1on1ミーティングとは?意味・進め方・話すことがないときの対策などをわかりやすく解説
従業員の定着率向上や育成力の強化が求められるなか、企業規模を問わず注目が高まっているのが「1on1ミーティング」です。
しかし実際には、「評価面談と何が違うの?」「うちの会社で導入しても効果が出るのか?」など、運用に不安を抱える管理者の声も少なくありません。
本記事では、1on1の基本・目的・メリットから、中小企業が導入する際のポイント、話題例、失敗しやすい注意点、国内企業の成功事例までを体系的にわかりやすく解説します。
また、以下の資料では中小企業の経営者、人事担当者の方に向けて「従業員の離職に関する調査レポート」を提供していますので、無料でダウンロードしてみてください。
目次
1on1ミーティングとは何か?
1on1ミーティングとは、上司と部下が定期的に対話を行い、業務の悩みや成長課題、キャリア、メンタル面などを率直に共有するための時間です。
評価や人事判断を目的とする従来の「面談」とは異なり、部下の学びや気づき、主体的なキャリア形成を促す “成長支援の場” として位置付けられます。
中小企業においても、組織のコミュニケーション不足や離職の防止、育成力の底上げといった課題に対して効果を発揮する取り組みです。
1on1と人事評価面談の違い
1on1と人事評価面談は、「上司と部下が話す」という点は共通していても、目的も役割も全く異なる場です。この違いが曖昧なまま運用されると、部下が本音を話せなくなったり、形骸化して意味のないミーティングになりやすく、中小企業では特に注意が必要になります。
まずは両者の違いを整理しておくことが、1on1の成功に欠かせません。
| 項目 | 1on1ミーティング | 人事評価面談 |
| 目的 | 部下の成長支援・課題整理・心理的安全性の確保 | 業績や行動を評価し、人事判断につなげる |
| 主体 | 部下が話す・上司は伴走役 | 上司が主導して評価内容を伝える |
| テーマ | 不安・成長・キャリア・働き方など幅広い | 評価結果・目標設定・改善点に限定される |
| 雰囲気 | 対話中心で本音を引き出す時間 | 公式な場で、一定の緊張感が伴う |
| 頻度 | 週1〜月1が一般的 | 半期・年次など評価サイクルに依存 |
| 期待される成果 | 成長促進・信頼関係構築・離職防止 | 等級・給与・昇格に関する決定 |
1on1は、評価や査定とは切り離し、安心して話せる環境を整えることが何よりも重要です。一方の人事評価面談は、過去の成果を振り返り、改善点や期待する行動を伝える“評価の場”であり、役割が明確に異なります。
なぜ1on1が注目されているのか
1on1が広く注目されている背景には、働き方の多様化と人材流動性が高まっているからです。特に若い世代は、「成長実感」「心理的安全性」「キャリアの透明性」を重視する傾向が強く、日常的な対話が不足すると離職につながりやすいというデータもあります。
また、ハイブリッドワーク・リモートワークの普及により、従来のように“現場で状態を把握する”ことが難しくなったことから、意図的に部下と向き合う場を設ける必要性も高まっています。
上司側にとっても、部下のコンディションや課題を早期に察知でき、組織全体のコミュニケーション改善にも寄与するなど、多方面でメリットが得られる点が評価されています。
1on1の基本的な仕組み
1on1ミーティングは、単なる「面談」ではありません。上司と部下が継続的に対話を行うことで、部下の成長とコンディションを支える仕組みとして設計されています。
このセクションでは1on1の基本的な仕組みについてまとめました。
参考記事:社員のエンゲージメントを高めるには?言葉の意味・測定方法・向上施策など
1. 定期的な実施(週1〜月1が主流)が重要
1on1は「単発で行う場」ではなく、継続的に実施することで効果が生まれる仕組みです。一般的には週1〜月1の頻度で行われることが多く、一定のリズムを保つことで部下の変化や課題を早期にキャッチできます。
中小企業では、忙しさから「時間が取れない」と後回しになりがちです。しかし、不定期に行うと部下が相談のタイミングを逃しやすくなり、せっかくの1on1が形骸化してしまいます。
継続性こそが信頼関係の基盤となるため、スケジュール化と運用ルールの固定化が欠かせません。
2. 主体はあくまで“部下”
1on1は上司が一方的に話す場ではなく、部下が主体的に話し、気づきや学びを得る時間として設計されています。上司は「指示・評価をする存在」ではなく、部下の考えを引き出す「伴走者」です。
この力関係を誤ると、1on1が業務報告会になったり、弱みを話しづらい空気になったりして、部下が本音を隠すようになります。部下の話したいテーマを尊重し、安心して話せる雰囲気づくりに徹することが、成長支援としての1on1の価値を最大化するポイントです。
3. 業務評価とは切り離すのが原則
1on1が評価面談と混ざってしまうと、部下は本当の悩みや不安、キャリアの希望を話せなくなってしまいます。評価が絡む場では、どうしても「良い印象を与えたい」「弱みを言いにくい」といった心理が働くため、率直な対話を阻害することがリスクです。
そのため、1on1では評価や査定には触れず、あくまで成長・学び・コンディション・キャリアなど未来志向のテーマに集中しましょう。評価と切り離すことで心理的安全性が高まり、部下が信頼を持って話せる関係を構築できます。
1on1を実施する目的と得られるメリット
1on1ミーティングは、単なるコミュニケーションの時間ではなく、組織の成長や人材育成を支える“仕組み”です。以下では、1on1の主な効果を3つの視点から整理します。
参考記事:中小企業の経営者・人事労務担当者が知っておくべき離職防止とエンゲージメント向上
部下の成長促進・学びの促進
忙しい現場では、部下の小さな成長の兆しやつまずきを見逃しがちです。しかし、定期的に対話を行うことで、部下自身が「どうなりたいのか」「どう取り組むべきか」を言語化できるようになります。
また、業務上のフィードバックだけでなく、キャリアやスキルの方向性について話すことで、部下が主体的に学び、成長する姿勢を身につける効果にも注目です。特に中小企業においては、制度や研修が整っていない場合でも、1on1が“日常の育成の場”として機能し、育成力を底上げすることにつながります。
信頼関係の構築と心理的安全性の向上
1on1が定期的に行われることで、上司と部下の間に「安心して話せる関係」が生まれることがメリットです。業務の進捗だけでなく、困りごとや不安、今後のキャリアの悩みなど、普段の会話では出てこない本音が話しやすくなります。
この「心理的安全性」が高まることで、部下は問題を抱え込まず早期に相談し、ミスやトラブルを未然に防ぐ行動が取りやすくなります。
定着率向上・離職防止につながる
1on1は、離職リスクの早期発見に大きな効果があります。
部下のモチベーション低下やメンタル不調の兆しは、普段の業務だけでは気づきにくいものです。しかし定期的に対話することで「最近の変化」「負荷の偏り」「不満の兆候」などを察知しやすくなります。
特に中小企業の離職理由として多いのが「上司との関係」「相談しづらい環境」「キャリアの不透明さ」です。1on1を導入することで、これらの要因を解消し、従業員が安心して働ける環境をつくることができます。
また、定期的な対話を通じて、メンタル不調やハラスメントの兆候を早期にキャッチしやすくなる点も大きなメリットです。小さな違和感や不安を見逃さず、必要なサポートにつなげることで、深刻化する前に対応が可能になります。
信頼関係に基づく1on1は、離職リスクの低減と職場全体の健全化に寄与します。
中小企業で1on1を導入する際のポイント
中小企業が1on1を導入する際は、「制度を作ること」よりも「目的を共有し、運用を継続できる仕組みを整えること」が重要です。
大企業と比べて制度・人員のリソースが限られている分、導入時に意図が曖昧だったり、上司ごとに運用がばらついたりすると、すぐに形骸化してしまいます。1on1が“続く仕組み”として根付くかどうかは、導入前の準備と社内での共通理解に大きく左右されるのです。
導入目的を社内で共有する
1on1を成功させるための第一歩は、目的を明確にし、それを上司・部下の双方が共有しておくことです。目的が曖昧なままスタートすると、「評価面談と何が違うのか」「業務報告の時間になってしまう」「なんとなく実施している」など、形骸化の原因になります。
例えば、部下の成長支援なのか、離職防止なのか、コミュニケーションの質を高めたいのか、会社としての1on1の役割を明確にしましょう。これにより上司側の関わり方や部下側の期待値が揃い、対話の質が格段に向上します。
上司へのトレーニング・ガイドライン整備
1on1は上司のスキルや姿勢によって成否が分かれる取り組みです。
どれだけ制度を整えても、上司が部下の話を引き出せなければ、1on1は業務報告の時間にしかなりません。そのため、導入時には上司へのトレーニングを行い、「傾聴の姿勢」「質問の仕方」「評価と切り離す意識」などを丁寧に共有することが重要です。
また、企業としての1on1の運用ルール(頻度、実施時間、テーマの扱い、記録方法など)をガイドラインとして整備しておくことで、担当者ごとのばらつきが減ります。中小企業では特に、役職者のマネジメントスキルに差が出やすいため、ガイドラインの有無が効果に大きく影響する要素です。
定期開催の仕組みを作る(スケジュールと記録)
1on1は、継続しなければ意味がありません。
どれだけ良い対話ができても、「忙しいから」という理由で後回しになるケースが多発します。そこで、定期開催を習慣化するために、スケジュール設定と記録の仕組みを整備することが欠かせません。
具体的には、月初にまとめて予定を入れる、実施後すぐに記録を残す、上司が1on1の時間を勝手に変更しない文化をつくるなど、運用面の工夫が必要です。
話すことがない?ネタ切れを防ぐ話題例
1on1は継続することで効果を発揮しますが、回数を重ねるほど「話すテーマが浮かばない」「毎回似た話になってしまう」と悩むケースが少なくありません。
以下では、1on1が形骸化しないための代表的な話題例を、部下が話しやすい順序で整理して紹介します。
参考記事:人事評価制度の作り方!不満を解消し「やる気」を引き出す評価シートと書き方
①業務の進捗・困りごと
もっとも取り上げやすいテーマが、日々の業務に関する内容です。
進捗状況や課題を一緒に振り返ることで、部下が抱えている負荷やつまずきを早期に把握できます。普段の業務報告では出てこない本音や小さな悩みも、1on1という安心できる場では話しやすくなり、改善につながるヒントが得られるのです。
②モチベーションやメンタルの状態
業務そのものより、部下のコンディションに焦点を当てるテーマです。
テンションの変化、最近の疲れ具合、仕事に対する手ごたえなど、普段の会話では触れにくい内容こそ、1on1で丁寧に扱うべき領域です。上司が部下の状態を把握できるようになれば、無理な業務配分や早期離職につながるストレス要因を未然に防ぐことができます。
心理的安全性を高める意味でも重要なテーマです。
③将来のキャリアとスキルアップ希望
部下が「今後どう成長したいのか」を考えるきっかけになるテーマです。
中小企業では、キャリアパスが明確でない場合も多く、部下自身が方向性を言語化できずに不安を抱えていることがあります。
1on1で丁寧に希望を聞き、現実的な成長ステップに落とし込むことで、本人の主体性を引き出すことにつながるのです。
④組織への提案・改善案
部下だからこそ気づいている業務プロセスのムダや、職場環境の改善ポイントは、上司だけでは見えない領域といえます。1on1という「安心して意見を言える場」であれば、組織改善につながる価値の高い対話が生まれることも魅力です。
⑤最近の気づきや雑談ネタ
形式ばらない雑談は、1on1を円滑に進めるための潤滑油の役割を果たします。
最近の出来事、興味を持った話題、学んだことなど、自由度の高いテーマを扱いましょう。これにより緊張がほぐれ、自然な対話が生まれます。
日々の人となりがわかることで、信頼関係が深まり、部下が悩みを相談しやすい雰囲気が整っていきます。
1on1がうまくいかない時の注意点と対処法
1on1は正しく運用すれば大きな成果を生む一方で、運用を誤ると「続かない」「形骸化する」「逆効果になる」という問題も起こりやすい仕組みです。
特に中小企業では、上司のマネジメントスキルが個人差に左右されやすく、制度そのものよりも“運用の質”が成果を左右します。1on1がうまく機能していない兆候を把握し、早めに軌道修正することが非常に重要です。
信頼関係が築けていない場合
1on1の効果が出ない最大の原因が、上司と部下の間に十分な信頼関係が築かれていないケースです。
部下が「本音を話して良いのだろうか」「否定されるのではないか」と感じている状態では、形式的なやり取りに終始し、1on1が学びや支援の場として機能しません。
この状況では、まず上司が批判や指示ではなく対話の姿勢を示すことが重要です。部下の話を遮らず、評価と切り離し、安心して話せる空気をつくることで、徐々に距離が縮まり、本音を引き出せる関係へと近づきます。
上司の一方的な面談になっている場合
1on1を実施しているつもりでも、実際には上司が話し続けてしまい、部下がほとんど発言できないケースは珍しくありません。
上司がアドバイスや指示を中心に話してしまうと、部下は「結局評価されているのでは」と感じ、相談したいことや悩みを隠すようになります。この状態では、1on1は単なる“業務確認の場”となり、成長支援の場としての意味を失うことがデメリットです。
対処法としては、上司が意識的に話す割合を抑え、部下の発言を引き出す質問や沈黙に耐える姿勢が必要になります。部下自身が考え、整理し、言葉にするプロセスこそが1on1の価値であり、上司はその伴走役に徹しましょう。
「意味がない」「時間の無駄」と感じられている場合
部下が1on1に対して意味を感じられなくなっている場合、話題が毎回同じだったり、話した内容が何も変化につながらなかったりするケースが多く見られます。
特に中小企業では、業務優先になりがちな環境ゆえに、1on1が「とりあえず実施しているだけの時間」になりやすく、部下にとっても上司にとっても負担感が高まりがちです。
この問題を解消するには、1on1で出たテーマを実際の行動や改善につなげる流れをつくることが重要となります。小さな改善でも良いので、1on1を通じて前に進んだ実感を部下が得られれば、1on1の価値は自然と高まるのです。
成功事例に学ぶ1on1活用のヒント
最後に企業の1on1の事例を紹介します。大手企業の事例ですが、中小企業にも生かせるポイントは多々ありますので、参考にしてみてください。
ヤフー株式会社:1on1の制度化で離職率低下
ヤフーでは、1on1ミーティングを週1回の頻度で実施し、部下の将来意識や成長意欲を引き出す対話を社内文化の一部として定着させました。
この取り組みによって、コミュニケーションの質が向上し、従業員が安心して相談できる環境が整ったことで、離職率やメンタル不調による休職の改善も報告されています。
中小企業においても、こうした「頻度高く・仕組みとしての1on1」を導入し、部下の成長支援を日常化させることが有効なヒントです。
日清食品:キャリア支援との連動で育成強化
日清食品では、1on1ミーティングをキャリア支援と連動させ、単なる対話の場から個人の成長と組織の育成力を同時に高める仕組みを構築しています。例えば、定期的な1on1だけでなく、「チャレンジ目標制度」や「成長実感会議」といったフォローアップの仕組みも用意していることがポイントです。
このような体系化された育成プログラムに1on1を組み込むことで、従業員が主体的にキャリアを考え、組織としても人材育成を戦略的に進めることが可能となっています。中小企業においても、1on1を「部下との雑談」から「成長支援の設計ツール」へと位置づけることが重要です。
まとめ
1on1ミーティングは、特別な制度や大がかりな仕組みがなくても、中小企業が「人材育成力を高める」ために今すぐ取り組める有効な手法です。対話の質を高めることで、部下の成長促進、信頼関係の強化、離職率の低下といった、企業にとって大きなメリットをもたらします。
継続することで効果が高まるのが1on1の特徴です。まずは中小規模でも実施し、企業に合った形に磨き上げていくことで、従業員が安心して働き、成長できる組織づくりにつながっていきますので、ぜひ実践してください。
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