サクセッションプランとは?中小企業が取り組むべき後継者育成と作り方のステップ
「サクセッションプラン(後継者育成計画)」という言葉を聞くと、ニュースになるような大企業やグローバル企業だけの問題だと感じるかもしれません。
しかし、経営者の高齢化が進む現代において、後継者不足は規模を問わずどの企業でも起こり得る「存続に関わる」課題です。十分な準備がないまま交代時期を迎えれば、経営が混乱するだけでなく、長年築き上げた顧客からの信頼を失ったり、最悪の場合は廃業に追い込まれたりするリスクを抱えています。
この記事では、中小企業の経営者や担当者が知っておくべきサクセッションプランの基本から、具体的な策定ステップ、成功企業の事例までを詳しく解説します。
また以下の資料では中小企業の人事担当の方に向けて、労務・定着・エンゲージメントの観点から人が辞めにくい組織の作り方を解説していますので、こちらも参考にしてください。
目次
サクセッションプランとは何か?
サクセッションプランとは、企業の経営を担う重要なポジション(CEOや役員など)に対して、「いつ、誰が、どのようなプロセスで引き継ぐか」をあらかじめ定義し、戦略的に候補者を育てていく計画のことです。
最大の特徴は、「空いた穴を埋める」のではなく、「将来のリーダーを計画的に作り出す」という攻めの姿勢にあります。
後任登用・人材育成との違い
サクセッションプランを正しく理解するために、混同されやすい「後任登用」や「一般的な人材育成」との違いを表で整理しました。
| 項目 | 後任登用 | 一般的な人材育成 | サクセッションプラン |
| 主な目的 | 欠員の補充 | 全体的な能力の底上げ | 経営の継続と持続的成長 |
| 対象者 | 発生したポストの適任者 | 全社員・全階層 | 経営層・重要ポストの候補者 |
| 時間軸 | 短期(欠員発生時) | 中期(年度単位など) | 長期(5年〜10年単位) |
| 選定基準 | 現在の実績・経験 | 職務ごとのスキル | 経営理念の体現・潜在能力 |
後任登用は、退職や異動によってポストが空いた際に「今、誰を当てるか」を判断する、受動的で短期的な対応です。対してサクセッションプランは、将来の欠員や世代交代を見据え、あらかじめ必要な人材を「作っておく」能動的な取り組みです。
一般的な人材育成は、組織全体のスキルアップを目的に、階層別研修など一律の教育を行うことが中心です。一方、サクセッションプランは「次世代の経営層」という特定の層にターゲットを絞ります。
経営判断が求められる過酷な環境や、新規事業の立ち上げといった場面を戦略的に経験させるなど、選抜された候補者に対する特別な育成が行われるのです。
なぜ今、サクセッションプランが必要なのか?
「後継者選びは時期が来たら考えればいい」という考え方は、今や通用しなくなっています。労働人口の減少や市場環境の激化により、リーダー育成を「偶然」や「個人の資質」に頼ることは、企業にとって最大の経営リスクの一つとなっているからです。
なぜ、多くの企業が今、危機感を持ってこの計画に取り組み始めているのか。その主な理由は以下の3点に集約されます。
参考記事:コンピテンシー評価とは?評価項目・シート・導入手順まで中小企業向けにわかりやすく解説
後継者不在による経営リスクの顕在化
現在、日本の中小企業の多くが経営者の高齢化に直面しています。帝国データバンクなどの調査でも、依然として多くの企業が「後継者未定」の状態です。
十分な準備がないまま交代時期を迎えると、経営方針の混乱や取引先との関係悪化を招き、最悪の場合は業績が堅調であっても事業継続を断念する「黒字廃業」のリスクを孕んでいます。
持続的成長・経営の属人化リスクへの備え
特定のカリスマ経営者やリーダーに頼り切る「属人化」した経営は、その人物が不在になった瞬間に組織の成長が止まることがリスクです。サクセッションプランによって「リーダーを育てる仕組み」を組織内に構築することは、個人の能力に依存しない、持続可能な経営体制への転換を意味します。
人的資本開示への対応と企業価値の向上
近年、上場企業を中心に「人的資本」の情報開示が義務化され、投資家や金融機関は「次世代リーダーが計画的に育成されているか」を厳しくチェックするようになりました。中小企業においても、金融機関との対話や事業承継の場面で、後継者育成の考え方を問われるケースが増えています。
透明性の高いサクセッションプランを持つことは、対外的な信頼(企業価値)を高めるだけではあえりません。優秀な若手人材に対して「この会社には明確なキャリアパスがある」と示すことになり、採用や離職防止にも大きく寄与します。
サクセッションプラン導入メリット
サクセッションプランの策定は、単に「万が一」に備えるための守りの施策ではありません。計画的に次世代リーダーを育てる仕組みがあることは、組織の活性化や外部からの信頼獲得など、企業の成長を加速させる「攻め」のメリットを数多くもたらします。
組織内のモチベーション・キャリア意識の向上
次世代リーダーの選抜基準や育成プロセスを明確にすることで、社員が自らのキャリアを主体的に考えるきっかけとなります。
「どのような成果を出し、どの資質を磨けば経営に参画できるのか」という道筋が示されれば、優秀な若手・中堅層の意欲を刺激し、組織の活性化や将来有望な人材の流出防止(リテンション)に大きく寄与するのです。
経営幹部候補の育成による安定的な経営体制の確保
後継者を「その場しのぎ」で選ぶのではなく、複数の候補者を長期的に育成する体制を整えることで、経営の空白期間や交代時の混乱を防ぐことができます。
常に「準備が整った候補者」がいる状態は、社内の安心感を生むだけではありません。取引先や金融機関に対しても「持続可能な経営体制」であるという強いメッセージになり、企業の信頼性を盤石にします。
経営理念や戦略の継承が円滑になる
企業の「DNA」とも言える創業の精神や経営理念は、短期間の引き継ぎで伝承できるものではありません。サクセッションプランを通じて数年単位で現経営者の考え方に触れ、戦略的な対話を重ねることで、価値観を深く共有したリーダーを育てることができます。
これにより、トップが変わっても企業の根幹が揺らぐことなく、一貫性のある経営を継続することが可能です。
サクセッションプランの策定ステップ
サクセッションプランは、一度策定して終わりではなく、経営環境の変化に合わせて見直しながら段階的に進めていくものです。
場当たり的な後継者選びを避け、組織として再現性のあるリーダー育成を実現するために、以下の5つのステップで計画を具体化していきましょう。
参考記事:【中小企業向け】経営管理とは?業務内容・課題・改善策をわかりやすく解説
経営戦略と連動した重要ポジションの洗い出し
まずは、自社の経営戦略を実現するために「どのポストを優先的に埋めるべきか」を特定します。対象は社長や役員といった経営層だけとは限りません。
特定の技術を持つ専門職、海外拠点の責任者、あるいは新規事業のリーダーなど、そのポストが空席になることが事業継続に致命的な影響を与える「キーポジション」を漏れなく洗い出します。
ポジションごとの人材要件の定義
特定したポジションごとに、具体的にどのような能力や資質が必要かを定義します。現在の担当者のスキルをそのままコピーするのではなく、5年後・10年後の市場環境を予測し、「将来のそのポストに求められる役割」から逆算することが重要です。
必要な経験、専門スキル、経営理念の体現度、さらには危機管理能力といった資質を明確な指標に落とし込みます。
候補者の選定と育成計画の策定
定義した人材要件に基づき、社内(状況に応じて社外)から候補者を選抜します。この際、一人の後継者に絞り込むのではなく、複数の有望な人材を「候補者プール」として管理するのが一般的です。
各候補者の現状と理想の要件とのギャップを分析し、それを埋めるための個別の育成計画(研修、タフなアサインメントなど)を策定します。
育成の実行・進捗確認・修正プロセス
計画に基づき、実際の育成を開始しましょう。座学だけでなく、子会社の経営、不採算部門の立て直し、あるいは異職種へのジョブローテーションといった体験を戦略的に提供することが、経営者としての視座を高める近道となります。
定期的にモニタリングを行い、本人の成長度合いや適性を見極めながら、必要に応じて計画の修正や候補者の入れ替えを柔軟に行いましょう。
評価・アセスメントの導入
主観的な「お気に入り」や「印象」による選定を排除するため、客観的な評価指標(アセスメント)を導入します。
360度評価や外部の専門機関によるアセスメントツールの活用、あるいは後述する「9ブロック」などの手法を用い、多角的な視点から次世代リーダーとしての適格性を公正に判断しましょう。この透明性こそが、選抜されなかった社員の納得感にもつながります。
アセスメント・プランニング支援ツールの活用法
サクセッションプランを成功させる鍵は、選定の「客観性」と「透明性」にあります。属人的な「印象」や「好み」による選抜を避け、データに基づいた公平な判断を行うためには、フレームワークやITツールの有効活用が欠かせません。
9ブロック(9-Box Grid)とは?
9ブロックとは、人材の「現在のパフォーマンス(業績)」と「将来のポテンシャル(潜在能力)」の2軸を掛け合わせ、人材を9つの区分で評価するフレームワークです。サクセッションプランの候補者を選定する際、以下のような表を用いて可視化します。
| 業績:低 | 業績:中 | 業績:高 | |
| 潜在能力:高 | 将来のスター候補 | 成長が期待される人材 | 最優先候補(スター) |
| 潜在能力:中 | 潜在能力はあるが停滞 | 安定した貢献者 | 組織の牽引役 |
| 潜在能力:低 | 配置転換の検討 | 実務の専門家 | 現在の役割の熟練者 |
一般的には、右上の「潜在能力が高く、業績も高い」ブロックに位置する人材が、サクセッションプランの有力候補とされます。このように表に落とし込むことで、誰を重点的に育成すべきか、組織内の人材バランスがどうなっているかを共通認識として持つことが可能です。
タレントマネジメントツールとの連携活用
従来、こうした人材データはExcelなどで管理されることが一般的でしたが、情報の更新が滞ったり、スキルや経験がブラックボックス化したりする課題がありました。
最新のタレントマネジメントツールを活用することで、過去の評価履歴、経験したプロジェクト、保有資格、さらには本人のキャリア志向などを一元管理できます。蓄積されたデータと9ブロックをシステム上で連動させることで、主観に頼らないスピーディーな候補者の抽出が可能です。
参考記事:【中小企業向け】タレントマネジメントとは?導入メリット・成功事例・実践ステップを解説
経営層・現場を巻き込む評価・フィードバック体制
ツールはあくまで判断の精度を高めるための補助的なものです。最も重要なのは、その結果をもとに経営層や現場の責任者が対話を行う「キャリブレーション(調整)会議」です。
「なぜこの人物が高い評価なのか」を多角的に議論し、評価のズレを修正していくことで、組織全体の納得感を高めましょう。また、選抜された候補者本人に対しても、アセスメント結果に基づいた具体的なフィードバックを行い、期待値と現在の課題を共有することで、育成の効果を最大化させます。
開示・社内浸透に向けた工夫と留意点
サクセッションプランは、経営層だけで密かに進めるものではありません。社外への適切な情報開示は投資家や金融機関からの信頼に直結し、社内への丁寧な説明は社員の納得感とエンゲージメントを高めます。
実効性を高めるために、以下の3つのポイントに留意しましょう。
コーポレートガバナンス・コードに基づく開示項目
上場企業においては、コーポレートガバナンス・コード(指針)により、サクセッションプランの策定と運用状況の開示が求められています。具体的には「後継者候補の育成が適切に行われているか」「取締役会がその計画をどのように監督しているか」といったプロセスの透明性が重要です。
中小企業であっても、これらの基準を参考にした説明ができることは、銀行融資や事業承継の場面で、経営の透明性を示す材料となります。
社内透明性・理解促進のためのコミュニケーション
「誰が選ばれたか」という結果以上に、「どのような基準で、誰が、どのように選んでいるか」というプロセスの周知が重要です。選抜に漏れた社員が「不当に評価された」と感じて意欲を失わないよう、制度の目的が「個人のえこひいき」ではなく「会社の持続的な成長」にあることを繰り返し伝えます。
また、候補者から外れたとしても、別の形での貢献やキャリアパスがあることを明確に示し、組織全体の心理的安全性を確保することが必要です。
プランの属人化を避ける制度設計
サクセッションプラン自体が、特定の現経営者の「主観」や「勘」に依存してしまっては意味がありません。現経営者が退任した途端に計画が白紙に戻るような事態を避けるため、指名委員会のような合議制の導入や、評価基準の標準化が不可欠です。
「人」ではなく「仕組み」としてプランを定着させることで、時代や環境の変化に左右されない、再現性の高いリーダー育成体制が実現します。
サクセッションプラン導入企業の事例紹介
サクセッションプランを自社で運用する際、先行して取り組んでいる企業の事例を知ることは非常に有益です。各社、自社の規模やビジネスモデルに合わせて独自の仕組みを構築しており、これらは「選抜の基準」や「育成の場」をどのように設計すべきか、中小企業にとっても多くの示唆を与えてくれます。
以下は大企業の事例ですが、制度の規模や体制をそのまま真似する必要はありません。
中小企業においては、「候補者を複数持つ」「育成状況を定期的に話し合う」など、
考え方や仕組みの一部を自社サイズに落とし込むことが現実的です
トヨタ自動車|育成重視の独自制度で幹部候補を輩出
世界規模で事業を展開するトヨタ自動車では、1999年から役員や部長などの幹部候補を戦略的に育成する「GLOBAL21プログラム」を運用している会社です。このプログラムは、全世界の優秀な人材がトヨタの経営層にふさわしい能力と見識を習得することを目的としており、以下の3つを柱として構成されています。
- 経営哲学・幹部への期待の明示:トヨタの価値観(トヨタウェイ)を深く理解し、リーダーとしてのあるべき姿を明確にする。
- 人事管理:グローバル共通の基準で人材を評価し、適材適所の配置を行う。
- 育成配置・教育プログラムの展開:個々の強みを引き出すための戦略的な異動や、高度な教育プログラムを提供する。
また、特徴的な取り組みの一つが「Global Succession Committee(グローバル・サクセッション・コミッティー)」の開催です。ここでは各地域の地域本部長が集まり、国境を越えた異動や配置、将来の役員候補者の育成状況について直接議論を交わします。
コマツ|計画的人材選抜で経営の世代交代を成功
建設機械・車両事業の売上高の9割が日本以外の市場であるコマツにとって、次世代のグローバルリーダー育成は最優先の経営課題です。同社では、国内外の約700の主要なポストを「グローバルキーポジション(GKP)」として定義し、それらに紐づくサクセッションプランを体系的に策定しています。
後継候補者の選定プロセスは非常に強固です。まず全世界の地域や事業統括会社のサクセッション委員会で計画案を作成し、さらに「全社グローバルサクセッション委員会」で多角的な議論と検討を重ねることで、客観性と継続性を担保しています。
育成面では、経営層向けの「Global management seminar」や、女性幹部候補を対象とした「Diversity & inclusion development seminar」といった研修プログラムに加え、あえて困難な業務に当てる経験を戦略的に提供し、その成果を計画へフィードバックする仕組みを構築しています。
花王|グローバル人材育成と幹部候補プールの整備
花王株式会社では、組織の持続的な成長を支える基幹人材の育成に非常に重きを置いています。同社のサクセッションプランの最大の特徴は、重要ポジションの後継者候補を準備状況に応じて3つの段階に明確に分類し、管理している点です。
具体的には、候補者を以下の3つのカテゴリーで定義し、名簿(人財プール)を作成しています。
- Ready Now:今すぐにでも後任として登用可能な人財
- Ready Soon:1〜3年以内に後任となれるよう育成する人財
- Mid Term:3〜5年の長期的なスパンで後任として育成する人財
この3段階の分類に基づき、それぞれの候補者の成長フェーズに合わせた個別の育成計画を推進しています。また、単にスキルを伝承するだけでなく、360度評価やコーチングを積極的に導入することで、候補者本人に多角的な視点での気づきを促し、経営リーダーとしてのマインドセットを醸成する仕組みを構築しているのです。
りそなホールディングス|候補者見える化と継続育成の両立
株式会社りそな銀行(現りそなホールディングス)では、2007年からサクセッションプランを導入し、次世代リーダー候補の戦略的な育成に取り組んでいます。
同社のプログラムは、役員に求める資質を「組織を動かす力」や「変革志向」といった7つの具体的な力として定義し、これらを念頭に置いた体系的な育成を行っているのが特徴です。
この取り組みは、組織の透明性を高めるうえでも大きな役割を果たしています。2002年に旧大和銀行と旧あさひ銀行が統合して発足したりそなグループです。
かつて懸念されていた派閥による「たすきかけ人事」を、サクセッションプランによる客観的な評価基準の導入によって抑制しました。候補者の能力や適性を「見える化」し、長期的な視点で継続育成する体制を整えたことで、公正で納得感のある経営体制の構築に成功しています。
まとめ
サクセッションプランは、単なる「後継者選び」に留まらず、企業の持続的な成長を担保するための経営戦略そのものです。
労働人口の減少や経営者の高齢化が深刻化するなか、個人のカリスマ性や属人的な判断に頼る経営から脱却し、組織としてリーダーを計画的に輩出する仕組みを構築することは、あらゆる規模の企業にとって最優先で取り組むべき課題といえます。
この計画を成功させるためには、まず経営戦略に直結する重要ポジションを特定し、将来のリーダーに求められる要件を定義することから始まります。そのうえで、客観的なデータやフレームワークを用いて候補者を選抜し、戦略的な配置や実戦での経験を通じて長期的に育成していくプロセスが不可欠です。
サクセッションプランの導入に「早すぎる」ということはありません。たとえ中小企業であっても、早期に「バトンの渡し方」をデザインし、育成の仕組みを整えることは、取引先や従業員からの信頼を揺るぎないものにし、100年続く企業へと成長するための確かな土台となります。
まずは自社のビジョンを次世代にどう繋いでいくか、その第一歩を本記事のステップに沿って踏み出してみてください。

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