ハラスメントとは?種類、職場での対策、法律、事例を徹底解説

ハラスメントを直訳すると「嫌がらせ」や「いじめ」です。特に職場では、権力や地位を利用して、弱い立場の相手を身体的・精神的に傷つける行為を指します。
企業内でハラスメントが起きてしまうと、商材の販売や採用面で不利益を被ってしまうリスクがあります。リスクヘッジが必要です。
しかし人事部の方のなかには「何がハラスメントにあたるのか」「具体的に何をすべきなのか」と悩んでいる方も多いでしょう。
そこで今回は「ハラスメント」について、言葉の定義や種類、関連する法律、事例、対策などを網羅的に解説します。
ハラスメント対策を考えている企業の方はぜひご一読いただき、施策として取り入れてみてください。
目次
ハラスメントの基本情報
ハラスメントとは、社会で発生する嫌がらせや暴力行為のことを指し、相手に精神的・身体的苦痛を与える行為です。
代表的な例としては、「相手を侮辱するような言葉を投げかける」「断れない状況を盾に、相手が嫌がることを押し付ける」などが挙げられるでしょう。
ハラスメントは職場だけでなく、家族や友人、その他の社会で発生する可能性があります。加害者側が無意識であったとしても相手が不快に感じたら、ハラスメントとなるため、注意が必要です。
参考記事:中小企業が知っておくべきハラスメントの種類一覧!人材と企業をリスクから守ろう
あなたの会社は大丈夫?職場で起きやすい8つのハラスメント
ここでは、各種ハラスメントのなかでも、特に職場で起きやすいハラスメントを紹介します。
パワーハラスメント
厚生労働省はパワーハラスメントの定義を以下としています。
職場のパワーハラスメントとは 職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる ①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。 なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。 |
この3つの要素をより詳細に定義した表は以下のとおりです。
要素 | 説明 |
①「優越的な関係を背景とした」言動とは | 業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗や拒絶できない関係を背景として行われるもの |
②「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは | 社会通念上、明らかに当該事業主の業務上必要性がない、または相当でない言動 |
③「就業環境が害される」とは | 労働者が身体的・精神的に苦痛を感じ、就業環境が不快になったために能力の発揮に重大な悪影響が生じること |
職場では明確に地位の違いがあります。上司が部下に対して接する際は、特に気を付けましょう。
部下がハラスメントと感じていないかを確認しつつ、接する必要があります。
参考記事:パワーハラスメントの定義を知って職場のトラブルに備えよう!厚生労働省の定義をもとに解説
セクシュアルハラスメント
厚生労働省はセクシュアルハラスメントの定義を以下としています。
職場のパワーハラスメントとは 「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されること |
このうち「性的な言動」の例は以下です。
- 性的な発言の例
- 性的な事実関係を尋ねること
- 性的な内容の情報(うわさ)を流すこと
- 性的な冗談やからかい
- 食事やデートへの執拗な誘い
- 個人的な性的体験談を話すことなど
- 性的な行動の例
- 性的な関係を強要すること
- 必要なく身体に触れること
- わいせつ図画を配布・掲示すること
- 強制わいせつ行為、強姦
本人は冗談のつもりでも、相手からすると不快に感じることがあります。行動をすることはもちろん、発言にも注意しましょう。
また見落としがちですが、異性間だけでなく同性間でもセクシャルハラスメントが該当します。女性が行為者(加害者)になるケースもあるため、発言や行動には十分な配慮が必要です。
妊娠・出産・育児休業等ハラスメント
厚生労働省は妊娠・出産・育児休業等ハラスメントの定義を以下としています。
妊娠・出産・育児休業等ハラスメントとは 「職場」において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業、介護休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業・介護休業等を申出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されること |
妊娠・出産・育児休業等ハラスメントは、いわゆる「マタニティハラスメント」「パタニティハラスメント」「ケアハラスメント」といわれるものです。
妊娠・出産・育児休業等で労働者が不利益を被ることは、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法違反となります。
場合によっては過料が課せられるのはもちろん、企業全体としてブランド毀損となることもあるでしょう。そのため、社内周知を行い、未然に防ぐことが必要です。
カスタマーハラスメント
カスタマーハラスメントは、企業や業界により、顧客・取引先(以下「顧客等」)への対応方法・基準が異なることが想定されることから、明確に定義付けられていません。
ただし、以下のような事例では、カスタマーハラスメントに該当すると考えられています。
- 「顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」の例
- 企業の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合
- 要求の内容が、企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合
- 「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」の例
- 身体的な攻撃(暴行、傷害)
- 精神的な攻撃 (脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
- 威圧的な言動
- 土下座の要求
- 継続的 (繰り返し)、執拗な(しつこい)言動
- 拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)
- 差別的な言動
- 性的な言動
- 従業員個人への攻撃・要求
- 商品交換の要求
- 金銭補償の要求
- 謝罪の要求(土下座を除く)
不当な対価の要求は、カスタマーハラスメントに該当するおそれがあります。
小売店などだけでなく、企業間でもカスタマーハラスメントが起こる可能性もあるため、十分な社員教育が必要です。
就活ハラスメント
厚生労働省は就活ハラスメントを以下の通り、定義しています。
就活ハラスメントとは 「就職活動中やインターンシップの学生等に対するセクシュアルハラスメントやパワーハラスメント」のこと |
就活ハラスメントには「圧迫面接」「オワハラ(就活終われハラスメント)」なども含まれます。
「オワハラ」とは「人材を確保するために他社の内定を辞退するよう促す」「他社の選考に自社の内定式を被せる」などの行為のことです。
就活ハラスメントは70%以上の企業で、防止措置がなされていません。就活生の25%がセクハラを受けており、32%がオワハラについて大学に相談しています。
企業にとって、防止の取り組みが求められているハラスメントといえます。
ワクチンハラスメント
ワクチンハラスメントとは、新型コロナウイルスやインフルエンザなどのワクチン接種に関して、職場内で特定の選択を強要・差別・詮索するような言動を行うことです。例えば以下のようなケースが該当します。
具体例 | 内容 |
接種を強制する発言 | 「打たないなんて信じられない」「君のせいで職場が危ない」など |
接種状況の詮索 | 「打った?何回目?副反応どうだった?」と繰り返し聞く |
接種しない社員の排除 | 打っていないことを理由に会議や飲み会への参加を制限する |
接種後の偏見 | 副反応による欠勤や体調不良に対して「自己責任だ」と非難する |
未接種者への配置転換 | 正当な理由なく別部署やテレワークに移す(差別的扱い) |
厚生労働省いわく、ワクチン接種は「個人の自由な意思に基づくもの」です。接種の有無を理由とした不利益な扱いや精神的圧力は、ハラスメントとして問題になるため注意しましょう。
参考)厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」
モラルハラスメント
モラルハラスメントとは、言葉や態度によって精神的に相手を追い詰める行為のことです。物理的な暴力は伴わないものの、継続的な無視、否定的な発言、過度な批判などが繰り返されることで、被害者の精神的苦痛が深まっていきます。
特に、指導や注意と称して執拗に人格を否定するような言動が日常化している職場では注意が必要です。被害者が「自分が悪いのでは」と思い込み、長期間にわたって耐えてしまうこともあります。
パワハラやセクハラと同様に、放置しておくと重大なメンタル不調や離職につながるため、早期の発見と対応が求められるハラスメントです。
アルコールハラスメント
アルコールハラスメント(アルハラ)とは、飲み会などでの飲酒に関する強要・強制・嫌がらせ行為を指します。例えば「飲まないとノリが悪い」「一気飲みを強要する」といった言動は、相手の体調や意志を無視したハラスメントです。
特に近年では、健康・宗教・個人の価値観を理由にお酒を飲まない人も増えており、飲酒を強要する文化そのものが時代に合わないものとして問題視されています。企業としては、業務外の場でも安全配慮義務を意識し、自由な選択を尊重する風土を醸成しましょう。
厚生労働省のハラスメント防止対策チェックシート
ハラスメントを防ぐため、厚生労働省では「ハラスメント防止対策チェックシート」を設けています。
以下は厚生労働省管轄の「兵庫労働局」が作成したチェックシートです。
- 防止対策としてあらかじめ講じなければならない措置
ハラスメントの内容、方針等の明確化と周知・啓発 |
①職場におけるハラスメントの内容、②ハラスメントを行ってはならない旨の方針を、就業規則その他の規定等に明確化していますか。 |
【妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント】③妊娠・出産・育児休業等に関する否定的な言動が職場におけるハラスメントの発生の原因や背景になり得ること、制度等の利用ができることを明確化していますか。 |
上記①、②及び③を、正社員だけでなく、パートタイム労働者や契約社員、派遣労働者など、全ての労働者に周知していますか。 |
ハラスメントの行為者に対する懲戒等の内容を、就業規則や服務規律を定めた文書等に規定していますか。 |
懲戒規定等を、全労働者に周知していますか。 |
防止対策としてあらかじめ講じなければならない措置 |
相談窓口 |
ハラスメント相談に対する相談窓口を設けていますか。 |
ハラスメント相談窓口を全労働者に周知していますか。 |
ハラスメント相談窓口の担当者が、実際の相談に応じることができる体制がとられていますか。 |
職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置 |
ハラスメントの発生の原因や背景となる要因を解消するため、業務体制の整備(業務分担の見直し等)など、事業主や妊娠等した労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講じていますか(派遣労働者にあっては派遣元事業主に限る)。 |
併せて講ずべき措置 |
相談者等が安心して相談できるよう、相談者や行為者等のプライバシーを保護する旨を、全労働者に周知していますか。 |
就業規則や服務規律を定めた文書等に、ハラスメント相談窓口に相談したことや、労働局に相談したこと等を理由に不利益取扱いはされないことを規定していますか。 |
不利益取扱いはされないことを、全労働者に周知していますか。 |
- 労働者からの相談があった場合に講じなければならない措置
事後の迅速かつ適切な対応 |
迅速かつ正確に、相談者と行為者に対して、事実関係を確認しましたか。【セクシュアルハラスメント】他の事業主に雇用されている労働者からのセクハラ等の場合には、必要に応じて、他の事業主に事実関係の確認の協力を求めることも含まれます。 |
相談者と行為者の主張が一致しない場合、同僚等の第三者からも事実関係を聴取しましたか。 |
ハラスメントがあったことが確認された場合は、速やかに被害者に対する配慮措置を適正に講じましたか。※配慮措置としては、被害者の職場環境の改善や、被害者と行為者の関係改善のための援助、行為者からの謝罪、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等が考えられます。 |
ハラスメントがあったことが確認された場合は、速やかに行為者に対して懲戒規定等に基づいた措置を講じましたか。 |
再発防止措置を講じていますか。※労働者からハラスメントの相談があった場合は、その事案がハラスメントと判断されなかった場合でも、これまでの防止対策に問題がなかったか再点検し、ハラスメントが起こらないための取組を行う必要があります。【セクシュアルハラスメント】他の事業主に雇用されている労働者からのセクハラ等の場合には、必要に応じて、他の事業主に再発防止に向けた措置に協力を求めることも含まれます。 |
併せて講ずべき措置 |
事実関係の確認の際等において、被害者及び行為者等のプライバシーに配慮した対応をしましたか。 |
相談者等に対して、解雇その他不利益な取り扱いはしていませんか。 |
出典:厚生労働省 兵庫労働局「ハラスメント防止対策チェックシート」
実際に自社でハラスメント対策を整備する際は、こちらの内容を参考にしてみてください。
ハラスメントと感じるかは個人差がある
各ハラスメントの定義や例を紹介しましたが、こちらはあくまで目安として考えるようにしましょう。
ハラスメントは受けた側が「不快だ」と感じた時点で成立します。非常に定性的な内容のとなるため、細やかな配慮や工夫が必要不可欠です。
そこでここでは、ハラスメントを起こさないための工夫を2点紹介します。
社員が「嫌だ」と感じるポイントを理解する
同じ行為でもスタッフによって不快感を覚えるかどうかは異なります。
たとえば、業務の進行に関わる指示に関して、ある人には前向きなフィードバックとして受け取られ、別の人にはプレッシャーとして感じられることがあります。
そのため、一人ひとりが「嫌だ」と感じるポイントを理解しておくことが重要です。
たとえば、部門ごとに「ハラスメントチェックシート」やツールを配布し、「各社員がどのような状況で不快感を感じるか」を定期的に確認することは効果的です。
「頼りにしているぞ、と声をかけられたらどう感じるか」などの項目で質問することで、個々の感じ方を把握できるようになります。
この情報を管理職が把握することで、ハラスメントを未然に防ぐことにつながります。
ハラスメントの意識を強く持っておく
ハラスメントの意識を強く持つことは、企業内のリスクを軽減し、健全な職場環境を維持するために非常に重要です。「意識を持つ」とは具体的に以下を指します。
- 「自分の言葉や行動が相手を傷つけていないか」を意識する
- 相手が不快感を示していることに気づく
- 明確な社内のハラスメントルールを知っておく
- 管理職として定期的に部下との1on1などを開催する
- 目撃した際はすぐに報告する
企業としては、社内の意識を高めるために、単にハラスメント防止のルールを作るだけでなく、定期的にセミナー・研修を開催しましょう。
その際にロールプレイやシミュレーションを取り入れた実践的なトレーニングを行うと、より理解度を高められます。
また相談窓口を設けるのは必須です。従業員が相談しやすいよう「匿名投稿にする」「個人情報の取り扱いに気を付ける」などの対策をしたうえで、設置しましょう。
ハラスメントに関する法律
続いて、ハラスメントに関する法律上の知識を紹介します。
刑法上
ハラスメントの内容によっては刑法上の犯罪に該当する可能性があります。たとえば以下の罪が該当します。
名称 | 内容 |
暴行罪(刑法208条) | 暴力をふるってしまう |
傷害罪(刑法204条) | 暴力をふるい、怪我をさせてしまう |
名誉毀損罪(刑法230条) | 他人の名誉を毀損する行為を働いてしまう |
侮辱罪(刑法231条) | 他人を侮辱する言葉を口にしてしまう |
強制わいせつ罪(刑法176条) | 脅迫や暴行などで反抗できない状態にしたうえでわいせつな行為をしてしまう |
民法上
民法上では、ハラスメントにより「不法行為(民法709条)」に該当してしまう可能性があります。
不法行為とは「故意、または過失によって他人に損害を与える行為」です。
たとえば上司が部下に強い言葉を浴びせ、部下が出社できない状態になったとしましょう。
この場合、部下は休職による損害が発生します。この損害を上司は賠償しなければいけません。
またはハラスメントが起きた際、企業としては「使用者責任(民法715条)」を追う可能性があります。
そのほか、労働者がハラスメントによって健康を害した際には「安全配慮義務違反(民法415条)に該当するケースもあります。
ハラスメントは犯罪にあたるのか
すべてのハラスメントが犯罪に問われるわけではありません。
しかしハラスメントを受けた労働者の状態によっては、刑法・民法問わず犯罪に該当をするケースがあります。
ただし、企業としては「犯罪にあたるか否か」ではなく、「そもそもハラスメントを起こさないこと」を重視しながら、クリーンな環境を整備しましょう。
企業のパワハラ対策は義務化されている
現在、パワハラに関しては各企業の防止措置が義務化されています。
2020年6月1日に改正パワハラ防止法(労働施策総合推進法)が施行、2022年4月の改正に合わせて、全企業にパワハラ防止措置が義務化されました。
具体的には以下の措置を講ずべきだと定義されています。
項目 | 内容 |
事業主の方針等の明確化および周知・啓発 | ①職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること ②行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等文書に規定し、労働者に周知・啓発すること |
相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 | ③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること ④ 相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること |
職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応 | ⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること ⑥ 速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと ⑦ 事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと ⑧ 再発防止に向けた措置を講ずること(事実確認ができなかった場合も含む) |
併せて講ずべき措置 | ⑨ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、 その旨労働者に周知すること ⑩ 相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること ※労働者が事業主に相談したこと等を理由として、事業主が解雇その他の不利益な取り扱いを行うことは、労働施策総合推進法において禁止されています。 |
出典:厚生労働省「労働施策総合推進法に基づく「パワーハラスメント防止措置」が中小企業の事業主にも義務化されます!」
違反した場合の罰則はありませんが、問題がある企業には行政より指導が入ります。
それでも改善されない場合は企業名が公表される可能性もあるため、注意が必要です。
企業の評判を落とさないためにも、必ず対策をしましょう。
パワハラにおける「職場」と「労働者」とは
厚生労働省はパワーハラスメントの定義にあたって、「職場」と「労働者」を明確に定めています。以下が、その条件です。
パワーハラスメントの「職場」とは 事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれます。 勤務時間外の「懇親の場」、社員寮や通勤中などであっても、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に該当しますが、その判断に当たっては、職務との関連性、参加者、参加や対応が強制的か任意かといったことを考慮して個別に行う必要があります。 「職場」の例:出張先、業務で使用する車中、取引先との打ち合わせの場所(接待の席も含む)等 |
パワーハラスメントの「労働者」とは 正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員などいわゆる非正規雇用労働者を含む、事業主が雇用する全ての労働者をいいます。 また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者(派遣先事業主)も、自ら雇用する労働者と同様に、措置を講ずる必要がある。 |
つまり職務が発生している場所であれば、オフィス内以外の場所であっても対象になります。また社員だけでなく非正規雇用労働者も対象です。
部下から上司へのハラスメント(逆パワハラ)にも注意
ハラスメントというと上司から部下への「パワーハラスメント」を想起しがちですが、部下が上司に対して行う嫌がらせや精神的圧力も問題視されています。いわゆる「逆パワハラ(リバース・ハラスメント)」です。
とくに近年は、管理職の立場が相対的に弱くなっている場面も多く、部下による悪意ある訴えや不当なクレーム、集団的な圧力によって、職場の秩序が崩れるケースも報告されています。
主な事例は以下です。
逆パワハラの例 | 内容 |
SNSや社内チャットでの誹謗中傷 | 上司の言動を切り取り、匿名で投稿するなど |
指導への過剰な反発 | 正当な注意に対し「パワハラ」と繰り返し訴える |
職務命令の無視・集団無視 | 指示に従わず、周囲を巻き込んで孤立させる |
社内の信用失墜行為 | 上司の失敗をことさらに広め、評価を下げる |
パワハラの定義は「優越的な関係に基づく」とされていますが、業務上の地位が上でも、実態として部下からの精神的優位がある場合には当てはまることがあります。
管理職だからといって、全てを我慢する必要はありません。不当な言動は明確にハラスメントとして記録し、適切に上位部署や人事に相談すべきです。
職場で起こるハラスメントの原因
職場でハラスメントが起きる原因について、よくあるパターンを紹介します。
社員同士のコミュニケーション不足
職場でのハラスメントは、社員間のコミュニケーション不足が原因となることが多いです。
コミュニケーションが不足していることにより、誤解が生まれるほか不満が溜まりやすくなります。
また相手が不快感を覚えるポイントを理解しにくくなり、配慮に欠けた言葉を口にしやすくなってしまいます。
職場の文化
企業の文化が、ハラスメントを助長する場合があるため、注意しましょう。
たとえば上下関係が厳しい職場や、従業員間の競争が激しい職場では、ハラスメントが発生しやすくなります。また先輩の姿を見て、後輩もハラスメントへの配慮が欠けてしまうこともあるでしょう。
文化を変えることは簡単ではありませんが、地道に改善に取り組むことが重要です。
ハラスメントの理解不足
ハラスメントに関する知識が不足していると、知らず知らずのうちに問題行動を行うことがあります。従業員に対する教育が必要です。
企業で起きた具体的なハラスメント事例5選
続いて、実際の事例を5つピックアップして紹介します。
【セクハラ】A市役所
市職員が勤務中、制服姿でコンビニの女性従業員にわいせつな行為を行い、停職6ヶ月の懲戒処分を受けました。
加害者は日常的にコンビニ従業員に対して不適切な発言や身体的接触を繰り返していました。
日常的にセクシャルハラスメントを繰り返していたことから、加害者の意識が低かったことが予想されます。防止には、日常的な教育とモニタリングが必要です。
【セクハラ】生命保険会社
Y社の忘年会で、上司が部下に対してセクハラ行為を行い、被害者が損害賠償を求めた事案です。
上司による酒席での不適切な行為が問題となりました。ただし被害者側もむしろ煽るような行動をしたという事例です。
飲み会などの場では、その場の空気を盛り上げるため、ハラスメント行為に及ぶ可能性があります。
企業としてはリスクを回避するため、管理職を含む従業員への教育と年末年始などの注意喚起をする必要があります。
【パワハラ】A保険会社
Xは上司Yから「やる気がないなら会社を辞めるべき」との内容を含むメールを送られました。名誉毀損を主張し損害賠償が認められた事例です。
「上司が部下を叱咤激励する」という目的はあるものの、言葉の使い方が侮辱的でありハラスメントとなりました。
業務指導は大切ですが、それ以上に尊厳の確保は重要です。メールやチャットの際には適切な表現を心掛けるべきだといえます。
企業として「ポリシーを設ける」「禁止ワードを設ける」などの対策を取るべきです。
【パワハラ】A旅館
旅館を経営するYが、従業員Xを客室係から厨房洗い場係に配転しました。
これによりXが、結果的に退職せざるを得なくなったとして慰謝料を求めた事例です。
Xが従業員のなかではパフォーマンスが悪かったのは事実でした。
しかし過度に業務能力が劣悪ではなく、本人の同意がないなかでの配転は不法行為とみなされました。
ここでの争点は「業務上、配転の必要性があったか」です。今回はY側が主張する配転理由について必要性が乏しかったといえます。
異動・配転などの際は客観的に見たうえで妥当か否かを正しく判断する必要があります。
参考:厚生労働省「【第34回】 「客室係から厨房洗い場係に配置転換する旨の配転命令が不法行為と判断された事案」 ―」
【名誉棄損】A社
特定の政党の支持者であることを理由に、Yを中心とする従業員グループがXを排除しようとした事例です。Xは私物をロッカーに保管していたにもかかわらず、無断で開けられ、撮影までされるという被害を受けました。
Xは名誉やプライバシーを侵害されたとして慰謝料を求めて提訴し、結果的に名誉毀損が成立した事例です。
ここでの争点は「個人の思想や人間関係を理由に、職場で排除する行為が許されるか」でした。今回は、Yらの行動が企業秩序を著しく乱し、Xの人格的尊厳を侵害するものと認められ、名誉毀損が成立したのです。
職場での人間関係や思想信条の違いを理由に不利益な取扱いをする場合、感情的ではなく、客観的な視点から妥当性を判断することが重要であることを覚えておきましょう。
参考)厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせに関連すると考えられる裁判例(一例)」p.3
会社が取り組むべきハラスメント対策
こうしたハラスメントを未然に防ぐために、会社全体で取り組むべき対策を紹介します。
不安ごとを相談しやすい雰囲気づくり
不安や不満が溜まってしまうことで、ハラスメントにつながる可能性があります。
まずは従業員が不安を相談しやすい雰囲気を醸成することが重要です。
オープンなコミュニケーションを推奨することで、ストレスなく働ける状態を作ることが大事です。
ハラスメントを正しく理解する
無意識的にハラスメントをしてしまう従業員もいます。
そのため企業としては、ハラスメントの定義や具体的な例を従業員に周知し、適切な行動基準を明確にすることが必要です。
従業員全員がどのような行為がハラスメントに該当するのかを理解することで、無意識にハラスメント行為を行うリスクが減少します。
ハラスメント研修を定期的に受ける
ハラスメントに対する意識を高めるために、定期的に研修を実施しましょう。
研修を通じて新しい法律や社内ルールの理解を深め、適切な対応方法を学ぶことで、組織全体のハラスメント防止能力が向上します。
参考記事:中小企業のハラスメント研修は義務化?研修の進め方、実施方法をして効果を最大化!
対応マニュアルを作成し周知する
ハラスメントが発生した場合に備え、対応マニュアルをあらかじめ整備しておくことは極めて重要です。
トラブルが起きてから慌てて対応を考えるのではなく、相談受付の流れ・調査手順・当事者への対応・再発防止策までを一貫して明文化しましょう。
また、作成したマニュアルは一部の管理職だけが知っているのではなく、全従業員に向けて定期的に周知・更新を行うことが大切です。必要に応じて、研修や社内ポータルなどを通じて全社的に共有しましょう。
ハラスメントをなくすために中小企業ができること
中小企業では人員や予算が限られるため、大企業のような大がかりな制度を導入するのが難しい場合もあります。しかし、基本的な方針と習慣の整備を行うことで、ハラスメント防止の実効性を高めることは十分可能です。
以下に、中小企業が実践しやすい取り組みを紹介します。
ハラスメントを防ぐための社内ルール明文化
「どこからがハラスメントか分からない」という状態をなくすためには、社内での禁止事項や対応方針を明文化しておくことが有効です。
就業規則やコンプライアンス規程などにハラスメント防止に関する記載を盛り込み、社員全体に共有することで、ルールに基づいた行動が求められる土壌ができます。
また、「違反時の処分」だけでは不十分です。「相談があった際の手順」や「会社としての対応姿勢」も明記しておくことで、従業員の安心感と企業の信頼性が高まります。
予防研修と意識啓発の仕組み化
ハラスメントの多くは、加害者が「これは冗談のつもりだった」と言い訳するケースが見られます。悪気がない言動であっても、受け手が不快に感じればハラスメントに該当するという認識を社内で共有しましょう。
そのために有効なのが、年1回などの定期的な研修です。社内研修に加え、外部の専門家による講義やeラーニング教材を活用しましょう。
また、ポスター掲示や社内メールによるミニ啓発など、日常的に目に触れるかたちでの啓発も継続的に実施すると、自然と社内の意識が高まっていきます。
コミュニケーションの習慣をつける
中小企業では、部署やチームの人間関係が密な反面、閉鎖的な雰囲気がハラスメントを見えづらくすることもあります。
そのため、上司と部下の1on1ミーティングを定期的に実施したり、雑談を交えた朝会を取り入れるなど、日常的に会話できる環境をつくることが大切です。
こうした機会を通じて、従業員の小さな悩みや違和感をキャッチしやすくなり、問題の早期発見・対処につながります。
ハラスメント研修とは
ハラスメント研修は必須ではありませんが、ハラスメントを防止するうえでは重要な試みです。もちろん自社でプログラムを制作して、研修を実施することもできます。
他にも、プロの研修を受けるという選択肢もあるでしょう。サービスを提供している企業のなかから、自社にあったサービスを選んでください。
代表的なeラーニングサービス
ハラスメント防止のため、さまざまな企業がeラーニングサービスを展開しています。
またこの他、厚生労働省がハラスメントのオンライン研修を開いています。初級的な内容を学べますので、ぜひ参考にしてみてください。
ハラスメントが発生した場合の4つの対応ステップ
最後に「自社でハラスメントが発生してしまった際の対応」について4つのステップで紹介します。
1. 事実確認をする
ハラスメントが報告された場合、最初に行うべきは事実確認です。
被害者、加害者、目撃者など関係者全員からの聞き取りを行い「発言」「行為」について経緯・内容を把握します。
証拠があれば集め、客観的に検証することが重要です。調査は公正かつ迅速に行い、双方の意見を偏りなく確認しましょう。
2. 関係者に対する措置(処分・フォロー)を講じる
事実確認が終了した後、加害者に対して適切な処分を講じます。
厳重注意、減給、降格、解雇など、行為の重大性に応じて決定しましょう。またこの際、加害者と被害者を引き離すことが必要です。
被害者には必要なフォローアップを行い、カウンセリングや職場環境の改善、適切な再配置を検討しましょう。
3. 再発防止策を適切に実施する
その後は再発を防止するための対策を講じることが不可欠です。
「ハラスメント防止のための研修の実施」「ストレスチェック」などを全社員に対して定期的に実施しましょう。
職場全体の意識向上を図るとともに、従業員をケアすることが必要です。
また「報告体制の整備」など、組織的な改善も必要になります。
ハラスメントが原因で退職する際の企業側の注意点
ハラスメントによる離職を「未然に防ぐ」ためには、兆候の把握から相談体制、退職時対応まで一貫した備えが重要です。以下に、企業がとるべき対策を整理しました。
注意点・対応策 | 内容 |
小さな異変に早期に気づく | 表情や勤務態度など、従業員のちょっとした変化に気づけるよう、日常的な声かけ・1on1面談を実施。孤立や不調のサインを見逃さない体制を整える。 |
第三者的な相談窓口の設置 | 上司に言いづらい悩みも話せるよう、人事や社外カウンセラー・弁護士など中立的な窓口を用意する。匿名相談やチャット窓口も有効。 |
退職理由の丁寧なヒアリング | 退職時には「なぜ辞めるのか」を形式的でなく真摯に確認。特に「人間関係」などの裏にハラスメントの可能性がないか注意深く聞き取る。 |
記録と検証の徹底 | ヒアリング内容は記録し、ハラスメントの可能性があれば内部調査と関係者への適切な対応を行う。再発防止にもつなげる。 |
辞めたら終わりにしない | 退職者アンケートや面談を通じて、会社に残された改善課題を抽出。社内制度・教育・評価体制の見直しにつなげる。 |
このように、退職という結果を受け入れる前に、いかに「気づき」「聞き」「改善につなげるか」が重要なポイントです。未然防止の仕組みを整えることで、従業員の定着と信頼性ある組織づくりが可能になります。
まとめ
今回はハラスメントについて、概要、法律、原因と対策、事例などを網羅的に解説しました。
企業にとって、ハラスメントの発生はブランド力を大きく損なう原因になります。この結果、売り上げが低迷したり、採用しにくくなったりと、リスクがありますので、事前に抑止策、対策を考えておきましょう。
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