残業規制は中小企業にも適用!上限や割増賃金率を把握してリスクを回避

働き方改革関連法の施行により、時間外労働(残業)の上限規制は、大企業のみならず中小企業にも適用されています。
これは、労働者の健康とワークライフバランスを保護する重要な取り組みです。しかし、中小企業の中には、残業規制を十分に理解していない、または対応が遅れているケースが見受けられます。
残業時間の上限超過は、罰則だけでなく企業イメージの低下にも繋がりかねません。
この記事では、中小企業が把握すべき残業時間の上限、割増賃金率、そして企業が取るべき対策を解説し、残業リスク回避につながる情報を紹介します。
「働き方改革」によって中小企業も残業規制の対象に
働き方改革関連法の施行により、2020年4月から中小企業を含むほぼすべての企業が時間外労働(残業)の上限規制の対象となりました。
これは、長時間労働を是正し、労働者の健康とワークライフバランスの実現を目的としています。
ここでは、中小企業の定義、残業規制の適用時期、上限時間、そして違反した場合の罰則などについて解説します。
そもそも中小企業の定義とは
税務上や経済産業省など中小企業の定義は各省庁によって異なります。厚生労働省による中小企業の定義は、業種ごとに以下の表のようになっています。
業種 | 資本金の額または出資の総額 | 常時使用する労働者の数 | |
小売業 | 5,000万円以下 | または | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 | |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 | |
その他 (製造業、建設業、運輸業、その他) | 3億円以下 | 300人以下 |
出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
残業規制はいつから適用される?
残業の上限規制は、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から施行されましたが、一部の業種については適用が猶予されていました。
以下にあるように、2024年4月1日以降は業種によって取り扱いが異なります。
・以下の事業・業務については、上限規制の適用が5年間猶予されます。 | ||
事業・業務 | 猶予期間中の取扱い (2024年3月31日まで) | 猶予後の取扱い (2024年4月1日以降) |
建設事業 | 上限規制は適用されません。 | 災害の復旧・復興の事業を除き、上限規制がすべて適用されます。 災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休日労働の合計について、 ✓ 月100時間未満 ✓ 2~6か月平均80時間以内 とする規制は適用されません。 |
自動車運転の業務 | 特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が960時間となります。 時間外労働と休日労働の合計について、 ✓ 月100時間未満 ✓ 2~6か月平均80時間以内 とする規制は適用されません。 ※ 時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6か月までとする規制は適用されます。 | |
医師 | 具体的な上限時間は今後、省令で定めることとされています。 | |
鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業 | 時間外労働と休日労働の合計について、 ✓ 月100時間未満 ✓ 2~6か月平均80時間以内 とする規制は適用されません。 | 上限規制がすべて適用されます。 |
・新技術・新商品の研究開発業務については、上限規制の適用が除外されています。 なお、今回の法改正によって労働安全衛生法が改正され、新技術・新商品の研究開発業務については、1週間当たり40時間を超えて労働した時間が月100時間を超えた労働者に対しては、医師の面接指導が義務付けられました。 事業者は、面接指導を行った医師の意見を尊重し、必要があるときには就業場所の変更や勤務内容の変更、給与休暇の付与などの措置を講じなければなりません。 |
出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
残業規制適用後の残業時間の上限
残業規制が適用された後の残業は、原則として「月45時間」「年360時間」が上限となります。特別な事情がない限り、この時間を超えることはできません。
特別な事情があり、労使間で合意(36協定の締結・届出)した場合でも、以下の範囲内に収める必要があります。
・時間外労働:年間720時間以内 ・時間外労働+休日労働:月間100時間未満、かつ、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」の残業時間がすべて80時間以内 ・特別条項:月45時間を超える時間外労働が可能なのは、年間で6か月まで |
出典)「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」厚生労働省
これら残業に関する上限は非常に重要であり、企業は労働時間管理を徹底する必要があります。
残業規制に違反すれば罰則が科される
残業の上限規制に違反した場合、労働基準法違反として「6か月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」が科される可能性があります。
一度でもこのようなペナルティを受けてしまうと、企業の社会的信用を大きく損なうことになります。
法令遵守は企業経営の根幹となり、労働時間管理の徹底は企業の責任です。
各企業は、労働時間管理システムの導入や見直し、従業員への周知徹底など、残業規制に違反しないよう適切な対策を講じる必要があります。
割増賃金率の改定も把握しておくべき
働き方改革は、残業時間の上限規制だけでなく、割増賃金率の改定も重要な柱の一つです。
とくに、月60時間を超える残業に対する割増賃金率が、従来の25%から50%に引き上げられた点は、企業の人事労務担当者にとって大きな影響を与える改訂です。
上記改定により、同じ残業でも、企業が労働者に支払うべき賃金は大幅に増加することになります。
この割増賃金率の変更は、大企業では2010年4月から適用されていましたが、中小企業には13年間もの猶予期間が設けられていました。
出典:厚生労働省「中小企業でも、月60時間を超える法定時間外労働時間に対する割増賃金率が50%以上に引き上げられます」
しかし、この猶予期間も終了し、2023年4月からは中小企業も大企業と同様に50%の割増賃金率を適用することとなりました。
各企業は、この変更を十分に理解し、適切な労務管理を行う必要があります。
残業規制(時間外労働の上限規制)について中小企業が対策すべきこと
働き方改革関連法の施行により、中小企業においても残業時間の上限規制が適用されています。まだ対応が不十分、あるいは対応に自信がないという企業は、早急に対策を講じましょう。
ここでは、中小企業が残業規制に対応するために具体的に何をすべきか、詳しく解説していきます。
従業員の労働時間を正確に把握する
残業時間削減の第一歩は、現状の把握です。各部署、各従業員の労働時間を正確に把握することから始めましょう。
勤怠管理システムなどを活用し、客観的なデータに基づいた分析を行うことが重要です。
具体的には、以下の点に着目して分析を行います。
- 部署ごとの残業時間の差異:どの部署で残業が多いのかを把握
- 個人ごとの残業時間の偏り:特定の従業員に業務が集中していないかを確認
- 時間帯ごとの残業の発生状況:特定の時間帯に残業が集中している場合は、業務フローの見直しを検討
- 業務内容と残業時間の関連性:どのような業務で残業が発生しているのかを分析
これらの分析を通じて、業務における無駄や非効率な部分を洗い出し、残業が発生している根本的な要因を突き止めることが重要です。
たとえば、特定の業務に時間がかかりすぎている場合は、業務プロセスの見直しやITツールの導入などを検討しましょう。
また、業務量が偏っている場合は、人員配置の見直しや業務分担の調整などを行うことで、残業時間の削減につなげることができます。
残業が発生しにくい環境を作る
現状分析に基づき、残業が発生しにくい環境を構築していくことが重要です。以下に具体的な対策例を挙げます。
残業申請の必須化
残業を行う場合は事前に申請を必須とすることで、残業の必要性を精査する機会を設けます。
上司が申請内容を確認し、本当に必要な残業かどうかを判断することで、無駄な残業の抑制が可能です。
ノー残業デーの設定
定期的にノー残業デーを設定することで、従業員の意識改革を促し、定時退社を推奨しましょう。ノー残業デーをきっかけに、業務効率の改善や時間管理の意識向上につながる効果も期待できます。
評価制度の見直し
部下の残業時間が少ないほど上司の評価が上がるような評価システムを導入することで、上司が部下の労働時間管理に積極的に関わるように促します。
これにより、組織全体で残業削減に取り組む意識の醸成が可能です。
業務フローの見直し
業務プロセス全体を見直し、無駄な作業や重複している作業を排除してください。業務効率の向上が期待できます。。
たとえば、会議の時間を短縮したり、ペーパーレス化を進めたりすることも有効です。
ITツールの導入
業務効率化に役立つITツールを導入しで、作業時間の短縮や残業時間の削減につなげましょう。
たとえば、クラウド型の業務管理ツールやコミュニケーションツールなどを導入することで、情報共有の効率化や業務の進捗管理の可視化などが可能になります。
これらの施策を複合的に実施することで、残業が発生しにくい環境を構築できます。上記を参考にしながら、従業員のワークライフバランスの改善に役立ててください。
「36協定」に甘んじない
労働基準法では、労働時間の上限が定められており、原則として1週間40時間、1日8時間となっています。
(労働時間) 第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。 ② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。 |
出典:e-Gov法令検索「労働基準法」
しかし、企業運営上、法定労働時間を超えて労働させる必要が生じる場合もあります。
そこで重要な役割を果たすのが「36協定」です。これは、労働者代表と使用者間で締結される労使協定であり、これによって法定労働時間を超える時間外労働や休日労働が可能となります。
しかし、「36協定」を締結していても、無制限に残業可能なわけではありません。この点を正しく理解し、「36協定」に甘んじない労務管理が重要となります。
「36協定」は、あくまでも法定労働時間を超えて残業させるための例外的な措置であり、恒常的な長時間労働を正当化するものではありません。
企業は、36協定を遵守するのは当然のこととして、その範囲内であっても、できる限り残業を削減する努力を続けるべきです。
業務効率の改善、人員配置の見直し、ITツールの導入など、さまざまな方法で労働時間短縮に取り組みましょう。
これが従業員の健康とワークライフバランスを重視した働き方を推進することにつながります。「36協定」に甘んじることなく、常に労働環境の改善を目指す姿勢を持ちましょう。
まとめ
この記事では、中小企業における残業規制の重要なポイント、とくに上限時間と割増賃金率について解説しました。
時間外労働は原則として月45時間、年360時間が上限です。特別な事情がある場合でも、年720時間以内、複数月平均80時間以内、月100時間未満という厳しい制限が設けられています。
また、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率は50%と大幅に引き上げられ、中小企業にも2023年4月から適用されました。
企業はこれらの規制を遵守するために、勤怠管理の徹底、業務効率の改善、適切な人員配置などの対策を講じる必要があります。法令違反は企業の信用失墜に直結するだけでなく、従業員の健康にも悪影響を及ぼすからです。
今一度、自社の労働時間管理体制を見直し、法令遵守と従業員の健康に配慮した経営を心がけましょう。適切な対応を行うことで、企業のリスクを回避し、持続可能な成長につなげることが可能となります。
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