ウェルビーイングとは?中小企業が注目すべき理由と導入メリットを解説

ウェルビーイングは、単なる「健康」や「幸福」を指す言葉ではなく、従業員一人ひとりが心身ともに良好な状態で働き続けられること、そして企業として持続的な成長を実現するための土台となる概念です。

本記事では、ウェルビーイングの基本的な意味と背景、主観的・客観的ウェルビーイングといった考え方の整理、有名な理論(PERMAモデルやGallupの5領域)までわかりやすく解説します。

また以下の資料では中小企業の人事担当者の方、経営者の方に向けて、離職に関する調査レポート(中小企業566社)を提供していますので、こちらも参考にしてください。

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ウェルビーイングとは?注目される背景と意味を整理

ウェルビーイングは、従業員が心身ともに良好な状態で働けることを示す概念で、健康管理だけでなく、働きがい・人間関係・社会参加など幅広い領域を含む考え方です。WHOも重要な指標として位置づけており、世界的に関心が高まっています。

企業経営の視点でも、従業員が安心して働ける環境を整えることで、生産性の向上や組織の安定につながる点が注目され、中小企業でも注目されるようになりました。

なぜ今、ウェルビーイングが話題になっているのか

ウェルビーイングが注目されている背景には、企業を取り巻く環境の変化や、働く人の価値観の変化が大きく影響しています。特に中小企業にとっては、採用・定着・生産性といった経営課題の改善に直結することから、関心が急速に高まっている状況です。

以下に、注目度が高まっている主な理由を整理しました。

背景・要因内容
人材不足・離職率の上昇採用が難しく、従業員の定着が経営課題に。働きやすさ・心理的安全性が重視されるようになった
メンタルヘルス問題の増加ストレス、孤立、燃え尽きなどのリスクが増加し、企業がケア体制を求められるように
働き方・価値観の多様化給与だけでなく、働きがい、柔軟さ、職場の人間関係が重視される時代へ変化
経営効果への期待ウェルビーイング向上が生産性、エンゲージメント、組織風土改善につながるという研究が増加

これらの要因により、ウェルビーイングは「福利厚生の一部」ではなく、企業成長に欠かせない経営テーマとして扱われるようになりました。中小企業でも、規模に関係なく取り組む価値がある領域として広く注目を集めています。

ウェルビーイングの考え方|2つの分類と代表的な理論

ウェルビーイングは、大きく分けると「主観的ウェルビーイング」と「客観的ウェルビーイング」という2つです。

どちらも人の幸福や充実を測るうえで重要な視点であり、企業がウェルビーイング施策を検討する際も、この違いを理解しておくことで適切な制度設計が可能になります。

主観的ウェルビーイングとは?

主観的ウェルビーイングとは、本人が「どの程度幸せか」「満足しているか」といった個人の内面的な状態を指す概念です。

幸福感、生活満足度、ポジティブ感情など、本人の認知や感情によって評価される点が特徴となります。働く場面で考えると、以下のような感覚に近いものです。

  • 仕事が楽しい、前向きに取り組めている
  • 職場の人間関係に安心感がある
  • 会社や仕事に対して納得感・意義を感じている
  • ストレスが少なく、心理的に安定している

主観的ウェルビーイングが高い従業員は、意欲が高まり、生産性や創造性の向上につながると言われています。

中小企業では、コミュニケーション環境、心理的安全性、評価の納得感などが主観的ウェルビーイングを左右しやすく、施策の優先対象にもなりやすい領域です。

客観的ウェルビーイングとは?

客観的ウェルビーイングとは、他者が観察可能なデータや状況をもとに評価される外面的・環境的な状態を指します。身体的健康、生活水準、労働環境、教育機会、社会的つながりなど、外部から測定できる指標が中心です。

企業における具体例としては、次のような要素が該当します。

  • 労働時間が適正であるか
  • 休暇・福利厚生が整備されているか
  • 健康診断の受診率やストレスチェックの実施状況
  • 安全で働きやすい職場環境か
  • 給与や待遇が市場水準に合っているか

客観的ウェルビーイングは、従業員の健康リスクを減らし、安心して働ける土台です。制度整備・労務管理の改善など、“会社として整えられる部分”が多いため、中小企業でも取り組みやすい特徴があります。

ウェルビーイングの5つの要素

ウェルビーイングを理解する際に役立つのが、世界的に広く用いられているモデルです。参照することで、企業として取り組むべき領域が整理しやすくなります。

特に代表的なのが、ポジティブ心理学者セリグマン氏が提唱した「PERMAモデル」と、Gallup社が提示する「5つのウェルビーイング領域」です。どちらも、従業員の幸福度や働きがいを多角的に捉えるために役立ちます。

PERMAモデルとその5要素

PERMAモデルは、ウェルビーイングを高めるための要素を5つに分類した理論です。従業員が前向きに働ける環境づくりの指標として、多くの企業で参考にされています。

5要素は以下の通りです。

要素内容
Positive Emotion(ポジティブ感情)喜び・安心感など、前向きな感情を感じられる状態
Engagement(没頭・エンゲージメント)自分の強みを活かし、仕事に没頭できる感覚
Relationship(良好な人間関係)信頼でき、支え合える人間関係があること
Meaning(意味・意義)自分の仕事に価値や社会的意義を感じられる状態
Accomplishment(達成感・成長)目標達成やスキル向上など、成長を実感できる状態

PERMAモデルは、従業員が「どうすれば職場で活き活きと働けるのか」を理解するための指標として非常に役立ちます。

特に中小企業では、制度よりも“人の関わり方”や“日常的な体験”がウェルビーイングに直結しやすく、PERMAの5要素はその改善ポイントを具体化するツールです。

たとえば、ポジティブ感情を高めるためには、日常的な声かけやフィードバックの質が大きな影響を与えます。人間関係の改善は心理的安全性を高め、相談や意見が言いやすい職場づくりにつながるのがメリットです。

また、Meaning(意義)は特に中小企業で重要で、「自分の仕事が誰にどう役立っているか」を伝えるだけで、離職率にも大きく影響します。このようにPERMAモデルは、感情・人間関係・成長といった“個人の内面”に焦点を当てており、職場のエンゲージメント向上の核心に迫る考え方です。

Gallup社の5つのウェルビーイング領域

Gallup社のモデルは、仕事だけでなく「生活全体」をバランスよく整えることを重視している点が特徴です。従業員の健康・経済・人間関係などの広い領域を包含しています。

領域ごとに整理すると以下の通りです。

領域内容
Career Wellbeing(キャリア)仕事へのやりがい・充実感がある状態
Social Wellbeing(人間関係)周囲と良好な関係があり、支え合えるつながりがある
Financial Wellbeing(経済的安定)生活が安定し、経済的不安が少ない状態
Physical Wellbeing(身体的健康)健康的な生活習慣が保たれ、疲労や不調が少ない
Community Wellbeing(コミュニティ)地域や社会とのつながりがあり、貢献できる環境がある

Gallup社のモデルは、仕事だけでなく「生活基盤」まで含めた視点を提供している点が特徴となります。

中小企業の労務管理でも、給与水準や健康状態など“生活の安定”が働きがいに直結するため、施策検討時には非常に相性が良いモデルです。

たとえば、Financial Wellbeing(経済的安定)は給与水準だけでなく、生活費の不安や急な出費への備えなども含まれます。

また、Physical Wellbeing(身体的健康)はメンタルヘルスにも直結するため、健康診断のフォローやストレスチェックは極めて重要です。

さらに、Community Wellbeingは中小企業の強みである「地域密着型経営」と親和性が高く、ボランティア参加や地域イベントなどが従業員の誇りや帰属意識につながります。

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企業がウェルビーイングに取り組むメリットとは

ウェルビーイング施策は「福利厚生の充実」という枠を超え、組織の成果や経営力に直結する取り組みです。特に中小企業にとっては、限られた人員で最大限の成果を生み出すための重要な基盤となり、採用・定着・組織力向上に幅広い効果が期待できます。

生産性や従業員満足度の向上

ウェルビーイングが高い従業員は、精神的な余裕や前向きな姿勢を持って仕事に取り組むことが可能です。その結果、生産性が向上しやすくなります。

職場のコミュニケーションが円滑になることや、仕事への没頭・集中力が高まりやすい点も特徴です。また、健康管理や働きやすさの改善は「不調によるパフォーマンス低下」や「欠勤リスク」の軽減につながり、組織全体の安定した運営にも寄与します。

業務改善や効率化だけでは補いきれない“職場の基礎体力”を高める効果がある点は、中小企業にとって特に大きなメリットです。

離職率の低下と人材定着への効果

職場環境に満足し、安心して働ける状態が整うと、従業員の離職リスクは大幅に低下します。人間関係の質、働きがい、健康状態、柔軟な働き方など、従業員が長く働き続けるうえで重要な要素が満たされるためです。

特に採用が難しい中小企業では、「辞めない職場づくり」は大きな経営課題であり、ウェルビーイング施策はその解決に直結します。また、「自分は会社から大切にされている」という実感はエンゲージメントの向上につながる要素です。

参考記事:離職とは?中小企業が押さえるべき基礎知識・手続き・防止策を徹底解説

企業価値やブランドイメージの向上

ウェルビーイングに取り組む企業は、求職者・従業員・取引先など社外からも「働きやすい会社」「人を大切にする会社」として評価されやすくなります。

特に、採用市場では企業の働き方や職場環境が重視される傾向が強まっている状況です。ウェルビーイングの取り組みが差別化要素となるケースも増えています。

社外にも好循環を生み出すという意味で、ウェルビーイング施策は中小企業の長期的な企業価値向上に寄与する取り組みです。

中小企業でも実践できるウェルビーイング施策

ウェルビーイング施策というと「大企業が行う特別な取り組み」というイメージを持たれがちですが、実際には中小企業でも無理なく導入できる内容が多くあります。

特に、コミュニケーション環境の改善や健康支援、働き方の見直しなどは、大きなコストをかけずとも効果を発揮しやすい領域です。日常の業務に組み込む形で少しずつ取り入れることで、従業員の満足度や働きがいの向上につながります。

コミュニケーションの促進・対話の場づくり

職場のコミュニケーションは、心理的安全性や人間関係の良好さを左右し、ウェルビーイングを高める根幹となる要素です。中小企業では、トップとの距離が近い、部署間の壁が低いなどの強みを活かしながら、意見交換や相談がしやすい環境を整えましょう。

たとえば、定期的な1on1ミーティング、短時間の朝会、プロジェクトの振り返り機会など、形式にこだわらず「話す機会」を意図的に設けることが大きな効果を生みます。特に、上司が従業員の状態に気づきやすくなり、早期フォローや負荷調整ができる点はウェルビーイング施策として有効です。

健康支援やメンタルケア制度の整備

健康状態はウェルビーイングの基盤であり、身体的・精神的な不調が軽減されることで、生産性にも大きな影響があります。中小企業でも取り組みやすい施策としては、健康診断の受診徹底、ストレスチェック後のフォロー体制、相談窓口の明確化などです。

また、長時間労働の是正や休暇取得の促進、疲労度の高い従業員の早期把握なども効果的です。簡易的な研修や専門家との連携(産業医・カウンセラー)など、外部リソースを活用することによってコストを抑えながら仕組み化できます。

参考記事:【中小企業向け】産業医の選び方と活用法は?義務・役割・面談内容まで

働き方や評価制度の見直し

働きやすさと公平な評価は、従業員の働きがいに直結する重要な要素です。特に中小企業では、一人ひとりの業務負担や役割が不均衡になりやすいため、働き方の柔軟性や評価基準の明確化はウェルビーイング向上に大きく貢献します。

リモート勤務の部分導入、週の一部での時差出勤、業務量の可視化など、規模に合わせた小さな調整でも効果があります。また、評価制度では「成果だけでなくプロセスも評価する」「定期的に目標をすり合わせる」など、納得感のある仕組みづくりが重要です。

これらの取り組みは従業員の定着率改善にも直結し、中長期的な企業力向上につながります。

ウェルビーイング経営を進めるうえでの注意点

ウェルビーイング施策は一度導入して終わりではなく、継続的な改善と現場への浸透が欠かせません。取り組みがうまくいかない企業の多くは、「評価・運用・社内理解」の3つが不足しているケースが目立ちます。

ここでは、中小企業が無理なくウェルビーイング経営を進めるために押さえておきたい3つのポイントを整理します。

施策が形骸化しないためのKPI設計

ウェルビーイングは「定性的になりがち」「成果が見えづらい」といった課題があり、明確なKPIがないと次第に形骸化してしまいます。そのため、実施内容に応じて測定しやすい指標を設定することが重要です。

たとえば、以下のように会社の状況に合わせて「追跡できる数字」を設定することで、施策の効果を把握しやすくなります。

  • 1on1実施率
  • 有給取得率
  • 長時間労働者の割合
  • 離職率、試用期間終了後の定着率
  • ストレスチェックの高ストレス者割合やフォロー実施率
  • 社内アンケートによる満足度指標

また、KPIは“すべてを数値化する”必要はなく、「職場の雰囲気」「心理的安全性」といった定性的な質問を含む簡易アンケートを定期的に行うだけでも十分です。

目的は「続けるための基準を作ること」であり、精巧なデータ分析よりも“継続の仕組み”をつくることが重要といえます。

参考記事:KPIとは何かを簡単にわかりやすく解説!KPIが必要な理由も紹介

経営層・現場との意識ギャップにどう向き合うか

ウェルビーイング施策がうまく機能しない企業では、経営層と現場の温度差が大きいケースが少なくありません。

経営側は「会社のため、従業員のために施策を進めたい」と考えていても、現場からは「仕事が増える」「効果が分からない」といった懸念が生まれやすく、これが施策の停滞を招きます。

このギャップを解消するには、まず“現場の声”を正しく把握することが重要です。負担を感じている業務、困り事、制度への期待などをヒアリングし、施策に反映することで納得感を高められます。

無理なく続けるための制度設計の工夫

ウェルビーイング施策は“継続してこそ効果が出る”ため、制度設計の段階で「無理なく続けられる仕組み」を作ることが重要です。以下に、中小企業でも取り組みやすい制度設計の工夫をまとめます。

工夫のポイント内容
小さく始める優先度の高い施策からスタートし、一度に制度を増やさない
業務フローと統合する既存の会議体や面談、勤怠管理と連動させて工数を増やさない
重点施策を絞る効果が高い3本柱(例:コミュニケーション・健康管理・働き方改善)に集中する
外部サービスを活用するメンタルケア支援、産業医、研修などを必要に応じて外部委託する

制度を作っても、運用が複雑だったり、担当者の負担が大きいと長続きしません。特に中小企業では、人事専任の担当者がいないケースも多いため、まずは小さな施策から始めて“成功体験”を積み重ねることが重要です。

また、既存の業務フローと連動させることで、担当者の負担を増やさずに継続できます。たとえば、1on1ミーティングや健康診断後のフォローを既存の社内ルールに組み込むことで、新たな工数を発生させずにウェルビーイング施策を運用可能です。

さらに、自社だけで対応が難しい領域は外部サービスを活用することで、専門性を担保しつつ負担を下げることができます。継続を前提に考えた制度設計こそ、ウェルビーイング施策成功の鍵です。

まとめ

ウェルビーイングは、従業員の幸福度や健康状態を高めるだけでなく、企業の生産性向上や離職率低下、組織力強化にもつながる重要な経営テーマです。特に中小企業にとっては、人材不足や定着率の課題に直結する施策であり、働きがいや心理的安全性を支える取り組みは、企業の競争力向上にも大きく寄与します。

この記事で紹介した理論や施策例を参考にしながら、自社に合った形でウェルビーイング経営を進めていただくことで、組織の安定、従業員の定着、企業価値向上に確かな効果が期待できます。この機会に、自社の働きやすさや制度を見直し、ウェルビーイング施策の第一歩を踏み出してみてください。

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