は「3年前こうだった人が、今こう成長している」という変化を見ていくことが大切だと思うんです。単発の評価結果が並んでいるだけでは、育成につながっていきません。

―― たしかに、ワンダーテーブルのような飲食業は異動も多く、社員の履歴が追える意味は大きそうです。

西島さん まさにそうです。勤務先であるお店が変われば、評価者である店長やマネジャーが変わります。前の店舗でこの社員はどんな働きをしていたのか、得意・不得意は何か......という情報は、現場では見えにくいのです。
そこでカオナビ上で新しい所属に紐づけることで、その人の「これまで」が見える。そこが大きいですね。
そしてシンプルに、データベース上で「顔が見える」という使いやすさが当社に合っていました。私たちは飲食の人間ですから、社内でも相手の顔を見て、表情をまじえて話すカルチャーがあります。

「カオナビ」(ワンダーテーブル管理画面)


西島さん データを開いた時に、その人の笑顔の写真が出ると「あっ、あの子だ」とすぐつながるんですよ。「人」が思い浮かびやすくなるデータの見せ方がとても良いです。

―― そこは、実際に使わないとわからないメリットですね。人材管理ツールで顔が見えることが重要とは。

西島さん ええ。新入社員がカオナビに登録されると、周囲から「顔写真はまだ?」と聞かれるくらいです。当社の現場のメンバーたちは、やはり顔を見ているんだなと感じます。

選定ポイントは「現場で使えるか?」

―― さまざまな機能を使い分けていますね。現在活用しているツールの共通点はありますか?

西島さん やっぱり、シンプルで誰でも使いやすいことです。これは当社のツールの選考基準でもあります。
従業員は必ずしもITリテラシーの高い人ばかりではありません。現場にはパソコン業務が少ないポジションの人もいますから。

どんなに高機能でも操作が難しいと使われなくなり、効果も出ません。かけたコストもムダになってしまいます。

そうした意味では、クラウドシフト管理ツールの「らくしふ」(株式会社クロスビット)は、本当に優秀です。従業員のLINEと連携して、希望シフト提出の依頼・リマインドから、確定シフト配布までの通知を自動化できる。「らくしふ」を開けば直感的に使い方がわかり、レクチャーもほぼ不要です。そういうツールは、結果的に現場に残るんです。

「らくしふ」(ワンダーテーブル管理画面)。従業員同士のシンプルなメッセージも添えられる

―― 人事部側で使用するツールも同じ考えですか。

西島さん そうですね。「カオナビ」も、現場の社員にとってはシンプルな操作で完結する設計にしています。
ただし、私たちバックオフィス側は試行錯誤の連続でした。カオナビは非常に高機能で、多様な設定が作り込めますから。担当社員を置いてかなり勉強して、現在のようなシステムにカスタマイズするまでには3年ほどかかりました。現場に根付くツールにするために、バックオフィス担当者にとって取り組みがいのあるツールだと思います。

―― カスタマイズの面では、ベンダーのサポートも重要では。

西島さん とても大切だと思います。HRツールは導入して入れて終わりではなく、ベンダーの担当者さんともずっと付き合っていくものなんですよね。うちはもっとこうしたい、こういう使い方をしたい、という話を聞いてもらえる関係があるかどうか。その相性やクオリティも長く使い続けられているポイントだと思います。

DXの目的は「削減」ではなく「新しい価値を生むこと」

―― ワンダーテーブルなりのHRツール活用と、社内DXの展望をお聞かせください。

西島さん 振り返ると、HRツールを導入した最初は工程数を減らすとか、コストを削減するとか、そういう発想で見ていた部分がありました。
でも今は、DXは「ムダを削減する」ためだけじゃないと考えるようになりました。「新しいものを生む」ためのDXなんです。
採用率が良くなる、離職が減る、現場がもっとサービスに集中できる。そうしたポジティブな変化につながることが大事なんですよね。当社ワンダーテーブルにとっては、その先にお客様へのおいしい料理と食事の体験という価値提供があります。
私たちのビジョンは「豊かな食卓を広げ、お客様に大切な人との絆を深めてもらう。」ということ。
支配人や料理人がPCに向かっている時間が減った分、お客様のところへ行けるようになる。1組のお客様に笑顔で声をかける時間が増えれば、ファンができるかもしれない。そこにDXの本質があると思っています。
だからこそ当社では、将来は自社専用の採用管理システム(ATS)を構築しようと考えているんです。

―― 現在活用しているツールを自社開発に置き換えるということですか。

西島さん いいえ、代替するというよりは新しい機能を持ったシステムに進化させたいということです。目的は採用面接でのマッチング率向上です。どんな社員が、何年在籍し、現場でどんな活躍をしているのか。その社員は、かつて採用面接時にどんな会話をしていたのか? 応募時点から入社後までのデータを一気通貫で蓄積し、属人化を排して分析できれば、当社で活躍できる人材を採用時に見極められるかもしれません。もちろん採用は、最後は「人」が判断することです。けれど、その判断の支えになるデータを会社の資産として持っておきたい。
各種のHRツールを使ってきたおかげで、当社にとって最も本質的なニーズに気づくことができたんです。

HRテックを導入する中小企業担当者へ

―― 最後に、これからHRテックに踏み出す中小企業へアドバイスをお願いします。

西島さん まずは、何を目的にするかだと思います。手間が削減できるから、便利そうだから......という入り方では、途中でブレてしまうものです。
私たちは、より良い飲食店をつくって、より良いお客様体験につなげるために仕事をしています。その企業が何のためにビジネスをしているのか。その理念に貢献できるかが、一番大事です。
そのうえで、自社の身の丈に合ったツールからスタートできること。当社でも背伸びしてハイスペックなツールを導入したら、操作が難しすぎて扱えなかったことがありました。ですから、まずは自社に合いそうなものから手をつけ、社員も一緒に成長していくことが大事だと思います。

■取材協力
株式会社ワンダーテーブル
https://wondertable.com
■本記事で紹介したHRツール
リクオプ (HRソリューションズ株式会社)
アルバイト・パート採用を得意とする採用管理システム(ATS)。
主な機能:自社採用サイトの作成、複数採用サイトからの応募者の一元管理、動画面接、選考アシストなど。
公式サイト:https://recop.jp/

ApplyNow(株式会社ApplyNow)
録画選考・動画面接プラットフォーム。
主な機能:応募者の動画回答によるスクリーニング、Web面接、電子雇用契約(ApplyNowSign)との連携など。
公式サイト:https://biz.applynow.jp/

カオナビ(株式会社カオナビ)
タレントマネジメントシステム。
主な機能:従業員のスキル・評価・顔写真などのデータベース化、人事評価運用、アンケート調査、分析・シミュレーションなど。
公式サイト:https://www.kaonavi.jp/

らくしふ(株式会社クロスビット)
LINEと専用アプリに対応したクラウドシフト管理システム。
主な機能:シフトの回収・転記・作成・調整・共有を効率化。人件費の可視化による最適化、労務違反アラートなど。オプションでシフトの自動作成も可能。
公式サイト:https://rakushifu.jp/

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