残業が100時間を超えたらどうなる?企業側のリスクや罰則内容

日本の労働基準法では、従業員の健康と安全を守るため、残業時間の上限を厳しく規制しています。

とくに、月100時間を超える残業は、過労死ラインとも呼ばれ、従業員の健康を著しく害するリスクがあります。このような長時間労働は、企業側にも多大なリスクをもたらし、法的な罰則も伴うのです。

この記事では、残業が100時間を超えた場合に企業が直面するリスクと、具体的な罰則内容、残業を減らすための施策について詳しく解説します。


1日8時間、週40時間以上の残業は原則として違法

労働基準法では、1日8時間、週40時間を法定労働時間と定めており、これを超える時間外労働は原則として違法です。しかし、企業と労働者の間で「36協定」と呼ばれる労使協定が締結されていれば、例外的に時間外労働が認められます。

労働基準法における残業とは

労働基準法における残業とは、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて労働することを指します。ただし、労働基準法上、「残業」という言葉はなく、「時間外労働」と呼ばれます。

(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

出典)e-Gov 法令検索「労働基準法

企業が従業員に時間外労働をさせるには、36協定の締結が必要です。36協定とは、労働者と使用者の間で結ばれ、時間外労働や休日労働に関する取り決めを定めます。

36協定を締結していても100時間を超える残業はできない

36協定を締結した場合でも、時間外労働には上限があり、原則として月45時間、年360時間までです。特別な事情がある場合でも、月100時間未満、年720時間未満と定められています。

時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、原則として、月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできなくなります。

臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、
・時間外労働 ・・・年720時間以内
・時間外労働+休日労働 ・・・月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内
とする必要があります。

原則である月45時間を超えることができるのは、年6か月までです。

法違反の有無は「所定外労働時間」ではなく、「法定外労働時間」の超過時間で判断されます。

出典)厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」p.2

もし、月100時間近い残業が常態化しているのであれば、違法の可能性が高いと言わざるを得ません。

月100時間の残業が認められる例外

労働基準法では、労働時間、休憩、休日に関する規定が定められていますが、特定の労働者についてはこれらの規定が適用されません。これは、業務の性質や地位から、労働時間等の規制になじまないためです。

以下の者には、労働時間、休憩、休日に関する労基法の規定は適用されない。
すなわち、法定時間外、休日労働を行っても、割増賃金の支払対象にならない。
但し、深夜業については、適用除外されていないため、深夜労働を行った場合には、割増賃金の支払対象になる。
・農業、畜産業、養蚕業、水産業に従事している者
・監督又は管理の地位にある者や機密の事務を取扱う者
・監視、断続的労働に従事し、労働基準監督署長の許可を受けている者

参考)厚生労働省 茨城労働局「労働時間の特例、監督・管理者、安全衛生

ただし、100時間超の残業は、あくまで法的に問題がないというだけであり、健康に悪影響があるという認識は必要です。

残業が月100時間を超えやすい状況

残業が月100時間を超えやすい状況として、以下のような要因が挙げられます。

  • 残業を良しとする企業文化:

一部の企業では、長時間労働が美徳とされる風潮が根強く残っており、残業をしないと「仕事ができない」とみなされることがあります。

  • 深刻な人手不足:

少子高齢化の影響もあり、多くの企業が深刻な人手不足に直面しています。とくに中小企業では、採用難が深刻で、一人当たりの業務量が増加し、長時間労働になりがちです。

  • 業務量に波がある:

多くの企業では、繁忙期やプロジェクトの締め切り前など、業務量が一時的に大幅に増加する時期があります。

このような状況がある企業は、残業も月100時間を超えている可能性が高いため、従業員の労働時間を把握する必要があるでしょう。

月100時間の残業は過労死の恐れも

従業員の長時間労働について、あらためて見直す時期が来ています。とくに、月100時間という残業時間は、過労死ラインを遥かに超え、従業員の心身に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

過労死等とは

厚生労働省では、年々増加する過労死等をなくすための「過労死等ゼロ」の実現に向け、さまざまな取り組みを行っています。

過労死等防止対策推進法第2条により、以下のとおり定義づけられています。

・業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
・業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
・死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害

出典)厚生労働省「過労死など防止対策

月100時間の残業と過労死の関係

厚生労働省によると、月100時間の残業と過労死の関係は密接であることがわかっています。

長時間にわたる過重な労働は、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられ、さらには脳・心臓疾患との関連性が強いという医学的知見が得られています。脳・心臓疾患に係る労災認定基準においては、週40時間を超える時間外・休日労働がおおむね月45時間を超えて長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まり、発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外・休日労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされています。

出典)厚生労働省「過労死等防止啓発パンフレット」p.1

月100時間の残業によって企業が抱えるリスク

月100時間を超える残業は、従業員の健康を著しく損なうだけでなく、企業にとってもさまざまなリスクをもたらします。労働基準法違反による罰則、損害賠償責任、そして企業イメージの悪化など、その影響は深刻です。

労働基準法違反による罰則

労働基準法では、原則として1日8時間、週40時間を超える労働は認められていません。

時間外労働を行う場合は、労使間で36協定を締結する必要がありますが、それでも上限が設けられています。

上記で解説した通り、時間外労働の上限は、原則として月45時間、年360時間までです。特別な事情がある場合でも、月100時間未満、年720時間未満と定められています。

そのため、月100時間を超える残業は、この上限を大幅に超過する違法行為であり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

出典)出典)e-Gov 法令検索「労働基準法

損害賠償責任

残業100時間超といった長時間労働が原因で、従業員が過労死や精神疾患などを発症した場合、企業は安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。

損害賠償額は、逸失利益や慰謝料など多額に及ぶこともあり、企業の経営を大きく揺るがす事態になりかねません。

企業イメージの悪化

100時間を超える残業などの長時間労働が常態化している企業は、「ブラック企業」として社会的な批判を受ける可能性があります。

これにより、優秀な人材の採用が困難になったり、既存社員の離職率が高まったりするなど、企業イメージの悪化は経営に深刻な影響を与えます。

健康被害による生産性の低下

残業が100時間を超えるような長時間労働は、従業員の疲労蓄積や集中力低下を招き、結果的に生産性を低下させる要因となります。

また、心身の不調による休職や離職が増えれば、さらに人員不足が深刻化し、生産性低下に拍車をかける悪循環に陥る可能性もあります。

残業時間を減らすための施策

残業時間の削減は、従業員のワークライフバランスを向上させ、生産性を高めるために重要な課題です。ここでは、残業時間を減らすための具体的な施策を、3つの視点からご紹介します。

業務効率化による残業削減

業務効率化による残業時間の削減は、以下のような方法で実現できます。

方法具体例
業務プロセスの見直しと改善・業務フローを可視化
・RPA(ロボティック・プロセス・・オートメーション)やAIなどのツールを活用
タスク管理の徹底・タスクの優先順位明確化
・進捗状況の共有
・タスク管理ツールの活用
会議の効率化・会議の目的
・議題の明確化
・時間を制限する
・内容の記録を共有

労働時間管理の徹底による残業削減

従業員の労働時間を把握することが、残業時間の削減につながります。

方法具体例
勤怠管理システムの導入・残業時間の可視化
・アラート機能の活用
ノー残業デーの導入・定期的なノー残業デー
・上司も率先して定時退社
フレックスタイム制やテレワークの導入・柔軟な環境を提供
・通勤時間の削減による業務への集中
残業事前申請制度の導入・残業時間と業務内容を把握
・業務の偏りを調整

組織文化の変革による残業削減

残業をよしとするような組織文化を変えることにより、残業のない職場環境を作ります。

方法具体例
上司の意識改革・部下の残業時間を把握して適切な指導
・成果を評価する文化の醸成
・管理職の人事考課に部下の残業削減の項目を追加
従業員の意識改革・時間内に業務を終わらせる意識の向上
・効率的な働き方を学ぶ
・業務内容の共有とチームの協力
コミュニケーションの活性化・コミュニケーションの活発化
・相談しやすい雰囲気づくり

これらの施策を組み合わせることで、残業時間を効果的に削減し、従業員のワークライフバランスを向上させられます。

まとめ

残業が100時間を超える状況は、従業員の健康を害するだけでなく、企業の社会的信用を失墜させ、法的責任を問われる可能性も高めます。企業は、労働基準法を遵守し、従業員の労働時間を適切に管理する責任があります。

長時間労働が常態化している場合は、早急に改善策を講じ、従業員の健康と安全を守るための取り組みを強化する必要があるのです。また、従業員と企業が積極的にコミュニケーションを取ることが重要です。

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