ランサムウェア被害を防ぐにはどうする?中小企業のための最新対策ガイド

近年、中小企業を狙ったサイバー攻撃の中でも特に被害が深刻化しているのが「ランサムウェア」です。社内の重要ファイルやシステムを暗号化し、復旧のために高額な身代金を要求するこの手口は、業務停止や顧客データ流出など、事業継続に致命的な影響を与えます。
かつては大企業が標的とされるケースが目立ちました。しかし近年ではセキュリティ体制が比較的手薄な中小企業が狙われる事例もあるため注意が必要です。
本記事では、ランサムウェアの仕組みや最新の攻撃手口、代表的な感染経路、そして中小企業でも実践できる具体的な防御策と、万が一感染してしまった場合の初動対応までを詳しく解説します。
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目次
ランサムウェアの仕組みと最新トレンド
ランサムウェアは、企業や個人のデータやシステムを人質に取り、復旧のために金銭(多くは暗号資産)を要求する悪質なサイバー攻撃です。
近年は、単に暗号化するだけでなく、盗んだデータを公開すると脅す「二重恐喝型」や、暗号化せずに公開を迫る「ノーウェアランサム」など、新たな手口も増加しています。
特に注意が必要なのは、中小企業がこうした攻撃の格好の標的となっている点です。理由は大きく3つあります。
- セキュリティ予算や専門人材が限られ、防御が手薄になりやすい
- 業務停止が長引くと経営に直結するダメージが大きく、身代金を支払う可能性が高いと見なされやすい
- 取引先や顧客データを持つことで、攻撃者にとって「二重恐喝」が成立しやすい
こうした背景から、ランサムウェアはもはや大企業だけの問題ではありません。中小企業こそ、日常的なセキュリティ対策と、万一の際の復旧体制を整えておくことが急務なのです。
「暗号化」と「身代金要求」…ランサムウェアの基本手口
従来のランサムウェアは、不特定多数の利用者を狙って電子メールを送り、添付ファイルやリンクから感染させる手口が主流でした。
しかし近年は、企業のVPN機器やネットワーク機器の脆弱性を突いて侵入するケースが増えています。
さらに、単にデータを暗号化するだけではありません。データを盗み出した上で「対価を支払わなければデータを公開する」と脅す二重恐喝型(ダブルエクストーション)や、暗号化せずにデータ窃取と公開を迫るノーウェアランサムといった新たな手法も登場している状況です。
これらの手口は短時間で被害を拡大させ、事業の継続に大きな支障をきたす危険性があります。
知らないと危険!暗号化型・画面ロック型の違い
ランサムウェアにはいくつかの種類がありますが、中でも被害が多いのが暗号化型と画面ロック型です。
一見似ているように見えますが、被害内容や復旧の難易度が大きく異なります。違いを正しく理解しておくことは、対策を考えるうえで重要です。
種類 | 仕組み | 特徴・リスク |
暗号化型 | ファイルやシステム全体を暗号化し、復号キーと引き換えに身代金を要求 | データが利用できなくなり業務停止。バックアップがなければ復旧困難 |
画面ロック型 | 端末の画面をロックして操作不能にする | データ自体は破壊されないが、業務が即時停止。復旧は比較的容易な場合もある |
暗号化型は復旧に時間やコストがかかるため、特に注意が必要です。一方で画面ロック型はデータそのものは無事でも、業務に直結する停止被害をもたらすため油断はできません。
どちらのタイプも感染初期段階で気付くことが、被害の最小化につながります。
ここから侵入される!主要な感染経路は?
ランサムウェアは、メールやソフトの脆弱性、外部デバイスなど多様な経路から侵入します。
特に中小企業はセキュリティ予算や人員が限られ、複数のルートを同時に対策するのが難しいため、優先順位をつけた防御が重要です。
代表的なのはメール添付ファイル
もっとも多い感染経路が、不審メールに添付されたファイルです。「請求書」や「納品書」など業務に関係するファイル名を装い、WordやExcel、ZIPファイルなどにマルウェアを仕込んで送付します。
添付ファイルを開いた瞬間に感染するケースもあるため、社員への教育とメールフィルタの導入が不可欠です。
古いOSや脆弱なソフトがサイバー犯罪者の標的に
Windowsや業務アプリケーションの古いバージョンは、既知の脆弱性が修正されておらず、攻撃者にとって格好の標的になります。
サポート終了したOSや更新されていないソフトは、VPNや社内ネットワーク経由で侵入される危険が高まるため注意しましょう。定期的なアップデートとサポート期限の管理が基本です。
参考記事:ITガバナンスとは?定義・強化方法・8つの構成要素をわかりやすく解説
Webサイト閲覧中にランサムウェア感染も
信頼できないWebサイトや、不正に改ざんされた正規サイトを閲覧しただけで感染するドライブ・バイ・ダウンロード攻撃も存在します。
広告枠を悪用してマルウェアを仕込むケースもあるため、業務端末では不要なサイトへのアクセスを制限しましょう。
USBメモリや外部デバイスからの意外な侵入ルート
取引先や社員の私物USBメモリ、外付けHDDなどの外部デバイスを介してランサムウェアが持ち込まれる事例もあります。
特に営業現場や工場など、インターネットに接続されていない環境ではUSB経由の感染リスクが高まるため注意が必要です。利用前にウイルススキャンを行うルールを徹底しましょう。
脆弱なリモートデスクトップ経由での侵入
テレワーク環境で使われるリモートデスクトップが、ID・パスワードの使い回しや設定不備により攻撃対象になることがあります。
ブルートフォース攻撃や認証情報の漏えいから侵入されると、社内システム全体を乗っ取られる恐れがあることがリスクです。多要素認証や接続元制限の設定をしましょう。
ファイルダウンロードにも要注意!
無料ソフトや不正コピーされたプログラムのダウンロードには、マルウェアが仕込まれていることがあります。
公式サイトや正規ストア以外からの入手は避け、業務用端末では不要なソフトのダウンロードを禁止するのが安全です。
ランサムウェアに感染したらこうなる!業務停止から身代金要求までの流れ
ランサムウェア感染後は、短時間で被害が拡大します。
特に中小企業の場合、初動対応が遅れるとシステム全体が停止し、取引や納品に深刻な影響が出ることもあります。以下は、典型的な被害の進行ステップです。
ステップ | 状況 | 被害内容・影響 |
① 侵入 | メール添付や脆弱性を突かれてマルウェアが侵入 | 社員の端末やサーバーに不正プログラムが入り込む |
② 暗号化開始 | ファイルやシステムを暗号化 | 業務データやアプリが使用不能になり、業務が停止 |
③ 脅迫メッセージ表示 | 画面やフォルダに脅迫文が出現 | 「○日以内に○○ドル支払え」など身代金の要求が提示される |
④ 身代金交渉 | 犯人とのやりとりを強要 | 支払っても復号キーが届かないケースも多い |
⑤ データ漏えい・公開 | 二重恐喝型の場合、盗んだデータを公開すると脅す | 顧客情報や機密データが漏えい、信用失墜 |
⑥ 業務復旧・再発防止 | バックアップからの復元やシステム再構築 | 復旧に数日〜数週間かかり、取引や売上に影響 |
感染から脅迫文が表示されるまで、数時間〜数日と非常に短いのが特徴です。このため、侵入段階で発見し遮断することが唯一の被害最小化策といえます。
これで守れる!中小企業でもできるランサムウェア対策5選
ランサムウェアは一度感染すると被害額や信頼損失が非常に大きいことが特徴です。特に中小企業では事業継続が難しくなるケースもあります。
しかし、高額なセキュリティ投資をしなくても、基本を押さえた対策を徹底すれば多くの攻撃を防げます。ここでは、今すぐ実行できる5つの実践策を紹介しましょう。
社員教育で不審メールをゼロにする
感染経路の多くは、不審メールの添付ファイルやリンクです。
定期的に社員向けセキュリティ研修を行い、「送信元の確認」「不自然な文面や添付のチェック」「怪しい場合は開かない」という基本行動を徹底しましょう。模擬フィッシング訓練を行えば、実践的な危機意識も高まります。
参考記事:コンプライアンス研修とは?目的、効果、研修ネタの事例を徹底解説
権限管理と多要素認証で侵入経路を遮断
管理者権限を持つアカウントが侵入されると、全システムに被害が及びます。
業務に必要な最小限の権限付与を行い、重要システムやリモート接続には多要素認証(MFA)を導入しましょう。これにより、不正アクセスのリスクを大幅に減らせます。
OSとソフトを常に最新にアップデート
古いOSやソフトは既知の脆弱性を突かれやすく、攻撃者の格好の標的です。
Windows Updateやアプリケーションの更新を自動化し、サポートが終了した製品は早めに入れ替えることが重要です。更新状況を管理する担当者やチェックルールを設けておきましょう。
セキュリティソフト+フィルタリングで多層防御
ウイルス対策ソフトだけでなく、メール・Webフィルタリングを併用すると、不審なファイルやサイトへのアクセスを事前にブロックできます。
複数の防御策を組み合わせる「多層防御」により、1つの対策が突破されても被害拡大を防げます。
バックアップ体制を強化し「復旧できる会社」に
万一、暗号化されても、バックアップがあれば復旧可能です。
バックアップは「外部ストレージ」「クラウド」の両方に保存し、ネットワークから切り離した状態で保管しましょう。定期的な復元テストを行い、いざという時に確実に使える状態を保つことが重要です。
もし感染したら?被害を最小限にする初動対応マニュアル
ランサムウェアに感染した場合、最初の対応が被害規模を大きく左右します。
以下は中小企業が押さえるべき、感染直後から復旧までの行動フローです。事前にマニュアル化しておきましょう。
1. まずネットワークを遮断!感染拡大を防ぐ手順
ランサムウェアは、感染した端末だけでなく社内ネットワーク全体に広がる性質を持ちます。特に共有フォルダや社内サーバーに接続されている場合、数分の遅れが致命的な被害につながるのです。
感染を疑う挙動(ファイル名の急な変更、身代金要求メッセージの表示、異常な動作)が見られたら、まずは当該端末をネットワークから切り離しましょう。LANケーブルを抜き、Wi-Fi接続をオフにすることが第一歩です。
さらに、該当端末に接続しているUSBメモリや外付けハードディスクも取り外し、他の端末への物理的な拡散を防ぎましょう。共有サーバーがある場合は、必要に応じて一時的にサービスを停止することも有効です。
2. セキュリティ専門家への緊急連絡と相談ルート
ネットワークを遮断したら、次は迅速な情報共有と専門家への連絡です。社内に情報システム部門やIT担当者がいる場合は直ちに状況を報告し、初期診断と原因調査を依頼します。
社内対応が難しい場合や被害規模が大きいと判断される場合は、あらかじめ契約しているセキュリティベンダーやIT保守会社、インシデント対応に特化したCSIRT支援サービスなど外部の専門家へ連絡しましょう。
このとき、感染した端末の電源はむやみに切らず、そのままの状態で保持することが重要です。証拠データやログが失われると、感染経路や被害範囲の特定が困難になる恐れがあります。
3. 警察・サイバー機関・取引先への早期報告の重要性
ランサムウェアは単なる社内の問題ではありません。取引先や顧客にも影響を与える可能性があります。被害を最小限にとどめるためには、関係各所への早期連絡が欠かせません。
まずは都道府県警察のサイバー犯罪対策課に被害を申告しましょう。加えて、IPA(情報処理推進機構)やJPCERT/CCなどの公的機関へ報告すれば、最新の被害情報や対応策を得られるほか、同様の被害拡大を防ぐ社会的貢献にもなります。
また、取引先や顧客への説明は、事実関係を整理した上で可能な限り早く行うことが信頼維持のポイントです。遅れるほど不信感が高まり、ビジネスへのダメージが長期化します。
4. 再発防止と信頼回復のためのステップ
感染の収束後は、原因の特定と再発防止策の徹底が欠かせません。どの経路から侵入されたのかを突き止め、脆弱性の修正やセキュリティ設定の見直しを行います。
社員への追加研修やセキュリティポリシーの改定を通じて、再発の可能性を減らしましょう。さらに、バックアップ体制を強化し、定期的な復元テストを行うことで、将来の被害にも備えられます。
外部への信頼回復には、透明性のある説明が不可欠です。公式Webサイトやプレスリリースで事実経過と再発防止策を公開することで、「きちんと対応している会社」という印象を与えられます。
参考記事:組織内の不正行為を食い止めるには?不正防止のために中小企業がすべきこと
国内中小企業のランサムウェア感染の事例3選
ここからは、実際にランサムウェアに感染した中小企業の事例を3つご紹介します。近年では中小企業の事例も増えていますので、ご覧の皆様も教訓にしてください。
地方の中小病院の感染事例
2021年10月31日未明、ある病院でランサムウェア感染が発生し、電子カルテを含む院内システムが停止。救急の受け入れ不可を判断し、当日午前に災害対策本部を設置してBCPに基づく対応へ移行しました。
復旧は段階的に進み、通常診療再開は2022年1月4日。公式報告書は、発生当日の判断・連絡体制や紙運用への切替、復旧の道筋を詳細に記しています。
中小規模の医療機関(=限られた人員とIT体制)でも、初動の意思決定とBCPの具体化が業務継続の成否を分ける典型例です。
電機メーカーの感染事例
ある電機メーカーでは、2024年10月5日に一部サーバで障害が発生し、調査でランサムウェア攻撃が判明。受発注や修理受付などの業務システム停止、新製品発売の延期、オンラインストア出荷遅延など広範な影響が出ました。
攻撃グループの犯行声明も確認され、同社は外部の専門家と連携しつつ、顧客・従業員・取引先情報の漏えい可能性を公表して注意喚起を実施。中小〜中堅製造業でも、サーバ側の侵害が即座にサプライチェーン(販売・保守)へ波及する現実を示したケースです。
港の制御システムの感染事例
2023年7月4日6:30頃、港の統一ターミナルシステムで障害が発生。7:30頃には専用プリンターから脅迫文が印字され、同日14時には物理サーバ基盤と全仮想サーバが暗号化されていることを確認。港湾ターミナルの作業は停止を余儀なくされた事例です。
バックアップ復元・ネットワーク障害解消などの復旧作業を経て、7月6日夕方に順次再開されました。現段階で外部漏えいの形跡は確認されず、侵入はリモート接続機器の脆弱性悪用が疑われると報告されています。
中小企業でも一般的な「リモート運用機器の弱点」が、基幹オペを直撃し得る教訓です。
まとめ
ランサムウェアは、感染すると業務の完全停止や重要データの喪失、さらには企業の信用失墜に直結する非常に深刻なサイバー脅威です。
中小企業は「自分たちは狙われない」と考えがちですが、実際にはセキュリティ投資や人材が限られている企業ほど、攻撃者にとって格好の標的となります。
重要なのは、被害に遭わないための予防策と、万一の際に被害を抑えるための即時行動計画をセットで整えておくことです。特に、中小企業では経営層を含めた全社員が基本的な脅威と対応方法を理解しておくことが、最も効果的な防御になります。
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