特定理由離職者とは?企業が知っておくべき条件と注意点を解説
従業員が自己都合で退職した場合でも、一定の条件を満たせば「特定理由離職者」として認定され、通常より有利な条件で失業保険を受け取れることがあります。
企業側としても、離職票の記載内容や対応によってはトラブルやペナルティのリスクが生じるため、制度の正しい理解が欠かせません。この記事では、特定理由離職者の定義や該当条件、企業側が注意すべきポイントについてわかりやすく解説します。
特定理由離職者とは?
特定理由離職者とは、一般的な自己都合退職とは異なり、やむを得ない事情によって離職せざるを得なかった労働者が対象となる制度上の区分です。
たとえば、契約期間満了による雇止めや、健康上の問題、育児や介護など、個人の責任とは言い切れない正当な理由が該当します。
特定理由離職者に認定されると、失業保険の受給において有利な条件が適用され、早期の生活再建が可能です。
企業としてもこの区分を正しく理解し、離職票の記載内容や手続きに誤りがないよう注意が求められます。
参考)厚生労働省「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」
参考記事:離職とは?中小企業が押さえるべき基礎知識・手続き・防止策を徹底解説
特定理由離職者になる労働者側のメリット
特定理由離職者に認定されると、労働者は一般的な自己都合退職者に比べて、失業給付の面で優遇されます。
具体的には以下のとおりです。
・被保険者期間が短縮される
・失業等給付(基本手当)の所定給付日数が手厚くなる
失業等給付(基本手当)の受給資格を得るには、通常、被保険者期間が12ヶ月以上(離職以前2年間)必要ですが、特定理由退職者の場合、6ヶ月(離職以前1年間)以上あれば、受給資格を得られます。
また、所定給付日数が延長される場合もあり、生活の安定を支援する措置が講じられています。
特定理由離職者と特定受給資格者の違い
特定理由離職者と特定受給資格者は、いずれも雇用保険制度上で優遇措置を受けられる離職区分ですが、その範囲に違いがあります。
特定受給資格者とは、主に会社都合によって離職した人です。たとえば解雇や倒産、退職勧奨など、労働者に責任のない状況で職を失った場合に該当します。
一方、特定理由離職者は、個人的な事情とはいえ、やむを得ない理由で自己都合退職した人が対象です。
特定理由離職者に該当する条件
特定理由離職者として認定されるには、自己都合とされる退職であっても、就労継続が困難と認められる「正当な理由」が必要です。
厚生労働省の定めによると、以下のような具体的事情が該当条件とされています。
| 【特定理由離職者に該当する条件】 ・雇止めによる離職 ・健康上の理由での離職 ・家庭や介護による離職 ・通勤が困難または不可能な場合による離職 ・その他のやむを得ない事情 |
それぞれ見ていきましょう。
参考)厚生労働省「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」
雇止めによる離職
期間を定めて雇用されていた労働者が、契約更新を希望していたにもかかわらず、会社側の都合で契約が打ち切られた場合は、特定理由離職者に該当します。
ただし、労働契約において、当初から契約の更新がないことが明示されている場合は、基本的には特定理由離職者に該当しません。
健康上の理由での離職
労働者本人が心身の不調を抱え、医師から就業継続が困難との診断を受けた場合も、特定理由離職者の対象となることがあります。
具体的には、以下のような条件です。
・体力の不足
・心身の障害
・疾病
・負傷
・視力の減退
・聴力の減退
・触覚の減退 など
ただし、上記のような身体的条件のため、事業主から新たに就くべきことを命ぜられた業務を遂行できる場合は、特定理由離職者に該当しません。
家庭や介護による離職
家族の介護や育児が原因で就労の継続が困難となった場合も、特定理由離職者として認められることがあります。
たとえば、 妊娠、出産、育児のために離職し、雇用保険法第20条第1項の受給期間延長措置を受けた人などが該当します。
また、常時本人の看護を必要とする親族の疾病、負傷などのために離職を余儀なくされた場合のように、家庭の事情が急変した場合も同様です。
家庭内の状況は個人差が大きいため、事情を丁寧に整理したうえで申告する必要があります。
通勤が困難または不可能な場合による離職
以下のような理由で通勤が困難または不可能になった場合の離職も該当します。
・結婚に伴う住所の変更
・育児に伴う保育所その他これに準ずる施設の利用又は親族等への保育の依頼
・事業所の通勤困難な地への移転
・自己の意思に反しての住所又は居所の移転を余儀なくされたこと(災害など)
・鉄道、軌道、バスその他運輸機関の廃止又は運行時間の変更等
・事業主の命による転勤又は出向に伴う別居の回避
・配偶者の事業主の命による転勤若しくは出向又は配偶者の再就職に伴う別居の回避
なお、通勤困難の範囲は、通常の方法により通勤するための往復所要時間が、概ね4時間以上となる場合が基準とされています。
その他のやむを得ない事情
その他、企業整備による人員整理などで希望退職者の募集に応じて離職した場合なども、特定理由離職者に該当するケースがあります。
特定理由離職者に該当する可能性は多岐にわたるため、適宜ハローワーク(公共職業安定所)に確認しましょう。
特定理由離職者に該当するかの判断方法
特定理由離職者に該当するかどうかは、本人の自己申告だけでは確定しません。最終的には、ハローワークが本人の申告内容と提出書類をもとに判断します。
たとえば、健康上の理由であれば医師の診断書、介護や育児の場合は家庭の状況を証明する書類、通勤困難であれば転居を示す住民票などが求められます。証明が不十分な場合、認定されない可能性があるため、事前に必要書類を確認しておくことが重要です。
また、離職票に記載される退職理由も大きな判断材料になります。企業側が「一身上の都合による」としか記載せず、本人がハローワークで異議を申し立てた結果、特定理由離職者に認定されるケースも少なくありません。
そのため、企業は事実に即した退職理由を正確に記載し、必要に応じて状況説明を求められた際は誠実に対応する必要があります。
特定理由離職者における企業側の注意点
企業が特定理由離職者に関する手続きを誤ると、労働者とのトラブルや行政指導を受けるリスクが高まります。
ここからは、以下の特定理由離職者における企業側の注意点を解説します。
| 【特定理由離職者における企業側の注意点】 ・労働者から「異議申し立て」が発生する場合がある ・雇用関連助成金の給付の可否に関わる ・企業側のペナルティと対策 ・ハローワークの調査に応じなかった場合 ・虚偽の離職理由を記載した場合 |
それぞれ見ていきましょう。
労働者から「異議申し立て」が発生する場合がある
離職票に記載された離職理由に納得できない場合、労働者はハローワークに対して異議申し立てを行うことができます。
たとえば業務を継続できない疾病であったにも関わらず、「一身上の都合による」としか記載されていなかった場合などです。
異議申し立てが行われると、ハローワークは企業に対して事実関係の確認を求め、必要に応じて書面や口頭での調査が実施されます。
企業がこの調査に適切に対応できないと、離職票の訂正を求められるほか、企業の信用にも影響が及ぶ可能性があるため注意が必要です。
雇用関連助成金の給付の可否に関わる
離職者が「会社都合退職」として扱われると、企業が申請する雇用関連助成金などに悪影響を及ぼす場合があります。なぜなら、審査項目に一定期間内の会社都合離職者の有無や割合が含まれることがあり、条件を満たさなくなるためです。
なかには、自己都合退職でも「会社都合にしてほしい」と求めてくる従業員がいますが、事実と異なる退職理由を記載すれば虚偽報告とみなされ、助成金の返還や行政指導につながるおそれがあります。
離職票には正確な退職理由を記載し、曖昧な対応を避けることが大切です。
企業側のペナルティと対策
労働者からの申告と離職票の内容に食い違いがあると、ハローワークから事実確認の調査が入ることがあります。多くは電話や書面による問い合わせで、退職理由や当時の状況、関連書類の提出を求められますが、誠実に対応すれば問題ありません。
ただし、内容に誤りや説明の不備があると、最悪の場合は「虚偽記載」として扱われ、助成金の返還や行政指導につながるおそれもあります。普段から退職時のやり取りを記録し、証拠として残しておくことが最大の防止策です。
ハローワークの調査に応じなかった場合
労働者から異議申し立てがあった場合、ハローワークは企業に対し、離職理由に関する説明や資料提出を求めます。この際、調査に協力しない、あるいは返答を怠った場合には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される恐れがあります。
調査依頼が届いた際は、誠実かつ迅速に対応しましょう。
参考)e-GOV法令検索「雇用保険法」
虚偽の離職理由を記載した場合
意図的に虚偽の離職理由を記載すると、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる恐れがあります。
また、虚偽の離職理由によって退職者が損害を被った場合、退職者から損害賠償請求をされる恐れがあります。
不正が明らかになれば、企業の社会的信用が大きく損なわれる可能性があるため、離職理由の記載は正確に行う必要があります。
参考)e-GOV法令検索「雇用保険法」
まとめ
特定理由離職者は、やむを得ない事情で離職した労働者が、自己都合よりも有利な条件で失業給付を受けられる制度です。
企業は離職理由の判断や離職票の記載を正確に行う必要があり、誤った対応は労働者とのトラブルにつながるおそれがあります。
退職時の状況を正しく把握し、書類の管理や説明対応を丁寧に行うことが、円滑な手続きと信頼関係の維持につながります。
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