著作権法違反の罰則は?企業の事例でわかる違反行為と正しい対応策
インターネットやSNSの普及により、誰もが気軽に情報を発信できる時代になりました。しかしその一方で、他人の著作物を知らず知らずのうちに使ってしまい、著作権法に違反するリスクも高まっています。
とくに法務部を持たない中小企業では、社員の独断による作業によって、大きなトラブルにつながるケースも起こり得ます。
この記事では、著作権法違反の基本的な内容から、身近に起こり得る事例、実際の違反事例、違反時の罰則や対応方法までをわかりやすく解説するので、リスクを回避するための正しい知識を身につけましょう。
なお、以下の資料ではコンプライアンス違反による企業の失敗事例を紹介しています。この資料を読めば、「コンプライアンス違反をするとどうなるの?」「コンプライアンス違反を防止するためにはどうしたらいいの?」といった疑問を解消できます。
ぜひダウンロードしてみてください。
目次
著作権法違反とは?
著作権法違反とは、著作権者の許可なく著作物を利用する行為です。著作物には、文章・写真・音楽・映像・ソフトウェアなど、創作性のあるあらゆる表現が含まれています。これらを無断でコピーしたり、公開して使用したりする行為は、著作権の侵害にあたります。
著作権は、創作した時点で自動的に発生し、登録の有無にかかわらず保護されるため、他人が撮影した写真を自社サイトに無断で掲載した場合、それが一枚であっても違反とみなされるのです。
参考)文化庁「著作権テキスト」
参考記事:著作権法とは?知らないと危険!中小企業が守るべきルールと対策
著作権と著作者の権利の違い
著作権と著作者の権利は、似ているようで異なる権利です。まず「著作権」は、著作物を複製・公表・翻訳・放送などに利用する権利で、経済的利益を守るための財産的権利です。この権利は譲渡や相続が可能であり、法人にも移転できます。
一方、「著作者の権利」は、著作者人格権と呼ばれ、著作物に対する創作者自身の名誉や意志を保護するものです。具体的には、氏名表示権、同一性保持権、公表権などがあり、これらは著作者本人にしか認められません。
たとえ著作権を譲渡したとしても、著作者人格権は譲渡できず、著作者が亡くなった後も一定期間保護されます。
このように、著作権は財産的利益を守るものであり、著作者人格権は精神的価値や創作意図を守る権利です。
参考)文化庁「著作権テキスト」p.10
著作権と商標権の違い
著作権と商標権は、どちらも知的財産権に分類されますが、保護の対象や目的が異なります。
著作権は、文学・音楽・映像・美術などの創作物を保護する権利です。創作された時点で自動的に権利が発生し、登録を必要としません。
一方、商標権は、商品やサービスの出所を示すロゴ、ブランド名、マークなどを保護する権利です。商標は特許庁への出願・登録が必要です。
つまり、著作権は創作されたコンテンツを保護するのに対し、商標権はビジネス上の信用や識別力を守るものです。それぞれの違いを理解し、適切に使い分けましょう。
参考)政府広報オンライン「知っておかなきゃ、商標のこと!商標を分かりやすく解説!」
【法務部がない中小企業は注意!】身近にある著作権法違反の事例
著作権法違反は、特別な知識がないと気づきにくいものです。とくに法務部を持たない中小企業では、業務の中で著作物をうっかり利用してしまい、知らず知らずのうちに違反行為をしていることがあります。
ここからは、中小企業が直面しやすい著作権侵害の事例を紹介します。
会社HPやブログにネットの画像や文章を使う
インターネット上で見つけた画像や文章を、自社のホームページやブログに無断転載する行為は、典型的な著作権法違反の事例です。
とくに「フリー素材」と記載されていても、実際には利用条件が細かく設定されていることがあり、正しく確認せずに使用すると違反と判断される可能性があります。
研修資料や社内報で他人の著作物を転載する
「社内向けだから問題ない」と考えて、他人の著作物を研修資料や社内報に掲載するケースも少なくありません。とくに、複製・配布・改変などを行う場合には、著作権者の承諾が必要になります。
たとえば、新聞記事をそのまま資料に掲載したり、インターネットの記事をコピーして従業員に配布したりする行為は、著作権侵害と見なされる可能性があります。研修や社内報といった限定的な配布媒体でも、著作物の取り扱いには十分注意してください。
SNS投稿にテレビ映像や記事を添付する
SNSの投稿に、テレビ番組の映像や新聞・雑誌の記事を添付する行為も、著作権法違反に該当する可能性があります。中には「共有のためなら問題ない」と誤解しているケースもありますが、たとえ好意的な意図であっても、著作権者の許可なくコンテンツを転載することは違反です。
また、動画の一部を切り取って投稿する、画像に引用元の記載をする、といった行為も、著作権者の利益を損なう可能性があるため、正当な引用と認められない限り注意が必要です。
音楽・動画を無断で使用する(店舗BGM・イベント映像など)
店舗でBGMを流す、イベントで音楽や映像を使用するなどの行為にも、著作権が関係しています。たとえば、市販のCDを店内で流したり、YouTubeの動画を商業イベントで上映したりする場合は、著作権者や管理団体への使用許諾が必要です。
このような利用には、JASRACやNexToneなどの著作権管理団体を通じてライセンス契約を結ぶのが一般的です。無断で利用した場合、著作権者から使用料の請求を受けたり、法的措置を取られる可能性もあります。音楽や映像の利用は、私的使用の範囲を超えた時点で法律の適用対象となるため、事前の確認を徹底しましょう。
実際にあった著作権法違反の事例
著作権法違反は、単なる「マナー違反」ではなく、民事訴訟や刑事処分の対象となる重大な法的問題です。
実際の裁判例を通して、そのリスクや影響の大きさを確認しておきましょう。ここからは実際にあった著作権違反の事例を紹介します。
漫画を許諾なく掲載した事例
あるウェブサイト運営者が、人気漫画作品を原作者の許可なくインターネット上に掲載し続けたことが問題となりました。この行為は明確な著作権侵害とされ、原作者から損害賠償と差止請求の訴訟を起こされる事態に発展しています。
裁判では、原告が著作権を有していること、被告がこれを無断で公開していたことが認められ、損害賠償の支払いが命じられました。加えて、サイトからの作品削除も命令されています。
参考)裁判所「令和4年(ワ)第70097号 損害賠償請求事件」
無断で写真を掲載し続けていた事例
自社ウェブサイトと宿泊ポータルサイトに無断で第三者の写真を掲載し続けた企業が、損害賠償請求を受けた事例も存在します。このケースでは、被告企業がプロカメラマンの作品を無許可で使用し、長期間にわたりウェブ上で公開していました。
このような結果から、画像使用には細心の注意を払う必要があることがわかります。
参考)裁判所「令和4年(ワ)第11762号 損害賠償等請求事件」
著作権侵害と商標権侵害が認められた事例
第三者が作成したデザインを模倣して自社ブランドとして商標登録した事例です。
デザインはまったく同じではなかったものの、構図や絵柄を模倣していることが明らかであり、画像データの削除と損害賠償の支払いが命じられました。
このように、著作権法違反によって事業そのものが停止に追い込まれる可能性もあります。デザインや名称を取り扱う際は、必ず他者の権利と重複しないか確認することが重要です。
参考)裁判所「令和3年(ワ)第10991号 損害賠償請求事件」
著作権法違反の罰則
著作権を侵害した場合、民事上の損害賠償にとどまらず、刑事責任を問われることもあります。
ここからは、著作権法違反に対して実際に適用される刑事罰と民事責任について解説します。
参考)J-Net21「改正著作権法(第2回)-他人事ではすまされない!著作権の落とし穴」
刑事罰|逮捕・罰金の可能性
著作権法に違反し、かつその行為が故意かつ悪質であると判断された場合、刑事罰の対象となる可能性があります。たとえば、営利目的で他人の著作物を大量にコピーし販売したり、動画共有サイトなどに繰り返し無断でアップロードした場合などです。
著作権法では権利侵害罪として10年以下の懲役と1,000万円以下の罰金のいずれか、またはその双方が科される可能性があります。侵害者が法人の場合には、3億円以下の罰金刑が科せられます。
民事責任|損害賠償や信用失墜
被害を受けた著作権者から、侵害の差止め、損害賠償、不当利得の返還、名誉回復措置などを請求される可能性があります。
侵害の意図や使用の範囲、影響度などが評価され、場合によっては数百万円、数千万円規模の賠償が命じられることもあるのです。
また、企業が著作権を侵害した事実が明るみに出れば、取引先や顧客からの信頼失墜につながります。
中小企業で著作権違反が疑われたときの対策
たとえ意図的でなくても、知らずに著作物を使用してしまうケースは少なくありません。反対に、自社の著作物が無断で使用される被害に遭うこともあります。
ここでは、「著作権を侵害された場合」と「著作権を侵害してしまった場合」の両面から、実践的な対応策を解説します。
著作権違反をされた場合
自社が作成したコンテンツやデザインが、第三者によって無断で使用されていることに気づいた場合、まずは事実確認を行うことが重要です。著作権侵害が疑われる箇所(文章・画像・動画など)の証拠を確保し、日時や使用状況も記録しておきましょう。
次に、相手方に対して削除依頼や警告文の送付を行う方法があります。削除要請は自社で行うことも可能ですが、相手が対応しない、もしくは逆に反論してくるケースもあります。その場合は、弁護士を通じて正式な通知書を送る方が効果的です。
また、プラットフォームに対して「著作権侵害の申し立て」を行うことで、該当コンテンツを削除できる可能性もあります。判断に迷う場合は、著作権に詳しい弁護士へ早期に相談しましょう。
著作権違反をしてしまった場合
もし自社が著作権を侵害してしまった疑いがある場合、まず行うべきは対象となるコンテンツの使用を即座に中止することです。意図の有無にかかわらず、使用を継続すればするほど被害が拡大し、法的責任も重くなるおそれがあります。
次に、該当する著作権者や管理団体に連絡を取り、謝罪や状況の説明を行いましょう。ここで誠実に対応することが、訴訟リスクの回避につながることもあります。すでに連絡が来ている場合は、内容証明などが法的拘束力を持つこともあるため、自己判断で対応せず、速やかに法律の専門家に相談してください。
また、再発防止のためには社内教育や運用ルールの見直しが欠かせません。著作物使用に関するガイドラインを整備し、社員がライセンスや使用条件を確認できる体制を構築しておくことが有効です。
まとめ
著作権法違反は、決して他人事ではありません。画像や文章の転載、音楽や映像の使用など、日常業務の中に多くのリスクが潜んでいます。
たとえば「ネットにあった画像をなんとなく使ってしまった」「社内資料に新聞記事を貼った」——そんな“ちょっとしたこと”が、実は重大な違反につながることがあります。
「知らなかった」では済まされません。損害賠償や信用失墜といったリスクも現実に存在します。
「うちの業務でも、同じようなことしてないかな?」と一度立ち止まって振り返ってみてください。
日々の業務の中で、安心してコンテンツを使い続けるためにも、正しい知識と社内ルールを整備し、必要な場合には専門家の力も借りながら、丁寧な対応を心がけましょう。
関連記事
-
職場のハラスメントにどう対応すべき?ブランド毀損のリスクから企業を守る
職場のハラスメントは、一部の特別な職場だけに発生する問題ではありません。大企業から中小企業まで、規模に関わらず発生し、従業員の尊厳を傷つけ、心身の健康を害する由々しき問題です。
職場のハラスメントは、従業員個人への影響に留まらず、企業にとっては生産性の低下、離職率の上昇リスクに直結します。ハラスメントへの適切な対応は、もはや企業の持続可能性に関わる経営課題です。
この記事では、職場のハラスメントの定義や潜むリスクを明らかにし、従業員を守るための具体的な対策について詳しく解説していきます。
-
【最新】下請法テキストで確認すべき違反事例と対応チェックポイント
中小企業が取引上のトラブルに巻き込まれるのは、必ずしも下請けとしてだけではありません。発注側となることで、知らず知らずのうちに下請法に違反してしまうケースもあります。
下請法は、親事業者と下請事業者の間で公正な取引を促進するための法律です。この記事では、中小企業庁が公表する「下請法テキスト」をもとに、違反事例や改正ポイントを整理しつつ、チェックリストや研修など実務に活かせる具体策も紹介します。
なお、以下の資料は法令やコンプライアンスを遵守せず、失敗してしまった企業の事例や失敗の背景と影響、コンプライアンス違反防止の具体策まで、図表とともに分かりやすく解説しています。
-
固定残業代を計算するには?2種類の計算方法と注意点を紹介
固定残業代は、残業時間の有無にかかわらず一定額を支払う制度で、その計算方法や運用には注意が必要です。計算を誤ると、従業員とのトラブルや、最悪の場合、訴訟に発展する可能性もあります。
この記事では、固定残業代の基本的な知識から、2種類の計算方法、そして導入時の注意点まで、中小企業の経営者の皆様が知っておくべき情報をわかりやすく解説します。
-
契約書のリーガルチェックとは?中小企業が法務リスクを回避する方法
中小企業の経営者やバックオフィスの担当者の中には、契約書や社内規定の法的リスクに不安を感じている方も多いのではないでしょうか?専門知識がない、人手が足りないと、リーガルチェックを後回しにしていると、思わぬトラブルを招く恐れがあります。この記事では、中小企業の実情に即したリーガルチェックの基本から、効率的な実施方法までをわかりやすく解説します。法務リスクから会社を守るためにも、ぜひ参考にしてください。
-
パワーハラスメントの定義を知って職場のトラブルに備えよう!厚生労働省の定義をもとに解説
パワーハラスメント(パワハラ)は、職場の人間関係を悪化させる深刻な問題です。中小企業では、指導とハラスメントの境界が曖昧になりがちで、知らないうちに法令違反にあたるリスクもあります。
厚生労働省が示す明確な定義を理解しておくことは、企業としての義務であり、トラブルを未然に防ぐ第一歩です。
本記事では、パワハラに該当する条件や厚労省の「3要件・6類型」、中小企業でも求められる対応策まで、具体的に解説します。防止体制の整備や社内周知のポイントまで網羅していますので、職場の健全化に向けた実践的なヒントとしてご活用ください。

マモリノジダイとは
会員登録







