リスクアセスメントのやり方は?意味・効果・実施手順・業種別の例を解説

職場の安全衛生は、すべての企業にとって重要な経営課題の一つです。
労働災害を未然に防ぎ、従業員が安心して働ける環境を整えるために、近年その重要性がますます高まっているのが「リスクアセスメント」です。
しかし、「リスクアセスメントという言葉は聞いたことがあるけれど、具体的に何をどう進めればよいのかわからない」という中小企業の経営者や担当者の方も少なくないでしょう。
そこでこの記事では、リスクアセスメントの基本的な意味や効果から、中小規模の事業所で取り組める具体的な実施手順、業種別の事例までを詳しく解説します。
目次
リスクアセスメントとは?簡単に解説
リスクアセスメントについて理解を深めるために、その基本的な意味から見ていきましょう。
リスクアセスメントの意味
リスクアセスメントの意味について、厚生労働省は以下のように説明しています。
リスクアセスメントとは、事業場にある危険性や有害性の特定、リスクの見積り、優先度の設定、リスク低減措置の決定の一連の手順をいい、事業者は、その結果に基づいて適切な労働災害防止対策を講じる必要があります。 |
出典)厚生労働省「職場のあんぜんサイト:リスクアセスメント[安全衛生キーワード]」
簡単に言うと、以下の3つのステップからなる活動だと言えます。
- 職場の「危ないこと」や「健康に悪いこと」を洗い出す(特定)
- 洗い出した危険が、どのくらい重大な事故に繋がりそうかを評価する(見積もり)
- 評価結果に基づき、優先順位をつけて安全対策を立て、実行する(低減措置)
単なる「危険探し」で終わらせるのではなく、客観的な基準でリスクの大きさを評価し、限られたリソース(人・モノ・金)の中で最も効果的な対策から実施していく、という合理的なアプローチがリスクアセスメントの本質です。
事故が起きてから対応する「事後対応」ではなく、事故を未然に防ぐ「予防安全」の考え方が基本となります。
参考記事:中小企業が知っておくべき!労働安全衛生法改正の最新動向と対策【2025年・2026年を見据える】
リスクアセスメントにはどのような効果があるのか
リスクアセスメントを導入し、継続的に実施していくことは、企業に多くのメリットをもたらします。
ここでは、代表的な5つの効果について解説します。
職場のリスクが明確になる
これまでは個人の経験や勘に頼りがちだった職場の危険を、誰の目にも明らかな形で「見える化」できるのが最大の効果です。
機械設備、化学物質、作業環境、作業方法など、あらゆる角度から網羅的に危険性や有害性を洗い出すことで、これまで気づかなかった潜在的なリスクを発見できます。
事故には至らなかったもののヒヤリとしたりハッとしたりした「ヒヤリハット」事例だけでなく、まだ表面化していないリスクを特定し、先手を打って対策を講じることが可能になります。
リスクに対する認識を職場全体で共有できる
リスクアセスメントのプロセスと結果を、リスクアセスメントシートなどのドキュメントとして記録・保管することで、職場のリスクに関する情報を組織全体で共有できます。
これにより、経営者から管理者、そして現場で働く従業員一人ひとりが、「自分たちの職場には、どのようなリスクが、どの程度の大きさで存在するのか」という共通の認識を持つことが可能です。
この共通認識は、組織全体の安全衛生意識を高め、より効果的な安全活動を展開していくための強固な土台となります。
合理的な方法で安全対策の優先順位を決められる
リスクの「見積もり」を行うことで、特定された様々な危険性や有害性を、合理的かつ客観的な基準で比較評価できます。
「事故が起きた場合のケガの程度」と「その事故が起こる可能性」を掛け合わせてリスクの大きさを算出するため、「すぐに対策すべきリスク」と「監視を続けながら段階的に対策するリスク」を明確に区別することが可能です。
これにより、予算や人員が限られる中でも、最も優先度の高いリスクから効率的・効果的に対策を進めることができます。
残されたリスクに対する「守るべき決め事」の理由が明確になる
あらゆる対策を講じても、リスクを完全にゼロにすることは困難です。
対策後に残るリスクは「残留リスク」と呼ばれ、これらに対しては「保護具を着用する」「この作業手順を必ず守る」といった個別のルールで対応することになります。
そして、リスクアセスメントを実施することで、なぜその保護具が必要なのか、なぜその手順を守らなければならないのか、というルールの背景にある「理由」が明確になります。
従業員がルールの必要性を理解し、納得することで、「ただやらされている」のではなく、主体的にルールを遵守するようになり、安全文化の醸成に繋がっていくのです。
危険度に対する感受性が高まる
リスクアセスメントは、管理者だけでなく、現場で働く従業員を巻き込んで進めることが非常に重要です。
従業員が自らの職場のリスク特定や対策の検討に参加することで、日々の業務に対する安全への意識が高まります。
普段何気なく行っている作業の中に潜む危険に気づくアンテナ、いわゆる「危険感受性」が磨かれます。
その結果、従業員一人ひとりが自律的に安全行動をとるようになり、労働災害の発生をより効果的に抑制することができるはずです。
【中小規模の事業所必見】リスクアセスメントの実施手順
ここでは、厚生労働省が示す「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」に基づき、中小規模の事業所でも実践できるリスクアセスメントの基本的な進め方を4つのステップに分けて解説します。
危険性または有害性の特定
リスクアセスメントを成功させるためには、まず「職場に潜む危険性や有害性をもれなく特定する」という作業が重要です。
そのために、労働災害が「どのような仕組み」で発生するのかを理解しましょう。
労働災害は、「人」が「危険性または有害性」に接することで「リスク」が生まれ、そこに「安全衛生対策の不備」が重なると発生します。
このプロセスを理解することが、危険を洗い出す上での基本となります。
たとえば、プレス機械での作業を考えてみましょう。
- 危険性・有害性:プレス機械の下降してくる金型
- リスク:手指を金型に挟まれること
- 安全衛生対策の不備:安全装置が設置されていない、安全距離が不適切であるなど
- 労働災害:手指の圧砕や切断
このように、一つひとつの作業について「危険源は何か」「そこからどんなリスクが生まれるか」というプロセスを具体的に考えることで、これまで見過ごされていた危険性や有害性を効果的に特定することが可能です。
リスクの見積もり
特定した危険の大きさを客観的に評価し、対策の優先順位を決めるのが「リスクの見積もり」です。
この評価は、現場をよく知る複数人で行い、議論を通じて全員が合意する「総意」で決定することが重要になります。
見積もり方法の一つとして、リスクを以下の3要素に分けて点数化し、合計する方法があります。
重篤度 | 起こりうる最悪の事態(死亡・重傷など)を想定して評価します。 |
発生の可能性 | その災害がどのくらい起こりやすいかを評価します。 |
頻度 | その危険に人がどのくらい近づくかを評価します。 |
算出した合計点数が高いほどリスクは大きいと判断され、「直ちに改善すべき」「優先的に対策する」といった具体的な対応の優先順-位が決まります。
このプロセスにより、勘や経験だけに頼らない、合理的な安全対策の立案が可能となるのです。
リスク低減対策の検討および実施
リスクの見積もり結果に基づき、法令で定められたものを最優先とした上で、リスクの高いものから優先的に検討・実施を行います。
優先順位は以下の通りです。
- 法令で定められた事項の実施
- 設計や計画の段階における危険性・有害性の除去または低減
- 工学的対策
- 管理的対策
- 個人用保護具の使用
工学的対策とは、安全柵やセンサーの設置などによって危険源を物理的に隔離する方法です。
管理的対策とは、マニュアル整備や安全教育などを指します。
リスクアセスメント実施状況の記録と見直し
リスクアセスメントは、実施して終わりではなく、その結果を未来の安全活動に繋げることが重要です。
特定したリスクと検討した対策案は、安全衛生委員会などの場で審議し、組織としての実施優先度を正式に決定します。
この審議内容を含めた一連のプロセスは、リスクアセスメントシートなどに正確に記録し、必ず保存してください。
この記録は、法的な要求を満たすだけでなく、企業の貴重な安全資産となります。
重要なのは、この記録を定期的に見返すことです。
実施した対策が適切であったか、新たなリスクは発生していないかを検証し、その結果を次年度の安全衛生目標や具体的な活動計画に反映させます。
このように、リスクアセスメントを一度きりのイベントとせず、PDCAサイクルを回し続けることが、職場の安全衛生水準を継続的に向上させるための鍵となるのです。
リスクアセスメントシートとはどのようなもの?
リスクアセスメントシートとは、リスクアセスメントの実施手順(特定、見積もり、低減措置の検討・実施)に沿って、その結果を記録・文書化するための様式です。
以下が、リスクアセスメントシートの例です。

上記の出典リンクをクリックすると、厚生労働省が配布しているリスクアセスメントシートのサンプルをExcelファイルとしてダウンロードできます。
サンプルについて詳しく見たい方は、ダウンロードして確認してみてください。
リスクアセスメントの具体例
ここでは、リスクアセスメントが実際の現場でどのように行われるのか、3つの業種の例を挙げて具体的に解説します。
電気機械器具製造業の例
電気機械器具製造業における「シャーリング(切断機)作業」の例です。
この会社では、作業中に機械の回転体に接触し、巻き込まれる危険性が特定されました。
現状は側面の板しかなく、安全対策が不十分なため、「重篤度:高」「発生可能性:中」と評価されています。
そのため、優先度の高いリスクと判断されました。
対策として、まず危険な回転体部分にカバーを設置したところ、発生可能性が大幅に低下し、リスクレベルが低減されています。
今後はさらに安全性を高めるため、機械全体のカバー設置が検討課題となっています。
金属製品製造業の例
金属製品製造業における、クレーンなどを使った「製品の移動作業」の例です。
劣化したワイヤーロープが切れ、吊り荷が落下する危険性が特定されました。
作業前の目視点検のみでは不十分と判断され、前出の例と同様に「重篤度:高」「発生可能性:中」と評価され、優先度は非常に高いです。
対策として、定期的な点検を制度化し、点検済みと分かる色付きマークを導入したことで、リスクレベルを下げることに繋がりました。
今後は、点検方法の教育徹底や廃棄基準の明確化が課題とされています。
運送業の例
運送業における「ダンプトラック荷台での積み込み作業」の例です。
作業員が荷台上でバランスを崩し転落する危険性が特定されました。
作業前の声かけ注意だけでは対策が不十分なため、「重篤度:高」「発生可能性:高」で、早急な対策が必要なリスクと評価されています。
対策として、荷台に親綱(ワイヤー)を張り、作業員に墜落制止用器具(安全帯)を着用させることで、リスクレベルを許容できるレベルにまで下げることができました。
今後の課題は、この安全対策を全員が徹底するための管理・教育です。
まとめ
リスクアセスメントは、職場の安全衛生水準を向上させ、かけがえのない従業員の命と健康を守るための、極めて有効かつ基本的な手法です。
単に法律で定められた義務として形式的に行うのではなく、企業の持続的な成長を支える重要な経営活動の一環として捉えることが重要になります。
最初は難しく感じるかもしれませんが、完璧を目指す必要はありません。
まずは自社の職場に潜む身近なリスクを一つでも見つけ出し、対策を検討するところから始めてみましょう。
関連記事
-
シックスシグマとは?意味や具体的な手法をわかりやすく解説
品質改善やコスト削減を実現する経営手法として注目されているシックスシグマは、製造業からサービス業まで、幅広い業種で活用されています。本記事では、シックスシグマの基本概念から具体的な導入手順、実践的な活用例まで、わかりやすく解説します。
-
ゼロエミッションとは?効果、具体例、補助金、日産の事例など
ゼロエミッションとは「温室効果ガスの排出量をゼロにすることを目指す取り組み」を指します。持続可能な社会を実現するために必要な取り組みです。この記事では、ゼロエミッションの基本的な考え方、その社会的な効果、企業や自治体の具体的な取り組み事例、補助金情報、具体的なアクションについて詳しく解説します。
-
OKRとは?意味・KGIやKPIとの違い・運用方法・成功事例を解説
OKRは、日本ではまだそれほど普及していない手法ですが、Googleやメルカリなどの企業がOKRを導入したことで成功を収めています。そこでこの記事では、OKRの概要や、KGI・KPI・MBOとの違い、適切な運用方法、成功事例などについてわかりやすく解説していきます。
-
SDGs経営とは?中小企業が取り組むべき理由と具体的アプローチ
SDGsは、もはや大企業だけの取り組みではありません。中小企業にとっても、SDGsの取り組みは、将来の事業継続に関わる重要な経営課題となっています。この記事では、SDGsの本質的な理解から、具体的な成功事例、中小企業ならではの実践方法などを紹介します。
-
SDGsウォッシュによって企業が受けるダメージは甚大【事例付き】
SDGsウォッシュによって一時的に企業の評価が上がろうとも、決して長くは続きません。いつかボロが出てしまい、大きなダメージとして跳ね返ってくるのです。この記事では、安易にSDGsウォッシュに傾倒することでどのような不利益が発生するのか、実際の事例はどのようなものがあるか、SDGsウォッシュを回避するための方法は何かについて詳しく解説していきます。