労働安全衛生法施行令を正しく理解しよう!気になる条文を確認して安定経営を実現
労働安全衛生法施行令は、働く人々の安全と健康を守り、企業の持続的な成長を支える基盤となる重要な法令です。
労働安全衛生法施行令の内容を正しく理解し、適切に対応することは、法令違反のリスク回避はもちろん、労働災害を未然に防ぎ、結果として安定した経営を実現するために不可欠です。
この記事では、労働安全衛生法施行令の概要から、とくに知っておくべき条文や別表、近年の改正動向、そして中小企業が具体的に取るべき対応ステップまでをわかりやすく解説します。
目次
労働安全衛生法施行令とは?
労働安全衛生法施行令とは、労働安全衛生法に基づいて政府(内閣)が定める政令のことです。
法律だけではカバーしきれない、より詳細なルールや基準、手続きなどが定められています。いわば、労働安全衛生法という原則を実現するための、具体的な行動規範集といった位置づけです。
労働安全衛生法施行令には、事業者が安全な職場環境を整備するために従うべき重要な条文が数多く盛り込まれています。たとえば、危険な作業や有害な物質を取り扱う際の具体的な対策、安全基準、作業主任者の選任、各種届出義務などです。
参考)e-Gov 法令検索「労働安全衛生法施行令」
労働安全衛生法との違いは?
労働安全衛生法は、労働者の安全と健康確保、快適な職場環境の形成促進という大きな目的と、それを達成するための基本的な理念や仕組みを定めた幹となる法律です。
一方、労働安全衛生法施行令は、その労働安全衛生法で定められた大枠のルールを、実際の職場でどのように具体的に適用するのかを定めた細則です。
両者の違いがわかる例は以下になります。
- 労働安全衛生法:「安全運転を心がけましょう」という交通ルールの大原則
- 労働安全衛生法施行令:「制限速度は何キロです」「一時停止の標識では止まりましょう」といった具体的な規則
参考)e-Gov 法令検索「労働安全衛生法」
中小企業がチェックすべき労働安全衛生法施行令の条文・別表
労働安全衛生法施行令は、非常に多くの条文と別表から構成されていますが、すべての事業所に同じように関係するわけではありません。
ここでは、多くの中小企業にかかわる可能性のある、重要な労働安全衛生法施行令の条文と別表に焦点を当てて解説します。
知っておきたい労働安全衛生法施行令の重要条文
ここでは、とくに多くの事業活動にかかわる可能性のある重要な条文をいくつかピックアップして解説します。
労働安全衛生法施行令 第6条が定める作業主任者の選任
労働安全衛生法施行令第6条は、労働安全衛生法第14条に基づき、特定の危険または有害な作業をおこなう際に、その作業を直接指揮・管理する「作業主任者」の選任を義務付けています。
高圧室内作業、有機溶剤などを使用する作業、特定の機械の組立て・解体作業など、政令で定められた20種類以上の作業が対象です。
作業主任者は専門的な知識や技能を有し、作業方法の決定や指揮、安全装置の確認などの重要な役割を担い、労働災害の発生を防ぐ要となります。
労働安全衛生法施行令 第21条で定められる製造等の禁止
労働安全衛生法施行令第21条は、労働者に重篤な健康障害を引き起こすおそれがある、とくに危険性・有害性の高い一部の化学物質について、原則として製造、輸入、譲渡、提供、または使用することを禁止しています。
これらの物質の使用は、試験研究目的など政令で定める場合を除き認められておらず、事業者は代替物質への転換や厳格な管理が求められます。
労働安全衛生法施行令 第18条の規定に基づき厚生労働大臣の定める基準について
労働安全衛生法施行令第18条第3号および第18条の2第3号に関連し、厚生労働大臣は特定の化学物質等について、労働者が有害な物にばく露される濃度の許容限度など、疾病予防のための基準を定めています。
これは、労働安全衛生法第28条第1項に基づく化学物質等による健康障害の予防措置の一環です。
事業者は、これらの基準に基づき、作業環境測定の実施やリスクアセスメントの結果に応じた適切なばく露防止措置を講じ、労働者の健康管理に努める必要があります。
参考)
e-Gov 法令検索「労働安全衛生法施行令」
e-Gov 法令検索「労働安全衛生法」
労働安全衛生法施行令の別表を徹底解説
労働安全衛生法施行令には、さまざまな規制対象が別表として具体的にリストアップされています。
主要な別表が定める内容を以下にまとめました。
| 別表名 | 内容 | 例 |
| 別表第1 | 危険物 | 爆発性の物 発火性・引火性の物 酸化性の物、可燃性ガスなど |
| 別表第2 | 特定機械等 | ボイラー 第一種圧力容器 クレーン 移動式クレーン デリック エレベーター 建設用リフト ゴンドラなど |
| 別表第3 | 特定作業 | 高圧室内作業 アセチレン溶接装置を使用する作業 ガス集合溶接装置を使用する作業など |
| 別表第6 | 作業環境測定をおこなうべき作業場等 | 有害なガス 蒸気 粉じん 放射線等が発生する作業場 石綿等を取り扱う作業場など |
| 別表第6の2 | 局所排気装置等を設けるべき場所 | 有機溶剤や特定化学物質等を取り扱う場所など |
| 別表第9 | 名称等を表示・通知すべき危険物及び有害物等 | 化学物質のうち、労働者に健康障害を生ずるおそれのある約640物質 |
参考)e-Gov 法令検索「労働安全衛生法施行令」
労働安全衛生法施行令の別表を確認することは、どのような安全衛生上の管理義務を負うのかを正確に把握するための第一歩です。
とくに注意したい「石綿障害予防規則」
「石綿障害予防規則」とは、労働安全衛生法に基づき定められた厚生労働省令の一つです。石綿(アスベスト)または石綿をその重量の0.1%を超えて含有する物を取り扱う作業において、労働者が石綿による健康障害を予防するための具体的な基準を定めています。
この規則は、石綿による非常に重篤な健康障害を防ぐことを目的としています。とくに建築物の解体・改修工事などで石綿含有建材を取り扱う機会が多い事業者は、この規則の内容を正確に理解し、遵守する義務があります。
労働安全衛生法施行令の別表6と9にもこの石綿が含まれており、ばく露の状況を把握するための作業環境測定義務や石綿を含む製品や物質を取り扱う際の表示、SDSの交付義務が定められていることに注意が必要です。
参考)e-Gov 法令検索「石綿障害予防規則」
労働安全衛生法施行令の最新改正情報
労働安全衛生を取り巻く環境は、技術の進歩、新たなリスクの顕在化、社会的な要請の変化などにより常に変化しています。これにともない、労働安全衛生法施行令も必要に応じて改正がおこなわれます。
労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令とは?
労働安全衛生法施行令の改正は、「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令」という形で公布されます。
新たな危険物や有害物の指定、特定機械等の範囲の見直し、作業環境測定の対象拡大、届出事項の変更など、法改正の趣旨に沿って、より具体的な規制内容や対象範囲を定めるために改正がおこなわれます。
近年の重要な労働安全衛生法施行令の改正ポイント
労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(令和7年政令第35号)は、令和7年2月19日に公布され、施行は令和9年4月1日からとされています。
この改正では、国がおこなうGHS分類(化学品の分類方法)の結果に基づき、ラベル表示やSDS交付が必要な化学物質の対象範囲が拡大されました。
参考)厚生労働省「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の施行について」
中小企業が労働安全衛生法施行令に対応しないとどうなる?
労働安全衛生法施行令やそれに基づく各種規則への対応は、中小企業にとって単なる義務ではなく、事業継続にかかわる重要なリスク管理です。
労働安全衛生法施行令に適切に対応しない場合、以下のようなさまざまな不利益やリスクを負う可能性があります。
- 法的な罰則を受ける可能性
- 労働災害の発生リスク
- 社会的信用・信頼の失墜
- 経済的な損失が発生
このように、労働安全衛生法施行令に対応しないことは、法的なリスクだけでなく、人命にかかわるリスク、信用の失墜、そして多大な経済的損失につながります。最終的には企業の存続を危うくする可能性があるため、適切かつ確実な対応が不可欠です。
中小企業が労働安全衛生法施行令への対応を進める5つのステップ
労働安全衛生法施行令への対応は、段階的に進めることで確実なものとなります。以下に、中小企業が取るべき基本的なステップを紹介します。
| ステップ | 内容 | 具体的な行動 |
| 1 | 自社のリスクの「見える化」 | 以下の洗い出し ・事業場内の業務内容 ・使用機械 ・設備 ・取り扱い化学物質 ・作業方法 ・作業環境 労働安全衛生法施行令の該当する規制(別表、条文など)を特定 |
| 2 | リスクアセスメント | 特定した危険性・有害性について、労働災害や健康障害の発生可能性と、発生した場合の重篤度を見積もり、リスクの優先順位を評価 |
| 3 | リスク低減措置の検討・実施 | 以下の具体的な対策の優先順位を考慮して検討し、実施 ・工学的対策 ・管理的対策 ・保護具の使用など |
| 4 | 安全衛生管理計画を作成・周知 | ・実施する対策や安全衛生活動を年間計画や作業計画として文書化 ・担当者とスケジュールの明確化 ・計画内容を関係労働者に周知 |
| 5 | 定期的な見直しと改善 | ・実施した対策の効果を定期的に確認・評価し、必要に応じて改善 ・法改正や事業内容などに変更があった際は、再びステップ1から見直す |
これらのステップを着実に実行していくことで、中小企業でも労働安全衛生法施行令への適切な対応が可能となり、労働者の安全確保と事業の安定的な継続を実現できます。
まとめ
この記事では、労働安全衛生法施行令の重要性から、知っておくべき主要な条文、別表が定める具体的な規制内容、そして最新の改正動向について解説しました。
また、中小企業が自社の事業に関連する規制を判断し、法令違反のリスクを回避しつつ、適切に対応を進めるための具体的なステップもご紹介しました。
労働安全衛生法施行令への対応は、罰則を避けるためだけでなく、働く人々の安全と健康を守ります。安心して働ける環境を作り出すことで、生産性の向上や企業イメージ向上につながり、結果として企業の安定経営を実現するための羅針盤となるのです。
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