中小企業のDX推進完全ガイド|課題解決の事例から補助金・助成金まで網羅解説
昨今、ビジネスシーンで耳にしない日はないDXですが、「DX推進と言われても、具体的に何から手をつければよいのかわからない」「大企業の話で、自社には関係ないのでは?」と感じている中小企業も少なくありません。
DX推進とは、単なるデジタルツールの導入ではありません。デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや業務プロセス、さらには企業風土そのものを変革し、新たな価値を創造する取り組みです。
人手不足、生産性の伸び悩み、競争力の低下といった中小企業が直面する多くの課題は、DX推進によって解決できる可能性を秘めているのです。
この記事では、中小企業がDX推進を成功させるための具体的なステップ、体制づくり、活用できる補助金・助成金、そして経済産業省などが公開する先進的なDX事例まで、網羅的に解説します。
DX推進は、業務効率化による残業削減や働き方改革にも直結します。現代の企業経営において、従業員の働きやすい環境整備は不可欠です。まずは自社の残業実態や、他社がどのような削減の取り組みを行っているか、客観的なデータで把握してみませんか?
目次
DX推進とは?読み方から基本的な意味を簡単に解説
DX推進とは、企業がデジタル技術を活用して、ビジネスモデルや業務、組織、企業文化などを根本から変革し、競争上の優位性確立を目指す取り組みです。
経済産業省も、単なるIT化に留まらない「変革」の重要性を強調しています。
参考)経済産業省「産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)」
今さら聞けない「DX推進とは」をわかりやすく解説
DX推進の「DX」とは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略です。
Transformation(変革)という言葉が示す通り、単に紙の書類をデジタル化したり、会議をオンライン化したりする「デジタル化(Digitization / Digitalization)」とは異なります。
DX推進とは、デジタル技術を前提として、企業活動のすべてを顧客や社会のニーズに合わせて変革していくことです。
企業活動の例:
- 製品・サービス
- ビジネスモデル
- 業務プロセス
- 組織
- 企業文化
- 働き方
たとえば、従来は「モノ」を売っていた製造業が、製品にセンサーを付けて稼働状況をデータ収集し、「コト」となる稼働状況に応じたメンテナンスサービスを提供するビジネスモデルへ転換することなどが挙げられます。
なぜ今、中小企業にこそDX推進への取り組みが求められるのか

出典)経済産業省「DX 支援ガイダンス」p.11
日本全体でDXが進む一方、中小企業の半数以上は未着手か、一部のデジタル化に留まっているのが実情です。
独力での推進が難しいこうした状況を踏まえ、政府は従来の補助金に加え、地域金融機関やITベンダーといった身近な支援機関を通じた伴走支援という新しいアプローチを強化しています。
支援体制が整いつつある今こそ、DXに着手し企業変革を進める好機であり、その取り組みが地域経済、ひいては日本のGDP拡大にもつながると期待されているのです。
参考記事:DXの意味とは?求められる背景や導入のステップをわかりやすく解説
中小企業のDX推進、何から始める?政府のガイドラインに沿った進め方
いざDX推進を始めようとしても、「何から手をつければ…」と悩む中小企業は少なくありません。闇雲に進めるのではなく、まずは自社の立ち位置を客観的に把握することが重要です。
まずは自社の現状把握から|「DX推進指標」で自己診断
DX推進の第一歩は、自社が今どのような状況にあるのか、経営層から現場の担当者までが共通の認識を持つことです。そのために役立つのが、IPAが提供する「DX推進指標自己診断フォーマット」です。
回答することで自社の強みや弱み、DX推進における「課題」が明確になります。
具体的な目標と道筋を描く「DX推進計画」の立て方

出典)経済産業省「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引きとは」p.21
自社の現状を把握したら、次は「どこに向かうのか」「どうやって進むのか」という具体的なDX推進計画を策定します。
計画に盛り込むべき主な要素は以下の通りです。
- DXのビジョン・目指す姿
- 取り組むべき施策
- 推進体制
- 工程表(ロードマップ)
計画を一度作って終わりにするのではなく、進捗状況に応じて柔軟に見直していくことが成功の鍵となります。
経済産業省の「DX推進ガイドライン」を参考にしよう

出典)経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0 ~DX経営による企業価値向上に向けて~」p.4
DX推進の進め方や経営陣が果たすべき役割については、経済産業省が「デジタルガバナンス・コード3.0」(旧「DX推進ガイドライン」)として取りまとめています。これは、企業価値向上に向けてDXを推進する経営者が実践すべき事柄を定めたものです。
中小企業においては、経営トップ自らがDXのビジョンを示し、リーダーシップを発揮することが不可欠であると強調されています。
また、DX推進のための体制整備、ITシステムの刷新、デジタル人材の育成といった具体的な取り組みについても触れられています。
自社のDX推進計画を策定、実行する上で、このガイドラインを羅針盤として参考にするとよいでしょう。
DX推進を担う人材の確保と育成|「DX推進スキル標準(DSS-P)」とは
DX推進には、デジタル技術とビジネスの両方を理解する人材が不可欠です。そこで参考にしたいのが、経済産業省が策定した「DX推進スキル標準(DSS-P)」です。
これは、DXを推進する上で必要となる人材の役割(ロール)や、習得すべきスキルを定義したものです。具体的には、以下のような人材類型が示されています。

出典)IPA「デジタルスキル標準ver.1.2」p.70
自社に必要な人材像を明確にし、社内での育成計画や、外部からの人材確保に役立てられます。
「DX推進部」や「DX推進課」は必要?中小企業の推進体制とは
大企業では「DX推進部」や「DX推進課」といった専門部署を設置するケースが多く見られます。しかし、リソースの限られる中小企業において、必ずしも専門部署の設置が必須というわけではありません。
IPAの調査によれば、DX先進企業でも体制はさまざまです。重要なのは、部署の有無よりも機能です。
中小企業においては、むしろ既存の事業部門と連携し、現場の課題を吸い上げながらDXを推進できる体制のほうが、実効性が高い場合もあります。
参考)IPA「DXを推進する体制とは?先進企業の6つの事例から学ぶDX推進の体制づくり」
活用しないと損!中小企業が使えるDX推進の補助金・助成金と支援サービス
中小企業がDX推進に取り組む上で、大きなハードルとなるのが予算の確保です。しかし、国や自治体は、中小企業のDXを後押しするために、さまざまな補助金・助成金制度やDX推進支援サービスを用意しています。
政府や自治体が後押し|DX推進で使える補助金・助成金まとめ
DX推進に活用できる補助金・助成金は、ITツールの導入からシステム開発、コンサルティング費用まで、幅広くカバーしています。
- IT導入補助金
中小企業が生産性向上のためにITツールを導入する際の費用の一部を補助します。DX推進の第一歩として最も活用しやすい補助金の一つです。 - ものづくり補助金
革新的な製品・サービスの開発や、生産プロセスの改善に必要な設備投資などを支援します。DXによるビジネスモデル変革にも活用できます。 - 事業再構築補助金
新分野展開や事業再構築に取り組む企業を支援します。デジタル技術を活用した大胆な業態転換や、新たなオンラインサービスの開始など、大規模なDX投資をおこなう際にも適しています。 - 各自治体独自のDX推進補助金
都道府県や市区町村が、独自にDX推進のための助成金や補助金制度を設けている場合があります。
ただし、これらの制度は年度によって内容が変わったり、公募期間が短かったりするため、常に最新の情報をチェックすることが重要です。
専門家によるDX推進支援|「DX推進アドバイザー」に相談しよう
総務省や中小企業基盤整備機構(中小機構)などでは、中小企業のDX推進を支援するため、専門家の派遣事業をおこなっています。
たとえば、総務省の「地域デジタル人材育成・確保推進事業」では、地域企業が抱えるデジタル化の課題に対し、専門的な知見を持つ「DX推進アドバイザー」がオンラインなどで相談に応じ、解決策を助言してくれます。
また、中小機構の「ハンズオン支援(専門家派遣)」では、ITコーディネータなどの専門家が企業を訪問し、現状分析からDX推進計画の策定、実行までを伴走支援してくれます。
認定申請などに活用できる「DX推進ポータル」
DX推進ポータルの主な機能としては、以下の3点が挙げられます。
- DX推進指標
自社のDXへの取り組み現状に関する簡単な自己診断 - DX認定制度
経済産業省が定める基準を満たした企業の「DX認定制度」申請手続き - DX調査
優れたDX企業を選定する「DX銘柄」に関連する調査への回答や、フィードバックを受け取ることが可能
このポータルサイトを活用することで、自社の立ち位置の把握から、公的な認定取得に向けた手続きまでを一貫しておこなえます。
「DX推進体制整備加算」とは
これは、厚生労働省が医療機関におけるDXを推進するために新設した加算項目です。具体的には、オンライン資格確認システムの導入や、電子カルテ情報の標準化といった、医療DXの基盤を整備している医療機関の評価により、診療報酬を加算するものです。
この「加算」制度は医療分野に特化したものですが、国がDX推進のための体制整備を金銭的に後押ししているという点で注目されます。
参考)厚生労働省「医療DX推進体制整備加算・医療情報取得加算の見直しについて」
成功事例から学ぶ!中小企業のDX推進の取り組み
DX推進の具体的なイメージを掴むためには、実際に取り組んだ企業の「DX事例」を学ぶのが一番です。ここでは、参考となる2つの事例を紹介します。
ものづくりプロセスから新たな価値を創造
プラスチック射出成形品の製造をおこなう株式会社土屋合成(従業員数82名)は、「24時間停まらない工場」を目指し、製造プロセスのDXを推進しました。
全製品のトレーサビリティをデジタル技術で自動取得し、部門を超えたデータ活用体制の構築がおこなわれています。
課題
- 夜間休日の生産レベル低下
- 職人の技術継承の難しさ
- 生産性が上がりにくい
取り組み
- 全製品の製造情報をデジタル技術で自動取得
- ベテランの感覚で行っていた作業を数値化し、データとして深い技術へと進化
- 若手を選抜した「DX課」を設立し、現場のアイデアをシステム開発につなげる「面白い製造業」への変革
成果
- 生産性の向上に加え、社内で完全内製化にこだわらず、外部のSIerと知識を共有する「共存共栄」の関係を築き、低コストで迅速なシステム導入を実現
- 製造技術とデジタル技術の融合により、地域の同業他社との連携も深め、地域全体の成長を目指せるように
参考)IPA「デジタルスキル標準ver.1.2」p.43
経営理念「農業者への奉仕と提案」を実現
農業資材小売業を営む株式会社みらい蔵(従業員数20名)は、「農業経営者への奉仕と提案」という経営理念の実現のためDXを推進しました。ITコーディネータ(ITC)の伴走支援を受け、土づくりに着目しています。
課題
農業者の高齢化、資材高騰、経験と勘に頼る土づくり
取り組み
- 土壌分析の結果に基づき施肥設計をおこなうシステム「ソイルマン」を開発し、データに基づく「土づくり」を提案
- 2022年にDX戦略を公開し、DX推進室を設置
- ITCは新旧社長に寄り添い、ビジョンを深化させ、DX戦略策定と「DX認定」取得を支援
成果
- 「ソイルマン」は全国から年間6,000件の依頼を集めるビジネスに成長
- DX戦略として、5年後のデジタル農業の拡大目標を掲げ、米穀流通システムの導入など具体的な施策を実行し、次世代型農業の確立に向け着実に歩み出す
参考)IPA「デジタルスキル標準ver.1.2」p.69
参考記事:DX化とは何か?その意味をわかりやすく解説!中小企業が参考にすべき具体例も紹介
中小企業が陥りがちなDX推進の課題と解決策
経済産業省や中小機構の調査では、多くの中小企業がDX推進の必要性を感じつつも、いくつかの共通した「課題」によって足踏みしている実態が浮かび上がっています。ここでは、代表的な課題とその解決策のヒントを解説します。
参考)中小機構「中小企業の DX 推進に関する調査(2024 年)」
IT人材の不足
DX推進を担うデジタル人材、IT人材の不足は、中小企業にとって最大の課題です。高度な専門家を新たに雇用するのは困難な場合も多いでしょう。
解決策としては、まず社内人材の育成が挙げられます。必要なスキルを定義し、研修や資格取得を支援します。
外部の「DX推進アドバイザー」やITベンダーの支援を受けながら、まずは小さな成功体験を積むことも重要です。
予算の確保が難しい
DX推進には、ツールの導入やシステム開発、人材育成など、初期コストがかかります。予算の確保が難しいと感じる経営者も少なくありません。
この課題には、補助金・助成金を積極的に活用することが解決策となります。また、コストを「費用」ではなく、将来の収益を生む「投資」と捉え、経営計画の中に明確に位置づけるという、経営層の意識改革も不可欠です。
何から手をつけてよいかわからない
「DX推進の重要性はわかるが、具体的に自社のどこから手をつければよいのかわからない」というノウハウ不足の課題も多く聞かれます。
そのような場合、まずは「DX推進指標」を使って自社の現状を客観的に把握することから始めます。
また、他社のDX事例を参考に、自社と業種や規模が近い企業の取り組みを学ぶことも有効です。
まとめ
この記事では、中小企業がDX推進に取り組む意義から、具体的な進め方までを網羅的に解説しました。
DX推進とは、単なるデジタルツールの導入ではなく、デジタル技術を前提としてビジネスモデルや組織そのものを「変革」する取り組みです。
人手不足や生産性の悩みといった中小企業が抱える課題を解決し、激変する市場で生き残るために、DX推進はもはや待ったなしの経営課題となっています。
まずは自社の現状を把握し、経営層が強いリーダーシップのもとDX推進計画を策定することから始めます。政府や自治体のDX推進支援サービスや補助金・助成金も積極的に活用し、自社に合った形でDXの第一歩を踏み出しましょう。
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