ハラスメントの定義を種類ごとに紹介!法律も理解して職場を守ろう

「ハラスメント」という言葉を耳にする機会は多いものの、その定義や種類を正確に理解している方は少ないのではないでしょうか。

ハラスメントは、従業員の心身に悪影響を与えるだけでなく、企業の生産性やイメージを損なう原因にもなります。

とくに中小企業においては、人材不足や資金繰りの問題から、ハラスメント対策が後手に回ってしまうケースも少なくありません。

しかし、ハラスメントを放置すれば、従業員の離職、企業イメージの低下、訴訟など、さまざまなリスクが高まります。

この記事では、中小企業がハラスメント問題に適切に対応できるよう、「ハラスメントの定義」に焦点を当て、主要なハラスメントの種類について、具体的な事例を交えながらわかりやすく解説します。

種類別のハラスメントの定義を理解しよう

職場や日常生活で耳にする機会が増えた「ハラスメント」の定義は、相手に対して嫌がらせや不快な思いをさせる行為全般です。

さまざまなハラスメントが存在しますが、その定義を正しく理解することで、ハラスメントの発生を予防し、早期解決につなげることが可能になります。

以下でいくつか代表的なハラスメントの定義を説明します。

職場におけるパワーハラスメントの定義とは?

厚生労働省によると、以下が職場のパワーハラスメントの定義とされています。

職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。

出典)厚生労働省「ハラスメントの定義

定義には「優越的な関係」としか示されていませんが、上司から部下への叱責や指導だけでなく、同僚間や部下から上司への行為もパワーハラスメントに該当する可能性があることに注意が必要です。

職場におけるセクシュアルハラスメントの定義とは?

厚生労働省によると、以下が職場のセクシャルハラスメントの定義とされています。

「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることをいいます。

出典)厚生労働省「ハラスメントの定義

定義には、「職場」が労働者の通常働く場所だけでなく、出張先や宴会など実質的に職務の延長と考えられる場所も含まれます。

また、定義内の「労働者」は正社員に限らず、契約社員、パートタイム労働者、派遣労働者など、事業主が雇用するすべての人が該当することに注意が必要です。

マタニティハラスメント・パタニティハラスメントの定義とは?

厚生労働省によると、以下が職場の妊娠・出産・育児休業等ハラスメントの定義とされています。

「職場」※1において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業、介護休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」※2や育児休業・介護休業等を申出・取得した「男女労働者」※2の就業環境が害されることをいいます。これらは、マタニティハラスメント(マタハラ)、パタニティハラスメント(パタハラ)、ケアハラスメント(ケアハラ)と言われることもあります。

出典)厚生労働省「ハラスメントの定義

妊娠・出産、育児・介護関連の制度利用を理由とした解雇、減給、降格等は「不利益取扱い」であり、ハラスメントとは異なります。

たとえば、妊娠を伝えたら契約更新されなかった、育児休業後に降格された等は不利益取扱いに該当し、違法です。

カスタマーハラスメントの定義とは?

厚生労働省は、カスタマーハラスメントを「明確に定義付けられない」としながらも、以下のようなものであるとしています。

  • 商品・サービス内容と無関係、または企業に瑕疵がない不当な要求
  • 暴行・脅迫・中傷・侮辱・差別・性的言動、土下座要求、執拗な言動、監禁等
  • 不相当な商品交換、金銭補償、謝罪要求

これらの行為は、従業員の心身に大きな負担をかけ、業務に支障をきたすだけでなく、企業全体のイメージダウンにもつながる可能性があります。

近年、カスタマーハラスメントは増加傾向にあり、企業は従業員を守るための対策を強化しなければなりません。

就活ハラスメントの定義とは?

厚生労働省によると、以下が就活ハラスメントの定義とされています。

「就職活動中やインターンシップの学生等に対するセクシュアルハラスメントやパワーハラスメント」のことをいい、立場の弱い学生等の尊厳や人格を不当に傷つける等の人権に関わる許されない行為です。

出典)厚生労働省「ハラスメントの定義

就活ハラスメントは、採用選考での差別やプライベートへの過度な質問、人格否定、威圧的な態度、必要以上の拘束、セクハラ、オワハラなど、学生の尊厳を傷つけ、就職活動を妨げる行為です。

近年では、採用者の一部がSNSで個人的に連絡を取るなどして、就活生へのハラスメント行為をするなどの事例も目立つようになりました。

法令で禁止されているハラスメントもある

ハラスメントの中には、法律で禁止されているものがあり、企業はこれらを遵守し、ハラスメント防止対策を講じる必要があります。

出典)厚生労働省「ハラスメントに関する法律とハラスメント防止のために講ずべき措置

パワーハラスメント

パワーハラスメントは、労働施策総合推進法で以下のように規定されています。

第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

出典)e-Gov法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律

パワーハラスメントは、職務上の立場が上で相手が逆らえない状況であることを分かっていながら、恫喝や脅迫、場合によっては暴行などを行うハラスメントのことです。

特に中小企業では、社員同士の距離が近くコミュニティが狭いため、パワーハラスメントが起きていても改善しにくい場合があります。

セクシュアルハラスメント

セクシュアルハラスメントは、男女雇用機会均等法で以下のように規定されています。

第十一条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

出典)e-Gov法令検索「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

セクシュアルハラスメントは、相手の意にそぐわない性的な発言や接触のことを指します。

「加害者にはセクハラの認識がなくとも、被害者はセクハラを受けていると思っていた」など、相互の認識がずれていることも多々あるため、注意が必要です。

マタニティハラスメント・パタニティハラスメント

マタニティハラスメント・パタニティハラスメントも、男女雇用機会均等法で以下のように規定されています。

第十一条の三 事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

出典)e-Gov法令検索「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

また、育児・介護休業法でも以下のような規定があります。

第二十五条 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

出典)e-Gov法令検索「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律

女性が社会進出することが当たり前になった昨今、より一層マタニティハラスメント・パタニティハラスメントの被害が可視化されるようになりました。

ハラスメントへの厳罰化は年々進んでいます。

上記の法律以外にも、ハラスメントに関連する法律は多数存在するため、企業は法律を遵守し、ハラスメントのない職場環境を整備する必要があるのです。

ハラスメント防止は企業の義務

2020年6月1日に施行された改正労働施策総合推進法により、職場のハラスメント防止対策が事業主の義務となりました。

出典)厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!

この資料のタイトルには「パワーハラスメント」が代表として記載されていますが、企業は、その他のハラスメントも発生を予防し、早期に解決するための体制を整備する必要があります。

以下では、ハラスメントが企業にもたらすリスク、企業が取り組むべきハラスメント対策、ハラスメント発生時の対応手順について説明していきます。

ハラスメントが企業にもたらすリスク

厚生労働省の定義に示されたような多くのハラスメントが、企業に以下のようなリスクをもたらします。

従業員のメンタルヘルス悪化

ハラスメントを受けた従業員は、精神的なダメージを受け、メンタルヘルスが悪化する可能性があります。

その結果、休職や退職に追い込まれるケースも少なくありません。離職率の増加は、企業にとって大きな損失となります。

企業イメージの悪化

ハラスメントが発生した企業は、社会的な信用を失い、企業イメージが悪化するかもしれません。

企業イメージの悪化は、採用活動にも悪影響を及ぼし、優秀な人材を獲得することが難しくなります。また、顧客からの信頼を失い、取引が減少する可能性もあります。

訴訟リスク

ハラスメントを受けた従業員は、企業に対して損害賠償請求訴訟を起こすことができます。

訴訟に発展した場合、企業は多額の損害賠償金を支払わなければならず、企業存続の危機に陥る可能性もあります。

生産性低下

ハラスメントが蔓延する職場では、従業員のモチベーションが低下し、生産性が低下する可能性があります。生産性の低下は、企業の業績悪化につながりかねません。

ハラスメント対応のコスト増加

ハラスメントが発生した場合、企業は対応に追われ、研修の実施や弁護士への相談など、費用がかさむ可能性があります。

ハラスメントは、企業にとって重大なリスクとなります。「知らなかった」「防止策を講じていなかった」では済まされません。

企業は、ハラスメント防止対策を積極的に推進する必要があるのです。

企業が取り組むべきハラスメント対策

企業は、ハラスメントを防止するために、以下の対策に取り組む必要があります。

  • ハラスメント防止のための社内ルール策定
    就業規則などに、ハラスメントの定義や禁止事項、相談窓口などを明確に記載します。
  • 研修・教育の実施
    役職者向けには、ハラスメントの防止と早期発見のための研修を実施し、一般社員向けには、ハラスメントに関する知識や相談方法などを教育します。
  • 相談窓口の設置と外部機関との連携
    社内に相談窓口を設置し、相談しやすい環境を整え、必要に応じて弁護士や労務コンサルタントなどの外部機関と連携します。
  • 匿名での社内アンケートや定期モニタリング
    従業員が安心して意見を表明できるよう、匿名での社内アンケートを実施します。定期的なモニタリングを通して、ハラスメントの発生状況が把握できます。
  • ハラスメントを許さない企業文化の醸成
    ハラスメントを許さないという意識を共有し、風通しの良い職場環境を作ることで、ハラスメントの発生を抑制します。

ハラスメント対策は、一度きりではなく、定期的な見直しが必要です。社会情勢や企業の状況に合わせて、対策内容を改善していくことが重要です。

ハラスメントが発生した場合の対応手順

ハラスメントが発生した場合は、以下の手順で対応しましょう。

1. 被害者から相談を受ける際のポイント
被害者の話を丁寧に聞き、共感する姿勢を示すことが大切です。プライバシーに配慮し、秘密厳守を徹底しましょう。

2. 事実確認を進める
被害者からの聞き取りだけでなく、証拠の確保や第三者へのヒアリングなどを行い、事実関係を客観的に確認します。

3. 社内調査と適切な処分の決定
社内調査委員会を設置し、公平な立場で調査を進めます。調査結果に基づき、加害者に対して適切な処分を決定しなければなりません。

4. 加害者・被害者双方へのケアとフォロー
被害者に対しては、精神的なケアや配置転換などの配慮を行います。加害者に対しては、再発防止のための指導や教育が必要です。

5. 再発防止策の策定と社員への周知
再発防止策を策定し、社員に周知徹底することで、同様の事案の発生を予防します。

6. 弁護士・労働基準監督署との連携
必要に応じて、弁護士や労働基準監督署に相談し、適切な対応を取ります。

ハラスメントが発生した場合でも、このように適切な対応を行えば、企業の信頼性を維持・向上できる可能性が高まります。

まとめ

この記事では、「ハラスメントの定義」について、それぞれの具体例や関連法規、中小企業が取り組むべき対策について解説しました。

中小企業にとって、ハラスメント対策は、従業員の定着率向上、企業イメージの維持、訴訟リスクの回避など、多くのメリットをもたらします。

そのためには「ハラスメントの定義」に関する理解を深め、ハラスメントのない職場環境作りに積極的に取り組むことが大切です。

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