パワーハラスメントの定義を知って職場のトラブルに備えよう!厚生労働省の定義をもとに解説

パワーハラスメント(パワハラ)は、職場の人間関係を悪化させる深刻な問題です。中小企業では、指導とハラスメントの境界が曖昧になりがちで、知らないうちに法令違反にあたるリスクもあります。
厚生労働省が示す明確な定義を理解しておくことは、企業としての義務であり、トラブルを未然に防ぐ第一歩です。
本記事では、パワハラに該当する条件や厚労省の「3要件・6類型」、中小企業でも求められる対応策まで、具体的に解説します。防止体制の整備や社内周知のポイントまで網羅していますので、職場の健全化に向けた実践的なヒントとしてご活用ください。
目次
【基本】そもそもパワーハラスメントとは?
パワーハラスメントとは、職場での立場や人間関係を利用して、相手に苦痛を与える言動・行動のことです。上司から部下への暴言だけでなく、同僚間や部下から上司へのケースもあり、精神的な圧力、過剰な業務命令、無視などが該当します。
パワーハラスメントは現在注目が集まっている問題です。その背景には、働き方改革の進展や、多様な人材が共に働く環境が広がったことがあります。
「誰もが安心して働ける職場づくり」の必要性が高まっており、意識の変化や、法的な対応義務の強化も進んでいる状況です。今や企業にとって「見過ごせないリスク」として注目されています。
【定義】厚生労働省が定めるパワハラの3つの要件
厚生労働省の資料によると、職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)は、以下の3要素すべてを満たす言動・行動です。

出典)厚生労働省「パワーハラスメントの定義について」p.1
職務上の地位や影響力を悪用し、相手に精神的苦痛や身体的負担を与える行為が社会通念上許容されない場合に該当します。
「職場」「労働者」の範囲も広いので要注意
パワハラが適用される「職場」と「労働者」の範囲を知っておくことも重要です。
厚生労働省は「職場」を“業務を遂行する場”と定義しています。出張先や営業車内、接待中の店舗、社員寮なども含まれるため注意しましょう。
また「労働者」も正社員に限らず、パート・アルバイト・派遣社員などを含むすべての雇用形態が対象です。
判断対象 | 含まれる例 | 注意点 |
職場 | 出張先、営業車内、接待の場、社員寮、懇親会など | 実質的に業務の延長と見なされる場も含む |
労働者 | 正社員、契約社員、パート、アルバイト、派遣社員など | 派遣社員には派遣元・派遣先双方に責任あり |
このように、パワハラ防止の実効性を高めるには、対象範囲を正しく理解したうえで、事前に社内ルールや相談体制を整備しておくことが不可欠です。
参考)あかるい職場応援団「ハラスメントの定義」
パワハラに該当しない正当な指導とは?
パワハラとの境界線が曖昧になりがちなのが、「指導」です。ポイントは「目的」と「手段」にあります。
業務遂行に必要な指摘であり、社会通念上許容される方法であれば、厳しくてもパワハラとは見なされません。以下の表に、指導とパワハラの違いを整理しました。
項目 | 正当な指導 | パワハラに該当する可能性のある言動 |
目的 | 業務の改善や育成 | 威圧・排除・感情的な攻撃 |
方法 | 理路整然とした説明、改善策の提示 | 怒鳴る、人格否定、繰り返し叱責 |
状況 | 他者の前でなく、適切なタイミングで | 多人数の前で侮辱、長時間詰問 |
頻度 | 必要なときに適切な回数 | 執拗に繰り返す、継続的に圧力をかける |
業務上の注意指導がすべてパワハラになるわけではありません。企業としては、適切な教育とコミュニケーションの整備により、現場の誤解や過剰反応を防ぐことが求められます。
6類型でわかるパワハラの行動パターン
パワハラは単なる「叱責」や「指導」とは異なり、その態様によって6つの行動類型に分類されます。
類型 | 内容 |
身体的な攻撃 | 殴る・蹴るなどの暴力行為 |
精神的な攻撃 | 侮辱・脅迫・人格否定など |
人間関係からの切り離し | 業務上の必要性を欠く隔離・無視等 |
過大な要求 | 不可能なノルマや本来業務と無関係な雑務の強要 |
過小な要求 | 能力・経験を無視した業務の強制的割り当て |
個の侵害 | プライバシーの過度な干渉 |
出典)厚生労働省「NOパワハラ 事業主の皆さまへ」p.2
厚生労働省の整理によれば、これらの類型はすべて「優越的な立場から」「業務上必要な範囲を逸脱して」「就業環境を害する」要素を満たすとされていることが特徴です。行為者に自覚がないケースでも成立します。
日常的に起きやすい内容も多く、形式だけで判断せず、受け手の影響や継続性も踏まえて注意が必要です。
中小企業でも義務!パワハラ防止法の対応ポイント
パワハラ防止法(労働施策総合推進法)の改正により、2022年4月から中小企業も「職場におけるパワーハラスメント防止措置」を講じることが法的に義務化されました。
企業が最低限対応しなければならない内容は、以下の4点です。
義務項目 | 概要 |
1. 方針の明確化と周知 | パワハラを許さない旨を就業規則などに明記し、従業員に周知する |
2. 相談体制の整備 | 社内外に相談窓口を設置し、対応ルールも整備する |
3. 事後対応のルール | パワハラ発生時の調査、被害者の保護、加害者への措置などを整備 |
4. プライバシー保護と不利益取扱の禁止 | 相談者や関係者の情報を守り、報復的な処遇を禁止する |
対象となる従業員は、正社員に限らず、パート・契約社員・派遣社員まで幅広く含まれます。
加えて、派遣先企業にも一定の対応が求められる点に注意が必要です。対応を怠ると、厚労省による企業名の公表や、民事訴訟リスクにも直結します。
参考)e-GOV「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」
【何をすべき?】中小企業のパワハラ防止の取り組み事例
実際に、パワーハラスメント対策として何をすべきかのイメージがつくよう、中小企業が行った施策を事例として紹介します。ぜひ取り入れつつ、働きやすい職場を作りましょう。
行動基準の策定
T社では「ともに働く仲間を大切にする」という理念のもと、グループ全体で共有する行動基準に「元気の出る職場づくり」を明記しています。
これは、ハラスメントを未然に防ぐための明確な指針として機能し、職場における望ましい振る舞いの共通理解を促すものです。
企業理念や就業規則に人権尊重・良好なコミュニケーションの重要性を盛り込み、具体的な行動基準として明文化することは重要です。従業員の意識向上とパワハラ防止につなげられます。
参考)あかるい職場応援団「【第1回】 「元気の出る職場づくりを目指して」 ― ガス等のエネルギーの供給を主な事業とするT社」
社長から全社員にメッセージを発信
X商事では、社長が全社員の前でハラスメント防止の方針を直接表明し、「コンプライアンス違反やハラスメントは社内にあってはならない」という姿勢を明確に伝えました。
このようにトップが明確なメッセージを出すことで、会社全体に対する問題意識が高まります。社内で「それはパワハラでは?」と率直に声を上げられる雰囲気が生まれやすくなることがメリットです。
参考)あかるい職場応援団「【第7回】「全社員の理解で職場の雰囲気が変わる」 ― LPガス(液化石油ガス)の卸売、小売を主な事業とするX 商事」
相談窓口の周知にグループウェアを活用
A社では、社員が日常的に利用するグループウェアに相談窓口の情報を常時掲載し、ハラスメント相談の存在を自然と意識づけられる仕組みを整えています。
ITツールを使ったこうした「見える化」により、社員が必要なときに迷わず相談先へアクセスできる環境を構築。特に限られた人員・予算の中で取り組む中小企業にとっても、既存の社内ツールを活かした周知徹底は有効な手段です。
参考)あかるい職場応援団「【第9回】「自社の風土に合わせた工夫で取組の定着を図る」 ―大手メディアグループのシステム保守、運用を事業とするA社」
まとめ
今回はパワーハラスメントの定義を紹介しました。パワーハラスメントは、単なる職場の揉め事ではなく、企業の信頼性や従業員の安全を揺るがす重大な問題です。
2022年4月以降は、中小企業にとってもパワハラ防止措置の実施が法的義務となっており、対応を怠れば企業名の公表や訴訟リスクに発展する恐れもあります。
職場の健全性は、企業の成長や人材定着にも直結します。今こそ、法令遵守の視点だけでなく、「誰もが安心して働ける職場づくり」という視点から、企業の守りを強化しましょう。
関連記事
-
中小企業で生活残業が発生しやすい原因は?やめさせるための対策を紹介
生活残業は、社員が生活費を補うために意図的に残業を増やす行動です。とくに中小企業では、給与水準の低さや管理体制の不備が原因となり、この問題が発生しやすい傾向があります。
この記事では、生活残業の基本的な定義から、その発生原因、具体的な社員の特徴、企業が負うリスク、そして実際の改善事例までを解説します。経営者として社員の働き方に目を向け、効率的な組織づくりを進めるためのヒントとしてご活用ください。
-
誹謗中傷の「罪」とは?知っておくべき法的責任の境界線や被害の対応策
インターネットが普及した現代において、誹謗中傷は決して他人事ではありません。企業や個人が誹謗中傷の標的となれば、顧客からの信頼失墜、従業員のモチベーション低下、法的責任を問われるといった甚大な被害を招く可能性があります。
この記事では、誹謗中傷の法的側面、とくに「罪」に焦点を当て、境界線や具体的な対応策について解説します。
-
会社法人等番号と法人番号の違いとは?調べ方と使い道を解説
企業の登記簿や各種申請書類を見ていると 「会社法人等番号」 という12桁の数字を目にすることがあります。
しかし、この番号が一体何を示し、13桁の「法人番号」とどう異なるのかまで正確に理解している人は少ないのではないでしょうか。
この記事では、会社法人等番号の基礎知識から具体的な調べ方、法人番号との関係、そして番号変換の計算方法までを解説します。
会社法人等番号に関する疑問が解決し、関連する手続きもスムーズに進められるようになるため、ぜひ参考にしてください。
-
労働安全衛生法施行令を正しく理解しよう!気になる条文を確認して安定経営を実現
労働安全衛生法施行令は、働く人々の安全と健康を守り、企業の持続的な成長を支える基盤となる重要な法令です。
労働安全衛生法施行令の内容を正しく理解し、適切に対応することは、法令違反のリスク回避はもちろん、労働災害を未然に防ぎ、結果として安定した経営を実現するために不可欠です。
この記事では、労働安全衛生法施行令の概要から、とくに知っておくべき条文や別表、近年の改正動向、そして中小企業が具体的に取るべき対応ステップまでをわかりやすく解説します。
-
【社員を守る】カスタマーハラスメント事例集!働きやすい会社を実現しよう
近年、顧客からの不当な要求や迷惑行為、いわゆるカスタマーハラスメントが企業活動における重要な課題となっています。
とくに経営資源が限られる中小企業にとっては、従業員の心身の健康を損ない、離職や生産性の低下を招くなど、事業継続に関わる深刻なリスクとなり得るのです。
この記事では、カスタマーハラスメントの定義から具体的な事例、そして中小企業が取り組むべき予防策と対応について詳しく解説します。