IFRS(国際会計基準)とは?日本基準との違いや導入のメリット・手順
企業の会計担当者や公認会計士のように、会計処理を専業としている場合、IFRSがどのようなものか把握しておきたいと考えている方も多いのではないでしょうか。
企業によっては、会計基準としてIFRSを導入することで、大きなメリットを得る可能性もあります。
そこでこの記事では、IFRSがどういうものなのかについて、わかりやすく解説していきます。
IFRSと日本会計基準の違い、採用するメリットやデメリット、導入する手順についても詳しく紹介していくので、是非参考にしてください。
IFRS(国際会計基準)とは
IFRSとは「International Financial Reporting Standards」の略称で、国際会計基準のことです。
そもそも会計基準とは、企業による決算書作成や、決算書の内容を理解するために必要な基準のことを指します。
各国ごとに定められているのですが、基準がバラバラですと比較が難しくなってしまうため、世界共通の基準としてIFRSが生まれました。
IFRSは、2005年にEU諸国の上場企業において適用が義務化されたことで、世界に広がっていきました。
現在では会計基準のグローバルスタンダードであり、多くの先進国で導入されています。
しかし、まだ任意適用となっている国もあり、日本もIFRSは義務化されていません。
日本では、IFRSを適用している企業はまだ270社ほど(2024年現在)となっています。
IFRSと日本会計基準の違い
日本にも独自の会計基準がありますが、IFRSと比べると以下のような違いがあります。
- 原則主義か細則主義かの違い
- 利益の計算方法の違い
- 損益計算書の表記の違い
- のれんの償却方法の違い
- 研究開発費の扱いの違い
- 注記量の違い
次項では、それぞれの違いについて詳しく解説します。
1.原則主義か細則主義かの違い
IFRSと日本会計基準を比べた際の代表的な違いは、「財務報告のルール」です。
まず、IFRSは「原則主義」を採用しています。
原則主義とは、会計原則について基本的なことのみを定め、細かな判断基準や数値基準について設定しない、という考え方です。
IFRSは、世界中で用いられる会計基準です。
しかし、法制度や商慣習などは各国によってまったく異なるため、あまり細かく基準を設定してしまうと、国によっては適用が困難になってしまうかもしれません。
このような事態を避けるため、あえて細部についてはルールを設定せず、現場の判断・解釈に任せる、という形式になっています。
そして、日本では「細則主義」を採用しています。
細則主義とは、業種や取引ごとに細かな会計上のルールを設定する、という考え方です。
細則主義の場合、財務諸表に記載すべき内容は、あらかじめ決められている数値基準や雛形に沿って作成しなければなりません。
例えば、「●●万円以上ならばAの会計処理を行い、■■万円以上ならBの会計処理を行う」といった形です。
融通が利かないというデメリットはあるものの、会計におけるルールがしっかり決まっているため、独自の判断や解釈が求められることはほぼありません。注記の量も少なくなりやすい、といったメリットもあります。
2.利益の計算方法の違い
IFRSと日本会計基準では、利益の計算方法も違います。
IFRSの場合、「資産・負債アプローチ」という考え方に基づいて計算されます。
資産負債アプローチとは、資産と負債の増減をベースとして利益や損失を計算するという考え方です。
資産から負債を差し引いた際に、「プラスになっていればその金額が利益、マイナスになっていればその金額が損失」といったような形です。
したがってIFRSでは、資産と負債がわかりやすい「貸借対照表」が重視されます。
日本の会計基準の場合は、「収益・費用アプローチ」に基づいて利益が計算されるため、各期間の収益を表す「損益計算書」が重視されます。
収益費用アプローチとは、収益と費用の増減をベースとして利益や損失を計算するという考え方です。
「資産と収益のどちらを重視するか」といった、企業価値に対する捉え方が違うという点も意識しておきましょう。
3.損益計算書の表記の違い
IFRSも日本会計基準も、財務諸表の構成自体はほぼ同じで、「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」の財務三表から成り立っていますが、名称が異なるものもあります。
日本会計基準 | IFRS(国際会計基準) |
損益計算書 | 純損益およびその他の包括利益計算書 |
貸借対照表 | 財政状態計算書 |
キャッシュフロー計算書 | キャッシュフロー計算書 |
このうち、「財政状態計算書」と「キャッシュフロー計算書」については、日本会計基準とあまり大きな差はありません。
しかし「純損益及びその他の包括利益計算書」は、日本の損益計算書と異なる点が2つ存在します。
1つめが、「継続事業/非継続事業の区分の有無」です。
日本会計基準では、「継続事業」と「非継続事業(期末までに売却や廃止の予定がある事業)」とを区分しません。
その点IFRSの場合は、投資家などのステークホルダーが企業の将来性を推し量りやすくするために、継続事業か非継続事業かを区分して記載する必要があります。
非継続事業による収益がどれだけ高くとも、将来的な収益に結びつくかどうか不明瞭なため、より正確に今後のキャッシュフローを予測しやすくするために区分しているのです。
2つめが、「経常的/臨時的の区分の有無」です。
「経常利益」という言葉を耳にしたことがある方も多いと思われますが、この概念は日本独特のものであり、IFRSに経常利益という概念はありません。
したがって、IFRSの場合は「営業損益」「金融損益」の区分しかないのです。
固定資産の売却による利益や、災害による損失といった臨時的な損益である「特別損益」の計上も、IFRSでは認められていません。
損益が経常的なものであろうと臨時的なものであろうと、すべてを含めた上で企業の収益力を見る、というのがIFRSの考え方だからです。
このように、損益計算書における記載方法が大きく異なる部分も、IFRSと日本会計基準の相違点だと言えるでしょう。
4.のれんの償却方法の違い
会計上における「のれん」とは、企業の買収・合併の際に生じる、「買収される側の時価純資産」と「実際の買収額」の差額のことを指します。
被買収企業が持つブランド力や技術力が高い場合に、買収企業が上乗せして支払うことでのれんが発生します。
有名な例としては、2021年5月に起こった株式会社セブン&ホールディングスによる買収です。
アメリカでガソリンスタンド併設型コンビニを運営する「Speedway」を、約2兆3000億円という金額で買収したのですが、この時ののれんは「約1兆3000億円」という巨額なものでした。
そして、のれんの償却方法についても、IFRSと日本会計基準とを比べると違いがあります。
日本会計基準では、20年という上限の中で規則的に償却することが可能なのですが、IFRSでは規則的な償却が認められていません。
なぜならば、IFRSは「のれんが及ぼす将来的な影響が不確定である」と考えているからです。
そのためIFRSの場合は、毎期ごとに減損テストを実施し、客観的にのれんの価値を検証してからでないと償却できません。
5.研究開発費の扱いの違い
研究開発費の扱いについても違いがあります。
まず日本会計基準では、研究開発費についてすべて費用として扱えます。
ところがIFRSでは、「研究費」と「開発費」の2つに区分されたうえで、研究費は費用として扱い、開発費は一定要件を満たすと無形資産として計上しなければなりません。
無形資産として計上する要件の例としては、以下のようなものがあります。
- 技術的に実現可能かどうか
- 完成した無形資産を販売する能力があるかどうか
- 無形資産に関する支出を正しく測定できるかどうか ...など
IFRSの場合、研究開発費に対する扱いが複雑になることに留意が必要です。
6.注記量の違い
本項目冒頭の「原則主義か細則主義かの違い」で解説した通り、日本会計基準は細則主義で、記載すべきことが細かく決められています。
ルールに沿って記載するため注記すべきことが少なく、ほとんどの場合注記量はそれほど多くなりません。
しかし、IFRSは原則主義で記載の自由度が高くなっていることから、フォーマットのばらつきがあったり、記載項目がシンプルであったりするため、それを補足するために注記量が増えやすくなるという特徴があります。
この注記量の違いも、IFRSと日本会計基準における明確な違いと言えるでしょう。
IFRS導入による3つのメリット
会計基準としてIFRSを導入することで、以下の3つのメリットを享受することができます。
- グローバルな資金調達を実現しやすくなる
- 正確な財務状況を把握しやすくなる
- 国内外の子会社との財務情報を統合できる
次項では、各メリットを詳しく解説します。
【メリット1】グローバルな資金調達を実現しやすくなる
IFRSを導入することで、海外の投資家も視野に入れた国際的な資金調達がしやすくなるというメリットがあります。
日本会計基準と、世界標準となっているIFRSの会計基準とではかなりの違いがあるため、海外の投資家には理解しづらいというケースも少なくありません。
しかしIFRSを導入すれば、世界中の投資家が自社の財務諸表を見て、投資すべきかどうかを考慮してくれる機会が増える可能性があります。
仮に日本会計基準のままで興味を持ってくれた投資家がいたとしても、会計基準の違いについて説明する手間がかかります。
また最悪の場合、「丁寧に説明したつもりでも投資家にうまく伝わらず破談になってしまう」ということもあり得るでしょう。
企業が成長していくために、資金は欠かせません。
IFRSを導入して国際的な投資を受けやすい環境を作ることができれば、企業にとって大きな前進となるはずです。
【メリット2】正確な財務状況を把握しやすくなる
IFRSは、日本会計基準に比べると、正確な財務状況を把握しやすいという特徴があります。
- 社員の有給休暇の引当金
- のれん代
- 収益に関する認識
IFRSを導入している場合、上記のような「わかりにくい実態」について解消される可能性が高まります。
財務状況を正しく把握できていないと会計リスクが高まってしまうため、「正確な財務状況を把握する」という点においてIFRSを採用するメリットがあると言えるでしょう。
【メリット3】国内外の子会社との財務情報を統合できる
海外にも拠点を持つ企業にとっては、「会計基準を統一することで財務状況がわかりやすくなる」というメリットもあります。
海外に子会社や関連会社がある場合、会計基準の違いから財務状況がわかりづらくなってしまうというケースが懸念されます。
しかし、全社的にIFRSを導入すれば、国内・国外を問わず、勘定項目などについて統一され、財務状況の正確な把握が可能です。
IFRS導入による3つのデメリット
IFRSを導入する際には、メリットばかりではありません。
以下のようなデメリットがあることについても意識しておきましょう。
- 導入コストがかかる
- 事務作業の負担が増える
- IFRSの導入自体が難しい
次項では、各デメリットについて詳しく解説します。
【デメリット1】導入コストがかかる
これまで解説してきた通り、IFRSと日本会計基準とでは仕様が大きく異なります。
そのため、会計担当者にIFRSの基準や記載方法などについて学んでもらうための教育コストや、会計システムの変更コストなどが必要です。
これらの費用が安く済むかどうかは不明瞭なため、一定のコストについては覚悟しなければなりません。
IFRSの導入を検討する際は、どれだけの費用がかかるのかを事前に算出しておきましょう。
【デメリット2】事務作業の負担が増える
IFRSは、日本会計基準と違って「資産」と「負債」をベースに会計処理を行います。
日本会計基準でベースとなる「収益と費用」は比較的単純ですが、「資産」は時流によって変化します。
例えば、「最新技術が詰め込まれた業務用の機械でも、経年によってその価値を大きく落としている」ということも珍しくありません。
したがって、資産については時価で改めて評価をし直さなければならないのです。
また、会計処理を大きく変えることから、マニュアルの整備についても膨大な手間がかかります。
このような事務作業の負担がかかってしまうことも、IFRS導入のデメリットのひとつです。
【デメリット3】IFRSの導入自体が難しい
IFRSの導入自体が難しい、という点も考慮すべきです。
IFRSを導入した場合、英語力が求められるケースもありますし、そもそも日本の商慣習とマッチしていない取り決めも存在します。
会計処理について、どのように解釈すればよいか迷うことも多いかもしれません。
また、IFRSの場合は会計基準が頻繁に変更されることもあるため、常に最新の情報を追いかける必要があります。
さらに、日本会計基準とは売上の計上基準が異なることから、業務体制を大きく変えなければいけないということもあり得ます。
自社の業態やリソースによっては、導入が難しいことがあるということも把握しておいてください。
IFRSを導入するための手順
IFRSを導入するための主な手順は、以下のとおりです。
- 事前準備を進める
- IFRSに基づく試作決算を行う
- IFRSによる会計処理運用を開始する
IFRS導入の手順は、次項で詳しく解説します。
1.事前準備を進める
まず始めに手掛けることは、「IFRSを導入することでどのような影響があるのか」に関しての調査を行うことです。
導入した結果、自社にとってマイナス面が多いようでは意味がありません。
導入することによってどういったプラスがあるのか、どのタイミングで導入すべきなのか、といったことについて精査するようにしてください。
そして、IFRSの導入が決定したら、計画書を作成します。
- 導入日
- 担当する人材
- 業務プロセス
こういった点を事前に明確にしておきましょう。
2.IFRSに基づく試作決算を行う
諸々の事前準備が完了したら、将来的な運用を想定した試作決算を実施しましょう。
会計処理担当者にIFRSを適用した財務諸表を作成させつつ、今後の会計方針についても決定する必要があります。
また、日本会計基準の細則主義に慣れた会計担当者の場合、原則主義を把握して適切な書類を作れるようになるまでには、ある程度時間がかかります。そのあたりも考慮しながら育成してください。
IFRSの運用が始まれば後戻りできないため、十分な試作期間・教育期間を確保しておきましょう。
3.IFRSによる会計処理運用を開始する
会計担当者への教育が完了、もしくはIFRSに対応している外部機関への外注が完了したら、いよいよ正式にIFRSを導入して運用を開始します。
もちろん運用を始めたばかりの時期は問題が発生しやすいので、会計処理に注視してください。
現場任せにせず、経営層も積極的に関与した方がよいでしょう。
まとめ
以上、IFRS(国際会計基準)とはどういったものなのかについてや、日本会計基準との違い、採用するメリットやデメリットなどについて詳しく解説してきました。
日本の会計基準とは異なる点も多いため、導入に二の足を踏む企業も多いかもしれません。
しかし、大企業や海外に拠点を持つ企業の場合、IFRSを導入するメリットは大きいと言えます。
自社の状況を鑑みて、メリットとデメリットのどちらが大きいのかを判断し、導入を検討してください。
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