【わかりやすい】労働安全衛生法(安衛法)を理解して中小企業を守る!ストレスチェックは?改正内容は?
を理解して中小企業を守る!ストレスチェックは?改正内容は?.jpg)
労働安全衛生法は、働く人々の安全と健康を守るために、企業が遵守しなければならない重要な法律です。しかし、中小企業においては、法令遵守が十分に行われていないケースも少なくありません。
この記事では、労働安全衛生法の基本的な内容や、中小企業がとくに注意すべきポイントについて解説します。また、近年注目されているストレスチェックや、法改正に関する情報もまとめています。
目次
まずは労働安全衛生法を理解しよう! 制定された背景・目的
労働安全衛生法では、法令の目的を以下のように定めています。
(目的) 第一条 この法律は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まつて、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。 |
出典)e-Gov法令検索「労働安全衛生法」
労働安全衛生法の主な目的は、次のとおりです。
- 労働災害の防止
- 労働者の健康の保護
- 安全で快適な労働環境の確保
この法律は、すべての事業者が対象であり、労働安全衛生の確保に努めることが義務づけられています。
中小企業は、大企業に比べて労働安全衛生の管理体制が脆弱であることがしばしば問題となるため、中小企業こそ労働安全衛生法を理解し、取り組むことが重要です。
労働基準法とは何が違う?
労働基準法と労働安全衛生法は、どちらも労働者の保護を目的とした法律ですが、その内容と目的が異なります。
項目 | 労働基準法 | 労働安全衛生法 |
内容 | 労働時間、賃金、休日など、労働条件の最低基準を定めた法律 | 労働災害の防止、労働者の健康確保のための法律 |
目的 | 労働者の権利保護 | 労働者の安全と健康の確保 |
対象 | すべての労働者 | すべての事業者 |
労働基準法は、労働時間や賃金など、労働条件の最低基準を定めた法律です。一方、労働安全衛生法は、労働災害の防止や労働者の健康確保のための法律となります。
どちらも、労働者を保護するために重要な法律であり、中小企業は両方を正しく理解し、遵守することが必要です。
とくに、中小企業では、労働安全衛生に関する知識や経験が不足している場合があり、労働災害が発生するリスクが高くなっています。
そのため、労働安全衛生法を正しく理解し、適切な安全衛生管理を行うことが重要です。
細則は「労働安全衛生法施行令」で定められている
労働者の安全と健康を確保する具体的な内容や手続きについては、労働安全衛生法施行令という政令で詳細に定められています。
たとえば、労働安全衛生法施行令で定められているのは、以下になります。
- 危険な作業に関する具体的な安全対策
- 健康診断の項目や実施方法
- 労働者の教育・訓練の内容
参考)e-Gov法令検索「労働安全衛生法施行令」
つまり、労働安全衛生法を理解するだけでは不十分で、中小企業においても労働安全衛生法および労働安全衛生法施行令を遵守し、適切な安全衛生管理を行うことが求められるのです。
技術的事項は「労働安全衛生規則」で定義されている
さらに、実際の業務で遵守すべき詳細な技術的事項は、労働安全衛生規則によって定められています。
たとえば、以下の内容です。
- 機械の具体的な操作方法
- 保護具の選定基準
- 作業環境測定の方法
参考)e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」
労働安全衛生規則は、企業にとって日々の業務における具体的な安全対策を示す重要な指針となります。
【必見】労働安全衛生法における中小企業の義務とは?
中小企業がとくに注意すべき労働安全衛生法における義務を以下にまとめました。
義務 | 内容 |
管理者・責任者・産業医などの選任 | 事業規模に応じて、安全管理者、衛生管理者、産業医を選任(中小企業では兼務も可能) |
労働災害の防止措置 | リスクアセスメントの実施、作業手順書の作成、安全衛生教育などを行い、労働災害を防止 |
安全衛生委員会等の設置 | 一定規模以上の事業場では、安全衛生委員会を設置(中小企業では簡略化が可能) |
安全衛生教育の実施 | 従業員に対して、安全衛生に関する教育を実施 |
健康診断・ストレスチェックの実施等 | 定期的な健康診断やストレスチェックを実施し、従業員の健康管理を行う |
リスクアセスメント等 | 職場環境の危険源を特定し、リスクを評価して対策を講じる |
快適な職場環境の形成 | 適切な換気、照明、温度管理などを行い、快適な職場環境を形成する |
労働安全衛生法は、中小企業にとって遵守すべき重要な法律です。上記の義務を果たすことで、企業は従業員の安全と健康を守り、ひいては企業の成長にもつなげることができます。
健康診断・ストレスチェックは企業の義務
労働安全衛生法に基づき、中小企業を含むすべての企業は、従業員に対して年1回の健康診断を実施する義務があります。
事業者に実施が義務づけられている健康診断には、以下のものがあります。
健康診断の種類 | 根拠 | 対象となる労働者 | 実施時期 |
雇入時の健康診断 | 安衛則第43条 | 常時使用する労働者 | 雇入れの際 |
定期健康診断 | 安衛則第44条 | 常時使用する労働者(特定業務従事者を除く) | 1年以内ごとに1回 |
特定業務従事者の健康診断 | 安衛則第45条 | 労働安全衛生規則第13条第1項第2号に掲げる業務に常時従事する労働者 | 左記業務への配置替えの際 6か月以内ごとに1回 |
海外派遣労働者の健康診断 | 安衛則第45条の2 | 海外に6か月以上派遣する労働者 | 海外に6か月以上派遣する際 帰国後国内業務に就かせる際 |
給食従業員の検便 | 安衛則第47条 | 事業に附属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する労働者 | 雇入れの際配置替えの際 |
出典)厚生労働省「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~」p.1
また、従業員50人以上の事業所では、年1回のストレスチェック実施も義務づけられています。
従業員50人未満の事業所ではストレスチェックは努力義務ですが、メンタルヘルス不調予防の観点から実施が推奨されており、今後は義務化の方向で進んでいるのが現状です。
【注意】労働安全衛生法を遵守しないリスク
労働安全衛生法違反によって起こりうるリスクについて、わかりやすく表形式にまとめます。
リスク項目 | 内容 |
労働災害の発生リスク | 安全基準を満たしていない職場環境が、労働災害発生のリスクを高める |
行政指導・罰則の対象 | 労働安全衛生法違反が発覚した場合、行政指導や罰則の対象となる |
企業の社会的信用の低下 | 法令違反は企業の社会的信用を大きく損ない、取引先や顧客からの信頼を失う可能性がある |
従業員のモチベーション低下 | 安全管理が不十分な職場では、従業員の不安や不満が高まり、モチベーション低下や離職につながる可能性がある |
訴訟リスクの増加 | 労働災害が発生した場合、企業は損害賠償請求訴訟を起こされるリスクが高まる |
中小企業は、経営資源が限られているからこそ、労働安全衛生法を遵守し、リスクを最小限に抑えることが不可欠です。
労働災害やメンタルヘルス不調は、従業員の離職や企業の評判低下につながり、経営に大きな影響を与えかねません。
労働安全衛生法を守ることで生まれるメリット
労働安全衛生法を守ることで、リスクを抑えることが可能となるだけでなく、とくに中小企業にとっては以下のようなメリットが生じます。
メリット | 説明 |
生産性の向上 | 従業員の健康状態が良好に保たれることで、集中力や作業効率が向上し、生産性向上につながる |
従業員の定着率向上 | 安全で健康的な職場環境は、従業員の満足度を高め、定着率向上につながる |
企業の信頼性向上 | 法令遵守を徹底することで、企業の社会的責任を果たしているという姿勢を示し、信頼性向上につながる |
労働安全衛生法を遵守することは、企業の成長に不可欠な要素です。安全な職場環境は従業員のモチベーションを高め、生産性向上につながるのです。
また、労働災害の減少は、休業日数の削減や損害賠償リスクの軽減に貢献するほか、法令遵守は企業の社会的信用を高め、優秀な人材の確保にもつながります。
中小企業が労働安全衛生法を守るためのポイント
中小企業の経営者にとって、労働安全衛生法の遵守は重要な課題ですが、部下の違反行為を完全に防ぐことは難しい場合があります。
そこで重要となるのが、ガバナンスを利かせることです。中小企業を守るためには、経営者が率先して安全衛生管理体制を構築し、従業員一人ひとりの安全意識を高める必要があります。
以下に、中小企業が具体的に取り組むべきポイントをまとめます。
項目 | 内容 |
社内ルール・マニュアルの策定 | わかりやすい社内ルールやマニュアルを作成し、周知徹底する |
安全衛生委員会の設置と運営 | 安全衛生委員会を設置し、安全衛生に関する問題点の把握や改善策を検討する |
定期的なリスクアセスメントの実施 | リスクアセスメントを実施し、適切な安全対策を講じる |
労働者への安全教育と意識向上施策 | 安全衛生に関する教育を定期的に実施し、安全意識を高める |
労働安全衛生法の外部専門家活用 | 外部専門家を活用し、法令遵守を徹底する |
中小企業では、手軽に取り組める施策から着手することが大切です。
まずは、社内ルールやマニュアルの策定、安全衛生委員会の設置、リスクアセスメントの実施など、基本的な取り組みから始めましょう。
労働安全衛生法の違反事例とその対策
実際にどのような事案が労働安全衛生法の違反となるのか、厚生労働省労働基準局監督課による「労働基準関係法令違反に係る公表事案」より事例をいくつか取り上げ、対策を挙げてみます。
安全基準に不適合な措置
建設会社の事案では、請負人に型枠支保工を使用させる際、安全基準に適合した措置を講じていませんでした。
これは、労働安全衛生法第31条および労働安全衛生規則第646条に違反します。
参考)e-Gov法令検索「労働安全衛生法」
参考)e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」
型枠支保工の設置・使用にあたっては、以下の対策を徹底する必要があります。
- 安全基準の遵守: 型枠支保工の設置基準や使用方法に関する法令・規則の遵守
- 事前の点検: 使用前に型枠支保工の状態を点検、不備があれば改修
- 安全装置の設置: 必要な安全装置(手すり、足場など)の設置
- 作業員の教育: 作業員に対し、型枠支保工の安全な使用方法に関する教育の徹底
労働災害の報告提出がなかった
林業を営む企業の事例では、4日以上の休業を要する労働災害が発生したにもかかわらず、遅滞なく労働者死傷病報告を提出しませんでした。
これは、労働安全衛生法第100条および労働安全衛生規則第97条に違反します。
参考)e-Gov法令検索「労働安全衛生法」
参考)e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」
労働災害が発生した場合は、以下の対応を迅速に行う必要があります。
- 負傷者の救護:負傷者の救護を最優先に、必要に応じて医療機関への搬送を手配
- 原因の究明:労働災害発生原因を究明し、再発防止対策を検討
- 労働者死傷病報告の提出:労働災害発生状況を労働者死傷病報告書にまとめ、遅滞なく労働基準監督署に提出
無資格者に作業をさせた
建設会社の事例では、無資格者であるにもかかわらず、機体重量3トン以上の車両系建設機械の運転業務を行わせていました。
これは、労働安全衛生法第61条および労働安全衛生法施行令第20条に違反します。
参考)e-Gov法令検索「労働安全衛生法」
参考)e-Gov法令検索「労働安全衛生法施行令」
車両系建設機械の運転にあたっては、以下の対策を徹底する必要があります。
- 資格の確認: 運転者の資格(運転技能講習修了証など)を必ず確認
- 資格取得の支援: 従業員に対し、必要な資格取得を支援
- 作業計画の作成: 作業内容に応じた作業計画を作成し、安全な作業方法を周知
- 安全教育の徹底: 作業員に対し、車両系建設機械の安全な運転方法に関する教育の徹底
これらの事例は、ほんの一例です。労働安全衛生法には、さまざまな規定があり、違反した場合の罰則も定められています。
今一度、自社の安全衛生管理体制を見直し、法令遵守を徹底しましょう。
労働安全衛生法の2024年改正ポイント
2024年4月1日、労働安全衛生法とその関連規則に、いくつかの重要な改正が適用されました。これらの改正は、主に化学物質管理の強化と労働者の安全確保を目的としています。
以下に、主な改正ポイントをまとめます。
改正カテゴリ | 改正ポイント | 内容 |
化学物質管理の強化 | ラベル表示・SDS義務対象物質の追加 | 対象物質が追加され、より多くの化学物質にラベル表示やSDS交付が義務化 |
リスクアセスメント対象物へのばく露低減措置の義務化 | 代替物の使用、発散源の密閉、局所排気装置の設置などにより、ばく露を最小限にする | |
化学物質管理者の選任義務化 | リスクアセスメント対象物を製造、取扱い、または譲渡提供する事業場では、化学物質管理者を選任 | |
衛生委員会の付議事項に追加 | 化学物質の自律的な管理の実施状況を調査審議 | |
労働災害発生事業場等への労働基準監督署長による指示 | 化学物質管理が適切でない事業場へ改善指示 | |
労働者の安全確保 | 保護具着用管理責任者の選任義務化 | リスクアセスメントに基づき保護具を使用させる事業場では、保護具着用管理責任者を選任 |
作業環境測定結果が第3管理区分の事業場に対する措置強化 | 外部専門家の意見を聴き、改善策を講じる改善困難な場合は、呼吸用保護具着用を徹底 | |
その他 | 歯科健診の実施報告義務化 | 歯科健診の結果を報告 |
有機溶剤等に関する特殊健康診断の実施頻度緩和 | 一定基準を満たす場合、実施頻度を緩和 |
参考)厚生労働省「今後の労働安全衛生法に係る主な法令改正について」
事業者は、これらの改正内容を理解し、適切な安全衛生管理体制を構築することが求められます。
まとめ
労働安全衛生法は、働く人々の安全と健康を守るための重要な法律であり、すべての企業が遵守する義務があります。とくに中小企業においては、労働災害や健康問題が経営に与える影響は非常に大きく、法令遵守の重要性はいっそう高まります。
中小企業が労働安全衛生法を遵守するためには、まず基本的なことから始めることが重要です。健康診断を定期的に実施し、従業員の健康状態を把握すること、作業環境の安全点検や安全教育の実施など安全管理体制を整備すること、従業員のメンタルヘルスにも配慮しストレスチェックを導入することなどが挙げられます。
企業の守りを強化することは、従業員の安心と健康、そして企業の成長と発展に不可欠な要素です。労働安全衛生法を遵守し、より良い職場環境を築くことが、中小企業の持続的な成長を支える基盤となります。
関連記事
-
COSOとは?内部統制フレームワークの原則や活用事例をわかりやすく解説
企業の内部統制について意識している経営層の方の中には、「COSO」に興味を持っている方も少なくないでしょう。しかし、COSOが具体的にどのようなものなのか、経営に対してどう役立つのか、といった点について把握できていないことも珍しくないはずです。
-
中小企業が知っておくべきハラスメントの種類一覧!人材と企業をリスクから守ろう
近年、企業におけるハラスメント問題が大きな注目を集めています。特にリソースの少ない中小企業では、多くの経営者が頭を悩ませている問題です。この記事では、中小企業の経営者やマネージャーの皆様に向けて、職場で起きがちなハラスメントの種類を紹介します。具体例を交えながら解説しますので、参考にしてください。
-
契約書のリーガルチェックとは?中小企業が法務リスクを回避する方法
中小企業の経営者やバックオフィスの担当者の中には、契約書や社内規定の法的リスクに不安を感じている方も多いのではないでしょうか?専門知識がない、人手が足りないと、リーガルチェックを後回しにしていると、思わぬトラブルを招く恐れがあります。この記事では、中小企業の実情に即したリーガルチェックの基本から、効率的な実施方法までをわかりやすく解説します。法務リスクから会社を守るためにも、ぜひ参考にしてください。
-
個人情報保護委員会ってどんな組織?トラブルの際にはすぐ報告を!
個人情報の管理は、中小企業にとって避けて通れない重要な課題です。
万が一、情報漏えいが発生した際には、適切な対応を取らなければ法的責任や信用リスクを負う可能性があります。その際に連携すべき機関が「個人情報保護委員会」です。
本記事では、個人情報保護委員会の役割や企業に求められる報告義務、具体的な対応の流れについて解説します。
中小企業の経営者やバックオフィス担当者にとって、「個人情報漏えい時の適切な報告フロー」を知ることはリスク管理の大前提です。会社の信頼を守るためにも、万が一のトラブルに備えてチェックしておきましょう。
-
マタニティハラスメントとは?厚生労働省の定義、事例、企業が行う対策など
マタニティハラスメントとは、妊娠や出産を理由に嫌がらせを受けたり、不当な扱いを受けたりすることです。特に職場での問題として注目されており、妊娠中の女性や出産後の母親が精神的・肉体的に大きな負担を抱える原因となっています。この記事では、マタニティハラスメントの定義や具体的な事例、リスク、そして対策のメリットや方法について詳しく解説します。