月30時間の残業は従業員にとってきつい?企業側の注意点や取るべき対策

「働き方改革」が叫ばれる現代においても、依然として長時間労働は多くの企業で課題となっています。とくに、月30時間程度の残業は、従業員の心身に大きな負担を与え、ワークライフバランスを崩す要因となり得るのです。

企業は、労働基準法で定められた割増賃金の支払いだけでなく、従業員の健康管理や生産性維持の観点からも、残業時間の削減に真剣に取り組む必要があります。

この記事では、月30時間の残業が従業員に与える影響を改めて確認するとともに、企業が留意すべき法的リスク、そして具体的な残業削減のための対策について解説します。

月30時間の残業が常態化している企業はホワイトとは言えない

厚生労働省の統計では、従業員の月間平均残業時間は約10時間です。これに対し月30時間の残業は、平均の約3倍です。

適切な36協定があれば直ちに違法ではないものの、月30時間の残業が常態化している企業は「ホワイト企業」とは言えません。

毎月30時間もの残業が続けば、従業員は十分休息できず、心身の疲労やストレスが蓄積します。プライベートの時間が削られる結果、ワークライフバランスも損なわれるのです。

これは、非効率な業務や人員不足など、職場に構造的な問題があるサインでもあります。

真のホワイト企業は、残業削減に努め、従業員が健やかに働ける環境を整備するのが特徴です。一方で月30時間の残業が「当たり前」の企業は、従業員の幸福より業務遂行を優先する傾向があり、ホワイトとは言えない可能性が高いのです。

参考)厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和6年分結果速報」p.8

月30時間の残業をきついと感じる従業員が抱えるストレス

ここでは、月30時間の残業が従業員にもたらす具体的なストレスについて掘り下げていきます。

心身ともに疲労が蓄積する

月に30時間の残業は、たとえば1か月の勤務日数を20日とすると、1日あたり平均1.5時間の残業に相当します。

1日の拘束時間は休憩時間を除いても9.5時間になり、帰宅時間が遅くなることで、十分な休息時間を確保することが難しくなります。

疲労が蓄積することで気分転換やリフレッシュの時間が取れなくなり、精神的な疲弊にもつながるのです。

これが続くと、バーンアウト(燃え尽き症候群)やメンタルヘルスの不調を引き起こすリスクも高まります。

残業の申請がしづらい

月30時間の残業は多くの従業員にとって負担ですが、さらにストレスとなるのが残業の申請がしづらいという状況です。

「残業する=能力が低い」とみなされる、周囲の目が気になる、申請手続きが面倒といった理由から、残業を申請しづらいと感じる従業員は少なくありません。

これによりサービス残業が発生し、正当な対価が得られない不満や、自身の労働が軽視されているという感覚が従業員に蓄積されます。

健全な職場には、「月30時間残業した」と働いた分を正直に申請できる環境が不可欠です。

従業員に月30時間の残業をさせる際の注意点

従業員に月30時間の残業をお願いするケースは、多くの企業で発生し得ます。単に業務指示として残業を命じるだけでなく、関連法規の遵守や、従業員の働く環境への配慮が不可欠です。

とくに以下の点については、会社として確実に実行する必要があります。

36協定を締結しているか

法定労働時間を超えて従業員に残業をおこなわせる場合、労働基準法第36条に基づき、使用者と労働者の代表または労働組合との間でいわゆる「36協定」を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。

(時間外及び休日の労働)
第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。

出典)e-Gov 法令検索「労働基準法

36協定には、延長できる時間数の上限が定められており、原則として月45時間、年360時間以内とされています。

月30時間の残業はこの原則的な上限内に収まりますが、自社の36協定で定められた範囲を超えていないかを必ず確認する必要があります。

協定で定めた上限時間を超えた残業は、たとえ36協定があっても違法となるため注意が必要です。

みなし残業(固定残業制)を超えた残業代の支払いはあるか

近年、多くの企業で導入されている「みなし残業」や「固定残業制」は、あらかじめ一定時間分の残業代を給与に含めて支払う制度です。この制度自体は法律で認められていますが、運用にあたっては十分な注意が必要です。

労働基準法第37条では、時間外労働、休日労働、深夜労働に対して、割増賃金の支払いを義務付けています。みなし残業代は、この割増賃金の一種とみなされるのです。

(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

出典)e-Gov 法令検索「労働基準法

たとえば、契約で月20時間分の固定残業代が支払われることになっていても、実際には月30時間の残業が発生した場合、超過した10時間分の残業代を別途支払わなければなりません。この超過分の残業代を支払わないことは、賃金未払いとなり労働基準法違反です。

サービス残業をさせていないか

サービス残業とは、会社から指示されたり、業務を遂行するために必要であったりする労働時間であるにもかかわらず、適正な残業代が支払われない労働を指します。

月30時間の残業が発生している状況で、その一部またはすべてがサービス残業となっているとすれば、これは割増賃金不払いの重大な法令違反です。

月30時間という残業時間の実態があるならば、それがすべて適正に記録され、対価が支払われているかを改めて確認することが、会社には求められます。

サービス残業を撲滅し、働いた時間に対して正当な報酬を支払うことは、従業員からの信頼を得て、健全で透明性の高い職場環境を築くための基本中の基本です。

参考)厚生労働省「賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針

残業代の計算方法

ここでは、残業代の計算方法をわかりやすく解説します。

割増賃金の対象となる労働と割増率

割増率は以下のように定められています。

出典)厚生労働省「割増賃金の計算方法」p.1

この割増率を基に、割増賃金を以下の計算式で算出します。

1時間あたりの賃金額 × 時間外労働、休日労働、または深夜労働の時間数 × 割増率

1時間あたりの賃金額の算出方法(月給制の場合)

① 1年間の所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12 = 1か月の平均所定労働時間

② 月給 ÷ 1か月の平均所定労働時間 = 1時間あたりの賃金額

例:年間休日が125日、1日の所定労働時間が8時間の会社で、月給24万円の労働者の場合、1時間あたりの賃金額は1,500円となります。

①(365日-125日)× 8時間 ÷ 12 = 160時間

② 24万円 ÷ 160時間 = 1,500円

仮に30時間の残業(時間外労働)があった場合には、残業代は以下の計算で求められます。

1,500円 × 30時間 × 1.25 = 56,250円

30時間の残業時間を減らすための対策

ここでは、月30時間の残業を削減するための具体的な対策を3つの視点から提案します。

業務効率化の推進

月30時間もの残業時間を削減するためには、まず業務効率化を徹底的に進めることが重要です。具体的には、以下の施策が考えられます。

  • 業務プロセスの見直し

定型業務を中心に、無駄な作業工程がないか、改善の余地がないかを洗い出し、効率的なプロセスを構築します。

  • ITツールの導入

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIなどのITツールを導入し、単純作業やデータ処理などを自動化することで、従業員の負担を軽減します。

  • コミュニケーションの円滑化

社内コミュニケーションツールを活用し、情報共有を迅速かつ正確におこなうことで、指示待ち時間や手戻り作業を減らします。

  • 会議の効率化

会議の目的を明確にし、参加者を絞り、時間制限を設けるなど、効率的な会議運営を徹底します。

ノー残業デーの設定

ノー残業デーを設定することは、従業員の意識改革と具体的な行動を促して月30時間の残業を減らす有効な手段です。

  • 全社一斉のノー残業デー

週に1回、全社一斉にノー残業デーを設定することで、部署間の連携をスムーズにし、帰宅しやすい雰囲気を作ります。

  • ノー残業デーの周知徹底

ノー残業デーの目的やルールを明確にし、社内報やポスターなどで周知徹底を図ります。

  • ノー残業デーの実施状況の把握

ノー残業デーの実施状況を定期的に把握し、必要に応じて改善策を検討します。

  • ノー残業デーにおける業務支援

ノー残業デーに業務が集中しないよう、前倒しで業務を終わらせるための支援や、業務の平準化を促進します。

残業の事前申請制度の導入

残業の事前申請制度を導入することで、残業時間の管理を徹底し、月30時間の残業を抑制できます。

  • 残業申請の必須化

原則として、事前に申請のない残業は認めないというルールを徹底します。

  • 残業理由の明確化

残業申請時に、具体的な理由と必要な残業時間を明記させ、上長が承認する際に妥当性を判断できるようにします。

  • 残業時間の制限

やむを得ない理由がある場合でも、残業時間の上限を設定し、それを超える残業は原則として認めないというルールを設けます。

  • 残業時間の可視化

従業員一人ひとりの残業時間を可視化し、本人だけでなく上長も把握できるようにすることで、残業時間の削減に対する意識を高めます。

まとめ

月30時間の残業は、従業員の健康と企業の持続可能性を脅かす潜在的なリスクがあります。企業は、労働基準法を遵守し、割増賃金を適切に支払うことはもちろん、より積極的に残業時間を削減するための対策を講じるべきです。

業務効率化の推進、ノー残業デーの設定、残業の事前申請制度の導入などは、有効な手段となり得ます。これらの対策を実行するにあたっては、経営層の理解とリーダーシップが不可欠であり、従業員一人ひとりの意識改革も重要なのです。

残業時間の削減は、単にコスト削減につながるだけでなく、従業員のモチベーション向上、生産性向上、そして企業イメージ向上にも大きく貢献します。

従業員と企業が共に成長できる、より健全な働き方を追求していくことが、今後の企業に求められる姿勢と言えるのです。

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