中小企業経営者こそ知っておこう!コーポレートガバナンス報告書の作成・活用まで

「コーポレートガバナンス」と聞くと、大企業や上場企業の話だと感じる中小企業の経営者の方も多いかもしれません。
しかし、実はこの概念こそ、私たち中小企業が持続的に成長し、地域社会からの信頼を勝ち取るために不可欠な要素なのです。
とくに、取り組みを具体的に示す「コーポレートガバナンス報告書」は、単なる形式的な書類ではありません。自社の経営体制を見直して透明性を高め、金融機関からの融資や優秀な人材の確保へとつながる、未来への羅針盤となり得ます。
この記事では、中小企業向けに、コーポレートガバナンス報告書の基本から、効率的な作成・活用方法までをわかりやすく解説します。
目次
コーポレートガバナンス報告書とは?
コーポレートガバナンス報告書は、企業が公正かつ効率的な経営をおこなうための仕組み(コーポレートガバナンス)について、その状況を開示する文書です。
上場企業は金融商品取引法に基づき、東京証券取引所の定める「コーポレートガバナンス・コード」に則って提出が義務付けられています。
中小企業に法的な提出義務はありませんが、自主的に作成・公開することで、ステークホルダーへの説明責任を果たし、企業価値向上に寄与します。
参考記事:コーポレートガバナンスとは?設定する目的、コードの内容、事例などを解説
中小企業におけるコーポレートガバナンスの重要性
コーポレートガバナンスは、大企業のためだけの概念ではありません。むしろ、中小企業こそ、その重要性を認識し、積極的に取り組むべきです。
中小企業は、経営者と従業員の距離が近く、迅速な意思決定ができる反面、経営の透明性が低いと見られがちです。これにより、金融機関からの融資、優秀な人材の確保、取引先からの信頼獲得といった面で不利になることがあります。
コーポレートガバナンスを導入し、経営の健全性と透明性を高めることで、課題を克服し、持続的な成長を可能にします。
コーポレートガバナンス報告書の定義
コーポレートガバナンス報告書は、企業が自社のガバナンス体制の現状、取り組み、および課題について詳細に記述した文書です。
3 CG コードにおいて示されている「コーポレートガバナンス」の定義は、①「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」と、②「持続的な成長と中長期的な企業価値向上のための自律的な対応を図る仕組み」である。 |
出典)総務庁「経営ガバナンスとコーポレートガバナンス・コード(CG コード)」p.1
具体的には、以下が含まれます。
- 取締役会の構成や役割
- 監査役会の機能
- 内部統制システム
- 株主との対話方針など
他社のコーポレートガバナンス報告書はどこで見る?検索・閲覧方法
他社のコーポレートガバナンス報告書を閲覧することは、自社の報告書作成の参考になるだけでなく、取引先や投資先の企業研究にも役立ちます。主な検索・閲覧方法は以下のとおりです。
日本取引所グループ(JPX)の「コーポレート・ガバナンス情報サービス」
上場企業が提出するコーポレートガバナンス報告書は、日本取引所グループ(JPX)が提供する「コーポレート・ガバナンス情報サービス」で閲覧できます。
- アクセス方法
- 日本取引所グループのウェブサイトにアクセスし、「コーポレート・ガバナンス」のセクションから「コーポレート・ガバナンス情報サービス」を選択
- 検索方法
- 「銘柄名(会社名)」または「証券コード」を入力して検索
- 会社属性情報(市場区分や業種など)で条件を絞り込みも可能
- 閲覧内容
- 各企業のコーポレートガバナンスに関する基本的な考え方
- 経営体制
- 株主との対話
- 内部統制システムなど
EDINET(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類閲覧システム)
金融庁が運営するEDINETでは、上場企業が提出する有価証券報告書や四半期報告書、それらの中に含まれるコーポレートガバナンスに関する情報も閲覧できます。
- アクセス方法
- EDINETのウェブサイトにアクセス
- 検索方法
- 「書類検索」から、会社名や証券コード、提出書類種別(有価証券報告書など)を指定
- 「コーポレートガバナンスの状況」といった項目で絞り込み可能
- 閲覧内容
- 主に有価証券報告書の一部となるコーポレートガバナンスに関する情報
各企業のIRサイト
多くの企業は、自社のIRサイト内にコーポレートガバナンスに関する情報をまとめて掲載しています。コーポレートガバナンス報告書だけでなく、有価証券報告書や決算短信、株主総会資料なども同時に確認できる場合があります。
- 検索方法
- 検索エンジンで「◯◯(企業名) コーポレートガバナンス」や「◯◯ IR」と検索
- 閲覧内容(企業によって異なる)
- コーポレートガバナンス報告書のPDFファイルを直接ダウンロード
- ガバナンス体制の図解
- 具体的な取り組み事例
他社のコーポレートガバナンス報告書が、自社の経営改善や事業戦略に役立ちます。
企業情報開示システムEDINETとTDnetの違い
EDINETとTDnetは、どちらも企業の開示情報を投資家や一般に公開するためのシステムですが、運営主体と開示する情報の性質に違いがあります。
簡単にまとめると以下のようになります。
項目 | EDINET | TDnet |
運営主体 | 金融庁 | 東京証券取引所(JPX) |
根拠法令 | 金融商品取引法 | 東京証券取引所の上場規程 |
主な開示書類 | 有価証券報告書 四半期報告書 大量保有報告書など | 決算 短信適時開示情報など |
情報の性質 | 網羅的・詳細な情報(定期報告) | 投資判断に重要な影響を与える速報性の高い情報(随時報告) |
目的 | 投資家保護、証券市場の公正・効率性の確保 | 市場の透明性・信頼性の向上、インサイダー取引の防止 |
TDnetやEDINETの開示システムは、いずれもコーポレートガバナンスを推進する上で重要な役割を果たしています。
【中小企業担当者必見】コーポレートガバナンス報告書の注意点
中小企業において、コーポレートガバナンス報告書を作成・活用する際には、上場企業とは異なる注意点があります。法的な義務がないからこそ、自社の状況に合わせた適切な運用が求められるのです。
コーポレートガバナンス報告書の提出期限と提出方法
上場企業にとって、コーポレートガバナンス報告書の提出は、東京証券取引所(以下、東証)の上場規程に基づく義務です。
- 提出期限:原則として、定時株主総会の招集通知発送日から株主総会開催日まで
- 提出方法:東証が指定する「TDnet(適時開示情報伝達システム)」を通じて電子的に提出
TDnetは、上場企業が投資家に対し、会社法や金融商品取引法、取引所の規則などに基づき、タイムリーに重要な会社情報を開示するためのシステムです。
報告書は、TDnetを通じて提出されると同時に、日本取引所グループ(JPX)のWebサイト「コーポレート・ガバナンス情報サービス」に掲載・公開されます。
中小企業が上場を目指す場合、提出期限や方法を事前に把握し、社内で適切な情報管理体制を構築しておくことが不可欠です。
参考)
JPX「有価証券上場規程(東京証券取引所)」
JPX「【提出書類の概要】<TDnet(縦覧書類の登録)での提出に係る留意事項>」
虚偽記載のリスクと開示義務
上場企業にとって、コーポレートガバナンス報告書を含む適時開示書類の虚偽記載は、極めて重大なリスクをともないます。開示義務がない中小企業であっても、将来的なリスク回避や信頼性向上につながるため、上場企業の義務を参考にすることは非常に有益です。
上場企業が提出するコーポレートガバナンス報告書に虚偽の記載があった場合、以下のような厳しい措置の可能性があります。
- 課徴金納付命令
- 刑事罰
- 改善報告書の提出命令・公表
- 違約金
- 上場廃止
中小企業には、コーポレートガバナンス報告書の提出義務はありませんが、自主的な報告書作成・開示であっても、記載内容には細心の注意を払うべきです。
「開示する情報は、常に真実かつ正確であること」という原則を強く意識し、ダブルチェックや第三者によるレビューを取り入れるなど、正確性を確保するための体制を構築することが重要です。
中小企業がコーポレートガバナンス報告書を効率的に作成するには
中小企業がコーポレートガバナンス報告書を効率的に作成するためには、限られたリソースの中で最大限の効果を引き出す工夫が必要です。上場企業のような大規模な体制を構築することは難しいため、以下のポイントに注目して取り組む必要があります。
ITツール導入による情報収集・管理の効率化
コーポレートガバナンス報告書の作成には、さまざまな部署からの情報収集と、それらの正確な管理が不可欠です。中小企業こそ、アナログな手法に頼らず、ITツールを積極的に導入することで、大幅な効率化と精度向上を実現できます。
- クラウドベースの情報共有ツール
- プロジェクト管理ツール
- 電子承認システム
- データ分析・BIツール
ITツールを適切に活用することで、情報収集の手間を削減し、データの正確性を高め、報告書作成にかかる時間を大幅に短縮できます。
コーポレートガバナンス報告書のひな形や記述例の活用
ゼロからコーポレートガバナンス報告書を作成するのは、膨大な時間と労力を要します。上場企業が開示している報告書のひな形や記述例を参考にすることで、効率的に高品質な報告書を作成することが可能です。
JPXによるコーポレートガバナンスに関する報告書記載要領
ひな形という名前ではありませんが、JPXのサイトからコーポレートガバナンス報告書の記載要領がダウンロードできます。
たびたび改訂版が出ているため、最新情報のチェックも重要です。
参考)JPX「コーポレート・ガバナンスに関する報告書 記載要領」
金融庁の開示事例
毎年金融庁が公開する好事例集では、コーポレートガバナンスが投資家に好ましい判断材料となった例を提示しています。
これらの企業を参考にすることで、どのような記載が望ましいのか理解を深められます。
参考)金融庁「「記述情報の開示の好事例集2024(第4弾)」の公表(コーポレート・ガバナンスに関する開示)」
有効活用することで、報告書作成の初期段階における試行錯誤の時間を大幅に短縮し、本質的な議論や内容の充実に時間を割けるのです。
外部専門家やコンサルティングサービスの活用
中小企業が単独でコーポレートガバナンス報告書を完璧に作成することは、専門知識や経験の面で難しい場合があります。このような場合、外部の専門家やコンサルティングサービスを活用することが、効率的かつ質の高い報告書作成への近道となります。
期待できる効果
- 専門知識の補完
- 客観的な視点
- 効率化
- 信頼性の向上
必要な費用は、報告書作成の効率化だけでなく企業のガバナンス体制強化、ひいては企業価値向上につながる長期的な投資と捉えられます。
まとめ
この記事では、コーポレートガバナンス報告書の基本から、中小企業における重要性、効率的な作成・活用方法までを解説しました。
大企業のような義務がなくとも、自社の経営体制を客観的に見つめ直し、透明性を高めることは、取引先からの信頼獲得に直結します。
ITツールの活用やひな形の参照、必要に応じた外部専門家の知見を借りることで、限られたリソースでも質の高い報告書を作成することは十分可能です。
コーポレートガバナンス報告書は、単なる文書ではなく、企業の持続的な成長と社会からの信頼を築くための強力なツールなのです。
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