情報漏洩とは?企業の信頼を守るために知っておきたい基礎知識と対策

近年、企業を取り巻く情報漏洩のリスクは日々高まっています。サイバー攻撃の手法は巧妙化し、内部不正やヒューマンエラーによる情報流出も後を絶ちません。
情報漏洩が発生すると、企業の信用失墜や多額の損害賠償など、深刻な影響を及ぼすことになります。
この記事では、情報漏洩の種類や対策、実際の事例を詳しく解説していきます。とくに中小企業の方々向けに、実践的な対策のポイントもご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
情報漏洩とは?
情報漏洩とは、企業や組織が保有する重要な情報が外部に流出してしまう事態のことです。近年のデジタル化の進展により、その脅威は一層深刻化しています。
漏洩の対象となる情報には、個人情報や企業の機密情報、取引先との契約内容などが含まれます。2022年4月に施行された改正個人情報保護法では、情報管理の厳格化や漏洩時の報告義務がより強化されたこともあり、企業にとって情報管理は、事業継続のための重要な責務です。
・出典)政府広報オンライン「「個人情報保護法」を分かりやすく解説。個人情報の取扱いルールとは?」
情報漏洩の種類
情報漏洩は、大きく3つのパターンに分類されます。
1つ目は、サイバー攻撃などによる「外部要因」です。標的型メールやランサムウェアによる攻撃が代表例として挙げられます。
2つ目は、メールの誤送信や書類の置き忘れといった「ヒューマンエラー」です。とくに近年は、テレワークの普及により、これらのリスクが一層高まっています。
そして3つ目は、従業員による意図的な情報持ち出しなどの「内部要因」です。メディアでも大きく取り上げられるなど、企業の信用失墜といった影響を与えます。
情報漏洩が企業に与えるリスク
情報漏洩が発生すると、企業は深刻な影響を受けます。まず、個人情報保護法違反による行政処分や、損害賠償請求への対応が必要になるため、経済的な損失は避けられません。
さらに深刻なのが、企業の信用やブランド価値の低下です。取引先からの信頼を失い、事業機会の損失にもつながってしまいます。場合によっては、事業の継続自体が困難になる可能性もあります。
情報漏洩の事例
情報漏洩は様々な形で発生しており、その被害は年々深刻化しています。また、狙われるのは大企業だけではありません。独立行政法人情報処理推進機構の報告によると、警察庁に報告のあったランサムウェア被害件数のうち、半数以上が中小企業です。
外部からの攻撃以外にも、情報漏洩の発生要因は内部での過失、意図的な情報持ち出しなど、多岐にわたります。ここからは情報漏洩の事例を紹介します。
・出典)独立行政法人情報処理推進機構 「情報セキュリティ白書2024」p.14
標的型攻撃
2023年、東京大学は標的型攻撃メールにより教員が使用していた PC がウイルスに感染し、PC 内の情報を窃取された形跡があることを公表しました。
2022年7月に実在する組織の担当者を騙った人物から講演依頼のメールが届き、日程調整のため教員がやりとりをしている中でメールに記載された URL をクリックしたところ、ウイルスに感染したとのことです。
最終的に「講演が中止になった」との連絡があったため、教員は被害に気付かず、この攻撃により、教職員や学生らの個人情報や過去の試験問題など計 4,341 件が流出したおそれがあります。
・出典)独立行政法人情報処理推進機構「情報セキュリティ10大脅威 2024」p.49
メールの誤送信
2024年、厚生労働省で発生した情報漏洩事例は、職員が業務関連の情報を誤って私用メールアドレスに送信したことにより、第三者に個人情報が漏洩したというものです。これにより、公務メールアドレスや電話番号など、675名の個人情報が漏洩しました。
事案発覚後、厚生労働省は再発防止策として、私用メールアドレスの業務上の使用を禁止することとしています。
・出典)厚生労働省「私用メールアドレスの誤登録による第三者への個人情報の漏えい及びその対応状況・再発防止策について」
内部不正
2021年、証券会社M社のシステムの保守を委託されていた企業S社の元従業員が、証券会社の顧客情報を不正に取得、使用したとして逮捕されました。
M社本番環境から顧客情報ファイルを抽出して私用メールアドレスへ送付し、顧客12人のID、パスワード、暗証番号などを不正利用し、有価証券の売却や現金の不正出金を行い、約2億円弱の被害が発生しました。
元従業員は「懲役4年6月」の実刑判決(東京地裁)となり、事案後、M社は保守管理業務の監視強化、S社は情報セキュリティー研修強化などの再発防止策を実施しています。
・出典)独立行政法人情報処理推進機構「サイバーセキュリティ対策・内部不正防止対策」p.5
情報漏洩を防ぐための対策
情報漏洩対策は、技術的な対策と組織的な対策の両面からアプローチする必要があります。近年、サイバー攻撃の手法は高度化し、従来の対策だけでは防ぎきれない状況であるためです。
企業の規模や業態に応じて、適切な対策を組み合わせることが求められます。多層防御の考え方を取り入れ、外部からの攻撃や内部からの情報流出を防ぐ体制を構築していきましょう。
技術的な対策
情報システムのセキュリティ強化が、重要な対策です。最新のUTM(統合脅威管理)を導入し、不正アクセスやマルウェアからシステムを保護しましょう。
また、重要データの暗号化やアクセス権限の設定も効果的です。デバイス管理ツールを活用すれば、社外への情報持ち出しも制御できます。クラウドサービスを利用する際は、多要素認証を導入するなど、認証基盤の強化も必要です。
組織的な対策
情報セキュリティポリシーの策定と運用が基本となります。まず、全社で共有する情報取扱いルールを明確にしましょう。従業員に対しては定期的なセキュリティ教育を実施し、意識向上を図ります。
また、インシデント発生時の対応手順を整備し、訓練を行うことも重要です。委託先や取引先との契約では、情報管理に関する条項を盛り込み、サプライチェーン全体でセキュリティレベルを確保していく必要があります。
情報漏洩が発生した際の対応方法
情報漏洩への対応は、迅速さと的確さが求められます。初動の遅れが被害を拡大させる可能性があるため、組織として体系的な対応手順を整備しておきましょう。
具体的な手順は以下のとおりです。
- 発見・報告
- 初動対応
- 調査
- 通知・報告・公表
- 抑制措置と復旧
- 事後対応
それぞれ、詳しく解説します。
発見・報告
情報漏洩は、システムの監視やログ分析、外部からの通報など、様々な経路で発見されます。発見した場合は速やかに責任者へ報告することが大切です。
報告の際は、漏洩の事実や範囲について、5W1Hを意識して情報を整理していきましょう。とくに外部からの通報の場合は、通報者の連絡先を必ず確認します。
初動対応
まず、漏洩した情報の内容と範囲を把握し、被害の拡大を防ぐための措置を講じます。個人情報が含まれる場合は、二次被害の防止がとくに重要です。
システムに関連する漏洩の場合は、該当システムの停止やネットワークからの切り離しを検討します。アカウント情報が流出した場合は、直ちにパスワード変更などの対策を実施しましょう。
調査
漏洩の原因特定と影響範囲の調査を開始します。システムのログや関連する記録を収集し、どのような経路で情報が流出したのか分析しましょう。
調査の際は、法的対応の可能性も考慮して、証拠となる記録を適切に保全することが重要です。想定される二次被害についても検討を行い、必要な対策を講じてください。
通知・報告・公表
個人情報が漏洩した場合は、本人への通知が必要です。また、事案の内容に応じて監督官庁への報告や警察への届出を検討します。
社会的影響が大きい場合は、記者会見やプレスリリースなどによる公表もしなければなりません。公表の際は、情報の一元管理を徹底し、誤った情報が拡散しないよう注意しましょう。
抑制措置と復旧
漏洩による被害を最小限に抑えるため、状況に応じた具体的な対策を実施します。システムの脆弱性が原因の場合は、セキュリティパッチの適用やシステムの再構築を行ってください。
また、業務への影響を考慮しながら、安全性を確認したうえでサービスを復旧させていきましょう。必要に応じて、一時的な代替手段の提供も検討します。
事後対応
事態が収束した後は、詳細な原因分析と再発防止策の策定を行います。情報セキュリティポリシーや管理体制の見直し、従業員教育の強化など、組織全体での改善策を検討していきましょう。
また、今回の対応における課題や教訓を文書化し、将来の対策に活かすことが重要です。必要に応じて、被害者への補償や関係者への説明も実施します。
中小企業が取り組むべき情報漏洩防止の第一歩
情報漏洩対策は経営における重要課題ですが、多くの中小企業では予算や人員の制約により、十分な対策が取れていないのが現状です。しかし、適切な対策を講じなければ、企業の存続にも関わる深刻な事態を招くかもしれません。
まずは自社でできることから、着実に取り組んでいきましょう。
- 中小企業の情報セキュリティ対策ガイドラインを読み込む
- 社員教育で情報漏洩リスクを最小化する
- 少ない予算で始められるセキュリティ対策を取り入れる
それぞれに詳しく解説します。
中小企業の情報セキュリティ対策ガイドラインを読み込む
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開している、中小企業向けの情報セキュリティ対策ガイドラインは、実践的で理解しやすい内容です。
このガイドラインを活用すると、限られたリソースの中で効果的な対策を見出せます。
経営者と担当者が一緒にガイドラインを確認し、自社の現状を把握してみましょう。その結果を基に、優先的に取り組むべき課題が見えてきます。
・出典)独立行政法人情報処理推進機構「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」
社員教育で情報漏洩リスクを最小化する
情報漏洩の多くは、従業員の意識不足や不注意から発生します。そのため、定期的な教育研修を実施すると、リスクを大幅に低減できます。具体的な事例を用いた分かりやすい説明は、従業員の理解を深めるのに効果的です。
また、朝礼などの短時間でできる注意喚起も有効な手段です。情報セキュリティへの意識を日常的に持てるような工夫を取り入れてください。
少ない予算で始められるセキュリティ対策を取り入れる
高価なセキュリティシステムがなくても、基本的な対策で多くのリスクを防げます。たとえば、ウイルス対策ソフトの導入や、定期的なパスワード変更は、多くのコストをかけずに実施できる効果的な対策です。
また、情報の取り扱いルールの明確化も、重要な対策のひとつです。できることから確実に実施し、継続することで組織全体のセキュリティレベルが着実に向上していきます。
まとめ
情報漏洩対策は、中小企業にとって避けて通れない重要課題です。予算や人員が限られている中でも、効果的な対策の実施は可能です。
まずは、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のガイドラインを活用して自社の課題を把握し、優先順位をつけて取り組みましょう。
定期的な社員教育や、ウイルス対策ソフトの導入など、できることから着実に進めることが大切です。地道な取り組みを続けることで、組織全体のセキュリティレベルは確実に向上していきます。
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