売上激減、役員解任、事業再構築・・・
二度の経営危機で問われた「経営の覚悟」
マモリノジダイは、企業の守備力を高め、倒産を1社でも減らすための情報発信を目指すメディアです。——そして「会社を守る」というテーマにおいて”経営危機からの立ち直り”ほど大きな学びはありません。
今回は、3年間で2度もの売上激減を経験し、抜本的なビジネスモデル転換で切り抜けた【バヅクリ株式会社】佐藤太一 社長に当時の話を聞きました。
「絶望という言葉すら生ぬるい」という、リアルすぎる経営危機の現場......そしていま中小企業の経営者と「マモリの要」であるバックオフィス担当社員たちに伝えたいこととは?
■プロフィール

佐藤 太一
2007年 早稲田大学大学院国際情報通信研究科修了。チェンジ、DeNA、アクセンチュアなどを経て、みんなのウェディング経営企画部長兼IPO室長としてマザーズ上場(2013)を指揮。2013年にPLAYLIFE株式会社(現・バヅクリ株式会社)を創業。人事コンサル/研修/制度設計サービス等を展開し、みずほ銀行・トヨタなど約1000社に導入されている。
■月間PV3000万の「遊び」情報メディアが瞬殺された日

—— 経営危機の時期について教えてください。
バヅクリ・佐藤太一社長 2020年のことです。そのころ我々はメディア事業を主軸にしていました。「PLAYLIFE」という遊びの情報メディアで、ユーザーが自身が余暇時間に遊んだスポット、たとえば飲食店やホテルなどを投稿する「クックパッド」の遊び版といったものです。ユーザー数は月間で400万人を超え、月のPVは3000万に達していました。
—— ビジネスモデルは広告収益ですか。
佐藤社長 バナー広告のほか、ホテルのアフィリエイト広告も好調で、年間2億円ほどの広告収入がありました。社員数は約10名ほどでしたが、2017年には資金調達も実施し、上場も見据えていくタイミングでした。
—— いわゆる有望なスタートアップだった、その状況が一変した理由は?
佐藤社長 決定的な打撃はコロナです。ちょうどコロナで非常事態宣言があった2020年の4月です。「外出禁止」が宣言された瞬間、主要顧客であった旅行・レジャー業界の広告出稿がストップし、問い合わせ数もユーザー数も、媒体価値をつくる要素が全て失われました。
コロナが始まった時期は「長くは続かないだろう」という感覚。しかし緊急事態宣言から2ヶ月で、約2億の広告収入のうち1億5000万が吹っ飛びました。
■「GWを俺にくれ」10日でビジネスモデル転換 その結果は?

―― 一瞬で収益源が絶たれた、当時の心境は。
佐藤社長 コロナ禍はもちろん想定外でしたが、その2年ほど前から、事業としてはなんとなく限界を感じていました。原因はSNSの普及です。リアルな情報を毎日投稿し続けるインスタグラマーの登場に「これはメディアでは勝てないかもしれない」とは思っていた。倒産を避けるにはビジネスモデルを変えなければならないと決意し、5月に社員を自宅に集めました。「みんなのゴールデンウィークを俺にくれ。10日間で3つ事業作ろうぜ」と。その結果......できたんですよ。「遊び」を軸にした法人向けのソリューションでした。
―― 凄まじいスピードですね。それが現在の主業であるBtoB支援サービスなのですか。
佐藤社長 いいえ。立ち上げた事業は、当社の強みである「遊び」を取り入れた「福利厚生の設計」「ステイホームのオンラインイベント」「製品プロモーション」。そして、その3事業は一つも当たりませんでした。100社以上ヒアリングした結果、福利厚生は面白がってもらえるが「お金を払って頼むものではない」。ステイホームのイベントも、プロモーションも営業にかなり苦戦し、スタートから2ヶ月ほどテストマーケティングを行いましたが、全然ダメでした。
―― 社員総出で立ち上げた起死回生の策が、全滅したと。
しかし、その時期に気になる領域を見つけました。Googleの検索キーワードで「内定者フォロー」というキーワードが月間で7000回検索されていたんですよ。ステイホームで入社式などのリアルイベントができないなか、内定辞退を食い止めるニーズが発生していたんです。
そこでオンラインイベントで在宅している内定者をフォローするサービスを立ち上げ、いままでのメディアのドメインパワーを使ってSEOを仕掛けました。すると最初に問い合わせがあったのが大手製薬会社。製造、銀行など業種を問わず続々と引き合いがありました。それが現在の社名でもある「バヅクリ」というサービスです。社員向けのワークショップやウェルネスなどのオンラインイベントを年間や単発契約で支援するモデルで、業績はV字回復——。しかし、長くは続きませんでした。
■コロナ収束で「二度目の経営危機」が発生

—— その後も苦しい時期があったのでしょうか。
内定者フォロー事業のヒットのおかげで採用もうまくいき、社員数は10名から40名程度まで伸びていた、2023年5月。もう一度経営危機に陥りました。
ある日、大手クライアントの労働組合から電話がかかってきて、「来期は『バヅクリ』継続しないことになりました」と言うんです。どうしたんですか? と聞いたら「来期のイベントはイチゴ狩りになります」と。
—— コロナ収束でリアルイベントが開催可能になり、かわりにオンラインイベントのニーズが減ったということですか。
はい、ガタ下がりでした。私も「そうか、いくらオンラインで盛り上がっても、イチゴ狩りには勝てねえな」という直感があった(笑)。売上が5月でポーンと4分の1以下に減り、6月以降の売上も見込みが立たなくなりました。緊急で役員会が開かれ、会議室で株主とCFOから、「このまま行けばキャッシュアウト、あと半年で潰れます」とお葬式のような顔で告げられました。
—— たった半年ですか。
私が選任した役員や監査役たちが、私の会社をどう潰すかという相談をしているんです。正直、「こいつら、バカなのか......?」と思いました。「じゃあ僕が立て直します」と宣言して、そこにいた役員9人のうち6人を解雇し、私とCTOとCOOだけ残しました。

—— どんな手を打ちましたか。
大きくは、2つあります。まずはキャッシュフローの改善です。「半年で潰れる」と言われた一番の原因が、損益分岐点が高すぎたことでした。社員を先行投資で採用していたからです。すぐに社員と話し、40名から20名に削減しました。事業も分散してしまっていたため、単価が高くて継続性がある「内定者フォロー」「従業員エンゲージメント」「研修」、この3つの事業だけを残しました。
もうひとつは「遊び」の要素を封印したことです。単なるイベント提供から、サーベイでの現状把握と解決策としての施策をセットで提供する「人と組織を変える」コンサル型のモデルへ移行しました。
創業期からついてきてくれた社員たちに「うちはもう『遊び』の会社じゃない」と話し、ホームページから「遊び」という言葉を抜きました。これはきつかったですね。
■経営危機から立ち直るための「人事・採用」

―― 経営危機にあたって自社の人事・採用面の変化は。
かつての遊び好きでアイデア豊富な人材中心の組織から、顧客の経営課題を構造的に理解し解決策を提示できるプロ集団へと脱皮するために、採用する人材のイメージも変わりました。力を入れたのは、コスト感覚があって利益を考えられるセールス領域の経験者採用です。あとは圧倒的に人間力ですね。コミュニケーション能力がめちゃくちゃ高い人であれば、異業種でもいける。損益分岐のラインを常に考えながら、今増やすべき人だけを狙って採用しています。
評価報酬制度も刷新しました。それまでは上長評価のざっくりしたもので、インセンティブもありませんでした。目標の達成度合いだけで評価していましたが、そもそもの目標設定が高い人と低い人がいるという穴もありました。
—— 目標達成評価の難しいところですね。業績には貢献しているのに目標としてはクリアできず、マイナス評価になる。逆のパターンもあります。
明確な「成果とスキル」に基づいた基準へ刷新し、職種と役職に応じたマインドとスキルを全て整理し、達成度と年収レンジを業界平均にもかんがみて作り込みました。いままでがざっくりすぎたんです。
—— 経営のかじ取りとして難しかったところは。
常に利益を意識して動くという、社員のマインドセットですね。利益は社員からすれば見えにくいし、稼ぐことへの抵抗感がある人もいるでしょう。そうしたなかで、どう「売上」「利益」を社内の共通言語として浸透させるか。ここは現在も取り組んでいます。

―― 社員が経営的な目線を持つには、非常に大きなジャンプが必要では。
そうですね。会社がどのような収支構造で動いているか、利益がどこに配分されるかを詳細にしました。
まずは社員が「自分たちはイベント屋ではなく、組織をアップデートするパートナーである」という自負を持つことです。売上を増やすためには、お客様への認知度も、質のいいお問い合わせを増やすことも必要。サービスに満足するから継続するし、単価も上がる。そして自分たちも成長する、仕事を楽しめる——そしてゆくゆくは、経営危機から脱するためにいったん封印した「遊び」の要素を、また打ち出していきたいんですよ。
■中小企業の経営者と、バックオフィス担当者へ

経営者に対しては、キャッシュが月次でプラスになる最低限の体制を常に意識することです。もっともミニマムで本質的な自社の形とは何なのか? そこを固めれば、危機的状況から再出発できる。
そして慎重になること......経営って、なんとなく決定する時が一番怖いんですよね(笑)。「その場で即決したらなんかかっこいいかも」って感じでGOしてしまうとき、ありますよね。でも、本当にこれが売り上げや利益に直で貢献してるかをちゃんと考えて判断することなのかなと思います。
現場で働いているバックオフィスの人たちには、あなたは物凄く大切な仕事をしていると伝えたいですね。
バックオフィスの方たちはみんなCFOであり、COOであるという目線を常に持ってほしい。社長に「何が基準で、その行動をしているんですか?」と聞きまくること。それを鵜呑みにするんじゃなくて、ちゃんと疑いにかかること。最後の砦として会社を守る存在であってほしいと思います。
| ■取材 バヅクリ株式会社 https://buzzkuri.co.jp/company |
関連記事
-
労災リスクから会社を守る
メンタルヘルス対策は企業の義務「最近、気分が沈んで仕事に集中できない」「職場に行くのがつらい」-現代の職場では、こうした声が決して珍しいものではなくなってきました。メンタル不調は、誰にでも起こり得る“働く人全員の問題”となっています。厚生労働省の調査によると、精神疾患を理由とした労災請求件数は年々増加傾向にあり、うつ病などによる休職や離職も後を絶ちません。
-
中小企業の経営者・人事労務担当者が知っておくべき
離職防止とエンゲージメント向上2,200社以上の組織データを解析し、「人×データ×AI」で企業の挑戦を支える株式会社ラフールに取材。経済産業省の研究会や実証事業などにも参画し、一般社団法人「心の健康投資推進コンソーシアム」理事を務め、人的資本経営・ウェルビーイング経営支援の最前線に立つ結木 啓太社長に聞きました。
-
コンプライアンス教育推進事例 ACワークス株式会社様
今後のコンプライアンス教育の課題は、世の中の変化を常にキャッチアップし続けることだと考えています。時代によって求められる教育内容は変わるため、その変化を的確に捉え、タイムリーに従業員に伝えていくことが重要です。
-
中小企業こそ備えを - 労務整備が未来の企業価値を守る
今回は、社会保険労務士法人Knowledge Works代表社員で特定社会保険労務士の佐保田藍氏に、事業承継やM&Aの場面で表面化しやすい「労務整備の遅れ」について、中小企業が抱える具体的な課題とその対策を伺いました。
-
甘く見ていた…それが命取りに。
中小企業こそやるべき反社チェックのリアル・ノウハウ今回は、コンプライアンスチェックを自動化できるツール「RoboRobo コンプライアンスチェック」を展開するオープン株式会社 RoboRobo事業部 営業本部 セールス部 兼 アライアンス部 部長の関根氏に、反社チェックの基本、実務上の留意点、対応時の考え方について詳しく伺いました。

マモリノジダイとは
会員登録






