パソコンにウイルス対策ソフトは必要?対策していない場合に起こりうる脅威とは

現代のビジネスにおいてパソコンは不可欠なツールですが、その利便性の裏側でサイバー攻撃のリスクは常に増大しています。
多くの企業担当者が「OSの標準機能も向上した今、高価なウイルス対策ソフトなど本当に必要なのか?」という疑問を抱いているかもしれません。
しかし、その判断は事業の継続性を左右する可能性があります。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開した、中小企業を対象とした調査によれば、サイバーインシデントによる被害額は平均で73万円、復旧までに要した期間は平均5.8日にものぼることが明らかになりました。
さらに、被害に遭った企業の約7割が取引先にも影響を及ぼしており、自社だけの問題では済まない実態が浮き彫りになっています。
セキュリティ強化は、こうした具体的な金銭的損失や事業停止のリスク、そして取引先からの信用を守るための重要な経営課題です。
この記事では、ウイルス対策ソフトの必要性や、対策を怠った場合に想定される具体的な脅威、そして法人向けのソフトを選ぶ際の重要なポイントについて、詳しく解説していきます。
参考)IPA「「2024年度中小企業等実態調査結果」速報版を公開」
目次
コンピュータウイルスとは
コンピュータウイルスとは、第三者のプログラムやデータベースに対して意図的に何らかの被害を及ぼすように作られたプログラムであり、以下のいずれかを満たすものを指します。
自己伝染機能 | 自らの機能によって他のプログラムに自らをコピー、またはシステム機能を利用して自らを他のシステムにコピーすることにより、 他のシステムに伝染する機能 |
潜伏機能 | 発病するための特定時刻、一定時間、処理回数等の条件を記憶させて、発病するまで症状を出さない機能 |
発病機能 | プログラム、データ等のファイルの破壊を行ったり、設計者の意図しない動作をしたりする機能 |
近年では、こうしたウイルスを含む、悪意を持って作成されたソフトウェア全般を「マルウェア」と総称することが一般的です。
マルウェアには、自己増殖するウイルス以外にも、それぞれ異なる特徴や目的を持った様々な種類が存在します。
企業活動に深刻な影響を及ぼす代表的なマルウェアには、以下のようなものがあります。
- ランサムウェア:ファイルを勝手に暗号化し、元に戻すことと引き換えに金銭(身代金)を要求する
- スパイウェア:利用者の個人情報や閲覧履歴、キーボード入力などを収集し、外部に送信する
- トロイの木馬:無害なソフトウェアを装ってパソコンに侵入し、裏で悪意のある活動を行う
利用者が安心してパソコンを使い続けるためには、これらの脅威を正しく理解し、適切な対策を講じることが極めて重要です。
「パソコンにウイルス対策ソフトはいらない」は本当か
「パソコンにウイルス対策ソフトは本当に必要なのか」という疑問を耳にすることがあります。
特に、Windowsに標準搭載されている「Microsoft Defender」の性能が向上したことから、「別途ソフトを導入する必要はない」という意見も見受けられるようになりました。
実際に、近年のMicrosoft Defenderは基本的なウイルス検出能力において、第三者評価機関からも一定の評価を得ており、基本的な保護機能は備わっていると言えます。
だからと言って、ただちに「ウイルス対策ソフトは不要」だと言い切ることはできません。
なぜなら、サイバー攻撃の手法は年々巧妙化・多様化しており、OS標準のセキュリティ機能だけでは対応しきれない脅威が増加しているからです。
たとえば、ウイルス感染だけでなく、個人情報を盗み取るフィッシング詐欺や、ネットバンキングを狙った攻撃、気づかないうちに不正な通信を中継させられるケースなど、防御すべき範囲は拡大の一途をたどっています。
Microsoft Defenderはあくまで基本的な保護を提供するものであり、より専門的で多層的な防御機能を持つ市販のウイルス対策ソフトとは役割が異なるのです。
OSに標準装備されているセキュリティ機能が向上したとはいえ、ウイルス対策ソフトの重要性は変わらないということについては、次の項目で詳しく解説していきます。
それでもパソコンにウイルス対策ソフトは必要!その理由とは
OSのセキュリティ機能が向上している現代でも、専用のウイルス対策ソフトを導入すべき理由が複数存在します。
標準機能だけでは防ぎきれない巧妙な攻撃からパソコンや重要な情報を守るためには、より高度な対策が不可欠です。
ここでは、ウイルス対策ソフトが必要とされる主な4つの理由を詳しく解説します。
OSにはないセキュリティ機能を補ってくれる
Windowsに標準搭載されているセキュリティ機能は、基本的なマルウェア対策としては有効です。
しかし、市販されている総合セキュリティソフトは、それを上回る多層的な防御機能を提供します。
具体的には、以下のような機能が挙げられます。
フィッシング対策強化 | 金融機関や大手通販サイトを装った偽サイトへアクセスしようとした際に、高度な検知技術でブロックする。 |
ネットバンキング保護 | オンラインバンキング利用時に通信を保護し、IDやパスワードの盗難を防ぐ。 |
迷惑メールフィルタリング | 巧妙な文面の詐欺メールや、マルウェアが添付されたメールを事前に隔離する。 |
脆弱性対策 | インストールされているソフトウェアの脆弱性を検知し、更新を促すことで攻撃の侵入口を塞ぐ。 |
これらの機能は、OSの標準機能だけでは不十分な部分を補い、より安全なパソコン利用環境を実現するために役立つはずです。
あらゆるサイバー攻撃に遭うリスクを軽減できる
ウイルス対策ソフトの役割は、単にコンピュータウイルスを駆除することに留まりません。
現代のセキュリティソフトは、多様化するサイバー攻撃全般に対応する「総合的な防御ツール」へと進化しています。
ウイルス感染はもちろんのこと、個人情報や金銭を狙う様々な手口から利用者を守るための機能が搭載されているのです。
たとえば、危険なWebサイトへのアクセスを未然に防ぐ機能は、その代表例です。
検索結果やSNSのリンクをクリックする前に、その先のサイトが安全かどうかを評価し、フィッシング詐欺サイトやマルウェア配布サイトであった場合には警告を表示して接続をブロックします。
また、メールに記載された不正なURLや添付ファイルをスキャンし、危険性を検知する機能も重要です。
このように、マルウェアの侵入を防ぐ「入口対策」を強化することで、利用者が気づかないうちに脅威に接触してしまうリスクを大幅に減らすことができます。
新しいウイルスも防げる可能性がある
日々、世界中で新しい種類のウイルスや、既存のウイルスの亜種が生み出されています。
過去のウイルス情報(パターンファイル)と照合して脅威を検出する従来の方法だけでは、これらの未知の脅威に対応することは困難です。
そこで、最新のウイルス対策ソフトの多くは、より先進的な検知技術を導入しています。
その一つが「ヒューリスティック機能」や「ビヘイビア検知」と呼ばれる技術です。
この技術は、プログラムの挙動を監視し、「ファイルを勝手に暗号化しようとする」「他のプログラムに自身をコピーしようとする」といった、ウイルス特有の不審な動きを検知してブロックします。
パターンファイルに登録されていない未知のウイルスであっても、その悪意のある振る舞いから脅威であると判断できるため、被害を未然に防げる可能性が高まるのです。
セキュリティソフト会社のサポートを受けられる
ウイルス対策ソフトを導入する大きなメリットの一つに、開発元であるセキュリティ専門企業からのサポートを受けられる点も挙げられます。
パソコンの利用中に「ウイルスに感染したかもしれない」「警告メッセージが表示されたが、どう対処すればよいかわからない」といった予期しないトラブルが発生した場合、専門家の支援は非常に心強い存在となります。
多くの有料セキュリティソフトでは、電話、メール、チャットといった複数の方法で問い合わせが可能です。
サポート担当者は、製品の操作方法だけでなく、セキュリティに関する専門的な知識も持っているため、個別の状況に応じた的確なアドバイスが期待できます。
万が一、マルウェアの駆除がうまくいかない場合や、複雑な設定が必要になった際にも、専門家の指示を仰ぐことで、迅速かつ安全に問題を解決できる可能性が高まります。
企業がウイルス対策ソフトを導入しない場合に起こりうる脅威
企業としてのウイルス対策を怠ると、個人利用の場合とは比較にならない甚大な被害につながる恐れがあります。
事業の継続性を揺るがし、社会的な信用を失墜させる事態にもなりかねません。
ここでは、企業が適切な対策を講じなかった場合に想定される、代表的な3つの脅威について解説します。
ランサムウェア攻撃により金銭を要求される
企業にとって深刻な脅威の一つが、ランサムウェアによる攻撃です。
ランサムウェアに感染すると、サーバーや業務用パソコンに保存されている業務データや顧客情報といった重要なファイルが次々と暗号化され、利用できなくなってしまいます。
そして攻撃者は、データを元に戻すことと引き換えに、高額な身代金を要求してきます。
仮に身代金を支払ったとしても、データが元通りに復旧される保証は全くありません。
業務が完全に停止し、復旧までに時間がかかってしまうことも珍しくなく、その間の売上損失や復旧コストは莫大なものとなります。
参考記事:ランサムウェア被害を防ぐにはどうする?中小企業のための最新対策ガイド
企業の機密情報が漏洩する
ウイルス対策を怠ることは、企業の生命線である機密情報の漏洩に直結する危険性をはらんでいます。
スパイウェアやバックドアといった種類のマルウェアに感染すると、攻撃者は社内ネットワークに侵入し、外部からパソコンを遠隔操作できるようになります。
その結果、開発中の新製品情報、独自の技術データ、財務情報、顧客リストといった極めて重要な情報が、気づかれないうちに盗み出されてしまうのです。
情報漏洩が発生した場合、企業が被る損害は計り知れません。
競合他社に機密情報が渡れば、市場での競争力を完全に失う可能性があります。
また、顧客の個人情報が流出すれば、損害賠償請求や行政からの厳しい処分を受けることになり、企業の社会的信用は大きく損なわれます。
一度失った信用を回復するには、長い時間と多大な努力が必要となるでしょう。
参考記事:情報漏洩とは?企業の信頼を守るために知っておきたい基礎知識と対策
万が一ウイルスに感染してしまった時に被害が拡大しやすい
適切なウイルス対策ソフトが導入されていない環境では、マルウェア感染の発見が遅れがちになります。
初期段階で感染を検知し、封じ込めることができないため、1台のパソコンへの侵入が、あっという間に社内全体へと広がる危険性が高まってしまうのです。
たとえば、一1台のパソコンがワーム型のマルウェアに感染した場合、そのパソコンを踏み台にして、ネットワークで接続されている他の業務用パソコンやサーバーへ次々と感染を拡大させていきます。
感染が広範囲に及ぶと、社内の基幹システムがダウンして全部門の業務が停止したり、全ての部署から情報が漏洩したりするなど、被害は壊滅的な規模になりかねません。
ウイルス対策ソフトには、感染を検知するだけでなく、ネットワークから該当端末を自動的に隔離するなどの機能を持つ製品もあります。
こうした機能により、被害拡大を防ぐことができるのです。
法人向けウイルス対策ソフトの選び方|導入時の4つのポイント
企業のセキュリティレベルを効果的に高めるためには、自社の状況に適したウイルス対策ソフトを選ぶことが重要です。
ここでは、個人向けとは異なる、法人ならではの視点で製品を比較検討するポイントについて解説していきます。
無料ではなく有料のソフトを導入する
個人利用であれば無料のウイルス対策ソフトも選択肢に入りますが、法人での利用は推奨されません。
無料ソフトは、基本的なウイルススキャン機能に限定されている場合が多く、多様化するサイバー攻撃に対応するための高度な機能が不足しています。
また、「トラブル発生時のサポートが提供されない」「広告が表示される」といったデメリットもあります。
法人向けの有料ソフトには、複数のパソコンを一元的に管理できる「管理コンソール機能」が搭載されていることが多いです。
管理者は、各パソコンのセキュリティ状態を一覧で把握し、ポリシーを統一して適用できるため、組織全体のセキュリティレベルを維持しやすくなります。
最新のウイルスにも対応しているか確認する
サイバー攻撃の手法は常に進化しており、新種のマルウェアが次々と生まれています。
そのため、既知のウイルス情報に依存するだけの対策では不十分です。
法人向けのソフトを選ぶ際には、未知の脅威にいかに対応できるかという点が重要な選定基準となります。
具体的には、プログラムの不審な「振る舞い」を検知する機能や、AIを活用した高度な解析技術を搭載しているかを確認すべきです。
さらに近年では、侵入後の対応を重視する「EDR」というエンドポイントセキュリティ機能への注目が高まっています。
EDRは、万が一マルウェアの侵入を許してしまった場合でも、その後の挙動を監視・記録し、被害の範囲特定や原因究明を迅速に行ってくれます。
自社のセキュリティポリシーに応じて、こういった先進的な機能を備えた製品の検討も進めてみましょう。
使いやすさや動作の軽さに問題がないか確認する
ウイルス対策ソフトは、企業内の全てのパソコンで常に稼働し続けるものです。
そのため、管理者の使いやすさと、従業員の業務に支障をきたさない動作の軽さが非常に重要になります。
管理者にとっては、管理コンソールの画面が見やすく、直感的に操作できるかどうかがポイントです。
各端末のセキュリティ状況の確認や、ポリシー設定、レポート作成などがスムーズに行えなければ、日々の運用負担が増大してしまいます。
一方、従業員のパソコンでは、ソフトがCPUやメモリを過剰に消費し、業務アプリケーションの動作が遅くならないかが重要です。
動作が重いと生産性の低下につながるだけでなく、従業員が勝手にセキュリティ機能を無効にしてしまうといった新たなリスクを生む可能性もあります。
導入前に、無料の体験版などを利用して、実際の業務環境での動作検証を行うようにしましょう。
サポート体制が整っているメーカーのソフトを選ぶ
万が一、ランサムウェアの感染や不正アクセスといったセキュリティインシデントが発生した場合、いかに迅速かつ的確に対応できるかが被害を最小限に食い止める鍵となります。
そのため、ウイルス対策ソフトを選ぶ際には、提供元のメーカーがどのようなサポート体制を構築しているかを事前にしっかりと確認することが不可欠です。
確認すべきポイントとしては、以下のような点が挙げられます。
- 問い合わせ方法:電話、メール、チャットなど、複数の手段が用意されているか
- 対応時間:平日の日中のみか、24時間365日対応か、緊急時に迅速な対応が期待できるか
- 対応言語:日本語によるサポートが受けられるか
- サポートの質:導入時の設定支援から、運用中のトラブルシューティングなど、幅広い支援が期待できるか
企業の事業継続性を守る上で、信頼できるパートナーとなり得るサポート体制を持つメーカーの製品を選ぶことが極めて重要です。
まとめ
パソコンのOSに標準搭載されたセキュリティ機能は向上していますが、巧妙化・多様化するサイバー攻撃から企業の情報資産を完全に守ることは難しい場合もあります。
対策を怠れば、金銭的損失や事業停止、取引先からの信用失墜といった深刻な経営リスクに直結します。
OSの機能を補い、未知の脅威にも対応できる専用のウイルス対策ソフトは、単なる経費ではなく、事業の継続性を確保するための重要な投資です。
自社の規模や環境に適した対策を講じ、安全なデジタル環境を維持することを心掛けてください。
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